古の都2
二人は別れ道の側に、野営地を築いた。しばらくしてコタロウが来たが、いつまでたってもレイラが来ない。だんだん心配になる。たいした距離を走った覚えはない。かろうじて迷いの森が見えない所だ。心配の限界に達したナジェルが、レイラを探しに行こうとした時だ、遠くにフラフラになって走る影が見えた。ナジェルはそこまで跳んでいく。
「魔術師、大丈夫か」
レイラは滝のように汗を流しながら、荒い息を繰り返す。そして、バタリと倒れた。すぐに静かな寝息が聞こえてくる。
「……おい……」
肩を揺すっても、レイラは起きる気配がない。仕方がないので、ナジェルはレイラを負ぶって、野営地に戻った。
「やっぱりな」
コタロウは寝ているレイラを見て言った。
「やっぱりって……」
ナジェルはレイラをゴロンと転がす。
「レイは地上最上級の体力なしや。それだけやないで。運動神経っちゅう物を持ってないねん」
二人は、自分達の愚かさを悟った。自分達だけ夕食を取ることは、気が引ける。そのまま、コタロウの結界の中で眠った。
一番に目が覚めたのはコタロウだった。まだ日は昇っておらず、辺りには靄が立ちこめている。コタロウは結界を解くと、朝食の催促をする為に、三人を起こしに掛かった。レイラは寝起きが悪い。何度投げ飛ばされたり、枕を投げつけられたことか。一番にジルフォートを起こすことにする。
二人の剣士はすぐに起きた。そして、二人がかりでレイラを起こす。しばらくして、あちこちに傷を負ったが、なんとかレイラを起こすことに成功した。これだけで、半日分の体力を使った気もする。半眼になって、眉間に皺を寄せているレイラは、はっきり言わずとも怖かった。こんなレイラを毎日起こしているコタロウに、敬服の念を抱く。
朝食は携帯食料と水という、簡素な物だ。栄養だけを考えて作っている携帯食料は美味しくない。それでも三人と一匹は黙々と口を動かした。
「……お祖父様……」
急にジルフォートが胸を押さえ、立ち上がった。
「どうしたんだ。お祖父様って、太陽神に何かあったのか」
ナジェルが尋ねると、ジルフォートは頷いた。
「お祖父様……現太陽神は死んだ。何者かに殺されたようだ」
誰も言葉を持てなかった。
「……ヒュウガやろうな……」
「神殺しの罪を着るほど、大切な者なのかな」
ジルフォートは泣きそうだ。いくら憎んでいても、大切な祖父であることに変わりない。
「太陽族の村へ行こう。何かわかるかもしれない」
ナジェルも立ち上がる。
「それが一番やな。太陽神のことやし、わからへんことはあらへんしな」
「だが、問題は天気だ」
レイラが言い終わらないうちに、ポツリと最初の雨が落ちてきた。コタロウが慌てて結界を張る。
「俺、思うんだけど、魔術師、なんでもう少し早く言わねぇの」
「曖昧なことより、確定した事実を述べている。それだけだ」
「レイは、曖昧なことに、振り回されとうないだけやねん。ほな。雨宿りでもせえへんか」
コタロウはゴロンと横になる。
「それはだめだ。魔女のためにも、一刻も早く太陽族の村へ行った方がいい」
「せやけど、この雨やで。わいは濡れるのは嫌やし、レイは大変なことになるやろ」
コタロウは片目を閉じ、寝る体制に入っている。ナジェルはレイラの格好を見て考える。
「そうだなぁ。猫は我慢するとして、魔術師は……。ローブを脱いで、中の物と一緒に荷物行きだな。と、言うことで、脱いで出せ。三人の荷物に分けよう」
レイラはローブの内に手を入れた。……。出て来たのは、レイラ自身の呪具だけだった。
「……あのやろう……」
日頃のレイラとは似付かない、低い唸り声を上げた。




