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禁断の扉1

 星月も見えない闇夜に影は舞う。否。それは影ではなかった。ほとんど闇と同化している鈍色の髪と、足首まで隠れる同色の長いローブを着た少年だった。少年は額の金飾りが揺れ動くのも気にせず、目を閉じたまま、クルクルと闇と舞っていた。その姿を誰も捉えることはない。それは、場所の所為ではなかった。その舞がとても神聖な物だったからだ。そう。幼い鈍色の魔術師は『神降ろしの舞』を舞っていた。何人たりとも訪れることの叶わぬ聖域で、太陽神収める彼の地に尊き神を招くための舞を。


 少年は静かに目を開いた。群青色の瞳がぼんやりと闇に浮かぶ。金飾りが、涼しげな音を立てた。



血の制約

 汝が血を以て詠唱するべし。


 汝が両手額に血の制約の印を記せ。


 次に、汝が血を以てペンタクル魔法陣を記すべし。陣は二つ。汝が為と、精霊が為。二つの陣を用意するべし。用意が調ったら、精霊を呼び出すべし。


 最後に、汝が血を呑ませて、制約の祝詞を詠唱するべし。


「我が聖なる血に応えし者よ。我が血となりて、我が肉体の一部となるべし。以て、我が血の従者となれ。応じよ」




 『マナアリア大魔法学院』召喚の部。第一学年。




 レイラ・フランディット・ルベリアは、退屈な授業に辟易していた。きょうかしょ魔道書を淡々と読み上げるだけの召喚学教師、アンジェ・ガハラ・ローレンスを心中で罵倒する。そんなこと、魔法幼学校生徒でも知っている。レイラは大きな欠伸をした後、教室を見回した。全ての窓が大きく開かれているのに気が付く。レイラはニヤリと笑うと、小さな声で唱い出した。


「我が友なる風、シルフの使者よ。我が詩に応え、我を誘いて、我を汝の元へ導くべし。応じよ」


教室に一陣の鈍色の風が吹き抜けた。


「ガハラ先生!鈍色の魔術師じゃなかった……レイラがいません。消えました」


今まで静かだった教室が、急に騒がしくなる。アンジェは頭を押さえた。レイラは自分の全ての授業において、欠席か途中退席をしている……。今日のように、『風渡りの詩』を使って…。成績優良児だけに、強く言うことも出来ない。授業さえ真面目に聞いてくれるなら、どんな生徒でも可愛く思えるアンジェだった。つまり、レイラはそういう生徒なのである。




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