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相談、女神の契り

「っはぁ……今日の女子の様子、流石におかし過ぎるだろう……」


 騎士団の訓練が長引いた男子達にアレを見られずにすんで良かった。図書委員長以外、全員がやたら俺と話したがり、俺の傍で飯を食べたがっていたのだ。


「例の正体不明のステータスが原因だとすると、やっぱり魅力とかそんなパラメーターが追加されたと見るべきか? 1000ちょいでこんな状態なら明日はどうなる事やら……」 


 廊下で独り言を呟きながら歩いていると、曲がり角の方から足音が聞こえてきた。


「……」


 流石に今の独り言は聞かれて無いだろうけど、恥ずかしいので黙って歩く。


「……お姉様も人使いが荒いですわね。魔術師団の訓練を監視しろだなんて。そもそも妹とは言え、王家継承を競う相手に頼む事では無いでしょうに……」


 どうやらあちらも独り言を呟いている様だが、その声で俺は直ぐに誰だか分かった。

 初日に意識転移で聞いた物騒な会話をしていた王女姉妹の妹君だ。


 俺は慌てて物陰に隠れた。


「……ですけど、今回は良い事もありましたね。ふふ、あの男性、加護持ちと聞いていましたが、中々どうして素敵なお方ではありませんか……どうにかして、私の物にしたいですわ」


 背中に悪寒が走った。どうやら王女の妹すら俺に夢中らしいがお近づきになりたいとかではなく、俺を手中に収めるつもりらしい。


「拘束部屋で……いえ、折角ですから私の部屋に転移……」


 そのまま声は通り過ぎて行った。俺は廊下の窓のカーテンからそっと出てきた。


(セーフ……まったく、恋すら物騒だぞあの王女……)


 ステータスアップは良いが、少々予想外のデメリットを実感した俺はこれからの事を考えたかったので、恐らく一番安全であろう自分の部屋へと足を動かした。

 そこまで離れた距離にあった訳では無いので、直ぐに辿り着いたのだが部屋に入るのは躊躇させられた。


「っ!」


 何故なら部屋の扉が僅かに開いており、中から光が漏れているからだ。恐らく、誰か俺の部屋の中にいる。

 先の出来事で警戒心が高まっていた俺は、足音を立てないように慎重に扉に近付いて扉越しに部屋の中を覗いた。


「……つ、紡君、まだからな?」


 何故か山仲が俺のベットの上に座っていた。


「で、でもやっぱり紡君今日の魔法の訓練で疲れているし、やっぱり夜に邪魔するのはダメだよね……?」


 独り言の様だが枕を両手で抑えながら幸せそうに悩んでいる。なんて無駄に器用なんだ。


「見つかっちゃう前に、帰ろう。うん」


 待っていた枕を名残惜しそうに離してベッドの上に下すと、扉へと向かって来た。

 此処で問い詰めるのもありだが、こういう男女間でのいざこざが他の奴らにバレれば元の世界だと男子が不利な上に、此処の世界では彼女は勇者、俺は無駄飯喰らいだ。ならばそれは避けたい。


「明日の朝も、紡君を起こす為に早起きしないとね!」


 意気揚々と出て行った山仲を、彼女の行き先と逆の物陰から覗き見る。どうやらこちらに気付かずに出て行った様だ。


 部屋に入った後、考え事をするつもりだったが山仲の匂いのするベッドに倒れると余計な事が頭に入ってくるのでその内諦めて寝てしまった。



***



「……あ、あのっ!」


 夢空間、では無く意識転移を発動していなかった筈なのに女神の間に着いてしまっていた俺の前には、セーラー服姿の女神様が涙目になって俺に近寄ってきた。


「つ、ツムグさんとあの……山仲と言う方は、そ、その! 恋仲なのでしょうか!?」


 何故女神が山仲の事を知っているのか、は大体想像できる。女神の契りとやらで俺の生活を覗ける様にでもなっていたのだろう。

 なんて予想は簡単につくが、実際の所焦っていた。


「い、いや、恋仲……恋人では、無い」

「そ、そうなんですか? 男性の寝床を共にするのは必ず相思相愛の女性だと聞いていたのですが……」

「俺もなんであの娘があそこにいたかは知らないけど、俺は特に意識してないさ」


「……じゃあ、あのは、邪魔な人、なんですね?」


 その一言で背中に悪寒が走った。

 涙目で問いかけている女神様だが、口か出た言葉が物騒過ぎる。


「い、いや! 邪魔じゃない邪魔じゃない! きっと、彼女なりに俺を励まそうとしたんだろう、うん。きっとそうだ!」

「では、廊下で出会ったあの女の子は邪魔ですよね? ツムグさん、あの人の事を怖がっていましたし」


 今度は王女姉妹の妹の方に何かしようとしている。


「た、たとえ邪魔だったとしても女神様は……何か、出来るの?」

「はい、生命樹の種を植え付ける事が出来ます!」


 嬉しそうに笑いながら手の平の上に植物の種を出した。


「これは本当は口から飲み込んで、その人が死んだらその場所にその人の人生に合った色の花が咲く木を咲かせる事が出来るんですが、ツムグさんには加護で与えた満開にする魔法がありますからね! そうすると種は満開の魔法の影響で急速に成長して内側から木になって、その人を裂き殺します!」


 恐ろし過ぎる……誰だ、女神の魔法が微妙とか言った奴!


「え、えっと……今の所、ていうか出来れば一生なんだが……人殺しはしたくないかな?」

「ツムグさんたら……優しいんですね。でも何か困った事があったら教えて下さいね? 友達である私が、ツムグさんを助けて差し上げますね!」


 本人は非常に献身的であるけどそれが余計怖い。


「それで、ツムグさん、気が付きましたか?」

「ん? ……もしかして、家具が増えている事か?」


 昨日まで何も無かった女神の間に、いつの間にか机と椅子が増えている。


「流石に友達が来てくれているのに、何も無いのは失礼ですからね! あ、紅茶もご用意致しました!」


 机の上にはカップが置かれており、湯気も上っている。


「幾ら呑んでもお漏らしなんてしませんから、安心して飲んで下さいね?」

「お、おう……」


 取り敢えず言われるがままに椅子に腰掛けた。


「今お菓子も取ってきますね!」


 女神様はそう言うと指を鳴らして、その場から消えていった。


「……」


 さて、此処からが更なる修羅場だ。

 隠れオタクの俺にはヤンデレの行動パターンは読めている。

 この場合、紅茶の中に血液、唾液、またはそのどちらでもない彼女の体の何かが入っている可能性がある。俺は慎重にカップを持ち上げるとその匂いを嗅いだ。


「……香しいな」


 紅茶に詳しくは無い俺だが、コーヒーの様な黒い色のそれから放たれる匂いだけで素晴らしい物だと分かり、思わずカップに口を付けてしまった。


「……ん、美味い……今まで、こんな美味い紅茶は飲んだ事が無いなぁ」

「ご満足して頂いて何よりです」


 お菓子の入った皿を手に持った女神様が帰ってきた。その手の上にはクッキーの盛られた皿がある。


「さあ、こちらもどうぞ」

「頂きまーす……」


 紅茶は美味しかったがクッキーは別だ。この固形物にヤンデレ女神様は一体何を仕掛けたのか……


「……あれ、普通に美味しい」

「美味しいですか? 私の手作りなんです!」


 普通に旨いその味に俺は安心した。ヤンデレ=混入物だと考えすぎたのかもしれない。そうだよ、幾ら何でも初日にそんな、何かを仕掛けるなんて事する訳無いよな。


「その紅茶はアッサムと呼ばれる紅茶なんです。色と同じで味も濃いのでミルクを入れてミルクティーとして楽しむのがおすすめですよ」

「ん、そうか。じゃあ試してみようかな」


 牛乳の入った注ぎ口のあるコップから牛乳をカップへと入れる。色の濃かった紅茶に白が混ざり、カップの中で少しずつ色が広がる。

 そこにスプーンを入れ、色を均一に混ぜた。牛乳も温めてあったので紅茶の温度は奪われない。


「……うん、美味しい」

「ふふふ、楽しんで言って下さいね?」


 ココアとバニラのチェック模様が見た目で楽しませてくれるクッキーを食べつつ紅茶を口に含む。

 先の監視している事にはなるべく触れずに、俺は今日の出来事を彼女に話した。


「――で、俺のステータスに何か人間には無いステータスが追加されたと思うだけど……」

「魅了のパラメーターですか……私にはツムグさんのステータスを減らす事は出来ません。ですけど、魅了なんてステータスがあったら…………分かりました。この『ホウセンカの髪飾り』を差し上げます」


 そう言って女神様は赤い花を象った髪飾りを俺に手渡した。


「……これはアイビーリング同様、私が考案して創り出したホウセンカの髪飾りです。これを持っている間は所持者に対して周りの人への好意を下げる事が出来ます」

「嫌われるアイテムか……」


 俺自身の呟きで、頭の中でこのアイテムの創作理由が判明してしまった。

 独りが寂しい女神様がこれを創る理由は唯1つ、俺の監視して周りの女子が邪魔だったのでそれを如何にかしようと思ったのだろう。


「あ、当然私には効きません! 髪飾りではありますが、持っているだけで効果が有る筈なので恥ずかしがらずに、どうぞ!」

「ああ、ありがとう」


 取り敢えず受け取っておこう。魅力で周りの女子との関係が壊れるのは嫌だしあの王女様が怖い。


「では、残り時間までもっともっと、楽しんでいきましょう?」


 女神様にそう誘われ、他にする事も無いので彼女の機嫌を損なわない様な会話を心掛けた。



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