魅了、モテ期到来?
「う……」
夢見が悪い……で済めばどれだけ良かっただろうか。見慣れない天井と装飾の無い白いベッドで寝ていた俺は頭を抑えた。
「……医務室……そうか。気絶して目が覚めた後も、そのまま此処で寝たんだった」
「……紡君!」
俺が目覚めて体を起こすと、直ぐに山仲が駆け付けた。
「良かった、大丈夫みたいだね!」
「看病してくれてたのか……昨日寝る前にも目を覚ましたんだから必要なかったのに」
「看病って言っても隣のベッドで寝てただけなんだけどね……っ!?」
山仲の表情が突然固まった。俺の顔に何か付いているのだろうか?
「どうした、山仲?」
「え、あ、ぅ、ううん! 何でもないよ!」
「そうか?」
急に山仲の顔が赤くなっている。もしかして風邪だろうか、と考えたが頭に幾つかのラノベの文章が過ぎった。
(……惚れて、る? 山仲が、俺に? ま、まさかな……
日本にいた時は校内で転んだ山仲の手伝いとか片付けの手伝いとかしてたし、そのお礼とかで放課後しょっちゅう遊びに誘われてたけど……このタイミングで何故顔を赤く染める?)
もし仮に万が一彼女が俺に好意を抱いていても、山仲がドキッとするような動作をした覚えは無い。
昨日は風呂に入ってないので着ている服も昨日使っていた物だし……着崩れてもいない。一体なんで赤くなったんだ。
「つ、紡君……今日は一段とかっこぃ……」
「だ、大丈夫、山仲さん?」
急に褒められたので思わず声をかけたが若干照れてしまい、。
「は、ひゃい! だ、大丈夫りぇす!」
噛んでるし。明らかに動揺している。
「そ、そうだ! セリア先生を呼んでくるね! 昨日の事、ちゃんと謝ってもらう為にね!」
それだけ言うと山仲は慌てて出て行った。
「……セリア先生、か……俺も謝んないと」
魔術のコントロールが感覚で出来ると分かった以上、下手な真似はしないでちゃんと先生から教えて貰うべきだろう。
果たして、昨日の傍から見たらやる気の無い態度を許してくれるだろうか。
「ふん、目覚めたか」
「セリア、先生……」
「貴様に先生などと、物を教えてやる立場になった覚えは無い! 此処に来たのは単にヤマナカに頼まれたからだ! やる気の無いお前に割いてやる時間など微塵も無い!
…………!?」
叫び、罵倒していたセリア団長の声が何故か唐突に止まった。その顔には、信じられない物を見たような驚きがあった。
「……! と、兎に角やる気を見せてみろ! でなければ貴様に教えてやる事などない!」
表情を直し、それだけ言ったセリア団長は足早に医務室を去って行った。
「なんだったんだ、今の?」
団長の態度に疑問を抱きつつも俺はベッドから立ち上がり、朝食を摂る為に医務室を出た。
その俺を山仲と島崎が待っていた。
「っ!? ……」
「……」
なのだが、何故か出迎えた2人が俺を見た瞬間惚けた表情になってしまったので戸惑ってしまった俺は、はっきりとしない挨拶を口にした。
「お、おはよ、う?」
「「お、おはよう!」」
2人は慌てて挨拶を返してくれた。もしかして、様子のおかしい先生が医務室から出てきたので怪しんでいるのだろうか? それにしては、向ける視線が好意的な気がする。
「ちょ、朝食食べに行かないと! 皆がきっと待ってるよ!」
「そ、そうだね! 私もお腹が減ってきたよ!」
「え、っちょ! 引っ張らなくて良いから!」
もしかして女神の契りと何か関係があるのだろうか、そう考えた俺だが腕を2人に引っ張られて食堂まで向かった。
その途中で出会ったメイド達も何故か俺の顔を見ると驚き固まる事があった。初日に俺を無駄飯喰らいと呼んでいた奴すら、顔を赤らめ視線を逸らす始末だ。
ここまで来ると優越感よりも不気味さだけが募っていく。
(そう言えばまだステータスを確認していなかったな)
現実逃避気味にステータスを確認する。全てのステータスが1440ずつ上昇、つまり丁度2時間分ステータスが上がっていた。
「わぁー……自分でも引くレベルだなこれ」
此処まで来るともはや化け物じゃないかと心配になるが、運の下に新しい数字が増えているのが確認できた。
「……100、だった数値も1540まで増えてるし、その下に10って書いてあるんだが……人間のステータスは7個のステータスじゃ――」
その何気ない自分自身の一言で、漸く確信染みた答えに辿り着いた。
「――ま、まさか……!?」
この数値は、普通の人間にはない何か別のステータスを表しているのでは無いだろうか。
***
「これより! 魔法訓練を始める。フレイムバレットの出来ない者は、金輪際魔法訓練はしないのでそのつもりでいろ!」
炎の魔法の熱で無理矢理汗をかいて苦しくも無ければ痛くも無い騎士団の訓練をやり過ごした俺はセリア団長に1発でのファイアバレットの実演を命じられた。
昨日のステータスアップで更に魔法力は増しているが、それが同時にコントロールの出来る自身にすらなっている。
「ツムグ! 出来なければ貴様を追い出す、と言っているのだ!」
「はい!」
追い出されるつもりは微塵も無い。俺は1歩前へと踏み出した。
「……すぅ……っはぁぁ」
女子達が見守る中、雰囲気作りの為だけに大袈裟に息を吸って吐く。大丈夫だ、行ける。
「……“燃え盛れ、赤く滾る炎”」
呪文の流す炎のイメージを掌サイズに抑える。魔力の大きさも、決して大きい物ではない。コントロール出来ている事を確認出来た俺は躊躇無く的目がけて放った。
「フレイムバレット!」
間、掌から的へと放たれるソフトボール程のサイズの炎。命中した的を粉砕し、自動修復の魔法で的は自ら復活する。
「……出来ました」
「っほ……!? ご、合格! まあ、これが出来なければ話にすらならんからな!」
リア団長は何故か嫌いの筈の俺の合格に安心するが、首を振って厳しい口調に直した。
「おめでとう紡君!」
「まあ、私達も出来たんだからこれくらいはね」
「頑張んなよ。まあ、あたし達が魔族を倒すからアンタは戦う必要無いけどね」
「強くなれないなど、卑屈にならずに頑張ってください」
皆の暖かい応援を貰うがやはり、何時もよりも熱が込もっている気がする。
「おめでとう。無理しないで頑張ってね」
唯一、光田命だけは普段通りのトーンで声をかけてくれた。
流石に原因が分からないと不安だ。皆の反応が普段と違うだけでこれだけに不安になるとは思ってもいなかった。
「次は水の魔法だ! ほら、女の子達も今日中にもっとレベルアップをしましょうね」
セリア先生に言われた通り、火以外の水、風、土の魔法を試す。この世界のステータスはあくまで数値を表す物だけなので得意な魔法は実際に試して見なければ分からない。
「ウォーターボール!」
「出した水のコントロールは出来る?」
「こ、こんな感じか?」
水の魔法は使ってみると水の塊を作り出し自由に動かせた。どうやら俺の得意属性だった様で同じ属性だった山仲が喜んだ。
「ウィンドカーテン!」
「もっと的をちゃんと狙って!」
「風の纏まりが悪いですね……先生のお教えだとこれは……」
風の魔法で風を起こしたが、いまいち狙いが定まらず、遠くへ飛ばすとどうしても風が1つに纏まらず拡散していく。どうやら俺の不得意な属性の様で、島崎とメガネを掛けた真面目な女子、連谷志保が少しがっかりしていた。
「あたしはね、呪文はなるべく意識しないで土の中でもう出来上がってる物が地面の中から出てくるイメージをしてんの。呪文を唱えながら形を作らせて、発動させてせり上がらせる感じかなー?」
「“土塊よ、形を成せ”アースウォール!」
土の魔法は何故か真面目な連谷と一緒にいる事の多いギャルっぽい染めた金髪と腕や指に複数着けられたアクセサリーが目立つ渡辺芽衣が、呪文の唱え方とイメージの正しい捉え方を教えてくれた上で成功させた。
地面から土の壁を作り出す魔法で大きさも強度も問題なかった。芽衣は自分が教えたんだから当然だと、満足気だった。
「それじゃあ、あたしがもっと魔法教えてあげようか? あたし、土魔法については他の娘より上手いの。得意属性を鍛えるのが魔法訓練の基本だって、先生も言ってたし」
芽衣に強引に訓練所の端へと連れて行かれそうになる。
引っ張られて体が密着して、クラスの中で一番露出の多い着こなしをしているので思わずドキっとしてしまう。
「あ、いや、えっと……」
「えぇい! 浮かれるな! 今日は昨日の貴様の遅れを取り戻す為に魔力が枯れるまで全ての魔法を使い続けろ! 不得意な属性もだ!」
機嫌の悪くなったセリア先生が思いっきり怒鳴ってそう言ったが流石に女神様に上げて貰った魔力を全て使い切る事など不可能なので、適当なタイミングで疲労を装う事にした。
「ふぅ……昨日より使える様になってる!」
「疲労感もそんなにないし、もうレベルが7まで上がったよ」
ゆっくりと全属性の魔法を休み休み撃っている内に、女子達のそんな声が聞こえたので俺は最後に魔法を使うと片膝を地面に着けた。
「はぁっはぁ……もうダメ……」
「ふぅん……初級魔法10回……やはり、ステータスが上がる様子は無さそうだな」
セリア先生は俺の結果を確認すると納得し、俺を無理矢理立ち上がらせた。
「騎士団長からも貴様の成長はやはり望めないと言われている。故に明日から、貴様は騎士団での訓練には参加出来ず、魔術師団の訓練への参加は自由意志とする」
「そ、そうですか……」
「……魔術師団には、単純に覚えて魔法を放つ以外にも呪文を研究、改良する目的がある、暇ならば、邪魔にならない程度に此処に寄ってこい」
そう言うとセリア先生は俺の頭を優しく撫で、俺は呆気にとられた。あの第一印象が男嫌いだったこの人が、俺を気遣ってくれたのだ。
「……!? せ、精々少ない魔力を、研究用の魔法に費やす事だな!」
先生自身も自分のした事が信じられなかった様で、慌てて冷たい口調に直したが俺にはツンデレとしか思えなかった。
「……紡君っ! 早く夕食を食べに行こう!」
山仲が俺の袖を掴んだ。
「安奈の言うとおりだ。早く食べに行かないと、無くなっちゃうかも」
それを手伝うかの様に島崎も俺を掴んだ。
「分かったって……先生、ありがとうございます!」
「サッサと出て行け!」
罵倒を貰った俺は、2人と共に早足で訓練場を後にした。
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