強化、奇妙な変化
サブタイトルに苦戦しています。気まぐれで妙な法則性を付けるべきではないと反省しています。
「ツムグさんの世界の話は本当に面白いですね」
「そ、そうか?」
他愛の無い話だが、俺が元の世界の事を女神様に話すと、女神様は笑って喜んだ。その笑顔は今はまだ純粋な様だが、先の事で俺を少し警戒させる。
「いつかこの世界にも、クルマやヒコウキなんて乗り物が生まれると良いですね!」
「でも、この世界には空飛ぶドラゴンとかもいるだろう?」
「はい。じゃあ、今度は私がこの世界についてお話しますね?」
その間にも俺と女神様の手はアイビーリングで繋がれ、繋ぎ合っている。
「もうツムグさんは召喚されてから自分のステータスを確認しましたか?」
「まだだけど、どうすればいいの?」
「召喚先の方は、まだステータスの確認をお教えしていないのですね? ステータスは見たいと念じれば自分だけに見える様にウィンドウが現れます」
「……あ、出た」
もう1時間は経った様で、ステータスが先よりも凄まじい数値になっている。
「因みに私のステータスは今のツムグさんの5067倍です。ツムグさんが私の数値を超える事は残念ながら加護の効果でできません」
「っぶぅ!?」
ご、ごせんろくじゅうななばい!?
「女神のステータスなんて意味はありません。ただ、絶対に死なない様に高くなっているだけです」
「ま、魔王って……どんなステータスしてるんですか?」
「……歴代最強魔王が今のツムグさんの5倍でした」
「俺の、5倍……」
何故だろうか、一気に魔王がしょぼく見えてきた。こうして女神様と談笑しているだけで、その内に魔王を超えてしまうのか。
「話をドラゴンまで戻しますが、翼の有るドラゴンには人間の持つ7つのステータスに加えて飛行力と言う物を持っています。これが高いほど、空を飛ぶのが上手くなり、速く飛べます」
種族によっては他の種族が持ってないステータスがあるのか。その上アビリティまで強力だったら人間は不利だろうな。
「ですが、このステータスは人数で引っくり返せます。耐久力が高くても複数から攻撃されてしまえば徐々に体力が減っていきます。ですのでこの世界でもっとも数の多い人間は強い魔物を討伐する事が出来るんです」
「なら、何で勇者召喚を?」
女神様は一度ワザとらしく咳き込むと、説明を始めた。
「本当なら魔王は人間だけで打倒する事は無理なんです。人間の知識、亜人の身体能力、そして古の獣の持っていた魔法を使って漸く倒せる存在だったんです。ですが、人間は古の獣の魔法を盗み、高い戦闘力を持つ異世界人を勇者召喚して人間だけで魔王を打倒し得る力を手に入れてしまった」
「……悪い事、なんだな?」
何となく察した俺に、女神様は頷いた。
「人間は自分達だけで魔王を倒せる様になってから、他種族、主に自分達と姿形の似ていた亜人と呼ばれる他種族達を蔑み、奴隷にして行きました。他の神達も勇者召喚が世界に悪影響を及ぼしていたので禁止しようとしましたが、人間にもっとも信仰されていて力のある女神、バーシアがそれをさせませんでした」
「バーシアってのは……女神の中でも偉い奴なのか?」
「いえ、彼女はフォーアルを作った最高神への連絡を行う存在でしたが、地上の情報を集める事を理由に創造神の名を騙って人間達の信仰を集めているのです」
なんとも、スケールの違う話だ。俺の5倍強いのが魔王、その上に5067倍も強い女神様がいて、それよりも更に上がいる。インフレし過ぎじゃないか。
「……でも、魔王を倒せば俺達は元の世界に帰れるんですよね?」
正直、これは聞きたくなかった。何故ならば既にあの王女姉妹の話で帰す気が無い事は大体理解できていたから。
「……いえ、帰れないです」
「ですよねー」
それは本当にしょうがない。がっかりした顔を隠すように笑う。
「……」
「あ、じゃあ他に帰る方法ってありま――」
せんかと聞こうとしたが、体が急に透け始めた。
「あ……時間切れですね」
「意識が体に戻ってるのか?」
「はい。ですが直ぐには目覚めませんよ。恐らく睡眠状態でしょうし」
途端に寂しそうな顔をする女神様。
「それじゃあ、また明日だな」
「! は、はい! また明日!」
俺の言葉に女神様は満面の笑みを最後に、俺の意識は静かに閉じて行った。
***
目覚めた俺はまず最初に心の中でステータスを念じた。
「……夢じゃ、なかったな」
そこに書かれていたレベルは1のままで生命力と魔力は841、筋力等が816、運は876。アビリティは確認できないかと思って下を見ると、見た事の無い数値がそこにあった。
「な、なんだこの数値……? 100?」
運の下に数値だけ書かれていた。なんだこれはと首を掲げる。
「まあ、ステータスの確認は今日の訓練でやるらしいしその時に聞けば……」
ステータスを閉めつつそうぼやいたが、俺の脳裏には昨日の王女姉妹の会話が浮かび上がってきた。
「……洗脳、か。なんとかして防御、もしくは解除する方法を見つけないとな」
『つ、紡君? 起きてる?』
先の事を考えていた俺の部屋にノックの音と女子の声が聞こえてきた。山仲の声だ。
「ああ、起きてるよ」
『朝食、昨日の食堂で食べるから着替えたら来て』
「ああ、分かった」
着替え、と言われて辺りを見渡す。白いYシャツと黒いズボンが用意されていた。
来ていた寝間着を脱ぐとピッタリのサイズに安心しつつ袖を通して着心地を確かめる。
「……よし、行くか」
着替えた俺が部屋から出るとそこにはクラスメイトが全員集合していた。
「あれ、皆早いな?」
「どうやらお前だけモーニングコールが無かった様だな。いけ好かない連中だ」
「小野寺、そう言うなって……」
どうやら王の方から何らかの合図があったらしい。小野寺は不機嫌になるが葉駒はそれを宥める。
「じゃあ、異世界の朝食とやらを頂こうぜ」
「昨日の夜みたいにうめーもんがあるといいなぁ」
金堂がぶっきらぼうに言うと、不良仲間の健田裕太が続いた。
「あたし、訓練で筋肉痛なんてやだなんだけどー」
「戦い方を学ばなければ命が危ないのです、真面目にやりましょう」
見た所、クラスメイト達は異世界で迎えた2日目だというのに、学校の中の様な自然体だ。
俺も遅れない様にと食堂に向かい始める。
「……つ、紡君?」
「ん? どうしたの、山仲さん?」
山仲が俺の名前を呼んだので振り返ると、彼女は俺を不思議な物を見る目で見てきた。
「……紡君、寝起きだよね?」
「ああ、そうだけど? 早く顔くらい洗わないとなぁ……」
俺は目を擦って洗顔してない事をアピールする。
「……なんか、何時もと雰囲気が違う気がする」
「あはは、やっぱり不安だからちゃんと寝れなかったかな?」
そんな事は無い筈だが、もしかして意識転移の疲労が顔に出ているのだろうか? 俺は何も不調を感じていないが……
「あ、でも別に全然変じゃないよ! ……何時もよりも、良いかも……」
「ん?」
「な、なんでもないよ! うん! 早く顔を洗わないとね!」
山仲は一体どうしたのだろうか。何時もより良いとは、何が良いんだろうか。
朝から奇妙な疑問が生まれるが、俺は食堂へと急いだのだった。