真相、女神との再会
「はぁ……居心地悪過ぎるだろ……」
現在、俺には罪悪感が募っていた。
明日には全員が訓練を始めるだろう。俺も、一応一通りは付き合うつもりだが、騎士団長が言うには俺が戦場に出る事は無いそうだ。
「参ったな……」
飯はまあまあ旨かった。風呂も広かったし、クラスメイトの皆も、そこまで親しい訳ではなかった俺に優しくしてくれた。
「だからこそ、なんだよな……」
意味の無い溜め息を吐きつつ、宛がわれた1人部屋のベッドで愚痴る。
他の皆は女子と男子で別れ2人部屋や3人部屋を選んだ。恐らく、異世界に来て不安なのだろう。小野寺は俺も部屋に来いよと誘っていたが、葉駒に申し訳ないし、1人になりたいと言ってこの部屋に入った。
「意識転移、ねぇ……?」
する事の無い俺は、目を閉じた。
「意識転移、発動」
解放したアビリティは発動したいと念じれば発動する。
俺はなんとなく城へと意識を飛ばす。城に入り王の間へと続く廊下を人間の早歩き程度の速度で移動させた。
「……召喚された10人の内に、役立たずの加護持ちがいるそうだ」
「まあ! とんだ無駄飯喰らいね!」
騎士達とメイドが何やら俺の悪口を喋っている様だ。
「魔族との戦争が控えているのに、そんな奴に無駄な出費を!?」
「勇者様の友人らしい」
「我らの王は、相変わらず寛大だな」
廊下を歩くだけでこうも悪口が聞こえてくるものなのか。流石に凹む。
『いや、待て? 国王が寛大?』
どう見ても俺に関しての金堂の提案を渋ってたのに?
『……』
怪しいと、何となく思ったので意識を飛ばしていた俺は王の間に急いだ。
『……? いない?』
王の間に着いたが誰もいない。目を凝らして空の玉座を見るがやはり誰もいない。
『ん? あっちか?』
が、その先の扉から僅かに人の声が聞こえてきた。俺は意識だけなのでドアをすり抜けて声の主を視界に収めた。
「――加護持ちなんて不要な者は、即刻追い出すべきです」
「そうは言うがアマンダ、あの者は勇者共の友人だ。あの場で直ぐに追い出す訳には……」
「これから洗脳を施す相手に何を気遣っているのですか!?
勇者どもを操り、魔族領へと侵入してリーリン王国騎士団を名乗り、魔族共が王国を攻撃し始めた所を我々が援軍と言う形で魔族を倒して有利な状況で交渉し、このセンテ帝国を大きく発展させる! それの為に不要な物は一切切り捨てる!」
俺達と同い年位の金髪美少女が物騒な作戦を企てていた。
まさか、召喚された勇者相手に国の名前すら正しく告げていなかったのか?
「それがお姉様の王家を継承する為の帝国の発展、ですか?」
アマンダと呼ばれた彼女を姉と呼んだのは、中学生並みの背丈を持つと山仲と同じ位の身長に谷間の見える程の大きな胸を抱えた金髪美少女。ミディアムと呼ばれるショートよりも長い髪の姉とは違い、腰に届かない位にストレートに伸ばしている。
「そうよ。貴女は、アマエルは如何するつもり? まさか、何もせずに王家を継承できると思っているの?」
「お姉様と争っても良い事なんてありませんもの。私は見学させて貰います」
扇を広げ、口元を隠しているがほくそ笑んでいるのが分かる。
「思ってもいない事をべらべらと……! 見ている内に王家が私の手中に納まらなければ良いけどね?」
姉妹同士とは思えない内容の言い争い。どっちもとんだ食わせ者だ。
「それよりもアマエル! 結界は如何したの!」
「防音なら張りましたけど?」
「対霊体用の結界よ!」
「ああ、私とした事が……うっかりしてました」
そういうと妹は呪文を唱える。如何考えてもワザと張らなかった事は想像に難しくない。
「“生ある者に、無き者は近寄る事を禁ずる”。アンチ・アンサバイバー」
『うっ――!?』
妹の呪文が完成すると同時に彼女を中心に部屋を囲う大きさの結界が広がり、それに当たった俺の意識は今まで感じた事の無い衝撃を受けて吹き飛ばされた。
意識は体に戻ってきたが、その衝撃で気を失ってしまった。
***
「……いかなる奇跡でしょうか?」
「ん……?」
誰かの声に目を覚ました。聞き覚えのある、温もりの感じられる声だった。
「………………え? し、四季の女神様?」
忘れもしない桃色の髪にセーラー服の美少女。数時間前にあった四季の女神だ。
「貴方は導野紡さん、でしたよね?」
確認しながらも女神は俺の両手に優しく触れる。ステータスを上げてくれている。
「どうしてこの場所に? この場所は体のある方には来れない場所なのに……?」
「えっと……多分、意識転移ってアビリティのお陰だと思います」
俺のその言葉に握られた両手に力がこもる。
「嬉しいです!」
「え、あ、あの……!?」
何故か女神の、否、女神様の顔が赤く染まり、その愛らしさに思わず照れてしまう。
「私、貴方が先程来てくれるまで約1000年間、この空間で独り過ごしていました」
「せ、1000年!?」
見た目どう見ても中学生位なのに、と思ったが外見と年齢が合わないのはファンタジー世界のお約束か。
「この世界には沢山の神や女神がいますが、四季の女神である私に会うには意識だけでなければいけません。霊体ではなく、意識だけである貴方でなくては私の元に来る事は不可能でした!」
「で、でも俺以外にも意識転移を持つ人がいるんですよね? 何で俺だけ?」
「意識転移で此処に来るのは普通は無理なんです。歩いても、空を飛んでも、此処に来る事は出来ません。ですが一度来た貴方なら、今後も意識転移の力で此処に訪れる事が出来るでしょう」
「じゃあ、ステータスアップも!」
こうして女神様に両手を握って貰っている間も、俺のステータスは上昇しているのなら、加護持ちの俺でも戦える位のステータスを獲得出来る筈だ。
「はい。
……ですが、ステータスを上げる為に条件があります」
そういうと、女神様は何故か両手を放した。
「条、件?」
「……そ、その……わ、私の! ……友達になって、貰えませんか?」
恥ずかしそうに頬を染めた女神様は、少し俯きながら呟いた。
恥ずかしいと言うよりも怖がっている様で、体が少し震えている。
「お、脅している様で……嫌ですけど……
他の女神は50年に一回位は加護を与える為に人間に会いますけど、私にはそれができません。で、でも貴方は私に会う事の出来る人間です……お、お願いします! これから毎日、友達として、私に会いに来ては貰えませんか?」
両手をモジモジさせて女神様はそう言った。不安なのか、目に涙が薄っすらと浮んでいる。
「……構いませんよ」
「え? 今なんて……?」
こんな頼み方をしておきながら、この寂しがり屋の女神様は断られるとでも思っているんだろうか。
「友達だから、タメ口で良いよな?」
「……! は、はい! よろしくお願いします!」
そう言うと涙を追い出してニッコリと笑った女神様はポケットから何かを取り出した。
「では、これを腕にしてください!」
「……草でできた、手錠?」
差し出された物は草で編まれた輪が2つ、同じ植物の茎で繋がっている。
「いえ、これは私の考案した『アイビーリング』です! 意識転移は制限時間がある上に、突然解除される事もあります。これを着けていれば私の力で制限時間ギリギリまで繋ぎとめていられます!」
その説明の後に失礼しますと言いつつ女神様は腕に片方の輪を俺の腕に嵌めると、自分の腕に片方を嵌め、その後に俺の左手に自分の右手を重ねた。
「……ふふっふふふ……幸福、です……」
「っ……!」
女神様は嬉しそうに笑ったが俺の背中には悪寒が走った。
俺が考えていた以上にこの女神様のお相手は、重いのかもしれない。