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強襲、帝国の陥落


「――アマエル王女様!」

「状況は?」


 先に向かわせた騎士達と合流した。馬車から降りず窓越しに騎士の報告を聞いた。


「魔王軍です! やつら、詳細はわかりませんが民を操り暴動を起こし城を手薄にした後に城へ攻め込んだ様です!」


 それは不味いな。俺達の馬車から煙を上げている城は見えるがその前には城下町もある。馬車で通り過ぎるのは無理がある。


「仕方ない。なら、俺が先に城まで行く」

「ツムグ様、それは……」

「クラスの皆に何かあれば取り返しはつかない。皆は城下町をどうにかしてくれ」


 馬車を降りると騎士達が怪訝な顔をしているが、事態は一刻を争う。実力を隠している場合じゃない。


「被害が出ないように――」


 馬車から離れた位置で俺は駆け出す様な体勢で足に力を込めて――


「――上から行く!」


 飛んだ。いや、実際はジャンプしただけだが女神様から貰ったステータスを使えば城下町の中央くらいまで行ける確信があった。


「っよ!」


 人のいない場所に一度着地し砂埃を巻き上げながら、もう一度跳躍する。

 上空から数秒程度見えた範囲では住人が騎士達に襲い掛かっているようだった。

 だが、今は助けている余裕はない。


「頼むから、無事でいろよ!」


 ステータスが上がったばかりの慣れない体で一応無駄に壊さない様にと踏み込む力の調整に苦戦しつつ数十秒程度で城下町を抜け、城の前へと辿り着いた。


「狼煙は……消えてるな」


 城門は所々崩れているが、開いたままの門自体は壊れていない。

 それに反して、目に見える窓は壊れている。


「空中から攻め入られてって事か」


 耳を澄ませば聞こえてくる戦闘音。どうやら、まだ陥落した訳ではないらしい。


「まあ、それも時間の問題か」


 大した情報は得られないまま、俺は城内へ踏み込んだ。




***




「この――っ!」


 センテ帝国第一王女のアマンダは疲労の溜まった体を酷使して、目の前で飛ぶコウモリの姿の魔物をなぎ倒した。


 しかし、それに喜ぶ事も、そんな暇もない。


「――忌々しいサキュバスめ!!」


 吐き捨てる様な台詞と共に敵軍の大将を睨みつける。

 しかし、睨まれたルナティック・サキュバスは特に大した反応も返さず倒された使い魔を一度送還し、もう一度召喚した。


「はぁ、元気なお姫様ね。もう降参したらいかがかしら?」

「舐めるな!」


 もう一度剣を構え直す。しかし、彼女の周りで戦っているのは意思の感じられない暗い瞳で体を動かしている紡のクラスメイト達――魔法で操られた勇者達しかいなかった。


「兵士達は私達に魅了され、練度もレベルも低い侍女達も相手にならない。

 王様は――逃げちゃったみたいだし、もうセンテ帝国は私達の手に落ちたと言っても過言じゃないでしょう?」


「黙れ!」


 自分の戦意を削ごうとする敵の言葉を怒りに変えて、彼女は力を振り絞る。

 勿論、それが長く持つ筈もなかった。心より先に体は膝を付いた。


「っぐ、くそ……!!」


 洗脳されている勇者達も意思が無いとはいえ体力が無限な訳でもない。驚く事もせず、地面へ倒れ、疲労に足を止める。


「何も、死を望んでいる訳じゃないの。この城を私達の物にするだけ。他の領地や町に手は出さないし」

「冗談じゃない……! 帝国は、魔物等に屈しないっ……!」

「簡単に侵入されておいて何を今更……まあ、私達サキュバスは他の魔族や魔物とは違って対人間に特化しているから、やろうと思えば他の国もこうなるわね」

「じゃあ……何故この国を……!」


 疲労で疲れたとは言え、アマンダは自分自身の口から出た問いに呆れた。

 勇者召喚を嗅ぎ付かれ、勇者が育つ前に襲撃された。

 人間の勝利は何時も勇者によって齎されているのだから、こうなるのは必然だ。聞くまでも無かったか。


「そうですねぇ、此処が私達にとって特別な場所だからでしょうか?」

「特別だと……!?」


 サキュバスの言葉の意味が分からなかった。此処、センテ帝国の城の建っている場所は長い間人間の領土だった。魔族の侵入だって、これが始めてだとアマンダは記憶していた。


「私達の主、神となる方が不本意とは言え最初にこの地に降り立った場所。最初の神殿に相応しいのは此処を置いて他に無いでしょう」

「神殿……! まさか、邪神を創るつもりか!?」

「ええ。ですので、此処をお譲り頂けたらなと」

「ふざけるな!!」


 アマンダは今一度怒りに震え、剣を握った。己の国で邪神が生まれる等、あってはならない事だ。

 だが、切り伏せたのはやはり眷属。それも直ぐに補充される。


「では――さようなら……あ!」


 ――掌を向けられアマンダが倒れ伏したのと、城内の構造に疎い紡がその場に到着したのは同時だった。


「――ミラか」

「ご無沙汰しています、ツムグ様」


 丁寧なお辞儀をするミラ。紡は倒れたアマンダと奥にいるクラスメイト達の安否を確認する。


「致命傷は負わせておりません。お連れしたければどうぞ」

「……俺を邪神に仕立て上げるんじゃないのか?」

「ご存知でしたか? 随分口の軽い魔族がいたようですね」


 暗にその通りだと答えつつ、アマンダを魔力で浮かして自分の前から退かした。


「此処を襲う必要、あったのか?」

「私達にとってはどうしても必要な事です。勇者召喚の地を征服したとしれば、魔王軍に参入していた魔族達も私達に鞍替えします。それらを生贄に、貴方を神の座に至らせます」

「そんな事を頼んだ覚えはないんだが?」


 紡の非難する様な問いに、ミラは悲しげな顔をする。


「喜んでいただけるとは思っていません。ですが、私はツムグ様が女神との繋がりを深めるのも、元の世界に帰ってしまうのは嫌です。だから、神としてこの世界に君臨して頂きたい」


「俺の意思を無視してもか?」


「元々、邪神とはその者の振る舞いを見た者達が呼んだのが始まりです。魔力を捧げるのは、貴方様を高位の存在として世界に順応させる為。もう二度と私に微笑んで下さらなくても、私の傍にいて下さればそれで良いのです」


 ミラの思想は、普通の人間である紡には理解できなかった。


「冗談じゃない! 元の世界に帰る! 必ず!」

「ツムグ様……次に会うまでに御意思が変わっている事を願っています」

「まだ話は――ッ!?」


 ミラは魔力で浮かしたアマンダとクラスメイト達を紡目掛けて放り投げ、転移魔法を放った。


「私達の宣言によって人間達の暴動は直ぐに収まります。ですが、例えツムグ様であってももう一度侵入を許すとは思わないで下さい」


 その言葉を最後に、ツムグ達はミラの前から消えたのだった。


「――儀式は必ず成功させます」




***




 俺の当初の目的であったセンテ帝国への帰還、クラスメイトとの再会及び救助。それは果たす事が出来た。しかし、事態はより悪化していた。


 サキュバスのミラと彼女が率いた魔族の軍勢により、センテ帝国城は陥落した。


 この凶報は他でもないミラ自身が、3日前に魔法により世界中へと拡散させた。


 邪神創造の生贄を増やすためだろう。

 これで魔族だけでなく、魔物や魔王を崇拝する邪教の人間すら彼女の元に集う可能性があるとアマエルは言った。

 幸いというべきか、センテ帝国の王と2人の王女は無事だが大半の兵士達は行方が分かっていない。恐らく、生贄の足しかサキュバス達によってミイラにされている頃だろう。


「……っく、なんて事だ」


 現在、勇者である俺達とセンテ帝国の王族、そして残った騎士達は帝都から少し離れた砦で情報を整理していた。


「他国と連携を取る為に使者を向かわせましょう」

「今の帝国に力を貸す国があると思うか? 恐らく今頃は各国が守りを固めている事だろう」


 もっとも、サキュバス相手に物理的な防衛だけでは無意味だがなと、王が続けた。


「奴らは民を誘惑し、騙し、多方向から次々に暴動を起こさせた。騎士達に対応を任せて守備が薄くなった所を狙われてこの結果だ」


 王の沈黙を皮切りに騎士達が口々に口論を始める。


「砦の兵は一体何を!?」

「転移の魔法で侵入されては……」


「探知のマジックアイテムが常設されていた筈だぞ!」

「こちらも、火事や不自然な魔物達の動きに手薄にされていまして……」

「それは怠惰だぞ!」


「――バカモノ!!」


 そんな彼らをアマンダは一喝した。


「城も無いのに責任の押し付けなど無意味。兎に角今は城を奪還する方法を考えるべきだ!」


 確かにそうだが、相手は人間にめっぽう強い魔族で構成されているし、レベルも高い。今のままでは勝てない。


 チラリとクラスメイト達の方を見た。

 山仲、連谷、金堂は会議を聞いているが、アマエルが洗脳を解いた他の皆はまだ眠っている。

 女子は5人。幾ら彼女達が勇者でも、ミラに勝つのは今は不可能だろう。


 破邪のロザリオを持った俺が戦えば――そう思ったが、アマエルに止められた。


「彼女達の狙いはツムグ様を邪神にする事。なら、貴方が行くのは一番危険です」


城は異様な雰囲気に包まれている。邪神の神殿化が進んでいる様で、しかも周りには幻覚の魔法を利用した結界が張られているらしい。


「結界を突破するのが先決です。ならば、此処は魔道国ワルトにいくべきかと」

「魔道国ワルトか……だけど、さっきの話だと協力を得るのは難しいのでは?」

「あの国は魔法の研究に余念がありません。もしかしたら、結界を調べる協力をしてくれるかもしれません」

「しかし、交渉はどのように?」


 暫く、誰も喋らない時間が過ぎてから、アマンダが口を開いた。


「ならば、此処は交流のあるアマエル、お前が行くべきだ」

「分かりました」

「私達は監視をしつつ、反撃の準備を整える」


「っおい!」


 そして、今まで黙っていながらイライラしていた金堂が声を上げた。


「その前に、俺達に言う事はねぇのか? まさか、謝りもしねぇで俺達を協力させようって魂胆か?」

「こ、コンドウ様! 確かにアマエル王女様が他の皆様に無礼を働きましたがそれは――」

「ああん!? アマエルだけ、こいつだけが俺達を利用しようとしたってか!?」

「ど、どうか! 勇者としての使命を全うして頂けないでしょうか!?」


 責任逃れをしようとする騎士にぶち切れてる。


「アマンダ王女。私達も今の状況が切迫している事は理解しています。ですが、そちらのした事に対して謝罪をして頂けないとこちらも素直に協力出来ません」


 見かねた連谷が助け舟を出したがアマンダは一見した後に、地図を見た。


「それに関しては忘れてはいない。こんな事になってしまったが支援は惜しまない。

 訓練をするのならばこの海に行けばいい。休息をとるのにもうってつけだろう」

「そうじゃねえよ! 頭を下げて謝る事もできないってか!?」


「今の私は城を失った王女だ。今の私は、騎士達や貴族の前でこれ以上の尊厳を失う訳にはいかない」


 それを聞いて金堂は拳をゆっくり振り上げ、力を込めながら目を閉じた。

 やがて、それを――


「……っくそ!」


 ――自分の横に振り下ろし、砦の階段を上って行った。


「金堂――っ!」


 去って行く背中に声を掛けようとしたその時、寝ていたクラスメイト達が目を覚ましたのに気付いた。


「目覚めましたね。私は彼らの状態を確認してから出発します」

「……好きにしろ」


 アマンダが手を振り、それを見た騎士達と共にその場を去って行った。



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