表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/35

救出、女神のプリン

大変お待たせしました。これからもよろしくお願いします。

「……あれ? 魔法切れてる……危ないな」


 目が覚めた俺は鏡の前で違和感に気付いて偽装魔法を使って目を濁らせた。


「迫ってくる女神様から逃れるのに必死だったからか? まあ、それ位しか思いつかないしなぁ」


 だけど、誰かに会う前で良かった。これで異性に見られていたら大騒ぎになっていたと思うとゾッとする。


「導野さん」


 部屋の外から俺を連谷が呼んだ。偽装魔法が間にあってよかった。


「連谷さん。おはよう」

「おはようございます。一緒に朝食を食べにいきませんか?」

「ああ。良いけど、騎士達に仲良く食べている所を見れるのは不味いだろ?」

「いえ、こちらにサンドイッチを用意しています。山仲さんが話していましたが、導野さんの脚力なら屋上まで私を運んでいただけるんでしょう?」


「え」


 山仲ぁ……いや、別に口止めはしてなかったけど。


「よろしくお願いします」


 ……まあ、丁度いいタイミングか。俺も、転移前の魅了について謝りたかったし。


「じゃあ、しっかり捕まって――」


 誰も周りにいない事を確認してから俺はお姫様だっこで彼女を抱きあげると、両手を首裏に回してきた。


「はい、しっかり捕まりましたよ」

「……行こう」


 窓から跳んで天井に着地した。


「……っと、あそこがいいな」


 そして、下から見にくそうで座る場所のある手頃な屋上を見つけてもう一度跳んだ。


「……頼んでおいてなんですが、これは不法侵入では?」

「緊急事態って事で目を瞑ってくれないか?」

「……仕方ないですね」


 悪戯っぽく笑った彼女を見て、からかわれたと気付いて苦笑いをした。

 2人で適当な場所に腰掛けて座る。彼女はもってきたサンドイッチの入った箱を開いて俺の前に差し出した。


「ありがとう」

「いえ、頂きましょう」


 野菜とハム、チーズの挟まった簡単な物を口に頬張っていると、連谷の方から話し始めた。


「皆さんを救ったら、その後はどうしましょう?」

「確かに、考えてなかったな」


 ポケットから胡椒のビンを手にとって、サンドイッチに振りかけた。

 俺達は全員合わせて10人。だけど拠点と呼べる場所もないし、もしかしたらアマンダ王女に指名手配されて追われる事になるかもしれない。


 元の世界に戻る方法も未だ確立出来ていない。


「そう考えると確かに不安だな……」

「ですが、皆さんが戦争や政治の道具として利用されるなんて事は、絶対に回避しなければなりません!」


 励ます様に言われた言葉に、俺は頷いた。


「そうだな……それだけは避けないと」

「大丈夫です。この世界なら学生である私達でも稼げますし、皆を助けたら男女共用になってしまいますが家を借りましょう。仮に元の世界に戻れなくても、生きていく事に困る事は無い筈です」


 やっぱり、俺のいなかった間にもこの世界で場数を踏んできたんだろう。彼女の顔からはそれを裏付ける自信が見て取れた。


「……それはそうと」


 サンドイッチも残り少ないし、そろそろ帰らないとと思いながら俺は彼女に謝るべく城での話をした。


「本当に、その時はごめん。俺も全然原因が分からなくて――」

「――いいですよ、もう過ぎた事ですから」


 そう言われ、俺は胸を撫で下ろした。


「えぇ……もう、過ぎた事ですので」




***




「朝はどこいらしたのですか?」

「ん? 連谷さんと一緒に朝食を食べてたけど」


 センテ帝国の城を目指す馬車の中、アマエルの質問に俺は何でもない様に答えた。実際、人目を気にはしていたがやましい事は何もない。


「……そうですか。いえ、ツムグ様なら十分理解していると思いますが、私達の関係性を騎士に感ずかれてしまうと作戦に影響が及ぶ可能性が御座います」

「ああ」

「軽率な行動は控えて」

「うん」

「私とだけ会話して、私とだけ行動して下さい」

「……」


 いや、それには流石に相槌は返さないぞ。


「て言うか、この馬車の御者に聞こえてないのか?」

「この馬車には私の防音魔法が施されていますので外からの声は聞こえて来ても、内側の会話は漏れません」


「……便利な事で」


 皮肉交じりにそう返した。


「だから、此処で私を襲っても誰にも気付かれませんよ?」

「すぐ周りの兵士に取り囲まれるだろ」


 なんなんだこいつ。俺を豚箱にぶち込みたいのか?


「そんなに心配しなくても、ツムグ様の御力なら私を連れ去る事は容易いですよ?」

「ぶち込みたいのは豚箱じゃなくて墓場の方か」


 どんな妄想をしているかは知らないが、俺から手を出す事は絶対無い。


「……御友人達を救出した後、この国を直ぐに出るべきです」

「急に真面目な話を……何処か宛はあるのか?」

「ええ。実は、脱出に使う秘密の出口の森の中には私が作った隠れ家が御座います。その中には魔道国ワルトへ転移できる魔法陣が設置されております」


 別の国か。そこにはアマエルが身分を隠して留学中に住んでいた屋敷がまだ使えるらしい。


「だけど、結局魔王討伐はどうなる? 放っておいても良いのか?」

「駄目です。いずれ人間に攻撃を仕掛けるでしょう。恐らく、帝国の偽装でリーリン王国を最初に狙って、ですね」


 そういえばそんな企みがあったな。帝国は他国に化けて魔王軍に攻撃を仕掛けて他国に矛先を向け、その王国から援助を名目に恩を売りつつ要求を有利にするつもりだったな。


「なので勇者様方には私が推薦し、魔法国ワルトで修行して頂ければと思っています」」

「ワルトか……」


 アマエルはクラスメイトの救助が先だと、ワルトについて余り話さずに今後の予定の再確認を行った。

 俺が腕利きの冒険者として城に入れるので救出には俺も加わる事になった。役割としては脱出の際に使用する隠し通路を見張る事と見つかった場合の陽動だそうだ。


 この事は既に3人には伝えてあるらしい。


「脱出の際には――?」


 アマエルの言葉は馬車の扉を叩く音に遮られた。


『アマエル王女様!』

「……どうしました?」


 外の兵士の大きな声を聞き、扉を開けた。


「前方に見える城から、狼煙が! 赤です!」

「なんですって?」


 慌てた様子で顔を出す馬車から顔を出すアマエル。


「敵襲を示す狼煙……! 何時からです?」

「つい先程かと」

「なら、馬車の護衛は最低限で構いません! 馬をお持ちの騎士達は一足先に城へ向かいなさい!」


 王女の命令に従い、騎士達は走り出した。


「他の者は近くの砦の確認を! 私達は馬車を急がせます!」

「了解!」


 アマエルは馬車から顔を出したまま、呪文を詠唱し始めた。


「“ハイ・ハッスル”! “エアサポート”!」

「“ライクミラージュ”!」


 三つ目の魔法が発動した瞬間、俺達の乗っていた馬車とみんなの馬車が急に加速を始めた。


「しっかり手綱を握りなさい!」

「は、はい!」


 御者の情けない声が聞こえてきた。いや、急にこんな走り出されたら焦るのも仕方ない事だけど。


「おいおいおい、どーなってんだ!?」

「コンドウ様、緊急事態ですのでどうかご容赦を!」


 急に一変した状況に着いていけないまま急発進した馬車の中で、俺に出来る事は舌を噛まない様に体を抑える事だけだった。




***



 センテ帝国城へ向かう前――


「はい、プリンです。キュウリで作りました! こっちはトマトです!」


 プリンの存在とそれを食べたいと要求して数日。現在は夏を司っている四季の女神様はたっぷりの夏野菜を利用したプリンを俺に振舞ってくれた。


「……わぁー、うれしいなぁ」


 決して不味くはない。

 初日こそ砂糖が多かったり少なかったりで舌が馬鹿になりそうだったが、今ではコツを掴んですっかりプリン作りに嵌っている様だ。


 だが……机の上をプリンの2皿で埋め尽くすのはどうなんだろう?


「さあ、食べて食べて!」

「い、頂きます」


 精神だけの存在なのでお腹が一杯になったり苦しくなる事はないが、食べ続けると飽きる。そして飽きると食欲が萎えて口が動かなくなる。最初こそ久しぶりのプリンに吸い付く様に食べていたがこのままではプリンを平らげるのは不可能になるだろう。


「……ふふっ」


 女神様はそんな俺を見ながらニコニコと子供らしい笑顔で見守っている。


「プリン、美味しいですよね?」

「美味しい。でも、そろそろ他の料理も作ってみる?」

「勿論です! ツムグさんの為に、もっともっと故郷の料理を教えて下さい!」


「ああ。

 ……次は、ピザとかにしておこうかな」


 そして赤と緑色のプリンを無事平らげて――


「――はい、次はこのかぼちゃプリンです! ツムグさん、これが一番だって言ってくれましたよね?」


 ――昨日の俺をぶん殴りたくなった。一回り小さいが、その上にはたっぷりのホイップと俺の知ってるさくらんぼより大きい赤い実が置かれている。


「ツムグさんのイメージしたプリンに近づける為に一生懸命考えました! 夏の植物は収穫できますが、生クリームのホイップは牛乳同様他の女神から頂いた物に、美味しくなるおまじないをしました!」


 そう、プリンの主材料の牛乳について説明した時も、女神様はおまじないをしたと言っていた。それが何なのかは説明してくれないけど。


「私の創った野菜や果物で、お腹一杯になってくださいね?」

「あ、ああ」


 一口食べる。艶のあるオレンジ色が濃いプリンは昨日よりかぼちゃが濃厚で格段に美味しい。


「あ!」

「ん、どうかした?」


 突然声を上げた女神様を見ると、そこには半透明の……俺のステータス!?


「ツムグさんと私の繋がりがまた深くなりましたよ! これでツムグさんのステータスの上がり具合も把握できて……あ!」


 女神様は俺のステータスの、新たなに追加された項目を見せた。


「ツムグさん、新しいステータスですよ! 味覚だそうです」


 味覚? 確認すると確かに存在するが数字の方は上がらない。250でカンストなのか?


「女神の作った料理を食べて、舌が肥えたんですね。嬉しいです!」

「味覚か……まあ、魅力みたいにデメリットが無ければいいけど」

「はい! これで、ツムグさんは何を食べても、私のプリンの方が美味しく感じるはずです!」


「それは割りと大きなデメ――嘘です、嘘です!」


 それ以上言わせないとばかりに、蔦が俺の腕に巻きつき始めたので慌てて謝った。


「……まあ、確かに普通に暮らし辛くなってしまいますね……仕方ないです。これを差し上げます」


 渡されたのはビンだった。中には灰色の胡椒の様な物が入っている。


「これは?」

「私特製の調味料です! 人間の味覚を刺激して、美味しいと錯覚させます!」

「へぇ、なるほど」


 これは素直に助かる。貧乏舌だった俺が、本当に味の良し悪しが分かる様になっているか怪しいけど。


「どんなステータスが増えても、これからは私がちゃんと対処方法を用意しますから安心してください!」

「ありがとう、女神様」

「ふふふ、これからも、私にいっぱい頼ってね?」


感想や誤字報告、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ