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進展、静かな動き

大変お待たせしました。執筆の時間が取れないまま2ヵ月近く経過してしまいました。

これからもご愛読いただける様、尽力いたしますのでどうか応援よろしくお願いします。

「――では、今日はこれくらいで十分でしょう。安全地帯は地図によるとこの辺りです」


 アマエルの言葉に俺達は野営の準備を始めた。残念ながらエコントに着くまでは大体ミラやアエに任せっきりだったので俺は不自然に思われない程度に質問しつつ手伝った。勇者達の戦闘経験を積むためだったので戦闘でも大して活躍は出来なかったし、正直このままだと駄目だ。


「焦る必要はありません」

「――?」


 後ろからアマエルの声が聞こえて来た。


「既に他の冒険者を騎士達の前で圧倒しています。あと数日で貴方を連れて行けるだけの功績は十分に立てられます」

「ああ……」


 短く会話を打ち切ってお互いそれぞれの作業に戻る。


 夕食の後は交代で寝ずの番を行う。安全地帯とは言っても、ギルドが定期的に魔物の大体の縄張りを調べ、どの魔物の住処よりも離れている場所だと判断しただけで魔物が通らない保証はない。


「まぁ、それでも7時間の睡眠で遭遇確率は10パーセント以下らしいし、結構正確な情報なんだろうな」


 もっとも、一番の安全地帯はダンジョンの階層を繋ぐ場所との事だが、アマエルがストップをかけた以上、これ以上の進軍は危険なんだろう。


「寝ずの番か……まあ、女神様に会うよりマシか」


 俺はコーヒーに口を付ける。日本の物より苦みの濃い味に眠気が少々飛んだ気がする。


「あの……少しいいだろうか?」

「ん?」


 これから長い夜が始まると静かに意気込んでいると、後ろから他の冒険者に話しかけられた。その相手は戦士のルカナだ。戦士らしからぬ敬語と体中を覆う鉄の装備に、個人的には騎士の印象を受ける。


「どうかしたか?」


 因みに、俺は冒険者感を出す為に極力タメ口で喋る様にアマエルに言われている。


「少し、貴方と話したい」

「俺と?」


 ルカナは薪の炎を挟んで俺の前に座った。


「今回のこの探索は、この街を守る為に更なる力を求める冒険者を募った筈だ」


「そうだな」


「だが、貴方の顔は冒険者ギルドで見た事が無い。あれだけの力があればAランクの冒険者であってもおかしくないが、貴方の噂も聞いた事はない。この街の者ではない貴方があの試験をどう合格した?」


 なるほど、ルカナはこの勇者達との探索に俺が同行する理由が知りたかったのか。しかし、まさか試験は茶番で本当は出来レースです、なんて素直に言える筈も無い。


「さぁな。確かに俺はこの街の者ではないが、もしかしたらアンタら2人との試験に勝てたお陰かもな」

「……確かに十分な力があるようだが、本当にそれだけか?」


 どうやら俺を疑っている様だ。


「……経験上の話だがな、王族の絡む話に首を突っ込むと余計なトラブルを背負い込む事になるぞ?」

「む……それもそうだな」


 それっぽい脅しをかけると、案外簡単に彼女は引いた。


「ではこの話はこれ位に……だが、貴方程の力を持った冒険者がいれば、魔族の迎撃も決して難しくはないかもしれないな。できれば、この先も共に戦う仲間であって欲しい」


「ああ」


 正直、魔族を1人で撃退したご本人だし、何だったら魔族襲撃の一因なのでそう言われるのは心苦しいのでやめて貰いたい。

 彼女が帰って行くのを見て、ホッと一息。


「――随分、慎重な様だな」

「……何のことだ?」


 今度は気配を消しながらレイがやってきた。


「先まで、冒険者なら慣れ親しんだ野営の手順を確認していた。勇者達に配慮してか?」

「そんな所だ」


 またしても腹の探り合いみたいな会話ですか。


「彼らは異なる世界から来た者達だと聞いた。ならば、何も教えず知っている者だけが準備するのではな彼らの為にはならない。そして、もう1つ理由がある」

「なんだ?」

「俺が、複数人で野営の準備をした事がないからだ」


『…………』


 何故か、レイはそれを聞いて黙って真顔を――いや、あの顔は若干申し訳なさそうだ。


「……どうやら心配のし過ぎだった様だ」

「いや、冒険者たるもの警戒を怠るべきではない」


「そうだな。まさか、この街にお前程の強者がいるとは思いもしなかったのだからな」

「エコントに到着してからまだそれ程日が経っていなかったからな」


「そうか」


 一度軽く頭を下げるとレイはまた気配を消して何処かへ行った。いや、ステータスのお陰か彼女が寝床に向かっているのは分かるけど。


「ふぅ……漸く見張りに集中できそうだ」


 その3時間後、交代でやってきたルカナに見張りを引き継いで貰って俺は就寝した。




***




「ねぇ、何処に行ってたの? 朝、ずっとツムグさんを見ていられる筈だったのに急に見えなくなった。なんで街を出たの? 何処に行ったの? 私に見せられない程やましい事? また他の女に会って来たの?」


 夢の中で直ぐに女神様に問い詰められ俺は、それでもどこか心の中でこうなる気はしていたので落ち着いて言葉を……特に考えてなかったので急いで考えてます。


「……ねぇ、答えてください」

「あー、えーっと……」


 なんせ、人魚にキスされましたなんて素直に言おうモノなら女神様のご機嫌を損ねる所か俺の五体すら危うい。


「人魚の歌に、誘われて……ちょっと森まで」

「あの魚ですか。

 ……でも丁度いいかも。夏の力でこの世界の水場を全て干からびさせましょう」

「ぜ、絶対ダメだろそれ!」

「冗談です。今の私にそんな力はありませんよ」


 そう笑った彼女の冗談は笑えず、同時にたった今笑った筈の彼女の目は微塵も愉快な感情を見せていなかった。


「それで、人魚と森で何をしたんですか?」

「いや、ちょっと話して……ああ、そう言えば何か仕事をしてるって言ってたけど、女神様は知らない?」

「仕事……? 海に働く事なく暮らしている人魚が川まで来て仕事……?」


 顎に手を置き何か考えている様だが、その間にも俺は植物の根に捕まり何時もの拘束椅子に座らされた。


「その仕事に関しては分からないけど、ツムグさん、また新しい女が増えたみたいね?」

「いや、そっちは唯の同業者だし……」

「まあ、人間には魅力は効いてもそんなに長続きしないけど……不安、です」


 相変わらずクオリティの高い野菜料理を振舞ってくれるが、その顔は険しく俺は不安になる。昨日は教会を作って信者を増やせば俺は彼女と永遠に繋がるとまで言っていた彼女の行動はもはや俺には分からない。


「でも、だいぶ敵視と言うか警戒されているみたいだし……」

「ツムグさんの魅力に、個人の感情なんて意味ないですよ。その人に想い人がいないなら確実に堕ちます。勿論、普通の人間なら距離をとって数日会わなければ問題ないですけど……」


 いや、その危険性は分かっているし擬態魔法を解くつもりもない。そうはっきり言っておいた。


「……はい、ツムグさんが理解しているのは私も分かっているつもりです。

 でも、魔族には注意すべきですね。今からでも人魚に嫌がらせするアイテムを……!」

「いや、出来ればもう少し会話をしてみたい――いっつ!?」


 手首に痛みが走り、視線を向けると棘の生えた花の根先が刺さっていた。


「……ツムグさん、何でそんなに意地悪なんですか? 私が此処でずーっと貴方の帰りを待っているのに、酷い」


「い、痛ぁ……いや、でも何か動いているなら確かな情報が欲しい。消えたミラも何か企んでいるみたいだし、出来れば次に会う時には何か吐かせないと」

「…………なんで」

「え?」


 ぼそりと女神様が何か呟いたが、彼女はなんでもないと誤魔化した。しかし、その眼にはあまり良い色の感情が見えない。どう考えても怒っている。

 そう感じた俺は片手首を縛られたまま席から立ちあがった。


「……どうしました?」

「いや……今日は隣に座ろうかと」

「……外してあげます」


 何とか機嫌を取ろうと隣に座って会話を振るが上手く行かない。彼女は笑って相槌を打つが、俺を見ていない様に思えた。恐らく、頭の中は俺の周りにいる女性への対処で一杯だろう。


「――所で、プリンって作れる?」

「プリン……なんですかそれ?」


 プリンの歴史なんて知らないが、どうやら彼女は知らないらしい。ならば……


「俺の世界にあった食べ物なんだけど、俺のいた国では昔、女の子が仲良くなりたい男にプレゼントするって習慣があったんだ」


 当然大嘘だ。しかし、四季の女神様の優先順位が他人よりも俺を重視しているなら――


「――作ります! 作り方を教えて下さい!」


 よし、釣れた! これで女神様にはプリンの虜になってもらおう。


「じゃあえっとまずは材料だけど……」




***




「――今日は本格的に勇者達と冒険者の皆さんに連携を取って頂きます。

 取り敢えず、戦士であるルカナさんは防御に徹して頂いて、後衛は勇者の2人でお願いします」


 アマエルによってルカナと山仲、連谷の3人と、残りの3人で2つのグループに分けられた。今日は他のグループと少し離れた位置でダンジョンを進み、複数人での戦闘を練習するらしい。


「此処から先は四方の何処から魔物が現れてもおかしくない広い穴の開いた通路です。先頭のパーティと後方のパーティでそれぞれ迫ってくる魔物に対処して下さい」


 そう説明され暫く歩いていると、その意味が分かった。

 建造物の様な規則のある壁模様の通路の高い所に穴が開いる。それも1つや2つではなく、左右に高さはバラバラで魔物の寝床や住処に成っているのは確かの様で早速1匹の魔物が穴から飛び出してきた。


「っへ、喰らいやがれ!」


 しかし、今日も金堂の鉄球は絶好調だ。飛砲の手から発射された鉄の塊が飛び出してきた狼の魔物を吹き飛ばした。


「油断しないで」


 その魔物に短剣を突き立てて止めを刺しつつも鉄球を回収するレイ。

 俺の出番は無かった。

 聞いた話だと何処から襲ってくるか分からないがこの穴を使う魔物は大体、縄張りから追い出されたハズレらしいが、中には普通の魔物よりも強い固体が出るらしいので油断は出来ない。


「もっとも、今の狼は昨日より随分大きな固体だったけど……」


 無双出来るのは俺だけではないらしい。まあ、金堂にそんな心配なんてしてなかったけど。

 チラリと後方の3人を見る。前の戦闘音に釣られてか後ろの穴から魔物が出てきた様だが、それらも勇者と冒険者の手によって簡単に討伐されている。


(俺の出番の無さよ……)


 ダンジョン内の魔物の死体は探索しながら持ち運ぶのは無理があるので燃やして処理するらしい。強い魔物なら体内に強度の高い器官や主食の鉱石などが残るらしく、それらは回収しておくのが基本だそうだ。


 燃やすのはアマエルがやってくれるし、本当に俺の出番が無い。


(ま、まぁ俺は加護の効果でレベルアップしないし積極的に参加する旨みもないんだけどさぁ……)


 何かしないと居心地が悪い。


「荷物なら持つ。索敵役は手を開けて置け」

「そうだね。任せ――右っ!」


 レイが慌てて右の穴を見るので、俺もそちらを見るとまた狼の魔物がこちらへ突っ込んできた。


「っふん!」


 咄嗟に狼の首根っこを突っ込んで地面へと叩きつけた。


「……危な」


 油断し過ぎたか。本当はステータスを疑われない様になるべく土魔法で攻撃したかったが流石に怪我をしそうだったので素手で倒してしまった。


「た、倒したのか!?」

「ああ、咄嗟だったが問題は無い」


 レイは驚きながらも魔物を見て死亡を確認した。


「……確かに死んでるな……」


 連携を高める訓練だった事もあり、階層を繋ぐ階段を見つけるとその付近の魔物を討伐するだけで探索は終わった。


 この日も、目立った活躍は出来ずに――


「――話がある」

「どうか、他の方々には内密にお願いしたい」


 ……だった筈なのに、新たなトラブルが俺の前にやってきた。


感想、誤字報告等お待ちしております。

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