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計画、救出への準備

1ヵ月近く遅れてしまい、申し訳ありません。執筆は続けていたのですが、似た様な作品を交互に書いているせいで片方の遅れがそのまま両方の小説が遅れてしまいます。

とは言え、両方とも連載中なのでこのまま書いていきます。ご了承下さい。



 クロエナは数日前から練っていた作戦があっさりと失敗した事で頭を抱えていた。無論、その事で彼女を責める団員は1人もいなかった。


「対空設備は薄く、防衛戦力も少なかった……」

「団長の言う通りでしたが、まさかあんな化け物がいたなんて……」

「最近召喚されたと噂の勇者でなく、女神の使者なんて聞いてないぜ」


 それ程までに先の戦闘は圧倒的な力の差を見せつけられての敗北だった。爆発に巻き込まれ、軽度の怪我や耳に異常をきたした者達は治療中であり、クロエナの元に集まっているのは副団長と古参の兵士だけだ。


「不幸中の幸いだったのは、全ての攻撃が威嚇で終わった事ですが……もしあれば本気でこちらを倒しに来たと思うと、ゾッとしますね」

「全くだ」

「兎に角、一度魔王様にこの事を報告すべきですね、クロエナ様?」


「っ、あ、ああ。そうだな……」


 しかし、団員達とクロエナの間には大きな違いがあった。クロエナにとってあの時対峙した人物は彼女にとっては好意と恐怖を示すべき対象であり、いま彼女が抱いている悩みはどうすれば彼を敵に回さずに済むかである。


 対処法など最初から考えない。そもそも今回の作戦自体、本当は紡との再会を望みつつも魔王への利も考えての物だった。しかし、それが本人によって阻止された。

 クロエナにとってそれは自分の策など不要であると言われたに等しく、恐怖と恋を抱いている相手に捨てられた様なモノだ。


(ど、どうすれば……!? 帰ろうにもこのままでは、魔王様にも父上にも、増してやらツムグ様に合わせる顔も――)


「――あらあら、暗翼の騎士さんは随分お悩みの様ですね?」


 不意に聞こえて来た声に、彼女は顔を上げると声の元を睨んだ。しかし、自分の周りに目をやると先まで話し合っていた副団長達は床に伏していたのを見ると怒りを露わにした。


「サキュバスの女王、なんのつもりだ!!」

「いえいえ、恋する乙女同士の会話に男性は不要ですので少々眠って頂いただけですよ」


 声の主はルナティック・サキュバスのミラだった。

 クロエナにとってはあまり良い感情を抱いている様な人物ではないので、彼女の目は必然と鋭くなる。


「何の用だ?」

「簡単です。ツムグ様の為に私に協力して下さい」


 紡の名前を出され、彼女は渋々と話を聞く素振りをした。


「……何をする気だ?」

「安心してください。巡り巡って魔王軍には良い話になる筈ですから」


 具体的な内容を隠しながら自分へのメリットをチラつかせる小賢しさにクロエナは少々イライラしてきた。

 だが、ミラの提案は今の彼女を驚愕させるには十分な物だった。


「――っほ、本気か!?」

「もちろん、私は本気です」


 だが、驚きはしたものの彼女は直ぐに決断を下した。


「良いだろう。お前の企みに私も乗ってやる」

「ふふふ、ありがとうございます」




***




「――こちらが城の見取り図です」

「な、なるほど……?」


 宿屋のベッドを5人で囲んだ。その中央に広げられた紙にはセンテ帝国の城の内部の全てが、隠し通路すら書かれている。


「なんでそんな物を?」

「勿論、私が何時でも逃げ出せるようにです。これには数世代に渡って仕えていた貴族達も知らない通路がいくつも書かれている上に、隠れ部屋の扉の開閉方法も記載されています」

「けど、こんな風に紙に残されているんじゃ誰が見ててもおかしくねぇだろ?」

「いえ、この見取り図を仕舞っていた封筒は王家の魔法で封じられていますので王族でなければ開ける事は出来ません」


 つまり本当に誰も知らない通路から侵入できるのか。


「そして、今回の侵入に唯一使える通路は此処です」


 そう言って指差したのは俺が意識転移で彼女と国王、そして姉のアマンダが密会していた玉座の奥の部屋だ。


「此処にはツムグ様は一度訪れていますね?」

「意識転移で侵入してお前に結界で追い出されたのを覚えている」


 他の3人にも伝わる様に簡潔な説明をしておく。


「王族のみが知るこの部屋には普段、姉も国王もおらず、そして警備兵も当然いません。通路の先は森に繋がっているそうです」

「つまり、その森に入って通路を通って玉座の奥の部屋に侵入し、葉駒達を助ければいいって事か?」


 金堂が簡単に言ってくれた。確かに誰も知らない、誰もいないルートを通れば侵入は簡単そうだがそこから勇者達の部屋まで結構な距離があるし、その場で洗脳を解いたとしても帰りは更に大人数での移動になる。


「私が城に姿を見せれば必ず貴族達に監視されてしまいます。ですので、出来れば侵入は皆様にお願いしたいのです」

「だが、洗脳はどうする?」


 俺の質問にアマエルは野球ボール程の大きさの水晶玉を取り出して答えた。


「洗脳の主導権は姉に譲りましたが、この水晶玉を見せれば一時的に最優先の命令を下せます。これで城から共に脱出する様に命じれば移動に手間取る事は無いです」

「わかりました。では、此処は騒ぎになりにくい様に私達3人が行くべきでしょうか?」

「ええ、その通りです」

「なら、俺は意識転移で先に城内の様子を調べるって事か」

「はい。決行は夜中が良いです。父上もその時間には既にご自分の部屋で寝ている頃でしょうし、玉座の間には更に隠し通路があるのでそこから廊下へ移動し御友人方の部屋に辿り着けるでしょう」


 この後も、俺達は1時間程作戦を練った。隠し通路は基本的に城外へと繋がっているので、バレた場合はそこを通って脱出し、最悪の場合更に兵士を呼ばれる前に兵士を倒してしまうのが良いだろうと聞いて金堂は拳を固めた。


 そして会議中一切口を出さなかった山仲、やっぱりこんな話には着いて行けないのかと思って横目で見ると……

「……! ……!」


 ワクワク、と聞こえてきそうな程に目を輝かせていた。スパイ映画とか好きなのだろうか?


 少々不安は残ってしまったが、俺達はまずこのエコントを出て城に向かう必要がある。


「あまり紡様の存在を知られる訳には行きません。ですが、私の率いて来た兵士達の中には貴族と通ずる者がいるので、これ以上私達と一緒に行動するのも危険です」


 偽装するにしても流石に身元不明の男を第二王女のアマエルが連れ込んだとなれば聞こえが悪すぎる。


「まあ、俺は1人でも問題ないが……」

「だ、駄目だよ! 折角再会出来たのに!」


 優しい山仲はそう言ってくれるが、流石にこればかりはどうにもならないだろう。


「そうですね……所でツムグ様、此処までどうやって来ましたか?」


 ん? そりゃ、宴だの何だので騒いでいる間にこっそりとだが?


「いえ、そうではなくこの街までです」

「ああ、そうか。道中で出会った知り合いの馬車に」

「ツムグ様」


 ぐ、咄嗟にしてはまともな嘘だと思ったがバレたか。


「ドラゴン、ドラゴンに乗ってきました」


「ま、マジかよ……!?」

「え、っえぇ!?」

「やっぱりですか」


 くそぅ、騒がれるのが分かっていたから3人にも伏せてたのに……


「ですが、流石にドラゴンに乗ってこられてしまうと目立ってしまいますね」

「そう言えば、城下町まで馬車でどれ位掛かるんだ?」


 アマエルは指を3本立てて答えた。


「直接行くとしても3日掛かります」

「……アマエル王女。救出に行くとしても、直ぐにこの街を立つ気ですか?」


 連谷のその質問にアマエルは少し目を見開いた。

 そうだ。色々起こり過ぎて忘れていたがこの街に勇者一行が到着して数時間しか経っていない。レベル上げの為のダンジョンにすら行けていない。


「そうでした……街の襲撃を報告すると言う面目でこの街を出るつもりでしたが、旅の準備も疲れも癒していませんでしたね」

「なら、まだ時間がある訳だ」


 なら救出作戦ももう少し練る時間がある訳だ。クラスメイト達の危機にのんびりするのも嫌だが、焦って動く事もないだろう。


「でしたら、ツムグ様を私達と一緒に城まで連れて行けるかもしれません」

「え!? 本当!?」

「ええ。その為にもまず先に――」




***




「ツームーグーさーん、おめでとう!」


 勢いが丁度無くなる位の距離で放たれた突然のクラッカーに驚き、目を閉じた。


「……あ、ありがとうございます」

「お友達と会えて良かったね! 数日前にツムグさんが戻ってきた時も、私本当にすっごく嬉しかったんだよ! 今日はお祝いだね!」

「あ、あははは……」


 言葉とは裏腹に、机の上に皿を並べる褐色肌の女神様は再会してから変わらず俺を植物の椅子に座らせ、身動きを取ろうものなら縛り上げるつもりの様だ。


「可愛い女の子が3人も一緒に居るから、やっぱり嬉しい?」

「いやいや、3人じゃなくて女神様もいれて4人だ。嬉しいに決まってる」


 なんとか機嫌を取ろうと言葉を選ぶ。


「ふふふ、そっか……で、私はツムグさんの中で何番目なの?」

「いや、友達に番号付けたりしないから誰が一番とかはないよ」

「優しいねツムグさん。ますます好きになっちゃったよ」


 俺の前にそっと皿を置いた。こんがりと焼き色の付いたチーズとハムを乗せたナス料理が嗅覚を刺激する。

 他にもキュウリをマヨネーズとヨーグルトで和えたものや、スライスされたトマト、チキンがパンと一緒に並べられている。


「どうかな?」

「凄く美味しそう」

「じゃあ食べちゃおうか!」


 右隣に座った小さな女神様に促され、頂きますと言って俺はナイフとフォークを握った。


「美味い!」

「ふふ、まだまだ沢山あるからちゃんと食べてね?」


 オリーブオイルと塩で味付けされたナスをとろけたチーズと共に味わいながらも、俺はふと頭に浮かんだ質問を彼女に投げかけた。


「今日はずいぶんと機嫌が良いみたいだけど、何かあったの?」

「? ツムグさんが友達と再会できた事以上に嬉しい事なんて無いよ?」


 いや、それは嘘だ。だって友達と言った瞬間、彼女の握っていたナイフが僅かにひび割れ、直ぐに再生したから。


「……まぁ、それだけだったら今頃ツムグさんにちょっと、お説教とか、四季の女神としてありがたーいお言葉とか……お仕置きも、していたかもしれないけど……」


 あー、聞こえない。何も聞いてません。何で自分より幼い子にお仕置きされなければならんのだ。


「でもね、1000年振りに私の信仰が増えたんですよ」

「え? ああ、そうか。あの撃退がちゃんと宣伝になったのか」

「神にとって、信仰を増やしてくれる存在は教祖と呼べる存在だよ。そして、教祖は神の声を聞き、民に届ける存在だから――」


 ――手元が狂い、金属製のフォークが皿を叩いたせいで音が空間に響いてしまった。


「……あ、ご、ごめん。ちょ、ちょっと慣れてないから……」

「……でも教祖になるには私の石像と教会が必要だから、今のツムグさんには難しいかな?」


 それを聞いて内心安心した。もし起きている間も彼女の声が聞こえてくる様になったら俺の方が病んでしまうだろう。


「でも、バーシアの力を削ぐために私の名前を勝手に使うなんて、ツムグさんは悪い人だね?」

「だ、駄目だったか?」

「ううん。私はね、唯一の友達の貴方の為ならなんだってしてあげるよ。名前も使っていいし、ステータスだって上げてあげる。作るのは大変だけど、お金に困っているのなら高く売れそうなマジックアイテムだってね」


 そう微笑んだ彼女は俺の横に手の平サイズの四角い箱を置いた。その箱はまるで水をそのまま形にした様に澄んでおり、その中には白い6枚の花弁が閉じ込められているのが分かる。


「これはボックス・オーニソガラム。これは貴方のステータスの正体が分かる物だよ」

「ステータスの、正体?」


 疑問に思いながらもステータスを開いた。

 桁違いの数字がどんどん上昇しており、更に今まで精確な名前まで分からなかった3つのステータス名が表示されていた。


「魅力、自制力!? やっぱり飛行力もあるのか!」


 だが、自制力とは? もしかして、サキュバスのミラを見ても興奮しなかった理由はこれか?


「自制力は本来は人間だった魔物、ゾンビや狼男が持つ能力だよ。そう言う魔物は大体、自制力がマイナスに成ったら知り合いや家族だろうと見境なく襲う様になって本当の怪物になっちゃうんだ」

「待ってくれ! それじゃあこれが減る様な事態に成ったら俺も魔物に……!?」

「うーん、この場合はただ普通の人間より欲が我慢できなくなるだけなんじゃないかな?」


 な、なるほど? まぁ、そんなゾンビになる様な怪しい組織に捕まった経験もないし流石に大丈夫か。女神様のステータスアップの時に突発的に現れただけだろう。


「話を戻すけど、こういうアイテムだったら私は幾つだって貴方の為に作ってあげるよ。1週間で育つ野菜の種とか」


 小さな皮の袋に十数個の種を入れて俺の前に置いた。更に球根をこちらに見せた。


「金属を岩の中に根を伸ばして引き上げる植物もね」


「そんなに急に沢山貰っていいのか?」

「うん。だから、友達の救出が済んで元の世界に戻る手段が無かったら、これで教会や石像を建てる資金にして欲しいなぁって、思ってるんだ」


「え」


「信仰が増えて位が上がれば、私ももっとツムグさんに相応しい女神になれるよ。そしたらバーシアの力なんて跳ね除けて、ツムグさんを元の世界に返してあげる。ね?」


 驚いた。四季の女神様が俺達を元の世界に戻す事に前向きになってくれているのか。

 ちょっとぎこちない笑顔を作りながら、感謝を伝えるべきだと彼女を再び見た。


「――そうしたら、ツムグさんとの縁で私は、世界を跨いでずっとずっとツムグさんと一緒にいられるね」


 顔を上げた俺に突きつけられたその言葉に、血の気がさーっと引いて行くのを感じた。


「女神の教祖になったなら貴方が死んでも、何処に行ってもずっと一緒。

 ツムグさんも嬉しいでしょ? この世界から元の世界に戻れて、そしてそれからずっと、私と一緒なんだから」


「その世界で死んだら、私の所まで魂を連れてきて、私と永遠に暮らすの。この場所でずーっと……素敵でしょ?」


 少女らしい満面の笑みに、俺は開いた口が塞がらなかった。 

感想、誤字報告等、お待ちしております。


私事ではありますが本小説に大賞応募条件のタグを追加します。合格する為にも、今後とも精進します。

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