表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/35

再会2、町の中で


「エコントに着いたな」


「うむ。無事に着いたな!」


 無事……にしては道中、何度も魔物と衝突事故を起こしていた気がするが、まあ追及はしないけど。


 以前の町でギルドカードを作っていたので関所を通るのは問題なかった。そこで女神の加護持ちという事で兵士達には教会を勧められたがバーシアがそれを許すとは思えないので宿屋を探す事にしよう。


「……ん? 何だあれ?」


 町に入って宿を探そうと辺りを見渡した俺は妙に人の集まっている建物を見た。何かを見ている様だが、彼らの見ている物よりもその無数の人々の恰好が気になった。


「鎧や武器を持っているって事は、アレ全部冒険者なのか?」

「なんでも、王女様からの伝令だそうですよ?」


 横から知らない人物が説明をしてきた。そちらへ視線を向けると、どうやら俺ではなくその隣にいた人に説明しているらしい。丁度良いので聞き耳を立たせてもらおう。


「王女様って、姉の方か?」

「ええ。どうも召喚された勇者が後々にこの町に来るそうです」

「ん? なんでそれが冒険者ギルドの前に貼られているんだ? 町の広場に住人全員が見える様に貼ればいいんじゃねえか?」


「どうも、冒険者達に滞在する勇者達にこの町でもっとも大きなダンジョンを暫く使わせて欲しいそうです」


(勇者! まさか、この町にあいつらが来るのか!?)


「何? それってもしかして――」

「ええ、魔王討伐への準備としてダンジョンを独占させろと言っていますね」


「マジかよ! この町の冒険者にとってあのダンジョンは仕事場みたいなもんだろ? やばいんじゃねえか?」

「代わりに、町の外で魔物を倒した際に懸賞金が支払われるそうです。魔族に攫われた人々に関する情報提供でも払われるそうですが……」


「魔族ぅ!? 高レベルの冒険者でもなければ太刀打ちできない相手の情報収集なんて、バカな冒険者が死ぬかもしれねぇな……!」

「まあ、鍛冶屋の弟子である貴方には大儲けのチャンスかもしれませんが――」


 必要な情報が十分聞けたので、俺は人混みを避けつつ宿探しに戻った。


 宿は例の伝令のせいで冒険者が出て行き空いていたので馬小屋付きの宿に取り敢えず2日分払った。その際にアエが文句を言っていたが、何か上手い料理を持ってくる約束で言い包めた。


(あいつらと合流できる……だけど、いくつか問題があるな)


 直ぐにでも会いたい所だがそれには幾つか問題がある。まず第一にあの魔族に攫われた人物の情報提供の点は恐らく妹……アマエルが噛んでいるだろう。その情報の真偽を確かめる為に彼女自身が来ている可能性も僅かにある。


 そして2つ目、考えたくは無いがクラスメイト達が既に洗脳されているかもしれない。解除の方法も分からないし、もしかしたら普段の彼らと洗脳時では僅かな差もなく見分けがつかない場合もある。


「接触を避ける……いや、それじゃあ此処まで帰ってきた意味がない。取り敢えず会うだけ会ってみて、様子がおかしかったら距離を置こう。アマエルに見つかるのだけは避けないと……!」


 行動方針の決まった俺はまず滞在の間に冒険者ギルドで仕事を取る事にした。

 伝令で気が立っている冒険者達が絡んでこないか心配だったが、むしろ勇者達が来る前に稼いでおこうと殆ど出払っていて割とスムーズに街中でこなせる依頼を受注できた。


 町が大きいせいかダンジョンを重視しているせいか、雑用依頼はかなり放置されているらしく、使われなくなった建物内の片付けや花屋の手伝いなど、結構な数の依頼をこなす事が出来た。


「やれやれ……アエが泣き付いてきて大変だったな。とはいえ、流石に馬が消えたら宿屋に要らん迷惑がかかるし、部屋の中は動物禁止らしいし説得したけど…………」


 体の疲れを取ろうとベッドを見た俺は更なる脱力感に襲われた。寝具を見て、寝るという行為がもたらす会合を思い出してしまったのだ。


「……愛しの女神様が待っていますよってか……? ははは……はぁ」


 それでも暫く出来なかった睡眠と言う行為に我慢は出来ず、久しぶりの柔らかいベッドへと倒れ込んだのだった。



***



「ひゃあっ!? なんでまた来たの!?」

「あ、バーシア?」


 夢の中で目が覚めた俺は四季の女神様の空間ではなく、バーシアの女神の間にやってきていた。


「なんでって言われても……ああ、そう言えば協会が宿屋の目の前にあったな」

「っ! しまった! 信者を増やそうと引き込む範囲を増やしたから――!?」

「なるほどな。余り良い事じゃなさそうだな」


 慌てて口を塞いだが、もうばっちり聞こえている。


「ふ、ふん! 私は創造神よ。信者を増やして何の問題があるのかしら!?」

「お前が創造神じゃない事は知っている。唯の報告役だろ」

「な、何で人間の貴方がそんな事を!?」


 この女神、思った事を口に出し過ぎじゃないか? ……いや、恐らく人間を招いて洗脳する以外は一人寂しくこの空間で過ごすんだ。独り言も勝手に出る程癖になるのだろう。


(都合が良いし、指摘はしないでおこう)


「風の噂で聞いてな」

「風の噂……? って、女神の私の秘密が噂されて広まる訳ないじゃない!」


 こちらが四季の女神様と繋がってるという情報は出来る限り伏せて置きながら会話を続ける。仕方が無い事だがあちらは警戒心剥き出しで俺を睨んではいるが、お互いに何もできない状況に変わりはなかった。


「それで、少しは俺の言った願いは聞いて貰えるか?」

「駄目に決まってるでしょ! 私の信仰が減るんだから!」

「……そもそも、そんなに信仰に拘る理由は何だ?」

「はぁぁ? そんなの、女神としての位が信仰によって決まるからに決まってるでしょ?」


 どうやら女神にとって当たり前の事らしく、隠すべき事でもないと言わんばかり話してくれた。


「創造神を名乗ってまで集めて良いのか?」

「創造神様は心が広いの! 仕事さえこなせば信仰を集めても問題ないとおっしゃって下さったわ! だから、元下級女神の私もすっかり上級よ! この世界で私より上の女神はいないから、これで年に1度の集い日で私が最高位の席に座れるの!」


 なるほど、随分と俗っぽい理由なんだな。いや、集い日や最高位の席にどんな価値があるか分からないのでそんな事が言える身ではないか。


「分かったかしら? 加護持ちの貴方も私を信仰しなさい! そうすれば、この世界で不自由はさせないわ!」

「いや、結構です」


 話は十分聞けた。これ以上四季の女神様を待たせるとまた何か暴走する可能性があるし、さっさと行こう。


「じゃあ俺もう行くわ」

「む、無神論者! 何時か必ず天罰を下してやるわ!」

「また来る。その時は元の世界に帰してくれよ」


 俺はそれだけ言うと意識転移でバーシアの空間から去って行った。


「も、もう二度と……! ……こ、来れるもんなら来てみなさい! 返り討ちにしてあげるわ!」



***



「勇者様方、もう少しで次の町に着きます」

「はいはい……全く、ケツが痛くなる馬車だな」


 乱暴な物言いの青年は揺れる馬車の座り心地を愚痴りつつも、一度立ち上がって座り直した。


「金堂君、良かったらこの毛布使う?」


「要らねえよ。仲山が気ぃ使わなくていいぜ? 全く、男にだけ気の利かねえ兵士共だぜ」


 紡のクラスメイトであり、彼とは違い勇者として召喚された彼らはセンテ帝国のダンジョンが存在する町――国の名前すら正しく知らされていないが――へ向かっていた。


「全くですね。この班分けもどこか配慮に欠けています。いえ、別に金堂君の人格に不満がある訳ではありませんが」


 そう言って馬車の中にいる2人の顔を見ながらも、誤解を与えない様にフォローを入れる連谷志保。


「はっきり言ってくれても良いんだが? まあ、確かに親しい奴らが態々バラバラにされてるのは俺も気付いたけどな」


 金堂の言う通り、彼ら3人にはクラスメイトと言う繋がり以外に特別な接点は無い。学校内でも精々数回話した程度の関係だ。もっとも、異世界召喚と言う異常事態に見舞われたおかげで、その繋がりは以前よりも深くなっている。


「私達の中には導野君が攫われて不安になっている者もいると言うのに……」

「色々ときな臭いが、此処までの戦いや訓練でレベルも既に17まで上がってるし強くする気はあるんだろうな。この先の町はダンジョン……洞窟みたいなもんがあるらしいし、サクッとレベルを上げちまおうぜ」

「うん。そして、必ず紡君を……助ける!」


 誰よりも小さい筈の仲山安奈の強い言葉に、2人は見合いながら小さく笑うとコクリと頷いた。


(……あの野郎、死んでたら絶対許さねぇからな…………この堅物な連谷をも惚れさせたモテモテ魔法、絶対吐かせてやるっ!)


 もっとも金堂のやる気は2人とは若干異なる方向へと向いているのだが。


「絶対に……絶対に助ける……! 待っててね紡君……!」


 覚悟を呟き続ける仲山だがそんな彼女達を嘲笑う影があった。


 それは馬車の装飾に仕込まれた監視用の水晶から彼らの様子を城の中で見ている第二王女、アマエルだ。


『ふふふ……姉様の予定よりも遅くはなりましたが、既にお人好しな3人は洗脳出来ました。この方達はまだまだ時間が掛かるかもしれませんが、御友人に説得して頂ければ私達の事も理解して下さるでしょう……ツムグ様を手に入れた後は、私達の愛を見せる観客として、ツムグ様にお気に召して頂ける見世物として存分に使って差し上げましょう』


 本人は恋の病を患う乙女のつもりで、とても邪悪な結婚生活を夢見ている様だ。


『最悪、こちらのメガネの方には消えて貰っても問題ないでしょう。あまり見世物が多くても、ツムグ様と私の時間が減ってしまいますものね?』


 まるで欲しいおもちゃを選ぶ子供の様に楽しそうに笑っている。

 馬車の中の誰もが、この恐るべき彼女の本性をまだ知らない。



***



「ふぁぁ……快眠、だったな」


 エコントに到着してから3日が経った宿屋で、俺は大きなあくびをした。


 此処の所は町中でこなせるクエストをクリアしてランクを上げ、金を貯めた。

 クラスメイト達の様子次第ではこの町をさっさと出て城に乗り込むプランも視野に入れて考えている。


「全く、こんだけステータスがあるのに目標が魔王討伐じゃなくて、女神の説得と国が相手か。おまけにまた何か変なステータスが増え始めたし……」


 バーシアと四季の女神様とは当然睡眠の度に会い、最悪な出会いを果たしたバーシアと何とか会話できる程度まで関係を持ち直しつつ、女神の加護の効果で人間には無い筈のステータスが魅了を含めて3つに増えた。何が増えているのかは分からないが、制御不能の力では無い事を祈ろう。


「このままだとカリスマとか、周りに影響を与えるステータスが増えそうで怖い……洒落になってないな」


 アエは流石に馬のままで過ごすのが嫌だそうで、元の姿に戻って町の外の何処かにいるらしい。そのせいか最近ギルドにはドラゴンの目撃情報が少し入ってきたらしいが……


「……勇者が到着するのは今日の昼だって騒いでたな……その前にお仕事に行きますか」


 ダンジョンはもう封鎖されており、冒険者達もだいぶ減った。なんでも勇者達が出て行くまでは近くの村で魔物を狩って暮らすらしい。


(俺の仕事には一切影響ないから問題ないけどな)


「……今日は依頼は無い。パレードの邪魔になるから武器を打つなって言われてんだよ」


「花は全部勇者様のパレードに使うらしくて、兵士さん達が箱ごと買い取ったよ」


「勇者様のパレードが――」


(ま、まぁ今日だけ、今日だけだ……はぁ)


 仕事は無かったので、仕方なく俺は宿に戻った。


 パレードを見に行かないのかと宿屋の婆さんが聞いてきたが、俺は部屋に戻って意識転移で見るつもりだ。女神様の助言が無かったら、このアビリティが女神に会うだけの能力では無かった事に気付く事が出来なかっただろう。


(これで盗み聞きも盗み見をし放題だな。まじで本来の使い方を忘れてた……)


 自分の記憶力に呆れつつも勇者の到着を待った。この状態の俺を目視したり、手を出す事は出来ないと思うが、一応建物の壁から顔だけすり抜けて置こう。もし他に今の状態を見たらかなりシュールな光景だろう。


「……あ、来たな」

『勇者様のお通りである!』


 豪華な装飾の施された馬車に乗っていて良く見えないが、町民達が手を振り上から花が降り注いでいる。


『勇者様ぁ!』

『勇者様!』


 多くの人々は手を振って喜び、空砲も上がっているがそれがかき消される程の歓声が止まない。


『どうか魔王を!』

『私達をお救い下さい!』


 神父やシスター達の祈り声。


『私達の未来に光を!』

『どうか救いを!』


 魔王を倒しても救われる事は無いだろう貧民達の嘆きが大歓声に紛れ聞こえてくる。


 馬車の周りを騎馬隊に囲まれ、歩兵が町民を寄せ付けぬ様に旗を持って歩いているその先は冒険者ギルドだ。宿屋の壁は大通りに面しているが、今いる場所からでは中の様子は見えない。


(もう少し……! く、旗が靡いて見えない! いや、チラっと見えた、アレは仲山さんか!?)


 しかし何時まで経ってもそれ以上馬車の様子を見る事が出来ず、居ても立っても居られなくなった俺は中を確認する為に隠れていた壁を離れ馬車の窓へ移動した。


「――山仲、金堂、連谷さん!」


 中にいる3人を見て思わず叫んだ。この3人だけなのは気になるが、漸く見えたクラスメイトの姿に声を喜びの声が出た。もっとも、意識だけの俺の声も姿も彼らには見えないだろう。馬車の中の彼らは盛大な出迎えに苦笑、憂鬱、辟易としていて彼ららしい表情を見せている。少なくとも、感情や思考を支配されている様には見えない。


「よかった……! 本当に良かった……!」


 彼らの無事を確認できて胸を撫で下ろし、もう一度馬車の中にいる彼らの様子を見ようと中を覗き込んだ。


 安心しきった俺の視線は彼らだけでなく、全体へと広がる。


「さて、どうやって俺の存在を伝えようか……っ――!?」


『みーつけたぁ』


 視線を感じて背中に寒い物が走った。今、誰かと目が合った。


『もぉぉ……びっくりしたじゃないですかぁ』


 悪寒を感じるが馬車にいるのは間違いなく俺のクラスメイト達だけだし、当然彼らは俺の姿は見えていない。


『暫く見ていない間にずいぶんと魅力的になりましたね』


 困惑しながらも、一度馬車から離れた。


『今度は逃がしませんわ。必ず捕まえて差し上げます』


 ……もしかして?


『ツムグ様』

「アマ、エル……?」


感想や誤字報告、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ