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エルフ、ミラの企み

1年半以上経ってしまいました。待って下さっていた読者の皆様には本当に申し訳ありませんでした。

現在新しい作品を複数執筆しているので、更新は安定しませんがそれでも読んで頂けるのであれば幸いです。


「エルフの森?」


 海の上を飛び越え、人魚達の姿も見えなくなった俺達の前にとてつもなく巨大な木が中央に位置する森が見えて来た。


「はい、文字通り森の種族であるエルフ達の住む森です」

「エルフね……アエ、森を避けて通ってくれるか?」


「あ、主様? このまま進めばいいのでは?」

「いや、今日はもう2回も魅力を開放している。何があっても困るし、面倒事は避けるべきだ」

「そ、そうですか……」


 やはり、ミラの様子がおかしい。

 今俺の提案を渋っていたのは確実だ。もしかしたら魅力の効果が薄れているのかもしれないが、それが今の反応に繋がるとは考えにくい。


「ミラ、何か隠している事があるな?」

「か、隠し事などとんでもございません! 私は、主様の命令に従いま――」

「――本日3回目だ。さっさと喋ろ」


 偽装魔法を解いた俺の尋問が始まる。

 喘ぎ声を上げるだけで何も喋らないと困るので、手加減として片目だけ解いた。


(まるで魔眼みたいだよな)


 頬を染め、呼吸を乱しながらこちらから一切目を離さないミラ。ギリギリ話せそうだ。アエは空気を読んでか空中で制止している。


「で、目的は?」

「う、うぅ……」


 ミラは思わず喋りそうになったのか口を手で塞ぐが、俺はその手を掴んで顔を近づ尋問を続ける。


「目的は?」

「……じ、実はぁ――」


 蕩けた様な声で事情を話し始めるミラ。それを聞いた俺は思わず呆れてしまった。


「俺の嫁探し?」

「はい……」


 詳しい話を聞いてみるとどうやら俺に出会った日から幾度となく魅了の魔法を試していたらしいが、たったの一度も効果が無かった。ステータスの差があるので魅力での誘惑は効果が無いが、彼女は俺にそれらが効かない理由を考えたらしい。


「その1つが、主様には既に心に決めた相手がいる事……ですが、それは無いとおっしゃいましたよね?」

「ああ、俺にそんな相手はいない筈だ」


 そう言えばサキュバスの里に着く前に魅力にかからなかったクラスメイトの女子が1人だけいたなと思い出した。葉駒に想いを寄せる図書委員長がそうだったか。


「ですので、恐らく私の姿が主様の好ましい物ではないと思いました」


 別にそんなつもりは無い筈だが……改めてミラを眺めてみる。

 人間離れした美しい髪に、自分の魅せ方を完全に把握した色気が漂う服装。

 童貞で彼女がいた事も無い俺には確かに刺激の強い姿ではある。


(なんだけど、どういう訳か襲いたいと思えない。理性が本能を抑えているとかではなく、本能が理性になった様な……枯れた訳じゃない、よな?)


「興味が無い訳じゃないが……あー、なんか分かった気がする」

「え? い、一体何が原因で……!?」


「寝不足と旅疲れ」


 自分で口にして納得した。異世界に来てからハプニングの連続でロクに休めていなかった。夢の中では女神に襲われ、サキュバスの里に転移した後に街へ向かい徹夜を始め、ドラゴンの背中での旅が今日始まった。


「……早く睡眠をとるべきですね」

「そうもいかないから困ってる訳だ」


 普通の人間なら死ぬ。て言うか、ステータスが上がろうと肉体の構造まで変わっている筈が無いのでそろそろ過労死するかもしれない。


「やば、そう思うと急に睡魔が……」

「お薬! お薬を飲みますか!?」

「いらん!」


「おーい、2人共……そろそろ移動した方が良いのだろう? どうする?」

「エルフの森を超えましょう! 主様も早く着いた方が良いでしょう?」


「そう、だな……」


 目を擦りながらそう答えた事を、この後俺は後悔する事になる。




***




「だー! 割と早かった! 思ったより早く後悔してる!」


 叫びながら反射で腕で目の前へと向けて飛来してきた物を取った。

 それは魔力で強化され、地上から放たれた木製の矢だった。


「むぅ……! 流石にこうも数が多いと我の暴風の守りでも隙を許してしまうな」


 アエの上にいるので偽装以外の魔法は使えない為、ミラは現在役立たずだ。俺も自分の近くにくる矢を手で防ぐのに精一杯だ。


「エルフは目が良いですからね。恐らく、背中に乗っている私達に気付いて攻撃を開始したのでしょう」

「な、なんで俺達を見て攻撃を? あ……!」


 俺は四季の女神様の言葉を思い出した。人間は勇者の力で魔王を倒せる様になってから他種族を蔑んでいると。


「だけど、如何にかならないのか!? もう夕方だ、これ以上時間を掛けると暗闇で矢を捌くのも難しくなるぞ!」

「では、地上に降りて話し合いをするのは如何でしょうか?」

「お前っ! また俺の魅力を使わせるつもりだな!?」


 先話してた嫁探しを思い出す。いや、これ以上魅力の犠牲者を増やす訳にはいかない。


「アエ、如何にかして突っ切れないか?」

「無理だ。この矢は何やら妙な物が塗ってある。もし掠りでもして飛行状態を維持できるか分からん」

「主様、やはりここは説得しましょう!」

「人間ってだけで嫌われてるのに説得もくそもあるかっ!」


 だが、このまま矢を撃つだけがエルフ達の目的とも思えない。こちらの進行方向を塞ぐ様に波状攻撃をしているので時間を掛けると不味いかもしれない。


「――しょうがない! 降りるぞ! アエは高度を上げて距離をとりつつ待機! ミラは俺と来て護衛だ! 但し、妙な真似をしたらただじゃ置かないからな!」

「了解しました」

 

 風の魔法で矢を弾きながら、俺はエルフ達が矢を放つその場所に立った。

 サキュバスの姿を見たせいか、矢を放っているエルフ達は全て女性の様だ。


 元の世界の知識同様、長い耳を持っており、全員が本物の花が飾られたカチューシャを付けている。


「やはり人族か!」

「よもや、魔族と共にいるとはな! やはり、人族も魔族の仲間か! お前達を捕えれば、他の亜人との協力もスムーズに行えるだろう! 大人しく、我らの大義の礎となれ!」


「やっぱり説得は無理、だなぁ!」

「主様、この中に好みの子はいますか?」


 そう言われても全員髪の色は多少の違いはあれど金髪で鋭い目つきだし、日本人らしい黒髪が好きな俺から大した違いはない様に思える。

 強いて言えば――って!


「そんな話してる場合じゃないだろ!」


 ツッコミを入れつつ飛んできた矢を回避した。先までは下から上に空気抵抗を受けながら飛んでいたので風の魔法で防げたが、直線となれば魔力で強化された矢は勢いを失いがらも貫通する。


「魅了するのは駄目ですか?」

「やっぱり口車に乗せられたな俺! くそ、睡眠不足でまともな思考が出来なくなってる!」


「何を企もうが、お前達は此処で捕まる!」


(……サキュバスでもない彼女らが俺の魅力で本当に堕ちるのかも分からないし、物の試しで発動しても良いんじゃないか?)


「いや、駄目だ駄目だ! くそ、こうなったら魔法で時間を――!」

「させん!」


 突然、木々の裏に隠れていた褐色肌のエルフ達が現れると緑色のクリスタルを俺達に向かって投げた。


「なんだこれ!?」

「これぞ人間と魔族へ対抗する為の我らの秘策、魔法封じの結晶! 少々時間が掛かるが、これで人間も魔族も恐れるに足らず!」


 俺達の周りを囲っていた風も消えるが……もはやお約束と呼んでも差し支えないだろう。俺の目の擬態魔法も消え去った。


「今だ! 捕縛、用意!」

「放てぇ!」


 更に魔法が無くなった事を確認したエルフ達は何か丸い玉を投げ込んできた。それは地面で割れると中から煙を噴出させた。


「あ、これ、ガ、ス……?」


 息を止めるという発想に至る前に、吸い込んでしまった俺はその場にバタリと倒れ込んだ。

 朦朧とする意識の中でエルフ達が迫る音が聞こえてくる。ミラも眠らされたのだろうか。


(運が、高くても……状態異常に、かかるのかぁ……)


 そんな事を考えながら、俺は意識を手放した。




***




「っは!?」

「お目覚めですか主様?」


 四季の女神様――に会う事はなく、だが同時に寝た感覚も無い程に早く起こされた。

 俺はどうやら縄で体を大樹に縛り付けられている様だ。


「ミラ!? これは一体どうやって?」

「私は雄の寝込みを襲うサキュバスですよ? 寝るも起きるも自由自在です。女神の間に行く前に、主様を起こしました」


「それで、エルフ達は?」

「ふふふ、主様の偽装を解いてしまったんですもの。今はあちらで仲間割れです」

「仲間割れ?」


 ミラの向く方向に視線を向けると何やら言い争いをしているエルフ達が見える。先までは気付かなかったが、彼女達は同じエルフでも複数の種類がいるらしく、言い争いをしているのが其々リーダー格のエルフ達の様だ。


「あの者は我ら、ダークエルフが頂く! 魔法を封じたのは我々の力に寄るもの、功績は十分だろう」

「いいや、あの時間の掛かる秘策が成功したのは我々ウッドエルフの時間稼ぎがあったからだ。あの男の危険な魅力、魔に近いお前達に渡せるか!」

「ならば聖なる魔法に長けたツリーエルフである我々にその役目を譲るべきだ。かの者を浄化して、魔族との協力関係を洗いざらい吐かせて見せよう」


「あの鬱陶しい連携をしていた彼女達すら今は貴方に夢中です。罪なお方ですね主様」

「誘導した癖に……先は嫁探しだとか言っていたが、本当は嘘なんだろ? 本当の目的を教えたらどうだ?」


 その言葉にミラは手を合わせて喜び、俺の縄を切ると耳元で囁いた。


「ふふふ、主様がそこまで私を理解して下さって、本当に嬉しいです。ですが――秘密です」

「……ミラ、本気で村に帰らせるぞ?」

「主様は、理解している筈です。私、クロエナさん、アエちゃんもあの人魚達も、そして目の前のエルフ達も決して貴方を裏切らず、諦めたりしない事を」


 ミラはそう言うと魔法を光の魔法を発動させ、その場から消えた。その派手な輝きは当然、エルフ達の視線を俺に向けさせる事になる。


「ミラ!?」

『私は主様を愛してます。この言葉に嘘偽りはなく、私の行動は全て主様の為を思っての事です。ですので、私は此処で一先ずお暇させて頂きます』


 姿は無いが声が聞こえる。だが、やはり何か企んでいるのだろう。


『一度村に帰って、主様がきっとお喜びになられる素敵な贈り物をご用意します。

 少々寂しいですが、また会う日まで御機嫌よう』


 その言葉を最後に、ミラの声は消えた。

 代わりに、いつの間にか縄から抜け出した俺を囲む様にエルフ達が武器を構えている。


「まだ数分も経っていない筈なのになんで起きているんだ?」 

「やはり、ダークエルフは信用ならん」

「そうだな。ツリーエルフの集落へ連れて行くとしよう」


ミラの事は後回しにして、俺はこの状況からなんとか離脱しないと不味いか。


「ツムグ! こっちだ!」


 エルフ達の矢が止んだからか、アエが地上へ火の息で攻撃しつつ急接近してきた。


「チャンス! フレイムバレット!」


 エルフ達に当てないギリギリを狙いつつ、少々炎が派手な弾丸を辺りにばら撒くと自慢のステータスで跳躍し、木へ上りアエの上に乗った。


「飛ばせ!」

「任せよ!」


 アエは急加速し森を抜ける。気分はまるで人の心を盗んで去っていく怪盗か。


(本当にそれぐらいしかやってないのが質悪い……)


「ツムグ、ミラ殿は転移した様だが……?」

「何か企んでるみたいだったな。でも目的地は変わらない。センテ帝国だ」

「了解した。我はツムグの言葉に従おう」


 サキュバスは魅力の使い方を俺以上に知っている筈だ。ミラは俺のソレを何かに利用しようとしている様だったが……本当にそれが俺の為になるのだろうか?


「考えても、答えは出ないよな」


 クラスメイトとの再会は近付いている筈だが、不安はどうにも止まなかった。



最近、この作品と同じく異世界ヤンデレを題材にした作品を執筆しております。そちらも一度目を通して頂けたら幸いです。


『召喚魔法の重愛』

https://ncode.syosetu.com/n9376fg/

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