召喚、女神の加護
どうも、初めましてスラッシュートと申します。
投稿速度は遅めですがこれから精一杯書かせて頂きますので、気に入って貰えたら幸いです。
「ねぇ? 今日はどこ行く?」
「えー、今月厳しいんだけど?」
高校2年生になってもう5月を迎えているにも関わらず、現在進行形で鞄に教科書を詰めている導野紡には親しい友人と呼ばれる同級生はいなかった。
別にイジメられている訳ではなく、同じクラスの人間とはそこそこな関係でいるつもりだ。
「カラオケ行こうぜ!」
「好きだな……音痴の癖に」
「なんだとぉ!?」
しかし、俺は付き合いが悪い。
カラオケ、ファミレス……文化祭の打ち上げや誰かの誕生会なら兎も角、放課後の誘いは何時も断っていた。
まあ友人がどうのこうのはそう大した問題じゃない。俺は隠れオタクだ。バレたらそれこそイジメられるかもしれない。
今も頭の中は家に帰ってからパソコンを点けてギャルゲーをプレイする事で一杯だった。
「あ、紡君! 今日私達ファミレスに行くだけど――」
「ご、ごめん。今日も無理なんだ……」
やっぱり来たか……HR辺りで斜め前の席からチラチラと俺を見ていたので誘いが来るのは分かっていた。
手助けをしただけでこうも毎日お礼に誘われるとは思ってもいなかった。
「安奈、導野は今日もダメだって?」
「もう、詩乃ちゃん! 決めつけないの! ……どうしてもダメ?」
俺を誘ってくれたのは山仲安奈。日本人らしい黒色の髪のボブは平均よりも少し小さい身長同様に短く、そのお陰で中学生と間違われる事もある。
そして山仲をからかう様に入ってきたのは島崎詩乃。染めている訳ではないらしい茶髪のポニーテールで、見た目も性格も子供っぽい山仲と何時も一緒にいては、なにかと楽しそうにしている。
「本当にごめん」
「導野の両親って本当に厳しいねぇ」
そんな2人に毎回毎回別の言い訳を使うと面倒なので、俺は両親が厳しいからと言って誘いを断っている。
当然両親はそんな事は言ってはいないが、2人共働いていて毎日帰ってくるのが遅い。家に帰って家事をしている俺に本当に助かると言ってくれているので別にこれ位の嘘は良いだろう。
「でもでも! もし許して貰えたら何時でも誘ってね!」
「うん、ありがとう」
さて、さっさと帰るか。そう思い席から立って鞄を手に取ろうとした。
だが、俺が教室から出る事は叶わなかった。
「っ!?」
「っきゃぁ!?」
「な、なんだ!?」
教室の床が突然光を放ち始めて、悲鳴が上がりだす。
目で見ると円形だったその光はあっという間に教室中に広がり、HRが終わって教室から出るばかりだった俺達の足元で輝き続けた後に消えていった。
***
「……此処は?」
眩しい光に目を閉じていたが、周りの景色は教室ではなく全く別の場所に変わっていた。
「教室、じゃない?」
頭の中で先程教室で起こった謎の現象と今のこの状況に似た何かを思い出し、否、妄想した。よく読んだ事があったネット小説のタイトルが数本浮かぶ。全部、勇者召喚のキーワードが含まれていた。
「……もしかして、勇者召喚!?」
「その通りです」
俺の呟きを肯定する声が響いた。優しい女性の声だ。
振り返るとそこには白と赤のセーラー服を着た中学生の位の年の美少女が立っていた。しかし、その髪の色は普通の人間の色ではなかった。
カツラでもなければ染めた訳ではないのが直ぐに分かるほど自然な、桜の花びらの如く可憐な、腰に届くほどの長い髪が揺れていたのだ。
「……あ、貴方は?」
その華々しさがもたらす存在感に圧倒されつつも、何とか口から問いを吐き出した。
「申し遅れました。私は四季の女神、と申します。
貴方と同じ教室にいた学生達は全て地球とは異なる世界、『フォーアル』に召喚されました。これはその世界に住む人間族の行った召喚です」
女神と召喚、隠れオタクであった俺はその素敵な言葉に心を躍らせる。
異世界に行く前に女神が現れた、という事は俺に何か強大な力を授けてくれるのだと。
だが、女神を名乗った美少女は妄想に浸り始めた俺の全身を見渡して何かを確認すると、若干低くなった声色で話し始めた。
「……どうやら、貴方だけ此処を迂回する形で通過してしまった様ですね……」
「え?」
俺だけとはどういう事だろうか。てっきり、目の前の女神様から何か特別な力を貰えると思ったのだが。
「召喚された貴方達はその国に直接召喚されます。ですが、貴方だけ勇者召喚の対象に相応しくなかった」
「相応しくなかった……って、どういう事ですか? それがどうして此処に来る理由になるんですか?」
相応しくないのであれば元に戻されるのかと、少々がっかりしつつ質問した。
「行使された魔法は異世界から召喚される者に制限をかけた魔法みたいですね。一定以上の強さを持たない者が召喚されない様になっていました。ですが、貴方はどうやらその一定の強さすれすれだった様なので、召喚の制限には掛からなかったものの、足りない強さを補う為に此処にいるようですね」
もしかして、勇者の中でも最弱だった俺が女神の力で最強になったりするのだろうか。ポジティブな思考が頭を過ぎる。
「……失礼します」
女神は何故か済まなそうに俺へと近付くと両手で俺の右手を触って、そのまま話を続けた。
「貴方を此処から召喚先の国に飛ばす為に、私の加護を授けます」
「加護? それは一体?」
口では落ち着きを装ってそう言いながらも内心ワクワクしていた。さあ、一体どんな効果が……
「私の加護の効果は3つ。1つは私が貴方に触れた時間によってステータスが上がります。5秒に生命力、魔力、筋力、魔法力、防御力、速力、運のパラメーターが1つ上がります」
ステータスなんて分かりやすい基準があるのか。
もう女神が俺に触れてから30秒以上経過しているからパラメーターが6は上がっている。
「もう1つは春には花を咲かせる魔法、夏には太陽の光が射す魔法、秋には木の実が実る魔法、冬には植物を枯れさせる魔法が使用できるようになります」
正直微妙である。春は満開だし、夏は既に暑いし、秋は木の実が実るし、冬に植物が枯れている。魔法を使う理由がない気がする。
「……最後に、これは女神の加護の共通の効果です。どんな女神の加護であってもそれを貰った者はその時点でレベルアップ、人間として強くなる事ができなくなります」
「なっ――!?」
それは致命的だ。ステータスがどうやって上がる物かは分からないがレベルアップが関わっているのはRPGゲームをしていた俺からしたら想像に難しくない。
「で、でも、触れていればステータスが上がるんですよね!?」
「ごめんなさい。貴方が此処に入れる時間はもうそんなに多くないんです」
女神は頭を下げつつ、手を動かした。
その動作で、俺の前にウィンドウ画面の様なものが宙に現れた。それが俺のステータスだと気付くのに時間は掛からなかった。
「名前ミチビノツムグ、Lv1……生命力と魔力が100で筋力から速力までが74……75、運が135、6……」
「貴方の初期ステータスは生命力魔力共に75、筋力から速力が50で運が110でした」
「へ、平均は!? 普通はどれ位なんですか!?」
焦るまま、叫ぶように聞いた。
「一般的な男性が貴方の初期ステータスの約半分で、勇者に相応しい者は生命力と魔力が80前後、それ以外のステータスが平均が70です」
俺の初期ステータスは生命力魔力が75でそれ以外の平均は62だった。
「そ、そんな……」
「……国の兵士に求められる一般的なステータスは筋力から運までの平均150です」
言い放たれた事実は俺の異世界無双所か、平凡な冒険譚すら終わりを告げていた。レベルアップで得られるステータスが微々たる物では無い事の証明であったからだ。
打ちひしがれる俺の体は透け始めた。
「これは……まさか!?」
「転移が始まりました。もう直ぐ貴方は召喚された王国に送られます」
ステータスは115、90、150の3つの数字で上がらなくなっていた。口ももう動かせなかった。
「ごめんなさい。また逢えたなら、その時は――」
女神は口を瞑った。今まで女神の加護を受け取って女神に逢う事のできた者がいなかったからだろう。
「――」
最初から辛い事実ばかりの異世界生活が、俺を無理矢理引きずり込んだ。
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