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到着、そしてバーシア

投稿が少々遅くなりました。週一更新を目指していますが、これからは今回の様にどんどん遅れると思います。読んで頂いている皆様のご期待に応える様、これからもなるべく頑張らせて頂きます。



「それっぽい名で呼ぶなら、マンイーターって所か?」


 街へ向かう道中に、俺の前に魔物が現れた。初遭遇はリザードマンの姿にビビって逃げ出したが、ミラとクロエナの戦いで自分の実力が知れたので遠慮も無ければ恐怖も無い。


「キシャァァ!!」


 肉食植物らしき魔物に近付くと、その口をサキュバスの村で貰った剣で下から切り上げて、体を真っ二つにするイメージで剣を振り下ろした。


「……はぁ……」


 口を切り裂かれ、体を切られた魔物は断末魔を上げる事も出来ず、地面に倒れ伏した。教えられた通りなら、魔物の体は数分で魔力が無くなり消滅する。その前に魔物体の一部を切り取るとその部分は魔力は無くなるが、消滅が止まって素材になるらしい。


「取りあえず、葉っぱだけ貰っておくか」


 剣で適当に切って葉っぱを鞄に仕舞った。


「……それにしても、思ったより遠いな」


 消え去る魔物の体を見ながらそう呟いた。クロエナに降ろして貰ってから既に数時間は経過していると思われるが、あまり近付いている様に見えない。


「サキュバスの村があるって事は、サキュバス達の転移はあそこまで届く訳か……宿屋以外にも繋がっていたら使ってたんだがなぁ」


 長距離転移にあったデメリットに世の中そう上手く出来ていない事をしみじみと実感しつつも、俺は街へと歩く。

 4桁ステータスを利用すれば1時間も掛からないだろうが、その際に発生する環境破壊は無視できない。気まぐれに加速して街に近付くが、このペースだと夜になりそうだ。


「……所で、何時まで着いて来る気だ」


 俺はいい加減にしろの意味も込めて、背後に声を掛けた。


「い、いえっ! わ、私は!」


 魔鳥人族のクロエナ、俺を此処まで運んできたが運搬中に発情し出すとんでもない変態なので降ろして貰った筈の彼女だが何故か依然として俺をストーカーしていた。


「いいか、お前の役目はもう終わったんだ。人間達に見つかる前に此処から出て行け!」


「で、ですが……」


 魅了、と言っても自分の思い通りに他人を操れる力ではない。むしろ好意の性で今みたいに無意味な行動を行う事もあるだろう。


(やはり魅力は封印の方向で行こう……マジでこのままだとストレスで死ぬ)


「これ以上尾行してくるなら俺もちょっと強行手段を取らせて貰うぞ……!」


 俺は彼女に見せ付ける様にファイアバレットの火球を手の平の上に出現させた。


「っひぃ!?」


「ほら、投げられたいか!」

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!」


 哀れ、暗翼の騎士は涙目を両手で塞いで俺の目の前から走って逃げ去って行った。


「ふぅ……虐めるのは趣味じゃないんだがな……」


 無駄に疲れた俺は再び街へと歩を進めた。



***



「なんとか、無事に着いたな」

 アレから何度もダッシュを繰り返し、漸くそこそこの力加減が分かった俺はステータスの5分の1程の力を使って2時間半程の移動で街の入り口である門の前に辿り着いた。


「次!」


 入る為の検査の順番が回ってきたので、女騎士に俺は呼ばれた。


「旅人の紡です」

「身分を証明できる物を見せろ」


 そう言われるが、城からサキュバスの村のある森に転移された俺にそんな物は当然無い。


「すいません、そういう物が一切無くって……」

「何……? 現在、この街は魔物の侵入が確認されている。身分も証明できない者を入れる事は出来ない」


 この展開、早速魅力を開放しろとでも言いたいのか……

 良いだろう。


「わかりました、では諦めます」


「すまないな。此処から右に進めば小さいが宿のある村がある。食料は外の商人達と物々交換で手に入れて欲しい」


 誰が魅力なんか使うか。俺はさっさと検査室を後にした。


「……はぁ……しょうがない。そうと分かれば移動を――」

「ま、待って下さい!」


 と思ったら検査室から先とは違う女性、シスターの様な修道服の女性に声を掛けたれた。

 何故だ、魅力は使っていない筈だ。


「女神の加護を持っているのでしょう?」

「え?」


「私は、創造神様に女神の加護と一緒に、加護を持つ者を見分ける力を授けて頂いたの。女神の加護を持っている貴方は魔物では無いのだから、どうぞ街にお入り下さい!」


 まさかのご都合展開。だがラッキーだ。正直このまま別の村はしんどいと思っていた。


「それじゃあお言葉に甘えて……」


 女性に連られて再び検査室に入ると、先の騎士とシスターが数回言葉を交わすと騎士は俺に頭を下げて通してくれた。


「失礼した! どうぞお通り下さい!」

「いえいえ……所で、やけに女性が多い気がするのですが……」


 検査室には女騎士が数人、俺を呼び止めたのもシスターだし。


「最近、サキュバスの侵入が活発になっており、それにともない男ではなく女騎士が此処に配属されるようになっております」

「そうなのか……」


 サキュバスは魔法で侵入しているので、この方法は余り意味が無さそうだが、それを教える事はせず、俺は街の中へ入った。


「すいません、宿はどちらにありますか?」


 俺がそう聞くとシスターは振り返り、手を顎に当てて困った様な表情で聞いてきた。


「質問で返す様で申し訳ありませんが、金銭の方はお持ちでしょうか?」

「あ……」


 流石にそれは持ち合わせていない。サキュバスの村か出てきたので当然だが、一文無しは不味い。


「よくあります、旅人の方は偶にそう言った常識を忘れてしまうんです」

「あはは……あ、魔物の素材はありますけど、どこかで売れたりはしませんか?」


「……いえ、もう冒険者ギルドは酒場となっているでしょう。もし宜しければ教会にお泊りになりませんか?」

「教会に? 良いんですか?」


「はい。女神の加護を持っているのですから、教会としては拒む理由はありません」


 女神の加護様々だな。

 ……何んでだろう、初めてまともに役に立った気がするぞ、このご加護。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

「ご案内します、着いて来て下さい」


 その後、初めて来る夜の訪れつつある街の街灯を浴びながら教会へ案内され、ありがたい事に、宿泊のみならず柔らかいパンや野菜のスープをご馳走になった。


「申し訳ありませんが、今から創造神様に祈りを捧げる時間です。教会のルールとして此処で寝泊まりする貴方には参加してもらいたいのです」


 と言われたが宿泊させている以上断る事は出来ないし、それ位は構わないだろう。俺はそう判断して祈りの間にて数人程の神父やシスターと共に見よう見真似で祈りを捧げ始めた。


(……あ、れ……意識が……?)



***



「……他の女神なんて忘れて、私を……創造神バーシアを信仰しなさい……それが貴方にとっての正しい道なのです……」


 何故か意識が朦朧し、漸く覚醒したと思ったら創造神を名乗る金髪美女に頭を撫でられて洗脳染みた事をされていた。て言うか、金髪ツインドリルなのか、俺にとってのラスボスゥ……


「よっし、洗脳、もとい教育完了ね! さあ、早速私に祈りを捧げなさい!」


 此処で大人しく祈りを捧げるのも癪だ。そう思った俺は罵倒から会話を試みる事にした。


「黙れ騒ぐな」

「……へ?」


「俺の望みは1つだけ、さっさと俺を元の世界に戻せ」


「…………」

「…………」

「…………」


 そうはっきり口にした。

 口にしてから数秒間、俺とバーシアの間に沈黙が流れた。


「……き、聞き間違い、よね?」


「おい、どういう意味だ? 俺は何1つ間違えてないが」


「お、落ち着いてバーシア……! あ、貴方は出来る娘……この世界の創造神……例え名前だけだったとしても、その力は本物よ……! 

創造神バーシアを信仰しなさい……それが貴方にとって――」

「黙れ耳元で囁くな!」


 めげずに2度目の洗脳作業に入った女神にチョップを喰らわせてやる。


「っきゃ!? な、なんなのこの人間!? チョップ!? 頭を撫でてた女神の頭によりによってチョップを放ってきたわよ!?」

「ええい、思った事を全部口に出すな! 良いからさっさと俺と、俺のクラスメイトを元の世界に返せ!」


思っていたよりも面倒だがそれ以上に押しに弱そうな女神だ。多少強引にでも迫って要求を通そうか。


「っひぃぃぃ! こんな怖い人間要らない! 帰って!」


 バーシアはそう言うと俺の体を両手で押して女神の間から吹き飛ばし、押し出した。


「も。もう二度と来ないで! こ、怖かったぁ――」

「――よう、二度目だな」


 戻された俺は教会で目を覚ますと同時にすぐさま意識転移で女神の間まで帰ってきた。


「ひぇ!? な、なんで戻って来てるのよ!?」


「俺のアビリティは意識転移だ、教会にいる間は戻ってこれるぞ」


「だ、大体なんで私の洗脳が効かないのよ!? 女神の加護のお蔭で成長しない人間が街の中で安全に暮らせる様にしてあげてるのに!」


 涙目、と言うか泣き腫らしている女神に溜め息を吐く。恐らく洗脳が効かないのは女神の加護の上位互換である女神の契りのお蔭だろう。


「で、帰してくれない? この世界から」

「だ、駄目よ! 元の世界に戻すには全員一緒にじゃないといけないし、勇者がいなくなったら私の信仰が落ちちゃうじゃない!」


 こいつ……人間相手に泣き出す癖に、随分と自分勝手だ。


「……意味ないだろうけど……」


 ぼそって呟いてから、一応、俺は魅力を封じている擬態魔法を解いて女神と再び視線を合わせた。


「……な、何よ!? 睨んだって、帰さないわよ!」

「やっぱり、女神には効き目無いな……」


 ダメ元だったのでしょうがないが、こうなると手詰まりだ。先のチョップだってわりと本気だったのに、驚いただけでダメージは入ってなさそうだし。


「ふ……ふふふ! そんなに帰りたいのかしら? だったら私に跪いて、無様に私の足を舐めると良いわ! さぁ――っきゃぁ!? ビンタ!?」


 古いテレビと違って、叩いても壊れたままらしい。


 それにしたってやり返して来ないな。先は吹き飛ばしてきたが、それ以外一切反撃されていない。


「……ひゃ!? な、何女神に触れて……あひゃ!? ははははっはははっははは! く、くすぐったぁ、あははははははは!」


「ほれ、さっさと帰せ」


「い、いや……あははははは! そ、それっだ、ははははひゃ!」


 おもむろに脇をくすぐり始めたが効果無し。仕方ないので女神を解放すると、俺は意識転移を解除する事にした。


「一回……作戦を立て直そう」



「あひゃ……あははは…………な、何なのよぉ……?」


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