異世界召喚されたけど女神様がこっち見てる

第一章 始まりの春

尋問、新たな悩み

今回の話も勿論エロくないです。仮にそんな描写があってもR-15の範疇です。

……大丈夫ですよね?

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「彼女は暗翼の騎士、と言う異名を持つ魔王に仕える魔族の1人で、魔王の城を守護する四天王である魔鳥人族、“黒い嵐”の娘でもあります」

　ミラに詳しい説明を求めたがいきなり厨二ワードが雪崩れ込んできた。つまり俺が倒した彼女は、大ボスと一緒に現れる中ボスクラスの取り巻きだった訳だ。

「彼女は次期四天王候補でありますし、向上心、忠誠心、実力、その全てを魔王に認められて、広範囲での重要な役割は彼女に任されるそうです」

「なるほどねぇ……それを俺は大ケガを負わせた上に、危うく殺す所だった訳だ……大丈夫なのか、この村?」

　流石に俺のせいで目を付けられたとなると気が引ける。

　俺は視線を、ベッドに横たわっている彼女に向けた。幸いにも火傷も傷も魔族の高い生命力と再生力、サキュバスによる魔法で完治しており、ファイアバレットの剛速球を喰らったとはとても思えないだろう。

「いえ、御心配には及びません。魔王はこの村での出来事を知る事は出来ませんし、それ故に彼女が送られてきたんでしょう」

「だけど、彼女が帰ってこの事を報告してしまえば……」

　ミラは自信ありげに笑った。

「ですから、彼女はこの件を絶対に報告しません」

「……?　どうして――」

　俺は説明を求めるが、横から急に声がした。

「う……っく、此処は……?」

「主様、失礼します」

　暗翼の騎士が今にも目を開け起き上がろうとした瞬間、ミラは俺の目の前に手の平をかざして、直ぐに退けた。

「擬態魔法が……あ」

「あ…………!?」

　魔法を一時的に無力化された事に気付いたが、それよりも早く暗翼の騎士と目が合った。

「あ……ぁぁあ……!」

　惚れたか、と心配したが彼女の顔は徐々に青ざめ、俺を恐ろしい物を見る様な目で見続け、両手で顔を抑えた。

「だ、大丈夫――」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」

　俺の接近で恐怖がピークに達したのか、彼女は頭を下げて謝り始めた。

「魅力とは人を虜にするだけの力ではありません。この様に、主様に抱いているであろう印象を強める事が出来ます。今まで魔王の為だと、忠誠心と誇りを背負って生きてきたのに、敗北の屈辱を味わった上で主様の放った恐ろしい魔法。彼女の精神は儚くももう既にボロボロです」

「それでいて俺の顔を見て恐怖心を増幅させた訳か……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「ですが、魅力は魅力です。彼女は主様に今、恐怖心の中でも恋心を抱いているんですよ?」

　ミラの言葉が真実だとでも言うかの様に、兜も鎧を脱がされ白い患者服を着せられたまま、黒いショートへアの魔鳥人の女の子は翼を広げて俺に背を向けるとその場でゆっくりと尻を振り始めた。

「許して、下さいぃぃ……」

　それを見たミラは何故か感心した。

「恐怖のあまり、混乱しながらも求愛行動をしていますね」

「患者服のおかげで色気は無いが、俺には誘っているだけに見えるんだけど」

「魔鳥人は動物である鳥との共通点が多いそうです。鳥のメスも尻尾を振ってオスに求愛するそうですよ?」

　そんな豆知識を聞いた後、俺は何とか話を聞いて貰おうと先ずは彼女を落ち着かせる事にした。

「……ウォーターボール」

「っひゃばあぁ!?」

　適当な威力まで制御した水の塊を彼女に頭上に落とした。尻を振っていた彼女はそれに驚いて動きを止めて地面にへたり込んだ。

「ふぅ……ちょっと話を聞いてくれるか?」

「っ!?　は、はいぃ!」

　まだ怯えはあるが、漸くまともに会話できそうだ。俺は彼女にまず基本的な質問から始めた。

「君の名前は?」

「わ、私は……クロエナ、です。ま、魔王軍特殊部隊隊長を務めていますっ!」

「この村に来た目的は?」

「サキュバスを人間迎撃の為の兵士として集う為に……」

　隊長とは思えない程あっさり重要そうな内容を話していく。本当に精神的に弱っている様だ。少々可哀想だが、俺は彼女を脅す事にした。

「クロエナ、お前、俺にどうされたい?」

「こ、殺さないでぇ……な、なんでもしますぅ……!」

　先までの血気盛んながらも毅然とした態度でいた騎士は涙を浮かべ命乞いを行っており、その姿は完全に消滅している。

「じゃあ、この村で起こった事は誰にも話さないで貰えるか?」

「は、はい!　お父様にも、魔王様にも、絶対に話しません!」

「じゃあ、もう自由だ」

「で、ですから……え?」

　俺の言葉に意外そうに驚いたクロエナに、鎧の在り処を教える。

「ほら、あの剣と鎧を持って、サキュバスは全員移住していたとでも言っておけ」

「あ、え、っえ!?」

　まだ驚いている様だが、俺としては本当にもう用は無い。これ以上誰彼構わず惚れさせれると女神様が何しでかすか分からない。その考えて背中を向けた。

「ま、待って!」

「……何?」

　これ以上恐怖を抱いている相手に何を求めるのか、そう思いつつも振り返った。

「な……何か、してくれ!」

「……あぁぁ」

　思わず頭を抑えた。どうやら何かイケない扉を開いてしまった様だ。

「私を、汚してくれ!　滅茶苦茶にしてくれ!　じゃないと、体が火照って……!」

　口調は元に戻って来たが、俺に泣き付きながらも行為を迫るその姿は浅ましく、とても暗翼の騎士の名で呼ばれる者では無かった。

「ふふ、主様、あの生意気な暗翼の騎士すらこんな風にしてしまうなんて……素晴らしいです!」

　そしてその後ろではミラが感心しているが俺としてはこの展開は勘弁して欲しい。

「安心できない、不安が心で轟いていて……!」

「主様、私もです……此処、満たして貰えませんか?」

　クロエナに便乗してミラも何やら蠱惑的な行動をし始めた。

「……ウォーターボール!」

「ひゃぁぁぁっぁ!?」

　優しくしたからこそ起こった悲劇を、文字通り水に流す為に俺は水球を叩き落とした。

＊＊＊

「……クロエナ、絶対に落とすなよ」

「は、はい!」

　俺はサキュバスの村で数日分の食料と水、魔法の籠ったアイテムを揃えると、クロエナに頼んで人間の国の近くまで連れて行った貰う事になった。

　空の旅は丈夫な布の両端をクロエナに持ってもらって俺はその布の上にハンモックの如く寝転がった運んでもらう事になった。クロエナのステータスなら数十分で着く距離らしい。

「主様、やはり私もご一緒した方が」

「馬鹿、この村のトップが簡単に村を出て行こうとするなよ。勿論、門番であるニコとエリもな」

『はーい』

　これ以上女に囲まれてのハーレム生活は性に合わない所かストレスで死にそうなので、俺はさっさと旅立つ事を選んだ。

「それじゃあ行くか」

　挨拶を手短に済まして、俺はクロエナが持った布の上に乗った。

「お元気で!」

「また村に来て下さいね!」

「主様!　お気を付けて!」

「おう」

　クロエナの力でどんどん上昇し、遂に村を見渡せる程までの高度にまで上がった。

「ツムグ様、出発します」

「おう、飛ばしてけ」

　魔族のスピードに唯の布では少々心許無いので当然の如く魔法が付加されている。後は俺さえ気を付けていれば電車並みの速度で目的地に向かうだけだ。

「…………」

加速し始めたが、風は魔法のお蔭で俺の顔に直撃する事は無い。

「つ、ツムグ様……」

「どうした?」

「……いえ、貴方を運んでいると思うと、私の体が……熱くなってきまして」

　新しい扉が開かれたばかりなのに、ドM見習いと化したクロエナは俺の為に何かする度に発情するらしい。

「おい、しっかりしろよ。俺を落としてみろ、その時は容赦無く仕留めるからな?」

「も、勿論!」

　真性のドMだったら俺にお仕置きされる為にワザと布を離すかもしれない。そう考えるとクロエナの献身的被虐性癖はまだマシな方かもしれない。

「……頼むから、覚醒しないでくれよ……」

「……ツムグ様?」

「いや、何でもない」

　何もする事のない空中で、唯々俺の不安は布を抑えている美少女に煽られ続けた。

「……ぁ……はぁぁ……あぁぁ!」

　数秒毎に喘ぎ声が聞こえてきた。

「んぁ……んん、っひく!」

　数分後には少し布が揺れてきた。

「ゃぁ……ん、ぁん、んっんん……!」

　それからしばらくして布の上から水分が染み込んできた。クロエナが恐怖を思い出して泣いているようだ。

　それを見た俺は慌てて下を見下ろす。街らしき物が少し遠いが見えてきた。

「おい、今すぐ降ろせ!」

「ん!?　ひゃ、ひゃい!」　

　俺の声に泣きじゃくっているクロエナは地上へと降りて行った。

「ん、ぁ……ど、どうしましたぁ?　まだ、もうちょっと近づけれ、ますけど……?」

「飛行中に発情しながら泣き出す様な奴の下に居られねえよ!　俺は此処から徒歩で行くからお前はもう帰れ!」

「そ、そんな……もう少し近づいてからでも……」

「駄目だ!」

　普通に歩いた方が良かったと思えるほどの精神的疲労を味わった俺は、溜息交じりで人間の街を目指して歩き始めた。

「……どうすれば、ツムグ様と一緒にいられる……?」