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出会い、魔の主

投稿が遅れて申し訳ありません。最近あまり執筆時間が取れませんでした。楽しみにしている読者様の為により一層励みたいと思います。

「……そういえば、昼食の前に転移したんだっけ……」


 自分のステータスの高さを漸く自覚する事の出来た俺だが、あの破壊的逃走行動により思いの外体力を消費してしまったようで、空腹を感じていた。


「不味い。こんな森の中で行き倒れとか洒落にならない!」


 幾らステータスが高くても空腹には抗えない。俺は少しだけ焦り出す。

 目の前に続く風景に変わりなく、木々が絶える様子は無い。


「……そうだ、木の上から見渡せば!」


 先程見せつけたれた木々を破壊するほど脚力を使って上に上る作戦を思いつく。現在地の把握や、森の大きさ位なら分かるかもしれない。

 そう思った俺は脚に力を込めて3m程の高さにある枝へと跳んだ。


「おっと……よし、これで!」


 更に数回の跳躍を繰り返して、俺は森を上から眺める事の出来る高さまで登り詰めた。


「おーお……木だらけだなぁ……あっちは山……ん?」


 辺りを見渡していると山の麓に、緑の無い場所がある事に気がついた。


「……あ! 家だ!」


 目を凝らして見るとそこには木造の家らしき物が幾つか見える。少し小さいが、あれが村なら元の場所に帰る事が出来るかもしれない。


「よし、あそこを目標に歩いて行くか」


 木から降りた俺は、村へと向かって歩き出した。


 目的に向かいつつも、木を壊さない程度の速度で走れる様に何度かダッシュしながら力加減を調節する。魔法と違って気持ち次第で調節出来る訳では無い。

 普段通り歩けばなんの問題も無いが、力を込めると地面を割るか割らないか程度の手加減が難しくなる。そこまで力む必要も無いが、いざという時に危なくて使えないなんて事になっても困る。


 まだ腹は鳴るがそれでもゆっくりと調節を重ね続け、漸く家らしき建造物の屋根が見える所までやってこれた。


「良し……もう少しだな」

「あら、どちら様かしら?」


 不意に、後ろから女性の声が聞こえてきた。俺は振り返ってその女性を見た。 

 長い黒髪と紫色の瞳が美しい、黒いノースリーブの服が胸辺りを強調して大人らしい色気を引き出している。


「珍しいわね。こんな所に村の住人以外の――!?」


 まじまじと胸を見るのは失礼なので顔を上げて彼女と目を合わせたがそれと同時に彼女は驚き固まった。


「……はぁぁ……」

「えっ、ちょ、ちょっと!? 大丈夫ですか!?」


 その人は急に地面にへたり込んだ。何かの病気だろうか。


「あ……あり得ない……私が、堕とされるなんて……」

「ちょ、ちょっと失礼します!」


 自慢のステータスで大人の女性すら簡単に持ち上げた。お姫様抱っこで申し訳ないが、このまま村に連れて行こう。


「もう少しで村に着きますから!」

「……だ……だ、め……」


 何故か力の無い声で拒否されたが、今は緊急事態だ。兎に角助けて貰えそうな人を探さないと。


「ぉれ……だめぇ……近いぃ……」


 力の調節となるべく速く走る事に意識を集中しているので彼女の言葉は聞こえないが、苦しそうなのは良く分かる。

 30秒程走ると村の入り口らしき門が見えてきた。


「あ! 良かった! 人がいる! すいませーん!」

「――!?」


 門の近くに立っていた女性は俺の声が聞こえたのか此方へ視線を向けると一瞬で固まり、その場に倒れた。


「え? ちょ、嘘だろ!?」


 流石に2回連続で人が倒れたので慎重になろうと俺は倒れてしまった女性の前で立ち止まり、最初の女性をそっと地面に降ろした。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ひゃぁ……! だ、ダメェ……私を、求めないでぇ……」

「…………はい?」


 門の前で倒れた女性に顔を真っ赤にしてそう言われ、俺は混乱した。

 もしかして、村以外の人間に出会うとこうなってしまう呪いが村人全員に掛けられているのだろうか?


「……あの、何が起きてるんですか?」

「あぁ……魔王様を見てもこんな事……起こらなかったのにぃ……人間にぃ……恋してるぅ……」


 魔王、その言葉に俺は思わず眉を細めた。


「魔王? 今、魔王様って言ったのか?」


「あの人のカリスマはぁ、強大だったけどぉ……この人間の前じゃぁ……はぁぁ……」

「答えてくれ!」

「ひゃぁ!! らめぇ、近くで声を出されるとぉ……濡れちゃぅ……!」


 俺が顔を近づけて問いただすと、まるでイケない事をしている様な声で喘ぎ始める。此処まで反応されてしまっては、例の謎ステータス、魅了が関係しているとしか思えない。

 魔王様、と言っていたので美人な女性にしか見えないこの2人は、もしかしたら魔族なのかもしれない。


「だけど、これじゃあ会話をして聞き出す事も出来ないな……」

「――人間がそこで何をしている!」


 倒れ喘ぐ2人の前で頭を悩ましていた俺に、新たな女性が怒鳴って来た。


「ニコとエリから離れなさい!」


「お、お姉様……!」

「だ、駄目……お姉様!」


 2人は急に腕に力を込めて例の人物へと忠告する。俺も、これ以上面倒を起こしたくないので顔を俯かせながら両手を上げて降伏する。


「2人から離れて、此方に顔を見せなさい! 貴方の事、全部自白して貰うわ!」

「だ、駄目よお姉様ぁ……その男の顔は見ちゃ駄目ぇ……!」


「何を言っているのよ! 貴方達に危害を加えた男よ、このまま返す訳にはいかない!」


 ごもっともな台詞だが俺も顔を上げる訳には行かない。これ以上被害者が増えたら流石に収拾がつかなくなる。2人の口ぶりからして、この人は本当の姉とかではなく恐らく村の偉い人だろうし。


「そ、その男、目を合わせただけで私達を堕とす程の魅了を持っています……危険です……!」

「私はルナティック・サキュバス! 例え魔眼を持っていようと人間相手に落ちたりしない!」


 自信満々にそう言ったが、どう考えてもフラグにしか聞こえない。

 俺はこのまま後ろに下がって村から離れてやり過ごそうとする。


「逃げるな!」


 そしてこの無茶ぶりである。お姉様と呼ばれた女性は速力が高いらしく、素早く俺に近付くと覗き込むように自分の顔を俺に近付けた。


「……」

「……」


 訪れてしまった沈黙。俺はそーっと目を開いて、整ったその顔色を窺う。


「…………」


「………………」


「……そ、そろそろ放――」

「――!? あ……あぁあぁぁぁ……!!」


 俺が喋った途端、女性は驚き固まり、情けない声を出してその場に倒れた。


「お姉様!?」

「お姉様は私達以上に魅了を感じやすいのにあんなに近付くから……」


 遂に事態は混沌を極めたか……

 俺は心の中で項垂れ始めるが、自分をルナティク・サキュバスと呼んだ女性は地面に倒れ伏しながらも何かを呟いている。


「……速……転、移……」


 その呟きが終わると同時に俺と他の2人を巻き込む様に魔方陣が足元に広がり、完成した。


「……招待……しなきゃ……」

「ど、何処に!?」


 俺の問いに答えが返る事無く、魔方陣は作動され、その場から4人は消え去った。



***



「此処は私の館です……」


 言いながらルナティック・サキュバスは玉座に座った。


「はぁぁ……見下すようで申し訳ありません。これは魅惑の玉座、精神異常を抑える効果のある玉座なのです」


 落ち着いた様子だが先程の警戒心がまるでなく、随分と此方を好意的に見ている。


「……俺は、自分の魅力が高い事は理解しているが、なんでそんな状態になる?」


 そもそも、俺の知るサキュバスは人間の男を魅了する魔の存在だ。人間だった王女やクラスメイト達が俺に惚れる程度だったのに、何故サキュバス相手だと会話だけで性行為の様に乱れるのか理解できない。


「サキュバスは……生物の存在感に敏感です。カリスマ、魅力、精力等を本能的に理解できるのです。

 この性質を私達は高い精気を持つ人間を見つける為に使いますが、高すぎる存在感には他の種族より圧倒されてしまいます……先程のお恥ずかしい姿は、貴方の持つ圧倒的な魅力に負けてしまった故にお見せしてしまいました」

「聴力の高い動物が爆音に驚き過ぎて気絶する様なものか」

「はい」


「……なんで、急に畏まってるんだ?」


 俺がそう聞くと突然サキュバスは頭を下げた。


「それは……サキュバスと言う種族の宿命です。高いカリスマを持つ魔王ですら私を屈服させる程の魅力はありませんでした。故に、貴方を私の主と認め、この身を一生貴方に捧げる、それがサキュバスの宿命です」


「い、いや……宿命って……」

「心を、奪われてしまったのです。無数の男の精気を貪るサキュバスが1人の人間に愛を抱いてしまっては……もう、この身の全てを捧げるしかありません!」


「私もです!」

「私も!」


 最初に出会った黒いノースリーブのサキュバスと、門の前にいた緑色のローブを着たサキュバスもいつの間にか立ち上がって俺へ近付いてきた。


「あ……」

「ひゃぁ……」


 縋る様に俺に触れた瞬間、2人は幸せそうに倒れた。


「この様に、魅力に敗れたサキュバスは夢魔とは呼べない程に一途となってしまうのです」


 俺は頭を抑えるしかなかった。何故サキュバスの、俺の周りの愛とやらはこんなに重いのだろうか。


「あー、もう! そうだ、魅力を抑える方法を教えてくれ!」

「……魅力を完全に抑える事は恐らく不可能ですが、魅力とは瞳からもっとも強く放たれる物です。その次は顔です。故に、顔を隠す事が出来れば無暗に魅了する事も無いでしょう」

「なら、サングラスとかが必要か……顔はフードで隠せば……」


 そこまで口にしてから漸くその風貌が不審者と呼ばれる者だと気が付いた。


「なら、擬態魔法をお教えしましょう。私達も今は貴方の種族に合わせて同じ種族に見られる幻覚寄りの擬態魔法を使用しています。姿形を変えれば魅力は上手く発揮されません」


 俺の考えを察したかの様に代用案を出すサキュバス。


「擬態……頼む! 教えてくれ!」


 俺はそう言ってサキュバスに頭を下げた。


「も、勿論、ですぅ……

 嬉しぃ……愛しい人に、こんなに頼られるなんてぇ……」


 至福そうな笑顔を浮かべたサキュバスは、擬態魔法を解除して真の姿を露わにした。

 着ていた紫色のチュニックと黒のレギンスはそのままに、蝙蝠の様な翼手と翼膜の有る翼と角、ロングヘア―の黒髪は艶を増し、胸はより強調された。


「これが私、ルナティック・サキュバスの本来の姿、名前はミラと申します」

「綺麗だな」


 俺がそんな感想を言うとミラは喜び感心した。


「ああ、流石は主様……並みの人間なら私を一目見ただけで口を開くより先に押し倒しているのに……」


 確かに美人だとは思うが俺はそこまで欲情しない。彼女の魅力を俺のステータスが打ち消していると言う事だろうか。


 唐突に俺の腹から間の抜けな音が鳴る。


「あ……」


 そこで俺は片手で腹を抑えた。よく考えれば腹が減っていたからこの村を目指していたんだった。


「ふふふ、先ずは食事ですね? 今すぐに従者に命じます」


 彼女はそう言うと小さな魔法を発動させ、魔法陣に向かってしゃべった。


『最高級のランチを用意しなさい。なるべく早くお願い』


 それだけ言うと俺へ向き直したミラは懐から何かを取り出すと俺に見せてきた。

 首輪だ。


「そ、それに貴方の名前を書いて私の首に嵌めて貰えませんか……?

 服従の首輪です。サキュバスにとってこれ以上に愛を示せる物はありませんし、これを着けた者は貴方へ一生服従、貴方に危害を加える事はありません……サキュバスですから、主様もまだ私を信用していませんよね?」


 それは勿論だったのだが、流石に首輪を着けるとなると話は別だ。そんな特殊性癖は俺には無い。


「い、いや……俺は首輪が無くてもミラを信じるよ」


「そ、そんな……

 嬉しいですけど、複雑です。……ですが、何時か嵌めて下さいね? もう私の全ては、主様の物なのですから……」


 これからこんなサキュバスと一緒に過ごす事になるのかと思うと凄く不安になるのだが、俺はなるべく早く此処を出てセンテ帝国に戻る事を決意するのだった。


この小説はR―15を目指しています。

目指しています。

なのでサキュバスとのそう言う展開は無しです。

無しなんです。

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[一言] ∠( ˙-˙ )/シャキーン目指せ R15.1
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