王女、暴走転移
エイプリルフールですが、なんの面白味も無い普通の投稿です。
「さあ、どうぞお掛け下さい」
俺を此処まで連れてきた団長は、王女アマエルの言葉に従い部屋を後にした。従者らしく俺と2人きりでいるのは問題だと進言したが、アマエルは問題ないと言って団長を納得させた。加護持ちの俺が魔法の熟練者である王女をどうこう出来る訳が無いとの事だ。
「……」
「ふふふ」
扇で口元を隠しながらお淑やかに笑ってはいるが、俺の事を手に入れようとしているのがひしひしと伝わってくる。
どうやってこの状況を切り抜けるか考えながらも、俺は彼女の言葉を待つ。
「では、改めまして私の自己紹介をさせて頂きます。私の名前はアマエル。この国の第二王女ですが、どうか此処では楽にして下さいね?」
楽にさせてくれる様な内容では無いのに、この王女様は中々に難題な命令をくれるものだ。
正直、俺のステータスなら逃げられる自信はある。自信があるだけで、確信は無いので実行には移さない。そもそも此処から逃げられたとしても他の皆はほったらかす事になる。それでは駄目だ。
「どうやら早く私とお話ししたくて辛抱出来ないようですね。それでは単刀直入にお話しします。ツムグさん、どうか私の婿になって貰えませんか?」
俺はその言葉は予想内だった為、あまり驚かなかった。恐らく彼女は俺の意識転移による盗聴をネタに何か要求するのは分かっていた。
「……それは、脅迫か?」
「そう思いたければ、そう思って頂いて構いません。ですが、私は私の大切なモノを傷つけたりするつもりは一切ありません」
なお、婿が大切なモノとは一言も言っていない。俺が了承すればどんな扱いを受けるか分かったもんじゃない。
だが、断れば姉に……いや、待てよ。
あの時、妹は態と霊体の進入を防ぐ結界とやらを張らなかった。ならば、俺の事を姉にばらすのは考えにくい。あの時は魅了のステータスは存在すらしていなかった筈だから俺に手を出そうと考えたのは昨日からの筈だ。
「一応聞くが、俺が仮にアマエルと婿になった場合、それを公表するのか?」
「いいえ、勇者様方には訓練に集中して頂きたいので、公表は早くても彼らが出て行ってからですね。勿論、その間は今まで通り暮らして頂いて貰います……ですが――」
アマエルは俺に近づくと服を少し下ろして胸を当てながら耳元に囁いた。
「――もし宜しければ、ご奉仕、させて頂きますよ?」
この提案に、彼女の本性を知る俺でもクルものがあった。見た目中学生の誘惑とは思えない程妖艶な仕草は童貞には身に余る刺激だ。
「……直ぐに、答えを出せそうに無い。考える時間が欲しい」
「私は何時でも歓迎致します。ですが……どうかお早めに、お願いしますね?」
何とかその場しのぎの答えを絞り出した俺からアマエルはそっと離れる。
「では、またお会いしましょう」
アマエルは扉を開くと俺に退出を促す。
俺は彼女の胡散臭い笑顔を眺めながらも、部屋の外へと出――
「――起動!」
瞬間、アマエルの合図で俺の足元で魔方陣が現れ輝く。
「なっ!?」
慌てて飛び出ようと体を動かそうとするが、魔法陣の中で体は僅かに宙に浮くと指一本も動かせなくなった。
「無理矢理になってしまって申し訳ありませんが、このまま貴方を私の秘密部屋までお連れさせて頂きます」
「ひ、秘密部屋!? うご、けない!?」
「この城の誰にも知られていない、私だけの秘密の部屋です。
このテレポートの魔法でアビィリティも魔法も使えない密室までお送りし、誰にも見つかる事無く、私の婿もとい……遊び相手になって頂きます!」
無邪気とはとても言えない、邪気の溢れる笑みを浮かべるアマエル。このままだと本当に秘密部屋に飛ばされて監禁されるのは間違いない。
(まぁ……最悪3000越えのステータスをフル発揮して脱出しよう)
危機感は有ったが、俺はそう考えて一度落ち着かせた。そうだ、まだ皆は洗脳されていない筈だし、飛ばされる場所は恐らく城内。脱出した後はこれを機に皆に打ち明ければ良い。
「っ!? アマエル、そこで何をしている!」
幸か不幸か、はたまた神か悪魔の悪戯か、テレポートの魔方陣の中で浮いている俺の前に第一王女のアマンダが現れた。
「ああ、姉様。ご安心を……秘密を知ったこの者の口を封じる為に監禁部屋にお送りしています」
「……そうか、なら私の部屋に送れ。尋問の後に私が始末する」
「私の捕らえた者です、始末は私が致します」
「……貴様、姉に逆らう気か?」
何故か身動きの取れない俺を挟んで険悪な雰囲気になり始めた2人の姉妹。
「あら、私の部屋にやってきた侵入者を私が捕らえる事の何処に問題が?」
「その男は女の勇者共に慕われている。洗脳の際にこの男の存在は優位に働く筈だ」
「詭弁を……洗脳魔法を施す役目は私の物……であればやはり私が捕らえるべき。魔法の使えない姉様にはこの者を捕らえておくメリットなどありません」
「どうあっても渡さない気か……ならば、こちらにも考えがある!」
「あ!? や、やめな――」
女の争いに巻き込まれる位なら早く転移してくれと願い始めていた俺へとアマンダは何かを振り上げると、そのまま俺の足元めがけて水晶の様な物を投げつけた。
「緊急時に私の部屋へと移動させるマジックアイテムだ! これでこの男は――」
「――姉様! 複雑なテレポートの魔法が2つ重なると暴走し、コントロールの出来ない魔法変化を引き起こすのをお忘れですか!?」
「っなんだと!?」
聞き捨てならない言葉に俺が思わず驚き返した。冗談じゃない。城内ならともなく何処へとも分からない転移なんて御免だ。
慌てて力を込めて抵抗するが、うんともすんとも言わない。それどころかもう時間が来たのか体が光に包まれ何処かに飛ばされる様な感覚に陥る。
「あ……あぁ……ま、待ってぇ! 行かないで!」
泣きながら、縋る様に俺へと手を伸ばすアマエル。しかし、その手は魔法陣に阻まれ俺には届かない。
「ごめんなさい……! や。だ……! 私の、初めての恋……!」
俺はそれを真顔で見つめるが、やがて魔法は完成し、俺の体は魔法の滅茶苦茶な軌道に乗り指一つ動かせないまま何処かへと飛ばされた。
「行かないでぇぇぇぇ!」
***
「……こ、此処は?」
着いた、と言うよりも送られたと言うべきか。
魔法陣の暴走でセンテ帝国の城から転送された先は、数えきれない程の木が生い茂る森の中。
「……魔物とか出てきそうだな」
禍々しい訳では無いが、今にも野生動物が出てきそうな雰囲気に俺は警戒しながらも足を前に出した。進まなければ脱出は出来ない。
「先ずは人がいる場所を見つけないと……」
行く宛も無く歩く俺の足音だけが森に響く。他に何もいない証明だと気楽に構える。
「……くそぅ、何やかんや、今まで人の多い所にいたんだな俺ぇ……独りが此処まで心細い物だったのか……
……て言うか、そろそろもう魔物でも良いからエンカウントしたい……」
そんな独り言を呟いて歩くと、直ぐに口は災いの元だと思い知らされた。
「……ニンゲン……クウ」
木の後ろから現れたのは艶があるが鈍い光を放つ緑色の体皮を持つ人型、その手には斧を持っており、鋭い牙と大きな口がこちらを狙っている。
「って、オークじゃなくてリザードマンかよっ!?」
最初に出会う様な相手では無い事と初めて見る不気味な魔物の姿に驚いた俺は慌てて距離を取る。
「ニンゲンダ、ニンゲンダ!」
「アイツラカラ、ニゲテキタカ! ツカマエロ!」
「っげぇ!?」
その数は1匹では無く3匹。全員がその手に斧を持っており、俺を囲もうと左右から迫ってくる。
「この……!」
戦う選択肢以外を選べない状況に苦い顔しながらも、拳を握る。
「……っくそ!」
だが、ステータスが高い事を幾ら意識してもこちらは素手、相手は斧。どうしても怖い。俺は背を見せて逃げる。
「ニンゲン、マテ!」
「うぉぉぉぉぉ!」
俺はリザードマンらしき魔物から逃げ切る為に全力で、文字通り、全力で森を駆け抜けた。
「おぉぉぉぉ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「おぉぉぉぉぉ…………!!」
「……っはぁっはぁ……引き離せ……たっ!?」
息を切らしながら振り返った俺は余りの驚きに言葉が出なかった。
俺の走り去った木々の間は、、まるで嵐の通った後の様にボロボロで、見るも無残な光景が広がっていた。
「じ、地面が抉れてる!? 木もまるで何かに切り裂かれたみたいにボロボロだ……!
これ全部、俺がやった……のか?」
幾ら逃げるのに夢中でも、最初からこれだけ酷かったのであれば気が付いていた筈だ。ならば、規格外のステータスを持つ俺が無意識にこれをやったと思うべきだろう。
「こ、これが……平均3600の破壊力、だってのか……?」
その光景に依然として戸惑う俺だが、いつまでも止まっている訳にも行かないので急いでその場から離れた。
そろそろ登場人物達のステータスを公開して、どんなインフレが起こっているか分かり易くしたいと思っています。




