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魅了、依然としてモテ期


「はぁ!?」


 目覚めて10秒、俺は思わずそう叫んでしまった。

 まずした事とと言えばステータス確認。HPから運は2時間程女神様と会話していたので全てが3600辺りだ。勇者であるクラスメイト達から聞いた最高ステータスが150位だったので24倍は凌駕している様だ。

 魅了、らしきステータスも当然同じ分上昇しているが、女神様から貰ったホウセンカの髪飾りのおかげで下がっていた。


 下がってはいたのだが……2682(90%)と表示されていた。


「じゅ、10%カットだけって……!」


 女神様は1000年間を独りで過ごした経験があった。俺への独占欲はあっただろうが、それ以上に俺が同じ目に合うのを恐れたのだろう。だが、10%カットだと昨日よりも魅力が高いままだ。


「……どうしよう」


『紡君! 朝食の時間だって!』


「あ……ありがとう、直ぐ行くよ」


 扉の先から声が聞こえてきたのでそう返したが、やばい。嫌な予感しかしない。

 魅了以外のステータスも伸びているが、それを気にしている余裕は無かった。着替えながら、どうするか考えるがいい案が思い浮かばない。


「……こ、怖い……」


 今更ながら出来れば女子が俺に惚れてると思ったのは自惚れであって欲しいと思いつつ、俺は扉を開いた。


「お、おはよう……」


 2日目同様俺の部屋の前にクラスメイト全員が集まっていた。


「お、おはよう、紡君!」

「おはようございます、朝食の時間です。訓練もありますし早速行きましょう」


 さっそくと言うべきか、山仲以上に俺と会話した事の無い連谷が若干強引に俺の腕を掴んで食堂へ向かおうとする。その行動に不良2人は目を僅かに見開いた。

 俺も同じ立場なら驚いていた。と言うか、今も驚いている。


「あたし、朝は紅茶派なんだけど導野は何飲む? コーヒー派? 緑茶は邪道だよね?」


 もう片方の腕を渡辺が掴んで話しかけて来た。豊満な胸が当たる。


「っく! まさか本当にモテる魔法でも覚えたってのか!?」

「あれさ、腕が胸に当たってんのか? 当ててるよな、完全に」


 不良共が騒がしい。そんな事より俺を助けてくれ。


「渡辺さん! 紡君にくっ付き過ぎだよ!」

「えぇ? そうかなぁ?」


 山仲は俺を腕を掴んでいる渡辺を注意するが、言われた本人は気にする事無く挑発する様に更に俺に押し付ける。


「何をトロトロと、さっさと行きますよ」


 既に葉駒、小野寺と光田の3人は先に食堂に向かっている。連谷の声に従って俺達も食堂に急ぐが、その間に俺の頭の中を難問がかき乱していた。

 魅了はどうやら異性、それも他に好意を抱いている者がいなければ発揮される様だ。それにしたってこれは酷い。殆ど見境が無い。


(魔法力や筋力を無意識にコントロール出来る様に、魅力もコントロール出来ないのか?)


 メイドから挨拶を貰った上に何故か握手をお願いされながらそう思った。

 廊下を歩けば笑顔の女性に挨拶される。うん、これは間違いなく自惚れるし、調子に乗る。そういう時に限って悪い事が起こる。これもフラグの一種だ。気を引き締めるか。


「お前達が勇者達だな?」


 前方から兜も含めて鎧を着込んだ女性らしき人物が俺達の前にいきなり現れ、声を掛けてきた。


「さっさと朝食を取って訓練を始めろ。どれ程成長したか、私直々に見てやる」


 なんて偉そうな口調なんだ。そう思って鎧に目を向けたが、一目見ただけで理解できた。


 目の前の人物こそ、鎧と兜で身体的特徴は隠れているが、今の声は間違いない。初日に意識転移で盗み見た王女姉妹の姉の方だ。

 俺は慌ててその兜の隙間に目を向けた。

 僅かに目元だけだが確認できた。間違いなく王女だ。だが、目を合わせた王女は俺を見たまま動きが止まった。


「……か、加護持ちに用など無い! 訓練の成果が見れなければ余計な者は取り除かれると思え!」


 それだけ言うと鎧を着た王女はその場から立ち去って行った。


「……ど、どうしよう紡君!? もしかして、追い出されちゃうかもしないよ!?」

「て言うか今の誰だ? 団長でも他の騎士でも無かったよな?」

「声の感じ女の子っぽいけど、俺らの訓練にそんな騎士は今まで居なったと思うぜ?」


不安の声を上げる山仲、先の人物が見知らぬ人物だと言う不良組。


「まあ、なんとかなる……と思う」

「安心して下さい。その時は私達の部屋の一角をお貸しします」


 連谷が俺にそんな提案をする。


「えっ!? だ、駄目だよ男女一緒なんて!」

「ですが、彼が追い出されるよりもまだマシです」

「だ、だったら私の部屋に……あれ?」


 女子が言い争っている様だが今の俺はそれを気に留めていられる程心穏やかでは無かった。

 何せあの反応。間違いなく姉の方の王女も俺に惚れてしまっただろう。自分で恐ろしく思いながらも今は唯、臨機応変に対応する様に心構えをするしかない。


「おい、導野! モテる魔法を是非伝授してくれ!」

「お、お願いしやすい!」


 このマジな勢いで頭を下げてくる不良共もどう対処するべきか……



***



「……! 来て……、ふ、ふん! 来たか」


 食堂で朝食を摂った後に訓練から省かれた俺は魔術師団のセリア団長の元を訪れた。例の魔法研究への協力に興味があったのだが、早速後悔した。


「貴方がツムグさん、ですね?」


 セリア団長と共に俺を出迎えたのは山仲と同じ中学生並みの身長にクラスメイトの女子達よりも大きな、目測ではF カップ程のサイズがありそうな谷間を持つ美しい少女。


「お初にお目に掛かります。私、このリーリン王国の第二王女、アマエルと申します」


 今俺が一番会いたくなかった、アマエル王女様だ。


「ど、どうも、導野紡です……」

「勇者様達を召喚したのは私でしたのですが、顔をお見せするのが遅くなってしまった事、お詫びさせて頂きます」

「あ、いや……」


 演技だとは理解できるが随分真摯な態度で謝って来たので、俺は言葉に詰まる。

 そんな俺を見て王女アマエルは微笑むと、そっと近付いて耳元で囁いた。


「――姉様に意識転移の件、話して欲しく無いですよね?」

「っ!?」


 度肝を抜かれた。俺が初日に行った意識転移での盗聴がバレていたのか。

 ショックを受けた俺から離れたアマエルは満足気にニコリと笑うとセリア団長を見た。


「彼には後で私から特別にお詫びをさせて頂きますので用事が終わり次第、彼を私の部屋にお連れして下さい」


 そう言いながらも視線をチラリとこちらに向けて念を押してきた。


「分かりました、御任せ下さい」

「頼みました」


 セリア団長の返事を聞くとアマエルは扇子で口元を隠しながら帰っていった。


「ツムグ、そういう事だ、王女様を待たせる訳には行かない。さっさと終わらせるぞ!」

「うぉ!? わ、分かりましたから、1人で歩けますって!」


 セリア団長は俺の手を握ると研究室らしき場所まで引っ張った。研究室と言うには、だだっ広くて紙の少ない場所だ。


「魔法は学問の一種ではあるが、大抵国を守る為の魔術師団には体力が求められ勤勉な者は珍しい。故に魔術師団で行う研究とは大抵、深く考える物では無く直ぐに応用の利く感覚や感情的な研究が主になる。

 短縮詠唱、詠唱破棄などがそれだな。これらは熟練度が上がると共に自然に行える様になる技術で、何度も呪文を繰り返すうちに呪文のもたらすイメージを自然に思い出せる様になると行える」


 そこまで説明するとセリア団長は今日の研究について説明しだした。


「今回行うのは……か、感情変化で起こる、魔法変化……だ」


「魔法変化?」


 俺はセリア団長の言った単語の意味と、頬を染めた理由が分からずにオウム返しをした。


「魔法の中には同じ呪文でありながら別の効果をもたらす事がある。フレイムバレットを怒り任せて放つとその範囲と威力が増大するが、コントロールが効かなくなり森のを燃やし始めたとか、離れた距離にいる守りたい者の周りを囲む炎になったりと、魔法は感情が揺れていると不安定だ」


 それだけ聞くと魔法が危険な物なのかが理解できた。そんなに暴走しやすい物だったのか……


「まあ、原則として魔法は使用者を傷つけない物だ。簡単な魔法や単純な物は変化は師安が大きな暴走を起こす事は無い。

 まあ、高度な魔法……戦闘では使われない前準備が必要なテレポートの様な魔法が2つ同時に同じ場所で発動したりすると想像もつかないような暴走を引き起こし、違う場所に飛ばされたりするらしいがな」


 それは怖い。壁の中や岩の中にワープしてゲームオーバーになってしまうのだろうか。


「それを研究するのが今日のテーマ。感情変化は先に説明した心理状態によって引き起こされる魔法の変化だ」

「それで俺は何をすれば? 怒りながら魔法を放てば良いんですか?」


「いや……わ、私と同時に魔法を放ってもらう……た、ただし……私と、手を、繋いでだ!」

「……はい?」


 照れながら何を言っているんだこの人は。


「わ、私が、男嫌いなのは……今までの行動で理解しているだろう? 故に、不愉快な気分のまま魔法を放つとどうなるかを実験する! 比較の為に、同じ魔法をお前に放ってもらう!」

 なんだその理屈は。そして男嫌いかどうかは今までの行動で全く分からなくなっているんですけど。

 顔を染めて俺に握手を求めるセリア団長を見る。うん、これは不愉快の実験にはなりそうにない。だけど、同時にちょっと安心した。不愉快な気持ちで撃たれた魔法が俺の害にならないとは限らないが、好意的な感情を抱いて放たれるならそうなる事は無いだろう。


「分かりましたよ……はい」


俺は差し出された腕を掴んだ。


「っ!?」


心臓の様にセリア団長の体がビクリと跳ねた。


「っ! い、良いな! 同時にフレイムバレットを放つぞ!」

「はい」


俺は一応平常心を意識しながらフレイムバレットの詠唱を試みる。

セリア団長は繋いでいる右手だけで分かるが、かなり震えている。


「「“燃え盛れ、赤く滾る炎”」」

「「フレイムバレット!」」


同時に放たれた炎の弾丸。真っ直ぐに飛ぶ。どちらも何の変化も無いまま的へと命中した。


「……」

「……やはり、感情変化は無理か」


手を名残惜しそうに離しつつセリア団長はこの結果に溜息を吐いた。


「魔法変化はそう簡単に起こる現象ではない。研究のつもりで幾ら怒っても魔法に影響する事は少ない。詠唱は魔法のその形で発動させるための物だ、容易く変化が起こってしまえば詠唱の意味が無い」


一応、何の変化を起こす事の出来なかった自分と俺へのフォローのつもりの様だ。


「本当はもう少し研究を続けたかったのだが……王女様のご命令であれば仕方ない。お前を王女様のお部屋に今から連れて行く。

――だが、何か不埒な真似をしてみろ。私が塵も残さず燃やしてやる」


最後だけガチな忠告と共に、俺は研究室を後にした。


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