ファーストクエスト ミスリルの短剣《ダガー》と塩 その1
「おい・・・?夏木ちょっと飲みすぎじゃないのか?」
今日はそんなに飲んだ覚えはないよ・・でも少し目が・・疲れてるのかな?
「何とか・・大丈夫っすよ先輩!一人で家に帰れる程度で抑えますって!」
美味かったな・・焼き鳥・・夏の仕事終わりの生!鳥の唐揚げ!コース料理なんで少し冷めてるのを除けばだけど・・・
「先輩!新しい赴任地でも頑張ってください!!」
新入社員の俺の研修担当でもあった先輩との最後の挨拶だったか・・?
「ふっ・・ありがとうな夏木・・お前も頑張れよな!」
たしかこんな感じで送迎会は、お開きになったんだよな・・
日付も変わったしどうしよっかな?
家に帰るって豪語撤回!もう終電無いです・・
家までタクシーなんてもったいない!
明日のシフトも仕事入ってるし、どっかカプセルホテルで酒でも抜いて仮眠でも取ろうかな?
「駅前のカプセルに厄介になるべ・・・」
深夜でも入れる大浴場とサウナ・・何度か利用した事のある穴場だ。
お風呂から上がって、眠くなるまでまたビールを手にくつろいでいた。
そうだ!家には帰って無かったんだ。
肝心な所を思い出そうとして、今夢を見てるんだと・・・
でも・・どっちが夢なんだよ?異世界に飛ばされた夢を見てたのか・・・
「うぅ・・うん・・うぅ」
目をこすりながら見る天井は、見慣れないものだ。
「やっぱ・・夢じゃないのかよ!?」
異世界からはまだ抜け出せていないらしい。
昨日長老からの尋問が終わった後、俺はエルフの集落に不足している塩を手に入れる仕事を引き受けた。
この世界からの帰還方法が、見つからない以上何かしら情報を集めていく必要もあったし、しばらく滞在するとなると生活の手段も手に入れなければいけない。
いつまでこのエルフの集落で、お世話になる事が出来るかもわからない。
俺は人間だ。
彼らにとっては異種の存在。
自分の今の不安要素はなるべく軽くしたい。心が折れる前に・・
「着にくいな・・・」
エルフの男性用の服を、貸してもらったが着替えるのにはなかなか苦戦させられた。
「昨日は、かなりの情報収集ができたかな・?」
エルフでも魔術を極めるべく、研究しているミモザの情報力には驚いた。
俺が欲した情報・・一つはこの国の事。地理も含めて現状は重要な情報だ。
そして、この国の流通の事だけど・・こちらはエルフ達が、物欲にあんまり関心が無いため通貨の事だけしか情報は得られなかった。
この国の人間の宗教も教えてもらった。中世に近い異世界だとしたら、宗教はかなり力を持っているはずだから。
旅立つにあたって、ささやかな注文も忘れなかった。
旅の間に着る服もそうだけど・・荷馬車は馬二頭で引くタイプを注文した。
とりあえずの準備で冒険生活3日目は終わってしまった。
「何日目とか・・覚えてる間に元の世界にもどりてぇ・・」
目指す場所は首都では無かった。初めて来た日に、聞いた首都は馬でもかなりの距離があると・・おじいさんから聞いていた。それに、獰猛な肉食獣と何より・・
モンスター!!
北の果ての村が、元気が無いように感じたのだが理由の一つかも知れない。
エルフの森はかなりの広さがあり、ドワーフの集落などもあるが西の港湾都市の近くまで行けるようだ。
森は精霊の結界に守られているため、モンスターや野盗の襲撃は心配する必要はない。
エルフとドワーフ達の支配していると言うか・・隠れ住んでいる地域は思った以上に広い。
この国は、島国で北の大半を森と山脈で覆われている。ただし海は持っていない為、海産物や外国からの貿易品などは手に入らない。いきなり首都を目指すより、西の港湾都市と言うのは情報収集にはうってつけだと思われた。
「一人の時はこんなに冷静でいられるのに・・・」
元の世界で仕事をしてる時も、人前では大なり小なりいつも緊張していた。
「あがり症かぁ・・」
とりあえず当面の問題は、別にあった!
同行者のえりりん・・・
道中、間が持つか非常に不安だ。
「お待たせいたしました!えりりんさん」
「うん・・準備は出来ている・・早く乗れ!」
「あっはい!!」
早朝から出発して、到着は明日の朝。
その間に、多少は関係改善しておきたいものだ。