一日目 ここはどこだ!
お話としてはプロローグですね。
これから主人公がどう生きていくのか。
異世界だからと言って転生された人間がみんな勇者になるとはかぎりません
その時々でジョブチェンジするかもしれません。
初日はまだサラリーマンなんですけど・・
彼のスキルはまだ明らかではありません。
一日目、ここはどこだ!
「頭痛い・・怠い、まだ眠たい」
昨日は、会社ではお世話になった先輩の送別会で終電になるまでたらふく飲んだ記憶があるのだが情けない事にアパートにたどり着くまでの記憶が抜け落ちてる。
「臭う・・何の臭いだ?」
目を少し開けると、手には藁が付いてる。周りをゆっくり見渡すと、二頭の馬が見える。
「んあっ!馬??」
頭痛からパニック状態に変化はあったが眠気の方は退散してくれたようだ。
さっきまでベットにしていたであろう、藁の側に通勤に使っている鞄を手に取り馬を刺激しないようにゆっくりと小屋から出てみる。自宅の近辺には馬小屋なんてない。隣の市まで車で行けば乗馬クラブはあるけど電車の駅は無いのだ。状況が、把握出来ないまま小屋を出ると農村なのだろうか?背広についた藁を払いながら見わたすと当たり前の景色が無い事に気が付く。
「道が全く舗装されてないなんて?どんな田舎だよ、ここ?」
「それに、民家かなあれ?ログハウスという感じって言うより洋風と言うか」
北欧に旅行した事は無いが、テレビの旅番組に出てくる山岳に近い場所の草原地帯とか記憶の中の少ない情報を総動員して考える。幸いにもパニック状態からは頭の方は回復したようだ。
「時計は、朝の六時か。農家の朝は早いって言うし、ここがどこか確認して近くの交通機関でも教えてもらいますか」
ポケットから、スマホを取り出して見るが圏外の表示に肩を落とす。
「会社に遅刻の連絡も入れられないな。公衆電話なんて無いですよね・・コンビニなんて絶望的に無いですよね・・」
道らしい道は一つしかない。見晴らしが、良すぎるのか日が少し上がり始めたその時やっと人の姿を見る事が出来た。
「やばっ!口臭、えっとタブレットは確か鞄の中にっと」
昨日飲みすぎた事を、思い出し慌てて口臭予防のタブレットを二錠口にした。徐々に距離が近くなり相手の容姿がはっきりしてきた。
「立派な白鬚を蓄えたご年配の男性か・・・」
仕事モードになって相手を観察している自分に驚く。さっきまでの不安がウソみたいに消えていったのだ。
「お急ぎのところ、声をかけ申し訳ございません・・道に迷ってしまいまして、良かったらここがどこなのか教えていただけませんか?」
男に目線を合わせて気が付いた。
瞳が青い事に、まぎれもない外国の人に日本語で尋ねてしまったのだ。
外国語の語学スキルはもっていないが焦る必要はなかった。
「若いの・・どこから来なさったか知らんが、ここは北の終わりの村だ」
北野尾張村だろうか?それとも喜多野小張村だろうか?どちらにせよ聞いたことが無い地名だ。
「ではバス停とか交通機関は近くにないでしょうか?無かったらコンビニとか・・公衆電話でもいいんですが近くに・・」
「バス?聞いたことないものばかりならべられてもな・・ほれこの道を進んで行っても森の手前で道は途切れる」
「そうなんですか・・・」
「森から奥はエルフ達の国じゃ・・・悪いことは言わんよ来た道を戻るんじゃな」
エルフってゲームとかアニメとかのあのエルフ?
じいさんは、教える気ないのかな?人を担ぐにもエルフはあんまりだよ。
「では私が来た道を戻るとどこか街に出られますか?」
せめてこれくらいは教えて!お願い!
「馬でならともかく歩いてかい・・はっはっはっ」
「それなら半月も歩けば都につけるかな・・野盗や熊に化け物どもに襲われなければ」
終わった。人の善意を期待した俺がバカだった。とりあえずここを離れよう。
「ご親切に教えていただきありがとうございました。それでは失礼いたします」
一礼すると、老人も軽く会釈をして農作業だろうか?姿が徐々に離れていった。
「街灯もない、電柱もない、車も通らない」
愚痴に飽きたのもあるが、立ち止まっていても仕方がないのだ。再び歩き出すと一つ大きな疑問が生まれた。何もなさすぎるのだ。いくら田舎でも電気などの生活に必要なインフラと言えるものが全く整備されていない。今の日本じゃあり得ない事だ。
「神隠しって実話だったのかな?とにかくもう少し自分の今の状況しないと・・」
じいさんの話をマジに信じる気は無いが、景色が日本の田舎の風景とは明らかに違う。
「でも・・さっきのじいさん日本語通じたよな」
この村は農耕と畜産が主産業のようだけど、生産規模はかなり少なさそうだ。中世だとして、12世紀か13世紀あたりだろうと頭の中で勝手に整理してしまう。おそらく教会でもないと、教育を受けた人に会えないのではないかな。
「ここがエルフ達の国の入り口の森かな?」
じいさんの話を信じるとするといわゆる異世界召還でこの世界に来てしまったと思いたい。実は死んでて、異世界転生なんて話だと元いた世界には帰れる見込みが薄れてしまうから。ファンタジー異世界の情報を何でも良いから手に入れたい。言葉は都合よく通じるが、この世界の文字まで同じとは限らない。
「だいぶ陽が高くなったな。それにしてもお腹空いたな」
足場の悪い道を、歩いてお酒の酔いが醒めたのもあるが飲み会の後って無性にお腹が空くものだ。帰りにラーメンでも食べておけばよかったと、今更ながら昨日の反省。後の祭りだ。
ガサガサッ
「人間!なぜこの森に侵入した」
後ろから声をかけられてチョイビビる。気配とか感じる能力の低いのは自覚なかったな・・
とっさに両手を上げて答える。
「武器など危ないものは持ってません。わたくし、ナツキ・・ナツキ・トウヤと申します」
「こことは、無縁の異世界よりつい先ほど飛ばされて来た人間でして・・・」
何言ってんだ俺。
「ここの世界の事を少しでも教えていただきたくて、伺いました」
俺の後ろをとったエルフが、弓矢を向けながらゆっくり正面に姿を見せた。
「エルフになぜ頼る!」
来たー!!エルフ美少女来たー!!
心の中のファンタジー世界の常識ではエルフと言えば美少女と妄想してたが、今はそんな妄想に浸れる状況じゃない。まずは警戒を解いてもらわないと・・・
「私の住んでいた世界では、エルフは人間より賢いと言い伝えが残っておりまして・・こちらの世界のエルフの方々も知識に富む方達ではないかと」
まだダメか・・もういっぱいいっぱいなんだけど・・
「精霊が言うにはお前の言葉に嘘は無いようだけど」
精霊なんて見えないが・・無いです!嘘なんて無いですよ。
「お前をどうするか、判断は長老に委ねる」
「生かすか殺すかも含めて・・」
凄い物騒な事サラッと、言われても・・だがエルフの国に、領域侵犯して無事に済む法は無い様だ。
「抵抗はしません!ぜひ長老様に会わせてください!」
アポ無しで、取引の無い会社にプレゼンに行って社長に直接話を聞いてもらえるなんて皆無だ。長老と言う事は、発言力はあるはずだ。どの程度お偉いさんかは解らないが、命をチップにして勝負するしかない。今の状況を改善しないと、異世界で何もせず野垂れ死には勘弁です。
「客人ではないのだ、勘違いするなよ」
ヘタレなりに、覚悟したばかりだ。
「はい、失礼の無いように心がけます」
こうして俺の異世界生活初日はエルフに拘束される事となった。
エルフ達の集落だろうか?大勢のエルフ達に見つめられ護送されていると言っていいだろう。
牢獄の様だが、思ったよりちゃんとしている。ちゃんと寝れる場所がある。
「よそ者を野放しには出来ない」
ごもっとも。
「長老の言葉があるまで、ここに居ろ」
しまった!俺・・異世界を甘くみていた。
会えず仕舞いで、殺される可能性も考えられる。
「わ・分かりました・・・」
エルフの少女の姿が見えなくなった。俺は無駄になるかもしれないが、この世界での人生プランを考える事にした。何も考えてないと死の恐怖に怯えてそれどころじゃなくなってしまう。
まずゴール地点は当然元いた世界への帰還方法。その為には、なぜ飛ばされて来たのか?これを知ることも重要になるだろう。帰還が叶うまでの生きる手段。サラリーマンの俺は勇者でも戦士でもない。モンスターを倒したり、戦で名誉と賞金をもらうのも無理だ。中世ヨーロッパ風の異世界、当然人の命は軽いはずだ。治安もそうだが、今の現状がそれを物語ってる。
「食事だ・・」
俺をここまで連れてきた美少女エルフが食事を持ってきてくれた。
「ありがとうございます・・えっと」
まだ名前も聞いていない・・
「えりりん」
「へっ??」
「私の名前だ・・」
「あ・ありがとうございます・・えりりんさん」
油断した・・!
名前のセンスが変化球すぎて空振りだよ。
「ふん!」
動揺がばれたかな?
精霊とやらで人の心っぽいの読めそうだし。
えりりんが再び姿を消してまた考え込んでしまう。
この集落に着いた時も感じていたが、エルフ達は自然と共生して生きている種族って設定で良さそうだ。
この場所もそうだが、自然の姿をなるべく壊さず生活しているようだ。家らしき建物もなるべく自然にと言うか、自然が主であると思われる。ゲームやアニメや映画の世界と大体同じなのかな?
「保存のきくパンみたいなものかな」
えりりんの持ってきてくれた食事の献立は、小麦かそれ以外の麦類も混ざっているのか?非常に硬いパンと言うか、イスラム圏のパン類にミルクにふやかして食べる物があった記憶があるが、残念ながら付け合わせは水だけだった。
だけどこの世界に来て、初めての食事と水分補給だ。
量的には物足りないが、ありがたい。
「腕時計だけは、持っていかれなかったな」
この世界に持ち込めた鞄と、ポケットの中のスマホは没収されてしまったが、腕時計は装飾品と思われたのだろうか?時間は二十一時だ。
電気の無い世界では、朝早いだけでなく夜も寝るの早いのだろう。
自分の身の安全の保障もないのだ。眠くなるのだろうかと・・・体は疲れてるのね・・
爆睡した。
随時二日目以降のお話を載せていきます。
主人公のナツキも未来が見えてません。
彼の異世界生活に幸あらんことを!