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復讐譚には折れた剣を  作者: 中ノ森
―第5章― 涙の祝祭
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51話 波紋と共に警鐘


 武器は、手入れをしてから王宮に送ってくれるという。

 それから噂好きの貴婦人たちが集まるという小さな茶屋も教えてくれた。以前、その店の店主の姪っ子が迷子になっており、道を聞きながら送り届けたのだという。


 「デスが、その……彼女たちは若い男が珍しいようで……何か障りがあるかもしれマセン」


 これはフリードに向けた言葉だろう。緊張と、フェロニアの敬語を使い慣れていないせいで若干カタコトになっている。それから内容も気になるのだが、その貴婦人たちに何かされたことがあるのだろうか。


 「多少は問題ない。情報提供感謝する」

 「では、そこに行ってみますか?」

 「そうだな」


 ついでにエイレンの言っていた『人身売買の商人』とやらの話も聞いてみよう。流石にストレートには尋ねられないが、どこかから流れてきた人物や、子供が行方不明になった話でも良い。


 エイレンには表通りまで送ってもらった。身なりの良いフィアナたちは浮浪者の視線を集めている。二人だけならば確実に襲われていただろう。

 それが無いのは、ここにいる者たちは総じてエイレンの顔と実力を知っているからである。いくら多勢でかかったとて返り討ちに遭うと、じっと息を潜めていた。


 表通りに差し掛かり、フィアナたちは別れる。

 久々に会った師匠(尊敬している方)に改めてしっかりと頭を下げた。


 「それでは、また」

 「ああ。何かあれば言うといい。俺でも力になれることがあるかもしれない」

 「はい。ありがとうございます」


 娘が若い男二人に挟まれ、片方に頭を下げて別れている。

 エイレンが可哀想な誤解を受けそうなので、挨拶は手短に済ませた。

 





 教えて貰った茶屋は、ここからそう離れていない。

 しかし少し奥まったところにあるという。簡単な地図を書いてもらったので、それを頼りに道を進んだ。


 見えてきた建物は、こじんまりとしているが可愛らしい造りのもの。赤い煉瓦の屋根の上で風見鶏が回り、半円状の窓には色硝子がはめられていた。花壇には白く小さな花がそよそよと揺れている。昔話にでも出てきそうな店だ。


 「……あら、お客さんかい? こんなとこまで珍しいねえ」


 焦げ茶の扉を開くと、店主らしい女性が迎えてくれた。常連で集まることが殆どらしい。


 「……連れが少し疲れてしまって、休める場所を探していた」


 あらかじめ申し合わせていた理由をフリードが口にする。フィアナはぐったりしたフリをして立っていた。精神的には本当にこのくらい疲れているのだが。


 「あらあら大変。……ちょっとー! 二人分席空けてー!」


 店主が奥に声をかける。

 案内されると、四十代から五十代といった年代の奥様たちが五人ほどお茶を飲んでいた。


 「疲れちゃった? お祭りはすごい人混みだものねぇ」

 「ほらほら、座りなさいな」

 「お茶にお菓子も、好きにしていいからね」


 その厚意は有難いものだ。演技とはいえ親切には感謝を返さねばならないのだろうが、一つ言いたい。


 (何故そこを空ける)


 フィアナたちに用意された席は、奥様方の中心だった。これでは帰りに抜けるに抜けられなくて困るのではないだろうか。それに、スペースは二人分というか一人と半人分くらいなので非常に狭い。

 

 「やっだお兄さん、イイ男じゃない!」

 「目の保養ねー、うちの主人も昔は男前だったんだけど……」

 「あら、この傷は火傷かい? 折角肌が綺麗なのに、勿体無いねぇ」

 「こっちの子は恋人? 婚約者? それとも、もう結婚してるの?」


 捲し立てるように話しかけながら、ぺたぺたとフリードの腕や腰に触れている。イケメンはとりあえず触っとけという精神なのだろうか。遠慮が無い。


 「いや、彼女は従姉妹で……」

 「知ってるかい? 今年は東の大通りの店が連携しててさ」

 「恋仲ではな……」

 「恋人向けにイベントがあるらしいよ。休んだら行ってきなよ」

 「……考えておく」


 あ、諦めた。

 ぐったりした演技中で助け舟が出せないフィアナは、ただ隣に座っている他ない。


 「お嬢さんは、どの辺りに住んでいるんだい?」

 「あ、ディステルです。北の、鉱山のある町で……」

 「そりゃあ、随分遠くから来たねぇ! こんなに人がいて驚いたろ」

 「はい……なので、少し人酔いしてしまって」


 勧められた紅茶に口をつけた。薄い琥珀色をしていて、ミントの清涼感が鼻に抜ける。

 ハーブティーで少し癒されているフィアナに対し、フリードは未だに絡まれ続けていた。今度はそれぞれの主人の愚痴攻撃らしい。


 「全く、あの人はだらしなくって……どうして洗濯物をきちんと出さないのかね」

 「うちもだよ。せめて身だしなみはきちんとしてくれないかねぇ。私の方が恥ずかしいよ」

 「昔はぴしっとキメててさ、そりゃあ格好良かったよ。あんなになるなんて誰が思うもんか」

 

 正直、庶民の生活の愚痴など第一王子には理解できないだろう。頷くに頷けず、ただただ難しそうな顔をしている。


 「こらこらアンタたち、お客さんに迷惑だろ。もっと楽しい話をしとくれよ」


 見かねた店主が諌めてくれた。他の女性たちも悪いと思ったのか、決まり悪げに頭を掻いている。


 「つい癖で……悪かったね」

 「お兄さんは、なんか愚痴は無いのかい? あたしらで良かったら聞くよ」

 「そうそう。こういうのは、意外と赤の他人に話した方がスッキリするもんさ」


 その言葉にフリードは少し考えたあと、ならばと口を開いた。まさか本当に愚痴を言うわけではあるまい。何か考えがあるらしかった。


 「……強いて言うなら、職場の上司が今の王政は云々と語り出すことか」

 「あー、偉い人に言われちゃったらいちいち同意しないといけないものねぇ」

 「ちなみにどんなこと言われるの?」

 「いや、どうにもそこがはっきりしなくてな。余計に同意しづらいんだ」


 ここで、ちらりと奥様方に視線をやる。


 「貴女たちも、亭主から何か聞くことはないだろうか? もしかしたらうちの上司と同じ考えの方がいるかもしれない」


 (ああ、そう持っていくのか)


 フィアナは納得した。二人の目的は飽くまで情報収集である。ふんわりした評判はともかく、何気に具体的な話はまだ一つも聞けていない。


 「あー、あることにはあるけど……」


 少し迷った様子で一人が口を開く。


 「でも、うちの人騎士団の詰所勤めだからさぁ。お兄さんの職場は流石に違うだろ? 参考にはならないかも……」

 「いえ是非お願いします」


 食い気味に言ったのはフィアナである。しれっと「騎士団のファンなんです」と設定を後付けしておく。


 「そうかい? じゃあ話すけど……各詰所の査定に来るお役人さんがいるらしいんだけどねぇ、なんでも『城に籠ってばかりの文官は何も分かってない』っていつもプリプリさ」


 実際に勤務してみなくては分からないことは山ほどある。理論のみであれこれと口出しをされるのは不愉快だろう。今のところ、監督を務める役職は騎士団とは全く関係のない組織の者が行っているらしい。


 第三者だからこそ公正に判断を下せるという理由での人事だが、やはりある程度の内情は理解していないと話が通じないのだろう。


 「なるほど……」


 これは少し改善策を練る必要があるかもしれない。王への絶対的な忠誠を誓っている騎士団だが、所詮は人間である。少しの積み重ねで簡単に心は変わってしまう。


 世で起こる革命もきっかけは些細なことであると、王子たるフリードは重々理解していた。だからこそこうして自ら市井へ赴いているのである。

 

 「そうだ。うちは雑貨屋をやっていて国外から仕入れることも多いんだけど、表記をしっかりするように法律で決めてくれたら助かるんだけど」

 「買う側も色々と困るのよねぇ。最近外国の商人も増えてきたから余計にさ」

 「ああ、商人って言えば、あんたたち知ってる?」


 いつも通りの世間話への脱線。

 少し低められた声が、好奇心だけを乗せて言った。



 「とんでもないお金を報酬に、銀髪の子供を探してる男がいるんだってさ」

 




 

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