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復讐譚には折れた剣を  作者: 中ノ森
―第4章― マンデル祭り
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34話 第二王女殿下



 城を出てすぐに、手配されていた馬車に乗り込む。

 向かい合う形で座りながら、フィアナはヨハネにじっと観察 されているのを感じた。


 「……何か?」

 「おや、これは大変失礼いたしました、不躾に」

 「いえ、見るのが構いませんが」


 見ていて楽しいものでもないだろうに。

 そう言うと、とんでもないとヨハネは首を振る。


 「私は基本的に美しいものを見ることは好きですから」

 「色が気に入りましたか」

 「いや、雑貨じゃないんですから」


 ヨハネは苦笑する。


 「お顔立ちも美しいですよ」

 「……ありがとうございます」


 さして興味のなさそうに、フィアナは礼を言った。

 個人的には、ことある事に手間をかけさせる自分の容姿は好きではない。


 「非常に興味深いです。白子症(アルビノ)ではないんですよね?」

 「恐らく。ただ、普通の人よりは日射病などになりやすいですね」


 だが、それは日光に弱いのか単に暑さに弱いのか。


 少なくとも視覚障害の類は無く、常人より極端に光を眩しく感じたりということもないので、白子症(アルビノ)とは異なるだろうと思っている。


 「不思議ですねえ……研究対象になってくれって言われたことありません?」

 「トレボル王国で言われましたね」

 「あー、あそこは学問がさかんですからねえ。私も学者なら申込みましたよ。ご両親はどこの国の方なんですか?」

 「……分かりません」

 「おや、これは失礼いたしました」


 訳ありだと思い出したのか、ヨハネは謝った。

 お気になさらず、と色のない声でそれを受け止める。


 フィアナは既に朧になっている両親の顔を思い浮かべた。

 茶髪に鳶色の目。自分に全く似ていない顔だち。話すフェロニア語は明らかな異国訛り。


 そしてあの集落で唯一、『フェロニア王国の役人の不手際と揉み消しにより森に追われた者』でも、『異国人という理由で住民に迫害された者』でも無かった。


 彼らが何者であったのか、誰も知らないようだった。

 今となっては、確かめる術もない。

 

 (……だが、真実がどうあっても、私には関係がないな)


 少なくとも、あの頃の自分はきっと両親に愛されていることを分かっていた。


 

 「あ、そろそろ着きますね」


 城を出ていくらもせずにヨハネが声を上げた。

 訪れたことは無かったが、《アイオロス》の本拠地は王宮から随分近いようだ。


 「さあ、中へ入ってください。殿下はここにも使いを出してくださったので、準備は出来ているはずです」


 とりあえずフィアナを中に入れると、自分は仕事があるからと、ヨハネは早々に引っ込んでいった。


 その言葉通り、ヨハネの部下らしき男がフィアナを迎える。


 「ようこそいらっしゃいました。すぐに来客用の部屋にお通しします……と、言いたいところだったのですが」


 男は困ったように笑った。


 「実は、貴女が来ると知って、是非とも会いたいと熱望される方がいらっしゃいまして」

 「私に?」


 なんでまた。

 フィアナの疑問を感じとったのか、男は説明する。


 「実は今、王宮からこちらに来ている方がもうひとり……」

 「ああ……」


 フィアナのことを気に入らない大臣か誰かが運悪くここにいるのか。思わず眉間にしわを寄せる。


 「お疲れとは存じているのですが……その、言ってしまうと身分が非常に高い方で」

 「分かりました。私のことならお構いなく」


 冤罪の尋問から匿ってもらっている身だ。このくらいのことはする。


 「その方はどちらに?」

 「来賓室にいらっしゃいます。今から来ていただいても……

?」

 「承知しました」


 男はあからさまに胸をなで下ろす。

 なんだろう、自分の要求が通らないと癇癪を起こすような人物なのだろうか。


 (面倒だな……)


 いくらフィアナに辞めろと言ったところでどうしようもないというのに。

 しかし納得いかない気持ちは理解できるので、甘んじて受け入れることにする。


 「こ、ここです……開けますね」


 謎の確認をする男。まるで中にいるのが危険人物かのようだ。


 「しっ、失礼します。その、フィアナ・シルヴィアさんがご到着されました……」

 「────えっ?」


 はっきりと聞こえてきたその声。

 フィアナは目を丸くする。


 (今のは確かに……若い女性の……)


 どういうことだと首を捻った瞬間、勢いよく扉が開いた。


 「きゃあぁああ本物じゃないよくやったわ!!」

 「っ、ぐぅ、ん……!?」


 なにか弾力のあるもので鼻と口を塞がれる。

 力いっぱい抱きしめられたまま、フィアナは部屋に引きずり込まれた。


 「あ、じゃあ、自分は失礼しますー……」


 そそくさと去っていった非情な男の声が耳に入ったが、身動きが取れない。


 「ん、んんっ……!!」

 「はぁああ~久しぶりの若い女のコ……しかも小さい……可愛い……いい匂い……くんくんくんくん」


 「んんんん!?」


 危険人物だった。

 男の言動の意味がよく分かった。


 ちなみに、先程からフィアナを窒息させているのは恐らくこの女性の豊かな胸である。

 そろそろ視界の端が霞んできた。


 (身分が非常に高いんだったか……そんな女性をもし突き飛ばそうものなら私は処刑だろうか……ただ……突き飛ばさないと、ここで死ぬ気が……っ!!)


 完全に塞がれているので苦しいと訴えることも出来ない。

 そして二の腕をずっとタップしているのだが気づく素振りもない。


 「唸っちゃって可愛い……って、あらん?」


 フィアナの息を止めていることに、やっと気がついたらしい。ついでに、息の根が止まりかけていることも。


 「きゃ、ごめんなさいね」


 やっと開放された。

 肺いっぱいに空気を吸い込み、フィアナは思い切りむせた。


 「あらぁ、またやっちゃったわん。ほんとにごめんねぇ」

 「いえ、大丈夫です……っ、ごほっ」


 なんとか息を整えてから顔を上げる。

 こちらをのぞき込んでいるのは、見事な金髪に緑色の目をした二十代の女性だった。


 やや目つり目がちで、華やかな容姿をしている。

 豊満な体といい、派手な美女といった感想を抱く。


 「貴女の噂は聞いていたわ。初の女性第三騎士団員で、異例の次期団長候補で、師匠が生ける伝説でその容姿……こんな美味しいネタ、じゃなくて、印象的な子いないもの」


 途中言いかえた表現が気になるところだが、少なくとも悪意は向けられていないようだ。


 「申し訳ありません、失礼ですが、貴女は……?」


 遠慮がちにフィアナが問う。

 すると、思い出したように女性は手を叩いた。


 「あらん、私ったらすっかり忘れていたわ」


 ころころと笑い、何でもないことかのように、女性は爆弾を落とした。



 「私はエルヴィーラ・イルゼ・フェロニア。こう見えて騎士団の広報の仕事も請け負っていてねん。ここにはよく来るのよー」



 この国の名を冠する者。

 それは、王族しかいない。


 「も、しや、第二王女殿下……?」

 「そうよん」


 ばちん、とウインクをくれるエルヴィーラ。

 窒息しかけて赤くなっていたフィアナの顔色は、一気に青くなった。

 

 突き飛ばさなくて本当に良かった。


 「貴女がフリードの騎士ねえ……並んだときに映えそうねん、金と銀で」

 「は、はあ……」


 本当にこの人とフリードが血縁関係にあるのか疑わしくなるほど性格は真反対だ。

 ドアから飛び出してきたところといい、どちらかというとオルフェの姉と言われた方がしっくりくる。


 「貴女にはずっと会ってみたかったのよん、宣伝力……じゃなくて、とても人を惹きつける力がありそうだなと思ったから」


 さっきからちょいちょい言い直しているが、エルヴィーラはいつかフィアナを客寄せに使いたいようだ。


 「王宮がバタバタしててごめんなさいねぇ、貴女もとんだとばっちりにあったわね」

 「いえ、問題ありません」

 「フリードを守ってくれてありがとうね。あの子が変なものを飲まなくて済んだのは貴女のおかげよん」


 フィアナは目を瞬かせる。

 姉弟とはいえ王族ならば、大した絆もないのだと勝手に思っていたが。


 「私は騎士としての仕事をしただけですので。……大事なんですね、フリード殿下のことが」

 「弟だもの」



 エルヴィーラは慈しむように目を細め、笑った。

 

 「あの子は王の器を持っているわ。だから、私はできる限りサポートをして、あの子が才能を発揮する手助けをするのが務めだと思っているのん」

 「サポート、ですか」

 「ええ。ちゃんとお仕事してるのよん?」


 広報と言っていたか。

 騎士団に入って間もないフィアナは、あまりピンと来ない。


 「お父様は民心を掴んでいるけれど……先王は違ったでしょう? だから、王家や騎士団にあまり良いイメージを持たない人ってけっこういるのよん」


 戦を好み、民を(かえり)みなかった先王。

 年配の方だと、未だに恨みを持つ者も少なくないようだ。


 「だからねん、ちょっとでも親しんでもらえるように企画を作るのが私の仕事。最近は《アイオロス》と共同でやることも多いわねん」

 「なるほど」


 きらり、とエルヴィーラの目が光った。


 「貴女、とっても魅力的だわ」

 「え」

 「これからイロイロ協力して欲しいんだけど……いいかしらん?」

 「協力って、あの、近」

 「ありがとう、じゃあさっそく……」



 最近『自分の意思』というものが著しく軽視されている件について、訴訟を起こしたい気分だ。





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