日常的サンタ考察
日常系四コマ漫画的なの目指して書きました。
「ねぇ、サンタってすごいと思わない?」
昼食を終え微睡が襲ってくる昼休みの教室。
いつものように唐突にいきなり即話題を振ってくる級友に私は雑誌読む手を止める。
季節の話題を振ってくることができるようになったのかと私は彼女の成長を少し感じた。
「…17にもなってサンタクロース信じてるような乙女じゃないでしょアンタは。」
「ソンナコトナイヨー。サンタサン、シンジテルヨー。」
棒読み片言で舌を出す。腹立つ顔だ。
「んで、サンタクロースがどうしたの夢見る少女君。」
私が促すと、彼女はにまりと笑う。
「よくぞ聞いてくれました!昨日テレビでクリスマスの特番やっててね、そこでサンタのこともやっててすごさを今更ながらに実感したの!サンタってすごい!だって世界中の子供たちにプレゼント配ってるんだよ!!赤くてひげもじゃのおじいさんが!!!あと、トナカイに乗ってるし!シカのデッカイ奴!!角がこうミニョーンって感じでかっこいい!!!」
彼女は力説する、周知の事実と一部間違っているサンタクロース知識を。
ここまででよくわかるだろうが彼女は天然だ。アホの子だ。
天然の相手はなれていないと非常にしんどい、まあ幼馴染の私はある程度慣れているけれど。
「ところで聖ニコラオスって人知ってる?」
「ううん知らない。それでねなんでサンタが赤い服着てるかっていうと…。」
おまけに頭もそんなによくない。
実をいうと私もその番組見てたし。
サンタクロースの話の由来として聖ニコラオスについては昨日の特集でやっていたし。
歴史っぽい単語とかは記憶にないようだ。
かわいそうな聖ニコラオス。
「…ということでサンタはすごいとあらためて思ったわけですよー。」
一通り特集内容を語り終え、なぜか誇らしげ。
こんなに語る話題になるとは番組作ったスタッフも思ってはいないだろう。
「うんうんよくわかったブラボー、アンタがテレビを真剣に見ていたってことが。」
「えへへへ、サンキュー。」
彼女はグッとガッツポーズ。
天然には皮肉は通じない、身に染みてよくわかってる。
「…まあ実際サンタクロースはすごいね。」
天然はもっとすごいが、と言いたくなったが我慢する。言っても通じないから意味ないし。
「でしょー。だからアタシ、計算してみたんだ。」
「…はい?計算?」
彼女の思わぬ言葉に私は少し怪訝な声をあげる。
「うん、サンタってさ一晩で世界の子供たちにプレゼント配るわけでしょ?ということはトナカイってめっちゃ足速いんじゃないかなって。」
…さすがだ、天然の発想はこちらの想像を簡単にこえてくる。
「とりあえずサンタはトナカイに乗ってない、トナカイがひいてるソリに乗ってる。」
とりあえずおかしなところを訂正しておく。
「え、そうだけどどうかした?」
気づいてなかった、これはさすがに予想外。
「いやまあうんなんでもないよ。それで?」
「一晩ってさどれくらいかなって考えたんだけど基本子供が寝て朝起きるまでだから21時から6時くらいとして9時間でしょ。で、地球1周が大体40,000km。ということは40,000÷9で、時速4444km!なんとマッハ3.7だよ!!」
どうでもいいことをさも重要であるかのように、丸い瞳を爛々と輝かせて彼女は力説する。
正直こいつ何言ってるんだ感がすごいことになってきた。
「…パないな、サンタクロース…」
「超凄いよねーサンタ!」
私は適当な相槌を打つとどこで話を切り上げるか少し考えた。
「お二人ともどうかされました?」
私の心底どうでもいい顔かそれとも荒ぶるサンタトークに気付いたのか、不意に誰かが後ろから話しかけてきた。
振り返るとクラスの委員長が不思議そうな顔でこちらを眺めている。
「あーえーとサンタクロースについて話してた。」
「うん、マッハサンタ!」
「はぁ…?マッハ…サンタ?」
彼女の回答に委員長はさらに不思議そうな顔になる。
そりゃそうだ。
「……ということでサンタクロースがマッハで空を飛んでるという結論に至ったみたい。」
「なるほど、話はよくわかりました。」
簡単な経緯の説明に彼女はうなずく。
あまりに話が唐突過ぎて、いきなりこんな話されても混乱するだけだろうな。
実際、私は混乱したし。今はどうでもいいと思ってるけど。
「大変興味深いお話です…が、これだとサンタさんは子供にプレゼント配れないと思いますよ?」
「…へ?」
…まさか話に乗ってくるとは思ってなかった。そういやこの子も天然だった。
「できないってでういうことなの委員長!」
興奮して少し噛んでる。
「簡単なことです。地球を一周するだけでは子供たち全員にプレゼントを配るなんてとても無理だからです。考えてもみてください、世界中に子供がどれだけいるか…。例えばあなたがサンタさんだったとして子供にプレゼントを配るとしたら一人当たりどれくらい時間がかかりますか?」
「うーんえーと鍵開けて部屋に入ってプレゼントおいて鍵閉めて…」
「少なくとも一人あたり1分はかかるはずです。世界には約18億人の子供がいますからサンタさん一人では時間的にとても無理ということになります。」
「な、なるほど!じゃあいったいどうすれば…」
「単純なことです。サンタさんの数を増やせばいいのです。一人あたり1分かかるとすれば9時間で540人にプレゼントを配ることができる。日本に話を限定すると、人口のうち子供の数は1600万人ですからこのうちサンタさんがプレセントを配るような良い子の数を考えるに…仮に約1000万人とすれば、約18500人のサンタさんがいれば一晩で日本中の子供たちにプレゼントを配ることが可能になります!」
「そ、そんなに!?ということは今も日本中に18000人のサンタが潜んでいるっていうの!?」
いつになく饒舌な委員長に少し面食らったが、天然二人のサンタ話は一応の決着が出たようだ。
「こ、この数字についてどう思う?」
話を振られても正直困る。
親がサンタクロースだと考えるとなんか夢がない生々しい数字である気はするけど。
とりあえず頭に思い浮かんだことを口に出す。
「日常に潜んでるって、なんかアレだね。まるでニンジャみたいだね。」
私のこの言葉に二人の顔がみるみる潤いを増していく。
しまった。不用意だった。
「そうか、そうだねサンタはニンジャだったんだ!」
「確かに…日常にひっそりと潜み、潜入もお手の物…これは信ぴょう性が増してきました。となるとあの赤い衣装も何か特別な意味が…。」
二人はまたサンタクロースの向こう側へ行ってしまった。
白熱する二人を無視して私は再び雑誌を開く。
紙面には一面のクリスマスプレゼント特集。
私も何かプレゼントを準備しないとなー。
ニンジャなサンタクロースなら二人に何を送るだろうか。
手裏剣?煙玉?
私ならもっと素敵なものをあげられるに違いない。
こんな天然な二人も私にとっては大事な友達だから。
外を見るとチラチラと雪が降ってきていた。
ホワイトクリスマスになるといいな、寒いのは嫌だけど。