新世界
目を覚ますと、目の前に醜悪な外見をした緑色の化け物がいた。
広大な草原のなかで、突如現れた獲物を捕らえようとしている。
頭は禿げ、鋭い牙と爪をもち、筋肉が隆起した身体に無骨な棍棒をもっていて、服は腰に巻いた布だけだ。
ゲームでよくみるゴブリンと似ている。
「は?なにこれ?」
あっけにとられているおれに棍棒を振りかぶっている。
なんだかよくわからないが、当たったら不味いんだろうな。
後ろに跳ねとんて距離をおき、すぐに立ち上がる。
とりあえず話が通じる感じではないようだ。
ゴブリンは棍棒を突きだし、半身の体勢になる。
こちらからの攻撃がしにくく、相手の武器が届きやすいいい構えだ。知能がたかいのか?
「た、たすけて?」
「ガァァァァ!!」
説得を試みるが、ゴブリンは興奮状態にあるのか、咆哮をあげて全力の突きを放ってくる。
それを俺はバックステップでかわす。
すると、相手が態勢を崩したので、逃亡する。
「うわぁぁぁぁ!」
ひたすら後ろに逃げまくる。
周辺は隠れるところもないので、走りつづけるしかなかった。
ちらっと振り返ると追い掛けてはこなかった。
どうやら、筋肉ばかりの身体ではスピードは出ないようだ。
ゴブリンが追わなかった理由がわかった。
ゴブリンよりもヤバイのが進行方向にいたからだ。
その木は、意思を持っていた。
無数の枝を振り回し、寄るもの全てを薙ぎ払っていた。
そんな木が何本も群生している森の目の前に俺はいる。
周りには、木に巻き込まれるのを恐れてか、なにもいなかった。
「むしろ都合がいいな」
自分の今の状況を確認するチャンスだ。
木に巻き込まれない程度の距離で自分の格好をみる。
服は、だるだるのスウェット、走ったせいで汗が染み込んでグレーが濃くなっている。
さっきまで着ていた服だ。
その他にはなにも持っていない。
そのままの格好で異世界にでも飛ばされたのか?
「何が起こってる?夢か?」
ほっぺたをつまむ。痛い。
そして、別の理由で頭が痛くなる。
これからどうすればいいのか、誰か教えてくれ。
「そういえば、さっきの子どもはどこいった?」
最初に近くにいたのはゴブリンだけだった。
あの子どもはいなかった。奴は「いこうか」と言っていた。
本当に異世界にでも行かされたか?
目の前の木々や、さっきのゴブリンが、急速に現実味を帯びてくる。俺が異世界にいったのなら、説明がつく話だ。
「前提がありえないけどな」
とりあえず、この木の近くは安全地帯のようだ。
色々と思考するにはもってこいだ。
今の状況と解決策をここで考えることにしよう。