小話~夏とポンパドール~
最近の暑さに耐えられず書いてしまいました☆
最初に言っておきますが、番外編につき、キャラとの絡みが多くなりますが、あまり本編とは関係ありませんので、深く考えずにお読みください((((;゜Д゜)))
本編でルディー嬢が出たら、こんな話を書きたいと思ってました♪ヽ(´▽`)/
ゲームの世界も月日は巡る。もちろん四季というものも存在するわけで
「……暑い」
夏という名の地獄がやって来た。
それにしても暑い、暑すぎる。いや、原因はわかっているんだけどね。
ひんやりとした机にほっぺをくっつけながら、窓際へ視線を向けた。こんなときに窓際の席の人は大変だな~と他人事に思っていると、窓側の一番前の席、ラスくんが視界に入る。
夏服に身を包み、窓から僅かに吹き込む風に髪を揺らす彼は、この暑さを微塵も感じさせない爽やかさだった。羨ましい。
私は黒いマントの裾を掴み、じーっとそれを見つめる。
…………脱ぎたい。
そんな考えが浮かぶのも仕方がないと思う。
ジーナは肌をあまり見せない設定だったため、今の私はこの猛暑にも関わらず、冬服にストッキングに黒マントという格好。
もはやサウナだ。ジーナはなんてストイックな子だったんだろう。汗ばんだ額に長い前髪がはりついて気持ち悪い。
時間は少し経って昼休み。少しでも涼しいところを求めて教室を出た。今日は風があるから、外の方がいいかもしれない。学園内にも冷房は効いているけれど、やっぱりそういうところは人が多いから好きじゃない。
しばらく歩き回って、大きな木の下に腰を下ろした。回りを木々に囲まれているそこは日の光は届かず、そよそよと葉を揺らしながら風が木の間を抜けていく。
「ふぅん?なかなか良いところじゃない」
「なんでいるんですかルディー嬢」
当然と言うように隣に座るルディー嬢に若干煩わしさを感じないでもないが、何を言っても聞いてもらえないことはわかっている。
それよりも……。
私はルディー嬢の前髪をみつめ、呟いた。
「いいなぁ、ポンパドール」
かなり小さな声だったのに耳聡くそれを拾った彼女は
「ジーナもやりましょうよ!!」
と瞳をきらめかせて言ってきた。
「わ、私は別に…」
「お揃い…フフフッ。さぁ、顔を貸しなさい」
絶対この子、お揃いって凄く友達っぽい!!って思ってるよ。
「だから私は」
「そういえばジーナは制服も冬服よね。マントも暑苦しい。スカートだってジュリアさん並みに折っちゃえばいいのよ」
それが出来たらどんなに良いかっ!でもジーナが実は美女だなんて周囲に知られたら面倒なことになる。
「ルディー嬢、私は好きでこんな格好してるわけじゃなくて…」
「なら止めればいいじゃない」
「そんな簡単な話じゃ……って、何してるの」
私が一生懸命 説得をしようと試みていると、ルディー嬢の手が私のマントを掴んだ。
嫌な予感に汗が頬を伝うのと、ルディー嬢がニヤリと口角を上げるのは同時だった。
~目撃証言01 男子生徒Aの場合~
俺は苛立っていた。
貴族ということもあって、昔は誰もが俺の機嫌を損ねないように媚びへつらっていたというのに……何なんだこの学園は!!
完全実力主義?笑わせる。今時そんな古めかしいものが通用すると思っているのか?
あの騎士団や四銃士とかいう奴等も上から目線で鼻につく。
おまけに学業推薦とかいうくだらない制度で庶民までいる始末。こんな学園が名門だとは、世も末だな。
そんなことを考えながら早足で廊下を歩いていると、曲がり角で誰かと衝突した。俺のほうが体格が良かったおかげか、俺は多少よろけただけで済んだが……
「どこ見て歩いているんだ、気を付けろ!!」
床に尻餅をついている女子生徒を睨み付けた。この俺にぶつかるなど……ここが学園でなければ家ごと潰してやるものを。生憎、学園内で起きたトラブルを外部に持ち出すことは禁止されている。全く不便な所だ。
「ご、ごめんなさい……」
小さな声でうつ向きながら女子生徒は謝ったが、そのおどおどした態度さえ苛々を加速させる。せめて顔ぐらい見て話せないのか。
俺は文句の一つでも言ってやろうと、女子生徒の顎を掴み、無理矢理 上を向かせた。
そして、驚きに大きく見開かれた瞳と目があった瞬間
「……っ」
俺は息を飲んだ。
艶やかな黒髪、日に当たったことが無いのかというほど白い肌。薄く色付く唇。
それから、吸い込まれそうなほど美しく輝く紫の瞳。……いや、鉱物のアメジスト色と言ったほうが適切だろうか。
気付かないうちにみつめてしまっていたらしい。彼女が恥ずかしげに顔を反らしたことで、やっとその事実に気が付いた。
彼女が立ち上がる手助けをするために手を差しのべると、彼女は少し躊躇いながらも俺のに手を重ねた。
前髪はポンパドールで、この学園の白を基調とした夏服が彼女の儚げな雰囲気にとても合っている。極端に短く折られたスカートからはほっそりとした足が覗く。
こんな美少女が学園にいたのか。
この学園で美人は誰かと聞かれれば、生徒の大半はリリーク姉妹の名前をあげるだろう。
確かに二人は美人だ。それは紛れもない事実だが……。ジュリア・リリークはハイスペック過ぎて異性に思えないし、ジェシー・リリークのように明るい髪色は好きじゃない。
その点 目の前にいる彼女は、その……すごくタイプだ。
彼女の小さな手が俺の手をきゅっと握り、力を入れて立ち上がる。必然的に近くなった距離に、思わず後ずさってしまった。
そんな俺を見て困ったように眉を下げた彼女はまた「ごめんなさい…」と言ってその場から早足で立ち去ってしまった。
まるで妖精のように澄んだ儚い雰囲気から、去ったというより消えてしまったというほうがしっくりくる。
彼女がいなくなった空間には、また静かな放課後が戻ってきた。せめて名前だけでも聞くことが出来たら良かった…………いや、今の俺にはその資格すら無いな。
冷静に考えれば騎士団や四銃士が優れていることやこの学園のシステムでエリートを多数輩出できるのはわかりきっていること、俺は自分が周囲より劣っていることが許せなくて意固地になっていただけだ。これからは心を入れ替えて努力しよう。
そうしたら、また彼女に会えるだろうか?
もし恥ずかしくない自分になれていたら……名前を教えてくれるだろうか?
~目撃証言02 女子生徒Bの場合~
私は焦っていた。
美術部に所属している私。才能があったのか、これまでにいくつもの大会で賞を貰ってきた。そして近々また大会が開かれる。大人や本物の芸術家までが注目する、とても大きなものだ。
その作品提出の期限が迫っているというのに……私の目の前には真っ白なキャンバスがあるだけ。
私の作品は沢山の人に期待されている。それなのに 作品が出来上がりませんでした~ なんてシャレにならない。
あぁ、イメージ通りのモデルが見つかれば、インスピレーションも浮かんでくると思うんだけどな。
今回のお題は『女神』。だから私はこの学園で美女探しを開始した。聞き込みの結果、名前が最も多く上がったのはジュリア・リリーク。次に僅差でジェシー・リリークだった。
そこで実際に二人に会いに行ってみたけれど……何か、私のイメージと違う。
二人は明るすぎるというか、親しみやすすぎるというか。
そう、二人を太陽と例えるならば、私が求めているのは月だ。
太陽のように周りを焦がし、皆を導き照らすんじゃない。月のように静かに人々の幸せを見守る、そんな女神を私は書きたいんだ!!
他にも何人かの女性に会ってみたが、全て違う。なんかこう…ミステリアスな感じの美女はいないのか?
持っていた筆を机の上に転がし、天井を仰ぐ。放課後の校舎には夕焼けが差し込み、辺りをオレンジ色に染めていた。
もうこんな時間か。あぁ、今日も全然進まなかった。
私は虚ろな目で半開きになった美術室の扉から廊下の様子を眺めた。
そんな時だった。女神が私の元に舞い降りたのは。
小走りで美術室の前を通り過ぎて行く女子生徒。風に乗り、生き物のようにサラサラとなびく黒髪がひどく印象的だった。
「ちょっと待って!!」
気づけば座っていた椅子が倒れるのもいとわずに、廊下へ飛び出していた。
「えっ!?」
声をかけられた女子生徒が驚きにこちらを振り向く。
その瞬間、この子だ と思った。
雷に打たれたような衝撃とはまさにこのこと。彼女を見ているだけで、無限にアイディアが湧いてくるのがわかる。
「少し時間はある?」
「…………え?」
「本当にすぐ終わる!10分だけでいいから、絵のモデルになってくれない!?」
「そんな、私なんて」
謙遜して断ろうとする女の子の手をガッシリと握りしめ、「貴方しかいないの!!」と言うと、有無を言わせずに美術室へ引きずり込んだ。
せっかく見つけたんだもん、逃がしてたまるか!!
倒れた椅子を起こし、普段はあまり使っていない椅子をもう1つ、私の向かいに用意する。そこへ彼女を座らせると、私は早速筆を取った。
時間はない。浮かんだイメージの中で最も優れたものを選んで、一発で描いていく!!
「もう少し斜めを見てくれる?」
「は、はい」
「あーそっちじゃなくて、右斜め上。体は捻って、腕は高く掲げてね。足も片方は椅子に乗せて」
「えっと…こうですか?」
「そう、そのまま動かないでね」
「え、キツ……」
「喋らない」
「…はい」
不思議。あんなに頭を捻っても思いつかなかったのに、彼女を見ているだけで勝手に筆が進む。
私は確信した。間違いなく期限ギリギリに一発で描いたこの作品は、私の代表作になる。
それからの10分は凄く短く感じられた。
本当はもっと描いていたいけれど仕方ない。彼女にだって予定はあるだろうし。
「よし、もう動いて大丈夫だよ」
「っ~!!首が……」
「ご苦労様。無理な体勢を続けさせてごめんなさい。でもおかげで良いものができる」
私が断言すると、彼女は珍しい色をした瞳を細め
「お役にたてたならなによりです」
そう言って微笑みを浮かべた。
決めた。これのタイトルは『アメジストの瞳を持つ女神~静かなる微笑み~』だ。
――――――――……
「なぁ、放課後の美少女の噂しってるか?」
「えぇ……なんでも、リリーク姉妹に並ぶほどの美人なんでしょう?」
「俺も会ってみたかったな~」
冗談じゃない。あんな格好二度としない。
昨日の放課後、ルディー嬢に無理矢理着替えさせた挙げ句、奪われた冬服やマントを返してほしいと言うと、その格好で校内一周してきたら返してやると言われた。
必死に抵抗したが、相手は粘着ツンデレ。最終的に私が折れる羽目になった。
放課後なだけあって人は少なかったが、二人の人間と接触してしまった。家族以外に顔を見られるなんて、何年ぶりだろう?凄く恥ずかしかった。
やっぱり、暑いけど黒マントは落ち着く。
「おかしいなぁ~。俺は学園内の全ての女性を把握しているはずなのに、そんな美少女のデータは無いよ?」
「…副騎士団長、私に言われてもわかりませんよ」
「ん?あぁ、ごめん。独り言だから気にしないで、魔女っ子ちゃん」
何故か今、私のすぐそばに副騎士団長がいる。まぁ、私の席が廊下側の一番後ろと、入り口に近いのが悪いんだけど。男子用の夏服の前のボタンを第三ボタンくらいまで開け放った、かなりセクシーな副騎士団長が扉に体を預けながら独り言を言ってくる。風紀を取り締まる四銃士よ、これは注意しなくていいのか。
それにしても、独り言の割に声が大きい。ちらちらとこちらに視線を向けてくるし。なんなんだ、ラスくんなら前の方に居ますよ。
「そこで考えられることは二つ。1つ目はその美少女がこの学園の生徒じゃないか。でもこれの可能性は限りなく低いね。だってここのセキュリティは万全だから。つまり、必然的に2つ目の可能性が高くなっちゃうんだけど」
副騎士団長はここで一旦言葉を区切り、口元に笑みを浮かべながら目を細めて私を見た。
「2つ目は、今まで外見を隠してきた子が本来の姿を見せたか。これならセキュリティを掻い潜る必要もないし、突然放課後に現れた謎の美少女の説明も出来るよね」
……っ、これ本当に独り言!?
冷や汗が頬を伝って、予習用のノートに落ちる。さすがに鋭いな副騎士団長。でもまだ噂が私だという確証は得ていないはずだから、大丈夫。大丈夫……と信じたい。
「ねぇ、魔女っ子ちゃんはどう思う?」
「……………聞いてませんでした」
「じゃあ最初から言うね。昨日の放課後」
言わなくていいぃぃぃいいい!!!!!!
そこへ助けがやって来た。
「何してるのシュナイザ。リリークさんが困ってるじゃないか」
ラスくん!!
相変わらず彼の回りだけ気候が違うんじゃないかというほど爽やかなラスくんが助けに来てくれた。良かった、これ以上副騎士団長といたら墓穴を掘ってしまうところだったかもしれない。誘導尋問が巧い人だからな。
「やぁラス。君に書類を届けに来たんだよ」
「なら真っ直ぐに僕の所に来ればいいじゃないか」
「ラスより先に魔女っ子ちゃんが目に入ったんだ。挨拶ぐらい当然だろう?」
そんな副騎士団長の返答に苦笑しながら書類を受け取ったラスくんは、チラリと私の方を見た。
「リリークさんはいつも冬服だよね。暑くないの?」
「暑いですよ」
「じゃあ夏服を着ようよ。僕、リリークさんのマントをとった姿見てみた…」
「絶対着ません」
「………そっかぁ~」
~男子生徒Aのその後~「お嬢様方の会話」
「あの方素敵じゃないですか?」
「わかります!前は性格がちょっとアレでしたが、突然 人が変わったように優しくなりましたよね」
「えぇ、元々カッコいいですし、家柄もなかなかですし」
「騎士団や四銃士の方々は雲の上過ぎて…私は彼のほうが好きです」
「…おい、あいつは止めとけよ」
「な、なんですの突然!!」
「そうですわ!なにを根拠に」
「あいつが変わった訳、知ってるか?」
「え…?」
「"運命の人に相応しくなれるように"だってよ。惚れたところで無駄だぞ」
「そうだったんですか……それなら仕方ないですね」
「あぁ、それにしても惜しいですわね。かなりの良物件でしたのに!!」
「……(良物件って…女 怖っ!)」
~女子生徒Bのその後~「芸術家たちの会話」
「聞いたか?何でもあの絵画大会の優勝者、まだ学生らしいぞ」
「本当か?あれには大人たちも参加してるのに……コネとかでなく?」
「俺も最初はそれを疑ったんだがな……実際に見に行ったら、納得せざるを得なかったよ。それほどまでに素晴らしい作品だった」
「へぇ~俺も見に行けば良かったな」
「だな。特に中央の女神が美しい。なんでもモデルが実在するらしいが」
「本物の女神、か……もし会ったら俺も描かせてもらいてぇな」