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第1話 二年五組の男子はカオスすぎやねん

俺は高校二年生になる春休みに大阪から広島に転校した。

「さあ今日はついに転校してから初日や」

 こういうときは期待と不安と緊張が折り混ざってやってくる。

俺は校門をくぐる。

 国立狒狒日井島ひひひいじま高校。

「前から思うとったけどこの学校名『ひ』多すぎやろ。めちゃくちゃ言いにくいわ」

 俺はクラスが貼られている掲示板へ行く。聞いたところによるとこの学校では一年から二年に上がるときにクラス替えがあり、そのまま卒業するまでの二年間を過ごすそうや。つまりこのクラス分けはかなり重要になってくる。

 掲示板を見る。

「ほんで一学年、十八クラスとか多すぎやろ。Jリーグ設立できるで」

 俺は二年五組やった。


   ○


二年五組の教室。

初めてのホームルームが始まろうとしとった。

「えー……あー……はい。担任の砂ヶ浜徹すながはまとおるです。二年間面倒事起こさんように。面倒くさいから」

 いや、もうちょいやる気出そうや。仮にも担任やろ。

「じゃあ、自己紹介。出席番号一番から順に」

 出席番号一番のやつが出る。

メガネ君か。背はあんま高ないな。

阿品順平あじなじゅんぺいです。女子の人誰でもいいから付き合って下さい!」

 ……ええー!……ええー! 初っ端でこれはないやろ。ほれ女子のほとんどひいとるやないかい。ってかこいつ絶対彼女できんやろ。断言していいわ。こいつ絶対彼女できん。

 出席番号二番のやつが出る。

池面真一郎いけづらしんいちろう。ふっ今日は風が冷たいな」

 池面は髪をかき分ける仕草をする。

 えっ? ここってそういう学校? 痛いって。それは痛いって。お前たいしてイケメンちゃうやろ。かっこつけなや。

 ほんで出席番号三のやつ。さっきから見えとるで。なんで一つの席に男女二人で座ってんねん。ホームルームでいちゃつくなや。ここはアメリカか。いや、欧米か。ってか先生も注意しーや。

「井ノ口堅太郎いのくちけんたろう。ハニー愛してるよ」

部坂有希へさかゆき。私もよ。ダーリン」

 いや、一緒くたに自己紹介するんかい。女子はまだやろ。順番守れや。

丑田貴志うしだたかしです。皆さん毎日十キロは走りましょう」

 意識高い! 凡人はそんな走らんでえーやろ。そんで駆け足のポーズで席を行ったり来たりすなや。

 次は俺か。

似非三重泰平えせみえたいへいです。こん春に転校してきました。皆仲良くしたってーな」

 よしこんなもんやろ……反応うっす! そりゃおもろいことゆーてへんけど。今までのやつが濃すぎやねん。

 六番。

江波明峰えばあきお! 海賊王に俺はなる!」

 江波は両手をぐーで突き上げる。

 一周回ってすごい。そのテンプレートを何ももじることなくゆーか? 今どきの中二でも言わへんで。

 七番。

大柿敬史おおがきたかふみ。教室でギャーギャー騒ぐなよ」

 大柿はにらみをきかせよった。

 コワっ! 自己紹介でいきなり言うことちゃうやろ。

ってかもう十分いろんな意味でうるさいやろ。こいつは怒らせんようにしよ。

 八番。

「ととっととん、とん、とんとんとん(押籠亮おしごめりょうです。よろしく)」

 教卓を叩いただけやった。

 しゃべろう。声を口から出そう。あとヘッドフォンは外そう。失礼やで? 色々と。

 九番。

「えーー、めんどくさいなあ。尾野道おのみちです。よろしく」

 名前も言えや。自分の名前言うくらい面倒くさがるなや。それと担任とキャラ被っとるで。ってか、「めんどくさいなあ」ゆーた方が結局文字数増えて面倒くさいやんけ。

 この後も自己紹介は続いてった。


   ○


 ホームルームが終わり休憩時間。

 俺は話しかけ友達になろうとする人を決めとった。出席番号十二番、百々村登夢どどむらとむと十三番、葉田村佳秀はたむらよしひで。彼らの自己紹介は極めて普通やった。ザ・イントロダクションやった。

 百々村は、「百々村登夢です。個性的なメンバーが多いですねえ。楽しみです」。そしてこのクラス一番のイケメン。

葉田村は、「葉田村佳秀です。二年間楽しくやれたらと思っています」。優しそうな顔。

ってか、この二人以外会話が成立しいひんやろ……。

百々村と葉田村はちょうど二人でおしゃべりしているところだ。

「使い方まちがっとるかもしれへんけど、鉄は熱いうちに打てや。はよしゃべりに行こ」

 と思って、席から立ち上がった瞬間やった。後ろから服を引っ張られて席へ戻されよった。

「なあ、お前名探偵コナンの服部に憧れているんだろ?」

 出席番号六。江波~~! 邪魔しよって。それに初対面で後ろから服引っ張るって失礼やろ。

「なんでや?」

「えっ? だってお前口癖が一緒じゃ━━」

「これは大阪弁や! 服部だけが使っとるもんじゃないわ!」

 なんやこいつアホかいな。大阪弁も知らんのか。よう入試通ったわ。

「ほなこれで」と別れを告げようとしたが、

「俺にもその『大阪弁』教えてくれよ」

 江波は俺を離さなかった。

「それは無理や。大阪に住むとかせんとな」

「なるほど。じゃあ大阪に行けばいいんだな」

「おお。行き行き。そして二度と戻って……」

 と言いかけた頃には江波は席を立ち教室から飛び出してった。

 なんや、本間に行く気なんかいな。まあ、これでうるさい奴が一人おらんなったわ。

「さて」

 気を取り直してあの二人んところ行こと思うた瞬間、

「とぅぺっぺーい、とぅぺっぺーい。よう」

 俺の前に陽気な奴が現れた。

 出席番号十一。嶽本たけもと~~!

 こいつの自己紹介は次のようなもんやった。


嶽本春太たけもとしゅんたでっす。親のすねをかじっていこう」

 なんでや! 自己紹介ちゃうやろ! ってか早くもニート宣言か。意識低いわ。こいつ何のために高校に来たんや。

 

「なんや嶽本」

 俺は感情を抑えて訊ねたった。

「マインスイーパーで自己ベスト出した」

 嶽本はガッツポーズして言う。

 マインスイーパー……ってあれか! あのパソコン中入っとるゲーム。気抜かしたら一発でおじゃんになるシビアなやつ。

学校でやんなや。

ってか……。

「お前どこにパソコンあんねん?」

「ああ、御幸みゆきに貸してもらった」

 出席番号十八。御幸~~。

 御幸の自己紹介は次のようなものだった。


「(パソコンで)御幸弘紀みゆきこうきだおっ。みんな~~、よろしくなんだからねっ」

 お前も押籠と一緒で自分でしゃべれや。パソコンにしゃべらすな。ほんで声優さんの悪用すなや。なんでツンデレなんや。まあ、嫌いじゃないけど。


俺は御幸の席まで行く。

「御幸。お前も遊ぶ奴にパソコン貸すなや」

 御幸はなにやら必死にマウスをクリックしている。俺はパソコンを覗き込んだ。

 ソリティアをやっていた。

「っっっっっっっっつ!」

 言葉にならない。

よし、もう無視しよ。ツッコムんも疲れたわ。

 次こそは!

「んっ、どぅくどぅくどぅくどぅくどぅく、とぅーる。はいっ!」

 いやーっ。いやーっ。邪魔すなー。

そして、嶽本といい、お前といい、自分自身の登場曲があるんかいな。

 出席番号十七。南岩国みなみいわくに~~。

 南岩国の自己紹介は次のようなものだった。

 さっきから、自己紹介がパロメーターみたいになっとるわ。


南岩国大地みなみいわくにだいちです。人生には三つの道があります。一つ目は坂道。二つ目はいばら道。そして、三つ目は速水もこ道!」

 はい、キターー。お調子者キターー。どっから突っ込んでええか分からんわ。けどまあ、王道の笑いで勝負する姿勢はまだましや。ってかなんで俺上から目線なんねん。


「……」

 無視しよ。

 俺は南岩国の横を通り過ぎようとする。

「おいおいおい。ちょっと待て、泰平よ」

 からまれた。最悪や。そんでいきなりファーストネームかいな。

「俺とお笑いの勝負をしないか? お前の出身は大阪だろ。一度本場のやつと勝負がしたかったんだ」

 南岩国は俺を指さして言った。

 なんや。えらいお笑いの意識高いやんけ。

「悪いな今用事あんねん」

 俺は断った。

「なんだ逃げるのか」

 南岩国が「ふっ」と笑う。

無視しようかと思うとったけど、お笑い勝負で逃げたら関西人の名が廃るで。そないこと言われたら、

「よーし、わかった。ええやろ。で、勝負はどないなようにすんねん?」

 俺は南岩国の軽い挑発に乗ってやった。

「うむ。あるお題を決め、それに関するお笑いをする。それを人に評価してもらうんだ。どっちが面白かったかをな」

「けど他人からの評価やと不公平やろ?」

「その点は心配するな。……おーい、高原たかはら

 南岩国の呼び掛けに気付いた高原がこっちにやってくる。

 高原笙平たかはらしょうへい。出席番号十。

 

「高原笙平です。副生徒会長補佐をやっております」


 数少ないクラスの常識人で、百々村や葉田村と同様、俺的友達候補になろうとしとった。でも、副生徒会長の鏡山嶋かがみやましまの自己紹介が終わった後、「素晴らしいです。会長!」と一人スタンディングオベーションをしているのを見てやめることにした。要はこいつ副会長に従順しとる。

「どうした?」

 高原が感情の籠ってない言い方をする。

「俺と泰平が今からお笑い勝負するからその審判をやってくれ」

「……それはなにか意義があるのか?」

「俺は前から、一度お笑いで関西人と一戦を交えたいと思っていた。それを叶えさせてくれ!」

「それは学業にプラスになる行為なのか? 生徒会の一員としては動くことはできないな」

 高原は承諾しない。

 こいつ堅っ! 頭かっちかっちやな。

「そこをなんとか! 頼む!」

「いいや駄目━━」

「面白そうじゃない。いいわよ。やりなさい」

 高原の声が女子の声に遮られた。

出席番号二十三。副生徒会長、鑑山嶋やった。

「会長。ですが……」

「笙平。生徒の希望に応えるのも生徒会の役目よ。生徒あっての生徒会だってことを忘れないように」

 鑑山は高原にそう諭した。

 かっこええ! 鑑山ごっつかっこええやん!

「分かりました。会長がそう言うのであれば」

 高原は了承した。

「準備が必要だ。少し待ってくれ。審査は生徒会公職選挙法に則って行う。審査員は陪審員制でこのクラスの中から無作為に選ぶことにしよう……」

 その後も高原の説明は続いた。

 せやから堅い! 頭の体操やっとけや。

 高原の説明が終わり、

「よし。じゃあ後で! 逃げるなよ」

 と、南岩国は去っていった。

 ……あかん! 休憩時間が終わる。はよ二人んとこ行かんと。

 そう思い一歩踏み出した瞬間、「ガラガラガラ!」と勢いよく教室の扉が開いた。

「おいっ泰平! 大阪ってどう行くんだ?」

 江波が帰ってきた。

 帰ってくんなや。

ってか今まで本気で大阪行こうとしとったんかいな。

「もうええわ。大阪弁今度教えたるわ」

「本当か!」

「ああ、せやけど今度やぞ。今度」

 まあ、いつになるんか分からんけどな。ほっといたらこいつもそのうち忘れるやろ。アホやろし。

「さて……」

 キーンコーンカーンコーン。

チャイム音。

 あかん鳴ってもーた! 結局二人としゃべれんかったやないか。あいつらーー。

 ……でもまあ、運よく次は教科書給付の時間や。その時にしゃべることができる。


   ○


 教科書給付は自分が選択している科目の教科書を各教室を廻って取りに行くというものや。

「ええー、各々適当に教科書とってくるように。以上」

 砂ヶ浜先生がだるそうに説明する。

 せやからやるき出せや。こういうのは混雑せんように、各クラス最初に行く場所決めとるはずやろ。それを説明しーや。

 結局ぞろぞろと生徒が動き出した。

 俺は百々村と葉田村のところへ行く。

近くまで行き、「あの━━」といった瞬間やった。

 目の前を矢が通り過ぎた。

矢はそのまま教室の後ろの黒板に刺さる。

……はい?

「わりぃわりぃ。えーと……似非三重君だっけ」

 出席番号十四、仏壇潤ぶつだんじゅん


「仏壇潤だぜ。みんな! 俺のことは『ぶつじゅん』と呼んでくれっ!」

 なに「ピカチュウゲットだぜ」みたいに、「仏壇潤だぜ」言うとんねん。そんで「まつじゅん」みたいに「ぶつじゅん」やねん。絶対そう呼んでやらんからな。


「なんで教室で弓打っとんねん! 危ないやろ! そして黒板にチョークで的作んなや! 黒板に穴あいたやないか!」

 俺は必死に抗議する。

「おいおい泰平。『弓を打つ』ってのは『弓を作る』って意味だぜ? 正しくは『弓を引く』。ドーユーアンダースタンド?」

 うっざ! ごっさうっざ! ええやんけそれくらい。それより教室でアーチェリーやる方がどうかしとるわ。

「おっ! 面白そうなことしとるじゃん。俺も混ぜろよ」

「俺も俺も」

「じゃあ俺も」

 クラスの男子の何人かが群がっていった。

 アカン。駄目やこいつら。

 俺が呆れとると、葉田村が「あのう……」と言ってきた。

 そのとき、男子が口を揃えて「あっ」と言うのが聞こえる。

 次の瞬間パリーンと音がした。音のあった方を見ると、教室の後ろに置いてあった花瓶が割れとった。

 しばらくの沈黙の後、大騒ぎになる。「お前の所為だろ」、「いやお前の指示が悪い」、「弓の所有者であるぶつじゅんが悪い」、「それはおかしい」などと責任のなすりつけが始まった。

 いや、どう考えても弓引いた奴が悪いやろ。

 あまりの大騒ぎやったさかい、自分の席で寝ていた大柿が目を覚まし、ゆら~と立ち上がった。

 まずい!

「てめーらぎゃんぎゃんうるせーんだよ!」

 お怒りのようやった。

「連帯責任だ。今ここにいる全員島流しにしてやる!」

 大柿はそう言ってどーっと駆け出す。

 皆が「わー」と一斉に逃げ出す。

 俺と百々村、葉田村も急いで逃げだした。

 トホホ。


   ○


 いくらか走ったところで、膝に手をつき休憩する。

 ゼーハーゼーハーしていると後ろから肩を叩かれた。

 葉田村やった。葉田村は肩で息をしながら、

「大変だったね」

 と笑った。

「さっき僕らに話しかけようとしたでしょ?」

 葉田村が続けて訊ねてきた。

「せや。百々村はどないしたん?」

「途中ではぐれちゃったみたい。彼は教室から出ちゃいけなかったのに」

「なんでや?」

「彼イケメンでしょ?」

「ああイケメンやな。かなりの」

「だから他のクラスにファンクラブがあるんだ。うちのクラスの女子はいないけど。教科書給付のときって他のクラスの人とも会うことになるじゃない? するとファンの子たちが詰め掛けて大騒ぎになるんだ」

 今どきファンクラブなんてあるんかいな!

「彼の分の教科書は僕が代わりにもらいに行く予定だったんだけどね。彼が心配だよ」

 そうやったんか。しかし、こいついいやっちゃな。

「それよりさっき話しかけようとしてきたのは何だったの?」

「せや。なんかうちのクラスけったいな奴ばっかりやん? せやからあんさんらみたいなええ人と友達になりたくてな」

 やっと言うことができたわ。本間疲れたで。長年好きやった人に告白した気分みたいやわ。

 葉田村は「ははっ」と笑い、「もちろんいいよ」と言った。そして右手を差し出してくる。握手を求めているようやった。

 俺はそれに応えようとする……が、同時に葉田村が倒れこんでくる。

「!! どうした?」

「ごめん。なんかちょっと貧血になったみたい」

「あかーん! 頑張りーや! 百々村探したらんと」

「うん。泰平君悪いけど僕の代わりに━━」

 葉田村の声からどんどん生気がなくなる。

「百々村君を……たの……むよ」

 そう言って葉田村は気を失った。

「あかーん!」

 二年五組のけったいな野郎どもによって犠牲者が出てしまった。

 こうして初日は混沌カオスのまま終焉を迎えた。

 百々村がファンの女の子たちによってもみくちゃにされ、犠牲者第二号になってしまったことは言うまでもない。



































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