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4. ガラスの手錠

「どういう事なんだろうな」


そう言ってカインは重くなった右手を持ち上げてその人物を見上げた。目覚めた自分がまず気がついたのは白いベッドと、そして右手に感じた違和感からだった。持ち上げた途端に何も無いその手首からガラスが互いにぶつかりながら擦れ合う音が鳴る。その視線の先には長い髪をたなびかせ、大きな瞳を揺らす女がにっこりと見下ろしていた。


「アンナ」


アンナは、ベッドサイドに腰掛けると不貞腐れた様につっけんどんな物言いで言って返す。


「…警察の判断よ。貴方に事件を解決してほしいけれど一人では動かせられないから、と言うのがその言い分。私はあくまでもアドバイザーだしね」

「…その割には特注の鎖を使っているみたいだな」

「文句言わないで欲しいわ。それが精一杯の譲歩だったのよ」

「……オギがそう言ったのか? オギはどうした」

「知らない」


即座に答えた彼女の言い方にすぐさま違和感を覚え、ギロリと睨みかえすが、アンナはその表情を崩すことなくこちらを見返してくるだけだった。これ以上は何を言っても聞かないだろう。彼女は隠す事が得意だった。

ため息をついて再びベッドの方に視線を戻す。その間もアンナの視線がずっとこちらを向いている事は何となく分かっていたが敢えて無視を決め込んでいた。今思う事は唯一つだ。

(―……傷つけた)

大事だと言っていた、愛していると言った自分だけのお月様を自分の手で穢して壊した。自分の手で手放した。思い出して、じくりと己の裡に眠る傷が血を流し、傷みを思い出させていく。人で在る事など当に忘れた。故にどうすればいいのか未だに分からない。ただ、言いたくなかった。言えなかった。故に傷つけた。それくらいは分かっている。

(しばらく彼女と居て、彼女と暮らして、どうすればいいか分からない? )

それはつまり、彼女を分かったふりをして全然分かっていなかったという事なのだろうか。繋がった、と思った心は実は偽物だった? 幾度も己に問いかけても分からない事だらけだった。


「…カイン、これ見て」


思いに耽っていたカインにアンナが小型PCを目の前に差し出す。それを一瞥し、カインは怪訝そうにその顔をアンナに向けた。アンナはなぁにその顔、とくすりと苦笑した。


「貴方に追って欲しい事件の概要。貴方が今出来るのはこれなの。分かってね。…まだ身体が本調子でないでしょ? 後何かして欲しい事はある?」

「俺を一人にするだけでいい」


瞬間、その間に冷たい空気が流れ、沈黙が訪れた。しばらくアンナはその空気の中で沈黙を守った後、分かった、と言って静かに室内を後にした。

それを見送って、カインは再びPCへと視線を向けて羅列された文字を読み始めた。


―今更媚びてやるつもりなど、毛頭無かった。





長らく息をひそめてました。すみませぬ。

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