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21.腹の探り合い、罪人は名乗り出ろ。


「それでは、皆さんお集まりですね」


 朝に集まったリビングで死者以外を覗く全員が集まった所で、主人の席に着席した者とら――ルが手を組んだまま静かに切り出した。

 こちらから見た彼の左手に弟のロイが座り、ロイの隣にルナ自身が座る。右手にエルフィナン、その隣、ルナの前にリシアスが座った形になる。

シャトラールはその全員に視線を向けた後、シャトラールは更に静かに話を続けた。


「…皆様にお聞きするのは大変苦しい事ではあります。しかしいずれお聞きせねば、余計な混乱を招きましょう。今や口無き骸に成り果てたグローカスが死した時―皆様は何処で、何をしておられましたのか」

「24:00くらいだろ? 僕は眠れなくてメイドにワインを頼んでたよ。誰が持ってきたのかは忘れたけれど、メイド達に聞いて貰えば分かるんじゃない」

「取ってつけた様なアリバイだね」


 真っ先にアリバイを述べたリシアスに、無表情にそう口にしたのはロイだった。据わった眼つきが闇を纏った様などす黒さを放つ。


「…どういう意味だい、人魚の弟君」


声音こそは明るいものの、感情はない。それを受け止めるだけでも慄いてしまいそうなのだが、この若き青年はそんな事すらも平気で受け止めて返していた。


「さあ…」

「ロイ、この集まりは争う為の物ではないのだよ、聡いお前なら分かるだろう」


 シャトラールがたしなめるように弟を制するが、ロイは反論もせず己の席に身を沈めたまま黙しただけだった。それを仕方ないと言った風にため息をつくと、シャトラールは更に視線を今度はエルフィナンに向けた。向けられた先の岩のごとく腕を組み腰を落ちつけた中年の男は、しばしの沈黙を要した後に重々しく口を開く。


「自分は1人部屋に居った。証人もおらぬ、何せ眠りについていたからな。これでよろしいか、マーフォーク家の当主よ」

「結構です、王」


 決まり事のよろしくシャトラールは作られた微笑みで返すと、そのまま視線をルナに向けた。しかしエルフィナンに問いが投げられている間ルナ自身はずっと昨日の事を思い出していたのだが、全く記憶が出てこないのだ。確かシャトラールが部屋まで着いてきてくれて、ネグリジェを用意してくれて、それから紅茶を用意してくれて…そこから先の記憶がない。

 それがいつだったのかも思い出せない。そして自分とシャトラールが共に居たと言う事は、あまり…言えない。シャトラールの視線がずっとこちらを、逸らすことなく向けられている。じっくりと時間を取り、溜めるように口を開いた。


「……私も、エルフィナン様と同じです。眠りについていたので、証人も、アリバイもありません」

「…ありがとうございます。ロイ、お前はどうだね」


 最後にロイの方に問いかけると、ロイはむっつりとした表情のまま不貞腐れた様に呟いた。


「僕もその時間は寝ていたよ。いつもそうさ、アリバイもないし、証人もいない」

「そうか、分かった。…それではアリバイのあるリシアスに関しては早速裏を取りましょう。それで少し貴方も安心するでしょう、リシアス」

「そうだね、そうしてくれる?」


 それからシャトラールは傍らに控えていた執事にその旨を伝えると、老執事は恭しく腰を追ってから静かに部屋から退出した。

 それを見送って、シャトラールは再び皆に視線を送ると、ニコリとだが申し訳なさそうに口元に笑みを含めて言った。


「さて。残りの皆様に関しては追々その時間の整理を致しましょう。それから…皆様のお部屋は今使用人たちに調べさせて頂いております。あれからエルフィナン王にもご協力頂いた結果、グローカスからは少々の毒物が見受けられました。毒といっても身体と意識の自由を軽く奪う程度の物でしたが、彼にとどめを刺しやすくはなっていたでしょう。そうなると、彼を殺めるのに男も女も関係は無くなります。これが何を意味するのかは皆様、もうお分かりでしょう」

「……それでもせめて前もって何か言っておくってのが礼儀じゃないのかいシャトラール」


 やはり機嫌が悪くなったリシアスが低く呻くが、シャトラールはすみませんでした、と困った様に苦笑してリシアスを見つめた。


「前もって言ってしまっては、愚かなグローカスに仕掛けた毒物を隠されてしまうかもしれぬであろう。犯人扱いをされたくなければここは黙っておけ、リシアス」

 

 相変わらずむっつりと眉根を寄せた表情でエルフィナンが彼を諌める。エルフィナンの言葉に彼も理解はしていたのか、そのまま押し黙ってしまった。


「皆様に働く数々のご無礼、どうぞ平にお許し頂きますよう。今回は想定外の事態故、この様な事を取らせて頂きました。これ以上のご無礼は働かぬ様に、皆様が此処に居られる期間は、誠心誠意尽くさせて頂きますので…」

「…良い。皆愚かではないのだ。それよりもグローカスを殺めた咎人を捕まえるのが先であろうが」

「何から何までお心遣い感謝致します、エルフィナン王」

「…僕だってみすみす死にたくはないからね。でももうこれ以上は止めておくれよ。それと、結果は必ず此処にいる皆に伝える様に」

「分かっていますよリシアス。それがせめてもの礼儀ですから」


 それから彼はルナの方に向き直るとニコリと微笑んで言った。


「大丈夫ですよ。貴女のお部屋はメイドに調べさせて頂いています。ご安心を」

「ええ、それに関しては心配していません」

「……貴女は本当に聡明だ」


 そう言ってシャトラールは嬉しそうにそのベイビーブルーの目を細める。それを隣に座る弟のロイが表情の無い瞳で見つめていた。

 しばらくして、空気が抜ける様な音と共に部屋の扉が開かれ、先程退出したあの老執事が腰を折って姿を現し静かに主であるシャトラールの傍らに控えると、皺だらけの手を口元に当ててシャトラールの耳元に何かを囁いた。それを聞き届けてシャトラールが応えるように一言囁くと、老執事はまた腰を折って彼の後ろ手に控える。

 

「…先程、皆様のお部屋を調べさせて頂きました結果が出ました。グローカスを死へと誘った毒物などは発見されませんでした。皆様には深くお詫び申し上げます…」

「結果が良ければそれに越した事は無い。表を上げよシャトラール」

「兄さん。もういいだろ。どうあれ皆の部屋から毒物は見つからなかった。それでいいじゃないか」

「シャトラール様…」


皆に向かいしばらく頭を垂れていたシャトラールは、ややあってゆっくりと頭をあげるとホッとしたようにフワリと微笑みを浮かべて微笑んだ。その笑みは酷く優しく、少し疲れの様なものが見えていた。


「…取りあえずの結果が出ました所で、皆様には一旦お部屋にお戻りいただく事を許可致します。本来ならば皆一緒に固まっているのが得策なのでしょうが、皆様の心労を思いますと長期に渡る滞在には不向きと思われます。警備を更に強化し、システムも整い直しました。

皆様にはお部屋の担当に1人使用人をつけさせて頂きます。一時の安堵にしかすぎないのでしょうが、今はお疲れを癒して下さい」




推理とはなんだったのか、と思わせるくらいそんな要素はないです。

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