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16.眠り付いた者が呼び起こす戦慄の朝

翌朝慌ただしい物音でルナは目が覚めた。昨夜の事ははっきりと覚えていても、いつベッドに入ったのかまで覚えていない。寝ぼけた頭でゆっくりとベッドから身を起こすと、物音の激しくなっている扉の方にぼんやりと目を向ける。


「…何…?」


いぶかしんで眉根を寄せそっと足を地に付けて立ち上がると、淡い蒼のネグリジェが重力に従ってストンと足にまとわりつく。すると間もなくして扉がトントントン! と激しく叩かれ、弱々しいメイドの声が扉越しに聞こえてきた。


「ルナ様、ルナ様。お目覚めていらっしゃいますか?! 朝早くから申し訳ございません…!」

「…何か…あったのですか?!」


部屋の中に蒼い顔をして飛び込んできたただならぬ彼女の様子に、ルナは即座に何かが起こったと判断し、切羽詰まっている彼女の肩を掴んでなだめ、落ち着いて、と声をかけた。青白い表情のメイドは2.3度深呼吸をし、震える声をその唇から零した。


「…グローカス様……が…グローカス様が…!!」

「落ち着いて下さい…グローカス様がどうしたのですか…!」


メイドの震えは一向に止まらず彼女はうわ言のようにグローカスの名を呟くばかりだ。ルナは彼女を部屋のアールヌーヴォー式のチェアに座らせ、上に黒のニットカーディガンを羽織って外に飛び出した。廊下に出ると他の使用人たちがバタバタと慌ただしく動き、その顔は総じて青ざめている。その間をかいくぐりリビングルームに駆け込むとそこには少し青い顔のロイとエルフィナン、そして執事が勢ぞろいしていた。視線が一斉に此方に向くと、彼らはああ、とため息のような声をもらす。


「ルナ…」


一番初めにこちらを呼んだのはロイだった。プラチナブロンドの髪にアクアマリンの瞳がどことなく疲れているように見える。透きとおる様な白磁の肌は、青白さも加わって肌の奥までも見えそうだ。彼はそのままルナの傍までやってくると、震える両手を彼女に伸ばした。


「ロイ…一体何があったのですか…?!」


ロイはルナの腕にすがりつくと哀しげな瞳でその唇を震わせた。


「…グローカスが……死んだ…」

「な…ん…!?」

「ベッドの上で、部屋の机の上にあったペーパーナイフで一突きだ。追い詰められて刺されたか、それともクスリを飲まされて無抵抗にやられたか…調べないと何とも言えんが」


引き継ぐように後ろからエルフィナンがロイの後ろに立ち無表情で後を続けた。反応する様にルナは身を翻して扉の前に向かおうとすると、後ろからリシアスがそれを柔らかな、しかし強みのある声音で制す。


「やめときなよ。女の子には少々キツイ現場だ…正直僕はお勧めしない」

「でもっ…」

「それに、この敷地内で殺人事件が起こったのは、どういう事を意味するのか。此処に呼び寄せられるくらいの器量を持つ貴女なら分かるよね」

「ぐっ…」


他でもない、一般人であるリシアスにもっともな問いを投げられて思わず言葉に詰まる。限られた者しか入る事を許されない敷地。現代の技術とアナログを組み合わせた厳重なるセキュリティ。それは部外者の侵入を決して許さない。それが意味する所は―


「部外者の侵入を許さないと言う事は、此処に居るぼくら全員が加害者に成り得ると言う事だ。故に各々の勝手な行動は今を持って許されなくなった」

「その通りだ」


ルナの後ろの方の扉からやってきたのは、ライトブルーのYシャツに紺色のパンツのシャトラールの姿だった。その表情はやはり疲れ切っていて覇気がなく、目の下にはうっすらと隈が見える。あまり寝ていないらしかった。


「…シャトラール様!」

「兄さん。どうするの…?」


ロイの力無い問答に、シャトラールは一つ深いため息をついた後、前髪を右手で掻きあげ、頭上で止めてから決意の様に呟いた。


「…警察は、呼ばない。この事は内密に運ぶ事とする」

「そんな! 人が1人死んでいるんですよ!」

「ふん…」


ルナの悲痛な叫びがむなしく響く中、シャトラールの視線が静かにエルフィナンに向くと、エルフィナンが彼の前にやって来てから冷然とした態度で口を開く。


「私に検死をやれとでも申すか、シャトラール」

「…御願致します、妖精王。貴方にしか頼めない。此処の医者はあまり…詳しくないから」

「……だから隙をつかれたのだ」

「面目ない」


はは、と力無く彼が笑うと、エルフィナンは面白くなさそうにまたフン、とため息をついて彼から視線と身体を逸らし、扉へと向かった。リシアスがその背に声をかける。


「ねえ王。今言った事もう忘れたの」

「忘れる訳無かろう。これから現場で検死を行う。お前たちもくるがいい。今更避けた所で、いずれ残酷な現実から目を逸らせなくなる。なら今から見ておいた方がいい」


そう言って彼は最後にルナの方を見つめた。


「お前も来い。どうせ殺人の罪を着せられるくらいなら、あがくだけあがいた方が得だ。そうだろう、女神」


Yes以外の言葉なんて今の自分には無かった。





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