ベタだな・・。
俺はあるだけの式札を持って外に出た。
唯単に遅れてるだけならいいが、神夜は案外几帳面だ。
火家から1時間もかからない俺の家に来るのに2時間もかかるのなら、メールの1通でも入れてくるだろう。つまりは、メールなんかも出来ない事態に陥ってるかもしれないという訳で・・。
心配は・・人間だな。
正直、物の怪相手に神夜がひけをとる事は無い。
まあ・・九十九神、しかも九尾の狐レベルの相手だとわからないが・・。
この辺にそんなのがいたら、鎌倉の陰陽師は全滅してる。
という事は、式神の力を簡単に使えない相手に捕まっている可能性が高い。
ナンパか?後は・・。
家の近所のコインパーキングで男女の言い争う声が聞こえた。
やっぱり・・。
女の声は神夜だった。「困りますわ」「離して下さい」
あー・・ベタベタの展開だな・・
「悠真?なんであんな分家次男がいいんだ!」「鎌倉の陰陽師っていったら、本家の俺だろ?」
アイツか・・もしかしたら、とは思ったが。
コインパーキングに入る。
「止めろよ!晃」
加茂晃。本家の次男で、神夜の相手候補の1人に一時期名前が挙がったヤツだ。
どうも、ガキの頃に神夜に一目ぼれしたらしく、今だにしつこく言い寄ってるらしい。
まあ、自分で神夜の為に命を懸けてもいいって言ってるんだから、俺よりはよっぽど相応しいとは思うが・・・
「やり方が気に入らねえんだよ!昔っからさ!」
いつも、こうやって人気の無い所に神夜を無理矢理連れ込んでは口説く。
人間相手にカグツチを出せないとわかってるからだ。
切れたら出すけどな・・。それでもなぜか、嘘予知に引っかかる相手にしか出さないんだよな。
まあ、神夜なりに気を許してる相手って事なんだろう。
「分家次男か・・。お前まだ、神夜に付きまとってフィアンセ気取りか?」
「はあああ。どっちが付きまとってるんだよ。嫌がってるだろ神夜。いい加減気づけよ」
ほら・・もう、涙目になってるだろ?
「悠真様!!」
神夜の腕をがっちり掴んで離さない晃にスゲー腹が立って、突進する。
その勢いのまま式札を晃に突きつけた。
陰陽師は殴り合いはしない。術でぶっとばす。
「離せよ。神夜をさ・・。本家次男さんよ」
「相変わらず年下のくせに生意気だな。お前・・俺に勝てるとでも思ってる訳?」
さあ??それは知らない。昔は勝てなかったかな?
晃も式札を取り出して、俺に突きつける。
もういつでも術を発動出き・・「お止め下さい!2人とも!このような場所で何をなさいますか!!」
はあああ・・。お前にだけは言われたくねえよ。
「だってよ。晃?どうするんだ?まだお姫様をかけて戦う・・と」
俺はどっちでもいいけどな。決して神夜を奪われたくないとかではない。意地だ。
・・・・
「今日は、これで勘弁してやるよ悠真。神夜に見られたくないだろ?ボロボロになって泣き入れてる所なんてさ」
「まあ、見られたくはないかな・・普通はそうだろ?」
「神夜!こんな弱くて逃げ腰のヤツなんかより、俺の方がよっぽど・・・」
・・・・!!!!
3人で一斉にコインパーキングの入り口へ目を向ける。
「出たか・・・」
「来てしまいましたわ・・」
「何でこんな場所に!!」
柄杓形をした九十九神が、ゆらゆらと、何かに導かれるかのように、コインパーキングに入ってきた。