週2で頼む。
最近おふくろが、俺の弁当を作ってくれなくなった。
原因はもちろん神夜だ。
「悠真様のお弁当は、これから毎日、私が作ってもよろしいですか?お母様。将来の為にも悠真様のお好みの味を作れるようになっておきたいんですの」
この余計な一言が、おふくろを狂喜乱舞させた事は言うまでもない。
まずは、神夜の女らしさと健気さを神のように崇め奉り、朝の30分余分に寝ていられるという特典まで付いているのだから申し出を断る筈も無い。
そして、俺は毎日、神夜の顔を見ながら昼食を食べる羽目になったのだ。
「なあ・・神夜?毎日弁当作るの大変だろ?せめて週に2回とかさあ」
その日の弁当のメインはハンバーグだった。いつのまにか、俺の好みまで把握されている。
「いいえ。とっても楽しいですわ。だって1つ作るのも2つ作るのも一緒ですもの」
そう言う自分の弁当にはハンバーグは入っていない。メインは鮭だ。
「いや・・申し訳ないし、週に2回で手を打ってくれないだろうか?」
少しでも俺に昼間の安息の時間をくれないか??!!
「遠慮は無用ですわよ、悠真様。近い将来には毎日作ることになりますのに。フィアンセに遠慮するなんて悠真様らしくありませんわ」
非常に遠慮したいのだが、神夜には通じない。
さて・・ソフトな感じでお断りをするには、どうしたものか・・。
「うふふ。それでも、悠真様の気がひけるとおっしゃるのであれば、何か私にも、していただこうかしら、毎日」
物凄く潤んだデカイ目で見つめられて固まる。
これは・・やぶへびだったか!!
「何をしていただこうかしら??」
じりじりと俺に近づいてくる神夜。動け俺の体!また、頭は命令しているのに体が動かない。
俺は今まで、コイツはイフリートの生まれ変わりだと信じていたが、もしかしたらメドューサだったのか?石にしたのか?俺を・・。
じりじりと近づいてきてピタッと俺にひっついてきた。
それでも、体が動かない。まあ、もう石だしな。
「悠真様、お願いがございますの。それを叶えて頂ける、というのではいかがでしょうか?」
「・・・・」
「神夜、悠真様と・・」
コイツが自分の事を神夜って言うの初めて聞いたな。いっつも「ですわ」言葉だしな。
動かない体はあきらめて、頭で現実逃避的な事を考える。
「神夜は悠真様と2人きりでお出かけしたいの」
「・・・・・ハア??!!」
もっと別のお願いをされるだろうと思っていた俺の体がやっと動き出した。
2人でって・・。
「今も、2人で屋上に出かけて弁当食ってる」
ちょっと違うだろうな、とは思うが一応言ってみる。
「そんなのじゃなくて、普通の恋人同士みたいに、お休みの日にデートしたいんです」
「・・・・」
やっぱりそっち系か・・。
「ダメ?」
目のうるうる感が半端ないなあ・・。ダメとか言ったらどうなるんだろうか?
ダメと言った後に燃やされる自分を想像して、震えた。
「いいよ」
もう、この話になった時点で、俺にNOという選択肢は無い。
「嬉しい!」
抱きついてきた。さて・・どうすれば離れてもらえる!!??
おいっ!俺の手よ!なぜ勝手に動く??
なぜ、ちょっと抱きしめかえそうなどと・・俺の手!!止まれ!
「あっ、そうですわ。お伝えするのを忘れておりました」
スクッと立ち上がってスタスタと元の弁当の位置に戻っていく神夜。
なんなんだよ!!
いや・・なんなんだよってなんなんだよ。俺・・。
激しく混乱する俺の前に、一枚の紙が差し出された。
「お兄様からですわ」
火家の次期当主が俺に??
折りたたまれた紙を開いてみると、注意書きが書いてあった。
注意!!
最近、この近辺で、九十九神が現れると多数の報告を受けている。
もし、見かけた場合は単独で行動せずに、必ず五家に連絡を入れる事。
「九十九神???なんでまた??」
そんな恐ろしい事態になってたのか。この近辺・・。
「理由は今、調査中ですの。ですから、私この前のお仕事に同行したかったのですわ」
なるほど。確かにコイツがいたら五家に連絡してる事にはなるのか・・。
しかも、心強い。
「気をつけないとな。見かけたら一目散に逃げろって事だろうしな。わざわざこんな注意書きなんて作ってるなんて・・・うん?」
注意書きの一番下のほうに小さく手書きで字が書いてあった。
悠真君、最近の神夜は少し様子がおかしい。気をつけてあげてくれ。
神夜に怪しまれずにこれが言いたくて、もしかしたら、こんな注意書きを、俺に渡したって事か??
そう思い、さっさとポケットにしまった。
「まあ、気をつけようぜ。お互いに」
「そうですわね。九十九神なんて何故なんでしょうね?」
また自分の弁当を少しずつ食いだした神夜。
コイツの様子がおかしい??
いっつもおかしい様な気がするけどなあ・・。
まあ、そっちも気をつけていよう。
俺も弁当をまた、食いだした。