そしてこれから・・・。
俺はおっさんの目の前に長剣を突きだしている。
しかし、どうしてもとどめを刺す気にはならなかった。
「あんたが何故こんな戦争をやり始めたのかを詳しく教えてほしい。」
以前、サリアンが言っていたことが本当なら、完全に悪いとは言い切れない。
俺はどうしてもその真相が知りたかった。
「そんなことが知りたいか?判った、話してやろう。俺は元々このアルディオンの出身者ではない。この外の大陸から渡ってきた者だ。」
それを聞いてさすがに俺も驚きを隠せない。
確かに言い伝えや伝説などでは、アルディオンの遙か先に大きな大陸があると言われているが、まさか本当に実在していたとは・・・。
「驚くのも無理はないな。幾人がこのアルディオンに渡ろうとしたが、少なくとも帰ってきた者はいなかったし、こちらにきて住み着いているという話も聞いたことがない。
来る途中に、幾つか人骨も見た。」
俺は少し気分を落ち着ける。しかしちょっと信じられずにいる。
「俺が到着した場所が丁度メルシン国だった。その時多分、俺は今のお前と同じ顔をしていたかも知れない。メルシン国の住人はあまりにも貧粗な生活を送っていたからだ。少しの食料を奪い合い、食べる物がなくなれば道端に生えている雑草すらも食べ物の対象になる。」
サリアンに大体のことは聞いていたが、まさかそこまでとは・・・。
まだ俺達の村の方がよっぽどマシだ。貧乏だが自分たちで農作物を作っている。
「他の所はどうなんだろうとアルディオン全土を見て回った。生活水準にかなりの差はあったが、メルシン国ほど酷い生活をしているところはなかった。メルシン国の王に他国の援助を求めるように、進言したがすでに断られた後だと聞かされた。その中でお前ならこの国を救うためにどうする?」
前にサリアンにも質問されたが、俺には答えることが出来なかった。
「結局、戦争という手段しか俺には思い浮かばなかった。だからサリアン達を仲間にし、少ない兵を埋めるために、オリバーの魔法を使い魔物達を味方に付けた。」
確かに『魅了』という魔法が存在するが魔物まで操ることが出来るとは思わなかった。
俺自身も使える魔法だが、魔法で人の心を操るのはどうかと思うので、今までに使ったことがない。
「あんたの考えは間違ってはいないと思うけど・・・。」
それ以上、言葉が出てこない。
俺がおっさんの立場だったらどうしたてだろうか?
「お前の言いたいことは分かる。何も知らない住民やお前達にも少なからず迷惑をかけた。それに多くの人も命を落としている。間違ったことをしているとも思っている。しかし他に方法がなかった。」
おっさんは唇を噛みしめている。
かなり苦しんだ選択だったんだろう。
「ライン、シンシア、二人とも無事か?」
唐突に、ラーズ達がなだれ込んでくる。
下の戦いも終わったようだ。
ラーズを始めアイリーナ、ティファニー、シルヴィアさん、それに見習い騎士も無事でいる。
良かった。みんな無事で。
「俺は無事だけど、シンシア王女の方が・・・。」
「わたくしも・・・大丈夫です。」
強がってみせるが声は弱々しい。
「喋らないで、力を抜いて下さい。」
シルヴィアさんがシンシア王女に魔法をかける。
これで心配はないだろう。
「さて、話の続きを聞かせて・・・・。」
「ライン!」
ラーズの声に振り向いてみると、シンシア王女が細剣を構えてこちらに、正確にはこのおっさんに突進してくる。
俺は半ば反射的にシンシア王女の細剣を受け止めていた。
「どうして、邪魔をするのですか?」
俺は何も答えない。
王女の気持ちも良く分かる。
父親の敵なんだから、敵を討ちたいのはよく分かるのだが、俺の感がこのおっさんを殺してはならないと忠告している。
「シンシア、剣を収めろ!」
「でも・・・。」
シンシア王女は何か言いたげだが、ラーズの形相を見て渋々剣を収める。
そしてラーズがこちらに歩いてくる。
「どういうつもりだ?」
「俺にはこのおっさんがそんなに悪い人には、見えないんだ。」
「こいつは俺の親父の仇なんだぜ。俺が相手でも邪魔をするか?」
俺は一つ頷く。
「そこまで覚悟があるなら何も言わねえよ。お前の好きにしな。」
ラーズはそのまま、謁見の間を出ていった。
俺は今、エスメラルダの墓の前にいる。
あれから二週間くらいが経過していた。
結局俺は、あのザクトというおっさんをそのまま、リドルカイン王に身柄を預けることにした。
いくら理想のためとはいえ、あまりにもやりすぎのような気もしたのと、リドルカイン陛下ならきちんと裁いてくれるような気がしたからだ。
おっさんに架せられた裁きとは、このアルディオンを住み良い国にすること。
これがリドルカイン陛下が与えた裁きだった。
今このアルディオンは、変わりつつある。
ヴァスラ、ロック、オルボルク、ベイルート、カグアス、メルシンという国々は解体、新たにアルディオン共和国として一つの国となった。
今まで国だった所は領地となり、政治の中心都市をオルボルク領に置き、ここ拠点に繁栄させていくことになった。
それに王族という身分の人達もいなくなり、すべての人が一般市民となり、国を運営していく人達は、5年ごとに住民みんなが選挙という形で相応しいものを選ぶということになった。
まあ、いきなり選ばれてやれと言われてもなかなか出来るものではないので、始めはリドルカイン陛下、ルヴァイヤード王子、ザクトのおっさん、サリアン、それにロックの国王だったランザック陛下が運営委員としてやっていくことになる。
それから万が一、この五人が不正を行った場合、それを裁く観察員としてアイリーナとシルヴィアさんとその他数人が選ばれ、五人の運営委員のサポート役としてオリバー、イシュタルが請け負った。
それから多分、必要ないとは思うのだが、外敵から国を守る兵隊の近衛隊長として、見習い騎士だったシルフィードが就任した。見習い騎士から偉い出世だ。兄のリックは作戦参謀としてシルフィードをサポートするらしい。
他の人はどうしているかというと、ティファニーはアトラス魔導師の下で魔術の勉強をし、シンシア王女は各領地の様子を見て回る監察官となっている。
そして俺は何をするのかというと、別にこれといった役職には就いていない。本当はシンシア王女がやっている監察官をやらされそうになったのだが、丁重に断った。
俺には他にやりたいことがあった。
一つはこのアルディオンの外の世界、ザクトのおっさんがきた世界を見に行くことだ。あのおっさんでここまで渡ってこれたのだから俺が向こうに行けないわけがない。もうすでに渡る方法はおっさんにちゃんと聞いてある。
そしてもう一つは精霊魔法を身に付けることだ。目的は分かると思うがエスメラルダと話をするためだ。俺のこの首飾りにいると言っていたが、姿も見えなければ、声を聞くこともできないのだ。
今、俺の目の前にはエスメラルダの墓があり、この下にはエスメラルダの肉体が埋まっている。しかし、エスメラルダは俺のそばにいる。その実感を手にするためにも、俺は精霊魔法を身に付けたい。
さて、そろそろ行くか。
俺はエスメラルダの墓から離れようとした時、
「ライン様。」
気がつくとシンシア王女が俺の目の前に立っている。
「わたくしも連れていってもらえませんか?」
はあ?
いきなり何だ?
「でも、王女は他にすることがあるでしょう。」
「兄には了承してもらっています。監察官のお仕事もレブラント様にお願いしてあります。」
レブラントというと、あのオルボルク神聖騎士団の何番隊だかの隊長をやっていた奴か。
あまりいい印象はないが仮にも隊長などという役職をこなしていたんだから、まあ大丈夫だろうが、本当に連れていっていいのか?
「いいんですか?俺はてっきり嫌われているものだと思っていましたけど。」
俺はシンシア王女の仇を邪魔したことを気にしていたのだ。俺自身、間違ったことをしたとは思っていないが、俺の行為が正しかったとも言い切れずにいる。
「わたくしはライン様を嫌ったことはありません。わたくしがザクトを殺そうとしたところを止めて下さったことも本当に感謝していますから。あのまま殺していたらきっと後悔していると思います。本当に有り難うございました。」
いや、そんな礼を言われても・・・。
「連れていくのは構いませんが、命の保障はありませんよ。ザクトのおっさんの話だとかなりやばいらしいですから。」
「本当ですか。有り難うございます。」
シンシア王女は全く気にした様子もなくはしゃいでいる。
「それではライン様、早く参りましょう。」
王女は俺の手を引っ張っていく。
「シンシア王女、すいませんけどそのライン様と呼ぶのは止めていただけませんか?」
「どうしてですか?」
「どうしてといわれても・・・・。」
思わず言葉に詰まってしまう。
しばらく俺の顔をジーッ見つめた後、
「分かりました。そのかわりラインさんもわたくしのことをシンシアとお呼び下さい。それから言葉使いも兄に対するときと同じようにして下さい。」
俺は一つ頷いて見せた。
本当はきちんといいたいのだが、なかなかうまく言えない。
「では、早く参りましょう。」
俺はゆっくりとシンシアの後を追っていった。
これでアルディオンでの旅は終わりだ。
アイリーナに無理矢理連れられて始まった旅だったが、俺はかなりよかったと思っている。いろいろな人に出会い、いろいろな出来事に遭遇した。そんな出来事に俺はかなり成長させられたと思っている。
こう思うと今では、アイリーナに感謝するべきなのかもしれないな。
これからまた旅に出るわけだが、どんな旅になるのか、楽しみでもあり怖くもある。ひょっとすると、アルディオンを出てすぐに死んでしまうかも知れないが、まあそれも悪くないかも知れない。
また、今回のような旅が出来ることを期待して俺はアルディオンを去っていった。




