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アルディオンサーガ  作者: 気ままな市民
7/8

最終決戦

「オルボルクに着きましたよ。」

 俺はゆっくりと目を開ける。

 情けない話だが空を飛んだことのない俺にとっては、ドラゴンに乗って空を飛ぶというのは、何よりも怖い体験だった。

「すいません、離れていただけますか?」

 気が付くと、俺はシンシア王女にしがみついたままだ。

「す、すいません。」

 俺は慌てて離れる。

 理由はどうあれ仮にも一国の王女様にずっとしがみついていたのだ。謝って許してもらえることでもないのだが、とにかく謝ることしかできない。

「そんなに謝らないで下さい。それより急いで参りましょう。」

 王女はオルボルクの首都サイドバードに向かって走り出す。

 俺達が降り立った場所はサイドバードから少し離れたところだった。

 どうせならもっと近くに降りればいいものを何故こんな所に降りたのかは、本人に聞かなければ分からない。

 俺も急いで王女の後を追う。

 サイドバードの街は夜だというのに、妙に明るい。

 その理由が燃えさかる炎のせいだ。

 まさかもうサイドバードは落とされたのか?

 俺はその場で立ちつくしていることしかできなかった。

「ライン様、お兄様達を捜しましょう。」

 そうだ。

 先に来ているはずのラーズとティファニーは何処にいるんだ?

 とにかく俺達は街の周りを捜すことにする。

 すると一つの大きな集団と出くわす。

 先頭に立っている人は見覚えのある人だ。

「ラインさんじゃありませんか。」

 集団の先頭にいた人がこちらに歩み寄ってくる。

 近くにくるに連れ、俺に記憶も鮮明になってくる。ヴァスラ国のリドルカイン王だ。

 ヴァスラ国もオルボルクのピンチを聞いて駆けつけたようだ。

「さっき、アイリーナさんに会ったけど、ここで何してるんですか?」

 アイリーナは今のところ無事のようだな。

「お久しぶりです。今、オルボルクはどういう状態なんですか?」

「あれ、あなたはシンシア姫じゃありませんか。行方不明だと聞いていましたが、とにかく生きていて良かった。」

 リドルカイン王とシンシア王女はどうやら顔見知りらしい。

 まあ、王族同士なんだから面識があるのは当然か。 

「ちょっと来るのが遅かった。サイドバードは落とされ、エルディール王は殺されてしまった。それで我々はサイドバード奪還のために侵攻しているわけだが、相手はどういう訳か魔物を味方に付けているために、こちらも思うようにいかないんです。」

 魔物を味方に付けている?

 どういうことだ?

 魔物が人間の争い事に協力するというのがとても信じられないのだが、俺達はオルボルクの王子を暗殺したダークエルフと戦った事があるため、強く否定もできない。

 おそらくはダークエルフ辺りが魔物達を先導しているのだろう。

しかし、魔物により戦力の差を埋めてくるとは、誰が予想しただろう。

 メルシン国の奴というのは、こちらの予想出来ない事ばかりしてくる。

極大魔法で街を壊滅したと思えば、今度は魔物を使ってサイドバード攻略。今度は守る側になって何をやってくる事やら・・・。

「ところでリドル陛下、ラーズという男を知りませんか?」

「ラーズ?どういう男ですか?」

「わたくしのお兄様です。」

「ルヴァイヤードのことですか。彼ならアイリーナさんと一緒にいましたよ。城に忍び込んで頭を倒せば全てが終わるとか言っていましたから、城の方へ向かったと思います。それより僕は、ルヴァイヤードと君が知り合いというのが信じられなかったんです。君達が囚われていたとき、申告してきたのが彼だったんだ。彼と僕は年齢も近いせいか良き友人でしたから、失踪したときには本当にショックだったんですが、あなた達のおかげで久しぶりに会うことが出来ました。本当に感謝しています。」

 いや、そんなことはどうでも良いんだが・・・・。

 とにかく俺達もラーズの後を追うか。

「シンシア王女、行きましょう。」

「はい。」

「ちょっと待ってください。」

 俺とシンシア王女が城の方へ駆け出そうとすると、リドル陛下が慌てて止めに入る。

「今、城に向かうのは危険だ。もうちょっと戦況を見てからの方がいい。それに君はオルボルクから追われる身だと聞いている。もし君が戦場を抜けようとすればどちらからも狙われる羽目になる。」

 確かに陛下の言うとおりかもしれない。戦場を抜けようとすれば間違いなく両方の兵から狙われることになるだろう。俺はともかくシンシア王女までそんな目に会わすわけにはいかない。

「待っている余裕なんかありませんよ。俺だけで行って来ますから王女はリドル陛下とここで待っていて下さい。」

「わたくしのことは気にしないで下さい。わたくしはもう王女ではありません。早くお兄様のもとへ参りましょう。」

 王女はこう言ってはくれるが、そういう訳にもいかないだろう。

 リドル陛下がしばらく考えてからゆっくりと口を開く。

「僕からもお願いしますよ。シンシア姫を連れていってあげて下さい。長い間、二人は離ればなれになっていたんです。こんな大きな戦いになっている以上、ルヴァイヤードとて無事でいられる保障はありません。」

 まさかリドル陛下がこんな事を言うとは・・・。

 確かに陛下の言っていることも分かる。どんなにすごい戦士でも呆気ない最後を遂げることがあるのが戦争だ。それはラーズとて例外ではないかも知れない。

 しかし、シンシア王女がいれば、カグアスを復興させることが出来るのだ。そういう意味で王女にはなるだけ安全な場所にいてもらいたい。

 しかし王女の顔を見れば『何があっても着いてきます。』と言うのが、体全身から溢れ出ている。

 これは何を言っても、聞きそうにないな。

「解りました。一緒に行きましょう。」

 そう声をかけると、王女は満面の笑みを返してくる。

 今から死地に赴くというのに、何がそんなに嬉しいんだか・・・・。

 しかし、ラーズはいったい何処にいるのか分からない。陛下の言葉から推測すると、城に向かったんだろうか?しかし、ここから城に行くには戦場の真っ直中を抜けていかなければならない。

 浮遊の魔法を使って空を飛んでいけば・・・いや、もし見つかって弓矢で打ち落とされればそれで終わりだ。

「問題はどうやって行くかですね。」

 リドル陛下の言葉にシンシア王女も黙り込んでしまう。

「あなた達はまっすぐお城に向かって下さい。僕が何とかしましょう。」

 リドル陛下は軽く微笑んでいるが、いったいどうしようというんだろう。

 しかしこのまま留まっているわけにもいかない。

「分かりました。お願いします。」

 一言頷いて、俺は城の方へ走っていく。

「待ってください。」

 王女も後を着いてくる。

「本当に大丈夫なんでしょうか?陛下はああ言って下さいましたけど・・・。」

「さあ、どうでしょう?」

「そんないい加減なことでいいんですか?」

 シンシア王女の顔は険しくなっている。

 俺の返事はどうやら、この王女にはいい加減な返事に聞こえたらしい。

 だいたい大丈夫かどうかなんて、何かしようとしているリドル陛下ですら分からないことだろう。何かしようとしているか分からない俺が分かる訳がない。

「陛下が何をしようとしているのか分かりませんが、その陛下を信じるしかないでしょう。俺達は陛下の期待に答えるために、ラーズを見つけて相手の頭を叩くだけです。」

「・・・そうですね。」

 少し間をおいて答えているが、王女の顔を見れば不安を隠しきれないのが分かる。

 今、俺達はサイドバードの正門の正面後二百メートル位の所の木の木陰に身を潜めている。俺達の視界には、まだ兵士達が争いを繰り広げている。

 ここを突破するのはちょっときついな。

 リドル陛下はこれをどうする気でいるのだろうか?

「これではとても突破できませんわ。陛下は何をなさるおつもりなんでしょうか?」

 そんなこと俺に聞かれて解る訳がない。

 俺は無言で首を傾げる。

 その時だった。

 双方の兵士が急に、正門の前から離れていく。

 正確には、メルシンの兵士が先に離れて、ヴァスラ、オルボルクの連合部隊がそれを追いかけるといった感じになっている。

 そしてその先にあるのは・・・、

「リドルカイン陛下!」

 王女が叫んだ通り、リドル陛下が立っている。

 陛下は自らを囮として戦場を移動させようとしているのだ。

 連合軍は今、リドル陛下が指揮を執って動いている。言い換えれば陛下が討ち取られれば連合軍は崩壊してしまうだろう。

 うーん、

 命を懸けて戦場を突破しようとする王女様いれば、命を懸けてそれに協力しようとする国王様が俺の周りにいる。

 もっと自分の存在価値というものを認識してほしいものだ。

 まあ、そんなことを考えていても仕方がない。

 俺は正門に向かって走ろうとするが、王女はリドル陛下の方を向いたまま棒立ちになっている。

「早く行きますよ。」

「でも・・・、リドル陛下が・・・・。」

「心配なのは分かりますが、早く行かなければ陛下の行為が無駄になってしまいます。早く行きましょう。」

 しかし、王女は一向に動こうとしない。

 時間がない以上、俺はこれ以上説得する気はない。

 俺は一人でサイドバードの正門に向かい走り出す。

「なんだ、貴様は?」

 陛下が兵士達を引きつけてくれたとはいえ、全くいなくなったわけではない。

「どけえぇぇぇぇ。」

 俺は長剣を抜いて兵士達を切り裂いていく。

 いったい何人いるのか分からないが、とにかく波のように押し寄せてくる兵士達をオルボルク側とメルシン側に分けて倒していかなければならない。

 くそ、

 このままだといつまでたっても街に入れやしない。

 しかし、大部分が魔物であるメルシンはともかく、何故オルボルク側の奴らまで襲いかかって来るんだ?きりがないぞ、これじゃ。

「いい加減にくたばれ。犯罪者が。」

 なるほど、

 俺の顔や立場はすでに、大部分の兵士達に知れ渡っているって事か。

 なら一層のこと全員皆殺しにしてやろうか。

「この人に手を出さないで下さい。」

 いつの間にやら追いかけてきていたシンシア王女が、オルボルクの兵士達に訴えかけている。

「何だ?お前は?」

 疑問を口にするもオルボルクの兵士達は、とりあえず俺への攻撃を中断して、メルシンの魔物軍団に目標を切り替える。

 こうなると俺も魔物に専念出来るため、統率のとれていない魔物を倒すなど造作もなく、あっという間に片づいてしまう。

「さて、次はお前達の番だ。」

 魔物達を倒したと思えば、オルボルクの兵士達は俺とシンシア王女に剣先を向けてくる。

 なんて融通の聞かない連中だろうか。

「そこの女もこの男の味方をするというなら、容赦はしないぞ。」

 さすがに俺の私情でこの王女を巻き込むわけにはいかないな。

「この人には手を出すな。あんた達が俺を捕まえたいのなら好きにすればいい。しかし、今は中に入っていった仲間を助けに行きたい。その後なら俺はあんた達に従う。」

「そんな戯言、我々が聞くと思っているのか。」

 そんなことは思っていなかったが・・・。

 しかし、本当に堅物だな、こいつら。

「なら仕方がない。あんたらを倒して先に進むまでだ!」

 俺が剣を構えた瞬間、オルボルクの兵士達に緊張が走る。

「おやめなさい。」

 物静かだが、迫力のある声が飛んでくる。

 俺達はその声の方を向く。

 そこにいるのはもちろん、シンシア王女なのだが、何故かビクッとしてしまった。

 ラーズ同様、いまいち俺にはこの王女様のことがよく分からなくなってくる。

「わたくしは、カグアス国の王女シンシア=カグアスです。双方とも剣を収めなさい。」

 シンシア王女は右手に細剣を持って上にかざしている。

 オルボルクの兵士達はザワザワざわめきながら、剣を収め王女の前に跪く。

 どうやら細剣に着いているカグアス国の紋章を見て信用したらしい。

 俺も仕方なく剣を収める。

 ちっ、

 こんな奴らとやり合っても負ける気はしなかったのに・・・。

「シンシア王女、そいつは我らの仲間を亡き者にした重罪人です。何故お止めになるのですか?」

 俺の中に怒りの感情が沸き上がってくる。

 こいつらの仲間に俺の仲間は、エスメラルダは殺されたんだ。そいつらを殺っただけで重罪人になるんだ。

 俺が剣を抜こうとしたとき、シンシア王女が手で制してくる。

「わたくしが聞いた話では、あなた方のお仲間が先にこの方のお仲間を亡き者にしたと聞いています。」

「誰がそのようなことを・・・。」

「わたくしのお兄様、ルヴァイヤード=カグアスです。この方はお兄様の友人です。それでもまだそちらが正しいと言い切れる方はいらっしゃいますか?」

 その一言に兵士達は何も言えずにただ黙っている。

 ラーズ、いや、ルヴァイヤードの名声というのは意外なほど効果があるんだなあ。

 端から見てるととても人格者には見えないのだが・・・。

「さあ、行きましょ。ライン様。」

「あっ、はい。」

 いつの間にやら、シンシア王女が主導権を握っていたりする。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 とにかく俺達は、何とか無事にサイドバードに入ることが出来た。

「意外と静かですね。」

 王女が街の様子を一言で語る。

 街の中でも戦いは行われていると思っていたのだが、どうやら終わってしまったのだろうか?

 あちらこちらに、双方の戦死者が横たわっている。

「お兄様ももしかすると・・・。」

 シンシア王女は涙を流しながら、必死にラーズを捜している。

 長い間、離ればなれに暮らしていた兄にやっと会えたのに、今度は今生の別れになるかも知れない。そんな悲しみが王女の中にはあるのだろう。

「大丈夫ですよ。あの強いラーズがそう簡単に死んだりはしませんよ。それはあなたが一番よく知っているでしょう。」

「そうですね。すいません。弱気になってしまって・・・。」

 王女は涙を拭って微笑む。

 そう、ラーズが死ぬわけがないのだ。あの強さは人間のレベルを遙かに超えている。たとえ俺が、束で掛かっていっても軽くあしらわれてしまうだろう。それより心配なのは、一緒に着いていったティファニーとこっちで合流したアイリーナだ。

 二人とも無事でいてくれるといいんだが・・・。

 俺達はそんな不安を抱きながらも、城に向かって進んでいった。周りをうろうろ捜すより、多分ラーズ達は城をまっすぐ目指したと思ったからだ。

「あれは・・・。」

 まだ城には着いていない。ここはだいたい城と門の中間ぐらいの位置だろうか。俺達の目の前に白い神官服を着た一人の女性がしゃがみ込んでいる。俺の見たことのある女性だ。「シルヴィアさん、ですよね。」

 その女性は、俺の声に気づいてゆっくりと振り返る。

「あなたは、確か・・・。」

「先日お世話になったラインです。」

「覚えています。アイリーナの幼なじみでしたよね。」

 このシルヴィアさんもこの戦いに参加していたんだろうか?身体中傷だらけになり神官服もボロボロになっている。

「こんなところで何をしているんです?」

「アイリーナがラーズという人と、飛び出していってしまって、わたしも追いかけたのですが、周りがこんな有様で怪我をしている方もかなりいますので・・・。」

 シルヴィアさんはかなり疲れている様子だ。

 いったい何人の人を治療してきたんだろうか?多分身体の傷は、治療の途中に襲われたかの時に出来たんだろう。

「人のことのことより自分の怪我を治した方がよろしいのではないのですか?」

 確かに王女の言うとおりシルヴィアさんの怪我もそんなに軽いものには見えない。

「わたしは大丈夫です。見た目ほど大した怪我ではありませんから。それよりあなた方はお急ぎではなかったのですか?」

「そうだ。アイリーナ達が何処にいるか知りませんか?」

「アイリーナ達ならお城の方に向かいました。」

 それを聞いて王女と俺が城へ向かおうとすると、

「待ってください。わたしも連れていって下さい。」

 シルヴィアさんが呼び止めてくる。

 連れていってくれと言われても、かなり疲れているよう見えるけど大丈夫か?

「いいですよ。早く参りましょう。」

 俺の返事を待たずに王女が二つ返事で答えてしまう。

 物腰などはラーズと全然違うのに、王族出身であるせいか性格というか自分で何でも決めてしまうところは、兄妹そっくりだ。

 まあ、俺にしても反対する理由は何もないし、神官である彼女が来てくれれば、怪我をしてもそれなりに心強い。

 とにかく今は、ラーズ達を捜し出すことが先だ。

 俺達は城に向かって走り出した。

 さすがに城の近くだけあって、戦闘も激しかったのか倒れいる兵士の数も増えていく。

 その様子を見る度にシルヴィアさんが、違うところに視線をそらしているのがわかる。

 同じ神官であるアイリーナなら多分見向きもしないだろうな。

 そう考えると、同じ職業の者でも様々な性格の人がいることを思い知らされる。

 ほかの種族、エスメラルダ達エルフや、大地の妖精族のドワーフなんかもみんなそうなんだろうか?

「あっ!あれは・・・。」

 シンシア王女が城の方を見据えて立ち止まる。

 王女の見ている方に目をやると、そこでは数人の者が激しい戦いを繰り広げている。

 戦っているのは、ラーズ達と相手はラージェで戦ったサリアン達だ。

 サリアンは例の伝説の剣『魔王血清剣』を構えているのに対し、ラーズが構えている剣は、刀身に青白い光を帯びている。あれがラーズが言っていたサリアンに対する秘策だろう。元々剣の腕ではラーズを上回っていたから、この戦いはラーズの方が優勢に戦っている。

 一方、イシュタルと戦っているアイリーナとティファニーもなかなか頑張っている。二対一で戦っているとはいえ、イシュタルの強さは半端ではない。アイリーナが接近戦で戦い、ティファニーが後ろでアイリーナを支援している形になっているのだが、このティファニーの魔法がかなりアイリーナの助けになっているだろう。ティファニーの年齢ですでに俺が使う魔法を遥かに上回っている。おまけに、魔法のバリエーションも多い。兄弟子のオリバーよりは劣っていると思うが、さすがはこのアルディオン中に名を轟かせている伝説の魔術師アトラスの孫だけある。さすがのイシュタルもティファニーの魔法が気になるらしくアイリーナの方に集中できずにいる。

 そして最も驚いたのが、オリバーと戦っている名前も忘れた騎士見習いである。この騎士見習い、あの槍術に長けたオリバーと互角かそれ以上に戦っているのだ。ラーズはすべての動作が異常なまでに速かったが、この騎士見習いは、相手の動きを読む速度が異常に速い。オリバーが攻撃する時には、すでに何処を攻撃するかを読んですでに剣がそこを守っており、攻撃にしても一歩、二歩どころかもっと先を読んでオリバーを圧倒している。勝負を決めれないのは、オリバーが苦し紛れに間合いをとった時、その間合いをとるスピードに着いていけないのだ。それでもオリバーに魔法を使わせないのだから実力はかなりのものだろう。なぜオルボルクはこいつを騎士にしないんだろう?俺が前に戦った騎士団長より遥かに強いぞ。

 その時、いきなりラーズがサリアンとの間合いをとり、こちらを向く。どうやら俺達にに気づいたらしい。

「おう、やっぱり来ると思ってたぜ。」

 そのラーズの声を聞いて戦っている者すべてがこちらを向く。戦っている最中によそ見をするのは命取りになりかねないのだが、どうやらみんなそんな不意打ちまがいのことはしないらしい。

 しかし、いつもながらラーズの感の良さというか、気配を感じ取る能力には驚かされる。ほとんど獣である。

「ここはいいから、お前達は先に進め。こいつらがここにいるって事は、多分後は大将だけだ。」

 ラーズはそう言ってくれるが、このままみんなを残していくのはどうも・・・。

 隣を見れば、シンシア王女も俺と同じなのか、先に進むのを躊躇っている。

「ライン、何やってるの!早く行きなさい。」

「ここはわたし達で大丈夫ですから。」

「あなた方はこの城の中にいる奴を一刻も早く倒して下さい。」

 アイリーナ、ティファニー、騎士見習いの順に声が飛んでくる。

 俺達を相手にする余裕もないのか、サリアン達に止めようとする気配はない。

 しっかり自分の相手を見据えて構えている。

 なら、俺達が加勢すれば、ここの戦いも早く終わらせられるんじゃ・・・。

「いいからとっと行って来い。一番おいしい役をお前にくれてやるといってるんだ。早くしねえと、俺が全部持ってっちまうぞ。」

 確かにラーズのいうとおり、みんなに任せて俺がボスを倒せば英雄になれる。

 ここはみんなに任せて行くべきだな。優位に戦っているから大丈夫だろう。

「シンシア王女、ここは任せていきましょう。」

「・・・・・・・。」

 俺の声が聞こえていないのか、王女は無言のままラーズ達の方に目を向けている。

 おいおい、どうすればいいんだ?

「ここは、わたしが見ています。お二人は早くお城の中に入って下さい。」

 シルヴィアさんの声に初めて気づき、慌てて俺の方に顔を向けてくる。

「行きましょう。ここはみんなに任せれば大丈夫ですから。」

「・・・・はい。」

 まだ少し不安はあるようだが、何とか先へ進む決心がついてようだ。

「じゃあ、よろしくお願いします。」

 俺達は、シルヴィアさんにこの場をお願いして城の中に入っていた。

 城に中は前に入ったときのような華やかさはなく、薄暗く少し不気味なものさえ感じさせていた。

 照明が灯されていないだけで、同じ場所がこんなにも変わってしまうものなのか?

 しかし、印象は違っても前に来たことがあるというのは心強い。城の大きさのために迷うことがないからだ。

「いったい何処に向かっているのですか。」

 隣で走っているシンシア王女は、疑問を口にする。

「謁見の間です。」

 王女はそれ以上何も聞いてこない。向かっている場所さえ分かれば良かったんだろうか?

 何故、俺が謁見の間に向かっているか。

 答えは簡単、国を支配しようというものが、隅っこでこそこそ隠れているとは思えないからだ。それに最後の敵は謁見の間にいると相場で決まっている。

 しばらく走っていると、少し広い所に出る。ここから道が別れているが、謁見の間に行くのは正面の道をいけばいい。

 しかし、俺は少し違和感を感じていた。暗いために印象が違うとかそんな次元ではない。「どうしたのですか?」

 王女言葉に返答することなく、俺は注意深く周りを見渡す。

 俺の頭上には、豪勢なシャンデリアがある。壁にはいくつかの壁画が飾られており、このフロアの角には羽を生やした悪魔を形取った石像が二体・・・。

 二体の石像?

 俺が前に来たとき、そんなもの置いてあっただろうか?

 いや、確かにそんなものはなかった。俺達が出ていってから置いたのか?俺達が出ていってからそんなに日は経っていない。それにここにそんな物置くにしてはセンスが悪すぎる。

 俺は注意深く片方の石像に近づく。

 その時、

 いきなり、目の前の石像が突如、羽ばたいた。

「ガーゴイルか!」

 羽ばたいているのは俺の目の前にあった石像だけではない。二体の石像、いやガーゴイルが天井すれすれを羽ばたいている。

 ここまで来てガーゴイルはないだろう!

 説明するとガーゴイルとは、単に石像に命を吹きこんだだけの存在なのだが、どういう訳か普通の武器では倒すことが出来ない。直接魔法をぶつけるか、魔法の武器で攻撃するかどちらかだ。

 俺は魔法が使えるし、当然剣に魔法をかけることもできる。

 ガーゴイルが現れたことでシンシア王女も細剣を抜き構えているが、当然シンシア王女にガーゴイルを倒せる術はない。   

「シンシア王女。ここは俺が何とかしますから先に進んで下さい。」

「しかし、あなた一人では・・・。」

「心配は無用です。俺は魔法が使えます。魔法が使えないあなたでは、ガーゴイルを倒すことは出来ません。」

「分かりました。謁見の間でお待ちしております。」

 そしてすぐに、シンシア王女は謁見の間に続く通路へと姿を消す。

 ガーゴイルはシンシア王女の後を追おうとするが、俺はそれを剣で牽制する。魔法がかかっていなくとも牽制くらいには使える。

「お前らの相手はこの俺だ。」

 俺はすぐに魔法を唱え始める。

 ガーゴイルは、空中で俺の様子を窺っている。

 その時間は俺にとってかなりありがたい。

「付与魔法斬。」

 俺の剣に古代文字が浮かび上がり、淡い光を放つ。

 別にこの魔法は攻撃力が上がるわけではないのだが、さっきも言った通りガーゴイルは普通の武器が聞かない。この魔法をかけておけば、ガーゴイルどころか昔、ラーズがやったように、炎なども斬ることが出来るようになる。

これでガーゴイルくらい楽勝だぜ。

 いくぞ、

と、思ってもガーゴイルは俺の遙か上空にいる。これではさすがに手が出せない。

 うーん、持久戦になるのか?

 そう思ったとき、いきなりガーゴイル二体が、俺目掛けて急降下してくる。

「うわっ!」

 辛くもかわしはしたが、ガーゴイルはまた上空へと上がっていく。

 また、俺の隙を窺っているんだろう。

 石像の化け物がなかなか頭を使ってくるとは、あなどれん。

 俺も宙を飛び戦いを仕掛けたいところだが、いかんせん、剣に魔法をかけているため、二つの魔法を同時に扱うのはちょっと避けたい。

 別に無理ではないのだが、制御が難しいのだ。

「ふう。」

 さすがに緊張状態を維持することは出来ない。俺は剣先を下げ、大きく息を吐く。

 その瞬間、またガーゴイルは急降下してくる。

 かかった!

 さすがに俺の裏を読む頭はないようだ。わざと隙を作れば攻めてくるかもと思っていたら本当に攻めてきた。

 俺は向かってくるガーゴイルに向かって剣を一閃させ、切り倒す。

 バカッ、

 ガーゴイルは声を上げることもなく、石像に戻り砕け散る。

 よし、まず一体。

 残りのガーゴイルは一体何だが・・・。また空中に浮かんでしまっている。

 しかもやたらと警戒してしまっている。

 このままほっといて先に進むことも出来なくはないのだが、先に進んで挟み撃ちに合う危険もあるし、後ろからやられてしまうかも知れない。

 やはり、ここで倒してしまうしかないだろう。

 しかし、一向にこちらに来る気配がない。

 いい加減にしてくれよ。俺だって暇じゃないんだからさ。

 仕方がない。

 俺は精神を集中させる為に目を閉じ、剣を大きく振りかぶる。

「魔法裂空刃。」

 一気に剣を振り下ろす。

 青白い光の刃がガーゴイルに向かい飛んでいく。

 不意をつかれたのか、ガーゴイルは為す術もなく、真っ二つになり元の石像に戻っていく。

 何だ?

 こんなにあっさり倒せるのなら、もっと早く使っておけば良かった。

 とんだ時間の無駄遣いだ。

 そう思うと、何となくむかついてくるが、今はそんなこと考えている余裕はない。

 俺は急いでシンシア王女の後を追った。

 俺の目の前には大きな扉がある。見たことのあるオルボルク国、サイドバードの城の謁見の間の扉だ。

 扉の前に来て俺は柄にもなく緊張している。

 この中にいる奴を倒せば、この争いを終わらせることが出来るのだ。

 俺は一つ深呼吸をして扉に手をかけ、そしてゆっくりと扉を開けた。

 その瞬間、

 ドカッ!

 俺のすぐ横の壁に何かかがぶつかる音がする。

「・・・・・・・・。」

 それは音のない悲鳴を上げてその場に倒れ込む。

「次の客は男か。」

 俺はその声の方に身をやる。

 そいつは中年のおじさんと呼べる位の年齢だろう。身長は俺より少し高いくらいだろうか。がっしりした体格というよりは、はっきり言って筋肉もりもりのマッチョマンで右手には自分の身長の1.5倍の長さがあるやたらと太い鉄棍が握られている。

 あんなもので殴られたら、無事ではすまないだろう。

「俺は余り戦いは好きではない。その娘を連れてここから出ていくというのなら、見逃してやる。」

 その中年のおじさんは、さっき倒れ込んだシンシア王女を棍で指す。

 シンシア王女の意識はすでに無く、ただ静かに横たわっている。

 一瞬死んでいるのかと思ったが、胸がかすかに上下しているため、かろうじて生きているのが確認できる。

「俺はあんたを倒して、こんな馬鹿げた戦争を終わらさなければならないんだ。引くわけにはいかない。」

「なら、戦うしかあるまい。手加減はせんぞ。」

 中年親父は静かに棍を構える。  

「お前の名は何という?」

「名前を聞くときは、先に自分から名乗るもんだぜ。」

「フッ、生意気なことを。まあいい、俺の名はザクト。このアルディオンの改革を目指すものだ。」

 言い方を代えればいろんな言い方があるものだ。どう改革するのか興味は湧くが今はそんな時ではないだろう。

「俺の名はライン。」

「では、いくぞ。」

 そう言った瞬間、ザクトというおっさんは、まっすぐこっちに向かって突進してくる。

 俺は素早く長剣を抜いて構える。

 最初に攻撃を仕掛けてきたのは、おっさんの方。鉄棍を大きく振りかぶる。

 大きく振りかぶっていると言っても、棍の真ん中を持っているため、攻め込むにも隙らしい隙がない。

 俺は素直に長剣でその棍を受け止める。

 ガキッ

 俺の剣先が床を叩く。

 手には電流が流れたように痺れが走る。

 くうっ!

 なんて力だ。

 俺は必死に間合いをとろうとするが、それを許してくれる気配はない。

 手が痺れているため、剣で受け流したりは出来ない。

 俺には鉄棍をかわすことしかできないが、これだけの実力者相手だとそれも限界がある。

 くそ!

 俺は、ふとしたことから体制を崩してしまう。

 その隙を見逃してくれるわけもなく、鉄棍が俺の腹部をまともについてくる。

「がはっ!」

 俺は思いっきり後ろに吹っ飛ばされ、壁に激突する。

「・・・・・・・・。」

 すぐに立ち上がろうとするが、腹が苦しくてうずくまってしまい、声すら出すこともできない。

「ほう、後ろに飛んでダメージを抑えるとな。なかなかやるじゃないか。」

 そう、このおっさんの言うとおり俺は咄嗟に後ろに飛んでいたのだが、それでもこれだけのダメージを受けている。

 まともに受けていたら、一体どうなるんだ?

 俺はしばらくうずくまっていたが、おっさんは一向に攻撃を仕掛けてこない。

 俺が立ち上がってくるのを待っているようだ。

 なめやがって!

 有り難いことなんだが、余裕を見せつけられるのは、やはりおもしろいモノではない。

 何とか剣を杖代わりにして、立ち上がる。

 ううっ、

 膝が笑っている。

 情けない。

 こんな状態では、接近戦では勝ち目は舞かも・・・・。

 俺は急いで魔法を唱え始める。

「何をブツブツ言っているんだ?」

 どうやらあのおっさんは、俺が魔法を唱えていると気づいていない。

 チャーンス!

 

「くらえ、火炎球!」

 俺の火炎球は、真っ直ぐにおっさんに向かって飛んでいく。

「なっ!」

 よし!

 完全に不意をついた火炎球は完璧におっさんを捕らえた。

 激しい爆発が起こる。

 しかし、その中から俺は信じられないモノを見た。

 爆発が収まり、煙もはれてくる。

 そこにはおっさんが、無傷で立っている。

 嘘だろ!

 魔法は、人によって威力というのは変わるし、もちろん威力自体も調整は出来る。俺の火炎球は、普通の岩くらいなら楽に破壊できるし、もちろん人一人くらい燃やせるだけの火力もある。それに、このおっさん相手の手加減などというモノは一切していない。

 何故立っていられるんだ?

「まさか魔法を使ってくるとはな。」

「あんたは、本当に人間なのか?」

 俺はどうしても驚きを隠せない。 

いや、何か秘密があるはずだ。

「そう何度も魔法なんぞ使わせるか!」

 おっさんが込んでくるが、俺の方が早い。

「火炎乱舞。」

火炎球の小さいバージョンが、俺の周りに無数に現れる。

「行け!」

 俺の合図と同時に一斉におっさんに襲いかかる。

 おっさんは慌てて急停止し、身に付けていたマントで身体全体を覆い尽くす。

 そして俺が放った魔法は全ておっさんに命中する。

 すべて喰らったはずなのに、やはりおっさんは無傷で立っている。

 どうやらあのマントに秘密があるようだ。

「なんなんだ。そのマントは?」

「このマントの前にはどんな魔法も効かないぜ。魔法障壁の付加魔術がかけられているからな。」

 魔法障壁か。

 魔法消滅じゃないのなら何とかなるかも・・・。

 魔法の効果をなくしてしまう魔法消滅と違って、魔法障壁は魔法を防ぐだけである。それ以上の魔法力で粉砕してしまえばいい。

「その言葉、本当かどうか試してやるぜ。」

 俺はまた魔法を唱え始める。

 あのマントに対する余裕か、今度は何も仕掛けてこない。

「火炎斬。」

 俺の剣に炎がまとわりつく。

「行け!火炎烈風刃。」

 炎で出来た刃がおっさんに向かって飛んでいくが、やはりこのおっさんは、マントで身体全体を覆う。

 よし、

 鳳凰皇帝とさえ互角の威力を誇る魔法剣術である。並大抵のモノでは防げはしないぜ。

 しかし、俺の期待はあっさりと裏切られてしまう。

 まともに火炎烈風刃を喰らったにも関わらず、おっさんは全くの無傷で立っているのだ。

「ほう、なかなか面白い術を使う。」

 嫌みなほどの余裕がある。

 ちょっとこれはやばいかも・・・。

「さて、今度はこちらから行くぞ。」

 来る!

 そう思った瞬間にはもう俺の目の前まで迫っている。そして鉄棍がものすごい勢いで俺に襲いかかってくる。

 くっ!

 辛うじて長剣で受け流し、

「がはっ!」

 俺は訳も分からず、大きく吹っ飛ばされる。

 痛みが腹部に感じる。おっさんは足を上げたまま止まっている。

 俺はあのおっさんの蹴りを喰らったようだ。

 俺が鉄棍を受け流した瞬間に蹴りを放っていたのか。しかし、俺には何処から蹴りが飛んできたのか全然分からなかった。

 考える余裕もくれずに再びおっさんが突撃してくる。

 俺はまだ立ち上がってすらいない。

 鉄棍が振り下ろされる。

 俺は体勢を崩したまま、横へと大きく跳ぶ。

 振り返ると俺がさっきまでいた床の部分が、粉々に砕けている。

 俺は急いで立ち上がるも、今度は鉄棍をかなりの速度で突きだしてくる。

 俺はまた横に跳び、床を転げ回る。

 すると鉄棍は今度は壁を粉々に打ち砕いている。

 顔から血の気が引いていくのが俺自身感じられる。

 身体のふるえが止まらない。

 頭では否定したいのだが、身体は正直に恐怖というモノを感じているようだ。

「この俺が怖いか?怖いのならその娘を連れて、ここから立ち去れ。」

 出来ることならそうしたい。

 しかし俺もここで退くわけにはいかない。

 結局、魔法を防いでしまう奴に対して俺が出来ることといえば、自分の実力を信じて突撃するしかない。

「うらあぁぁぁぁぁ。」

 俺の突撃を予測していたのか、おっさんの鉄棍はすでに振りかぶられている。

 俺の速度に合わせて、振り下ろしてくる気だろうか、そうはいくか。

 鉄棍が振り下ろされようとしているとき、わずかに突撃速度を落とし、振り下ろされる鉄棍をやり過ごす。

 ここまでは俺の思惑通り。

 しかし、俺が剣を一閃させようとした瞬間、

 ゴスッ!

 俺の左肩に鉄棍が振り下ろされていた。

「ぐわっ!」

 俺は思わずその場で蹲ってしまう。

 何故、やり過ごしたはずの鉄棍が、また振り下ろされてきたのか?

 その秘密はどうやら、鉄棍を持ち手に秘密があるようだ。鉄棍の丁度真ん中を握られている。

 多分喰らった理由はこうだろう。まず、最初の攻撃を空振りし、俺が攻撃しようとした瞬間、余らしていた方の棍の方を半回転させ攻撃する。つまり、一人時間差という奴だ。

 しかし、こうもうまく決められてしまうと何も言うことはなくなってしまう。

 俺が立ち上がろうとする所を、思いっきり蹴り飛ばしてくる。

「っ・・・・・・・!」

 俺は無言の叫び声を上げて床を転がっていく。

 そしてゆっくり立ち上がるところを、人を見下したような冷やかな目で見つめている。

 俺はこのおっさんに勝てるのか?

 接近戦では俺より遙かに強い上に、魔法も防がれてしまう。

 せめてあのマントさえ何とか出来れば・・・・。

 うん?

 そういえば、まだ試していない方法が・・・・。

 俺は急いで魔法を唱え、発動させる。

「持続光。」

 俺の長剣が眩い光を放つ。

「今度は何をするつもりだ?」

「それは見てのお楽しみだ。」

 おっさんは左手にマントを握っている。どんな魔法がきても大丈夫だ。そんな自信が伺える。

 さて、俺の方はというと魔法の制御に精神を集中させる。

 今から使う魔法剣術は、今までの中で一番難しいかも知れない。だからといって威力があるのかといえばそうでもない。単純に威力だけを見れば『火炎烈風刃』や『火炎殲滅斬』の方がずっと威力があるだろう。今から使う魔法剣術にそんなものは望んでいない。

 長剣の輝きは、徐々に無くなっていくように見えるが、無くなっているのではなく、光は長剣の先端に集中していっているため、周りから見れば光が無くなっているように見えているのだ。

「いくぞ!集熱光線。」

 剣を前に突きだした瞬間、剣先から熱光線が放たれる。

「無駄なことだ。」

 またおっさんは身体全体をマントで覆う。

 熱光線がマントに接触する。

 この時、多分おっさんは余裕の笑みを浮かべているだろう。しかし、その余裕を打ち砕く結果となる。

「ぐおぉぉぉぉ!」

 熱光線はおっさんの身体を貫く。

 この技は、持続光の光を集め、熱を発生させ放つ技であるが、貫通力はおそらく最強だと自負している。しかも、集められた熱はかなり高温になっているため、マントを焼いていったのだ。簡単にいえば虫眼鏡で紙を焼くのと同じ要領だ。

 おっさんはよろけながらも立ち上がる。しかし俺とて黙って見ているわけではない。

「その穴のあいたマントで防げるか?火炎嵐。」

 炎の渦は辛うじて立っているおっさんに目掛けて進んでいく。

 もちろんおっさんに防ぐ術はない。でもやはりマントで身体を覆う。

「ぐっ、があぁぁぁぁぁ。」

 おっさんの断末魔が響き渡る。

断末魔なんて聞いていると、何となく心苦しくなるがこれも仕方のないことだろう。

 やがて、炎は消えていく。

 そこにはまだ、あのおっさんが立ちつくしている。

マントの穴の部分から炎が進入したのだろう。マントの内側までは魔法障壁の付加魔術はかけられていなかったようだ。

 それでも立っているこのおっさんはやはりただ者ではない。

 しかし、身につけていたマントは焼け落ち、衣服すらもボロボロになっている。

俺はゆっくりとおっさんの方へと歩いていく。

「もう、俺はお前と戦うことは出来ない。好きにするがいい。」

 力ない言葉がかろうじて俺の耳に入ってくる。

 俺は長剣をおっさんの目の前に突きだした。


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