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アルディオンサーガ  作者: 気ままな市民
5/8

悲しき別れ

「気持ちのいい天気ね。戦争が起きてるなんて信じられないわ。精霊もこんなに機嫌がいいし。」

 エスメラルダが気持ちよさそうにはしゃいでいる。

 俺達には当然、精霊なんて見えないためエスメラルダが一人で飛び跳ねているようにしか見えない。

 俺達は今、ベイルート国の首都ラージェを目指している。

 周りは草原が広がり、風も心地よく吹いている。

 エスメラルダの言うとおり、戦争なんて起きているようには思えないほどだ。

 俺達は今、ベイルート国の首都ラージェに向かっている

 ベイルート国は魔法が結構盛んな国で他にはない魔術師団が存在している。ここの国の騎士団はそんなに強くなく、魔術師団を守るために存在している。

 だから戦い方としては騎士団で戦線を維持し魔術師団の魔法で相手を倒していくという戦術をとっている。

 しかし、戦線を突破されればこれほどもろい部隊もないだろう。

 ベイルートはカグアスの隣に位置しているため、ひょっとするともう落とされている可能性もある。

「おい、あそこに誰か倒れていないか?」

 ラーズが指を指した方向を見る。

 確かに人が倒れている。

 エスメラルダはそれを見た瞬間、風のようにとんでいく。

「おい、ちょっと待てよ。」

 俺達は慌ててエスメラルダを追いかけていく。

 倒れているのは、女の子だ。まだ十歳位じゃないだろうか。その幼い顔にはかすり傷だが無数に付いている。

               ワンド

 手には魔術師がよく用いている棒杖を握っている。

 棒杖には頭に魔法増幅用の魔法石が付いているのだが、その棒杖には付いていない。

 こんな少女が魔術師なのは分かるがこの怪我はいったい・・・。

「ちょっとどいて。」

 エスメラルダが少女のそばにしゃがみ込み、何やら魔法を唱えている。

 すると、少しずつ少女の傷が癒えていく。

 エスメラルダが神聖魔法を使っている。

 嘘だろ!

 なぜエルフの彼女が神聖魔法が仕えるんだ?

 ラーズも驚きを隠せないようだ。

 まあ、彼女の傷が治ればいいか。

 しかし、そうは思っていられなくなっていった。

 エスメラルダの顔色が変わっていく。

 そして、エスメラルダは魔法を唱え終えた瞬間、少女の隣に倒れてしまう。

「おっ、おい、大丈夫か。」

 さすがに俺とラーズでさえ焦ってしまう。

「うっ、うん、大丈夫、ちょっと・・・疲れた・・・・だけだから・・・・少し休めば元に・・・戻るわ。」

 エスメラルダの顔は蒼白になっていて、声も弱々しい。

「今日はここで野宿だな。」

 ラーズが野宿の準備を仕始める。

 エスメラルダがこんな状態だし、倒れていた少女もまだ目覚めていない。

 仕方ない。

 ラーズの言うとおり今日はここで野宿だ。



 昼間は風も心地よく清々しい感じがしたのだが夜になると、その草原も不気味になる。

 周りに何もない為そう感じるのかもしれない。

 空を見上げれば星は輝いているが何となく寂しい気がする。

 今は真夜中。

 やはり野宿をするとなると火の番をする者が必要となるため、俺とラーズの二人で交替してやることになっている。

 ラーズはついさっきまで火の番をやっていたため、今はぐっすりと眠っており、エスメラルダは昼間の疲れがまだ抜けないのかよく眠っている。倒れていた少女もまだ目が覚めない。

 一人で見張りをやっているのは暇で仕方がない。

 前に見張りをしていたときはトロルが出てきてくれたため、暇にだけはならなかったのだが、今は本当に暇で仕方がない。

 アイリーナは今頃寝ているんだろうか?

 キールの村のケインや村の人達はどうしてるんだろうか?

 普段は考えもしないことをつい考えてしまう。

「何物思いにふけているの?」

 気が付けばエスメラルダが俺の隣に座っている。

「もういいのかい?昼間かなり辛そうだったけど。」

「ええ、もう大丈夫。心配かけてごめんなさい。」

 エスメラルダはにこりと微笑んでくる。

 どうも、俺はエスメラルダのこの笑顔に弱い。

 つい、目を背けてしまう。

「どうしたの?」

「いや、何でもない。でもまさか君が神聖魔法を使えるとは思いもしなかったよ。エルフにもそんな魔法を教えてくれる人がいたのかい?」

 俺は話をそらすために、疑問を口にする。

 エスメラルダはしばらくボーッとしていたがすぐに笑い出す。

「ごめんなさい。あたしが使ったのは精霊魔法で神聖魔法じゃないわ。精霊魔法でも傷を治すことは出来るの。生き物の身体にも精霊は存在しているのよ。大きく分けると肉体に宿る精霊と精神に宿る精霊。肉体に宿る精霊っていうのは、身体の体調とかに作用するの。病気になったり異常に体調が良かったりするのはそういう精霊の影響なの。精神に宿る精霊っていうのは怒りや悲しみ、喜びなどに影響を及ぼす精霊なの。あたしが干渉したのは肉体に宿る精霊の方で、精霊の傷を治そうとする働きを、少し活発にしたのよ。神聖魔法と違うのは怪我をしている者の体力も消耗してしまうということね。でも、まだあたしには早すぎたみたいね。生き物に宿る精霊に干渉するのは、自然界に存在している精霊よりも難しいのよ。他人に干渉されるのを嫌うから。」

 エスメラルダは使えるかどうか分からない魔法を使っていたのか。

 しかも初めて会った少女に。

 俺にはとても真似できないな。

 しかも、あの衰弱の仕方からして、下手すれば死んでいるかもしれない。

 俺はエスメラルダの強さを初めて感じ取った。

「もう、朝ね。朝日なんて初めて見た。」

 朝日を見てエスメラルダは感動している。

 しかし、初めて見るというのはちょっと信じられない。

「本当に初めて見るの?」

「うん。森にいたときは朝日なんて見ることなんて出来なかったし、森を出てからもいろいろあってそんな余裕もなかったから・・・。」

 エスメラルダの顔に悲しみの色に変わっていく。

 森を出てきてかなり苦労したんだなあ。

「でもあなた達と出会えて本当によかった。」

 またエスメラルダは笑顔に戻っていく。

 そう言われると、大したことをしていないのだが嬉しくなってくる。

「お取り込み中悪いんだけどよ。」

 いきなり後ろからラーズに声をかけられ、俺とエスメラルダは思わず飛び跳ねてしまう。

 ラーズはそれを見て楽しそうに笑っている。

 くそ、いきなり後ろから声かけんなよ。

「もう大丈夫のようだな。倒れたときはさすがの俺も焦ったぜ。」

「うん、心配かけてごめんなさい。」

 エスメラルダは笑顔でラーズに答える。

 よかった。本当にもう大丈夫みたいだ。

「まったくその通りだ。」

 ラーズの素っ気ない返事でエスメラルは落ち込んでしまう。

 ラーズももっと違う言い方があるだろうに・・・。

「何落ち込んでるんだよ。心配してくれる仲間がいるんだぜ。もっと喜びな。」

 確かに心配してくれる人がいること喜ばしいことだが、あんな言い方されて喜べる訳がない。

 当然、エスメラルダもそうだ。

 立ち直れないエスメラルダをみてラーズも少し困った顔をしている。

「あのなあ、俺達は仲間だ。心配するのは当然だし、それに関して謝る必要は何もない。お互い様だし。だが、心配するのが好きな奴はまずいないだろうから、心配させないようにして欲しいんだ。」

 普段、いつもふざけているラーズは時よりすごく心に響いてくる台詞をいう。

 どうも、どれが本当のラーズがよく分からない。

「それはそうと、あの嬢ちゃんが目を覚ましたぜ。」

 ラーズの言葉聞くと同時にエスメラルダが少女の元に走っていく。

 よっぽど心配だったんだろう。

 俺達も慌てて後を追った。

「大丈夫?何処かおかしな所はない?」

 本当に親身になって心配している。

「うん、大丈夫。わたしどうしたんですか?」

「何があったのかは分からないけど、あなたはここに傷だらけになって倒れていたの。傷は治して置いたから。」

「ありがとうございます。」

 しばらく沈黙が続き、重苦しい空気が流れる。

 少女が心なしか震えているように見える。

 何かそんなに怖い目にあったんだろうか?

「ねえ、あたしはエスメラルダっていうの。あなたの名前を教えてくれない?」

「ティ、ティファニーっていいます。」

 やはり声も震えている。

 いったいどうしたんだろう。

「そいつはエルフだけど何も恐がる必要はないぜ。君の傷を治したのもそいつだ。エルフといったって噂ほど酷いわけでもないぜ。」

 彼女がエルフだから恐がっていたのか。

 普段、あまり気にしたこともないから分からなかったが、人間の間では邪悪な生き物とされている。

 すっかり忘れていた。

 そのラーズのフォローでティファニーは少し落ち着いたようだ。

「俺の名はラーズ、こっちがラインだ。それで君の身にいったい何があったのか、それを聞きたいんだけどいいかな?」

「うん。」

 ラーズの質問にティファニーも頷く。

「わたしはラージェにいたんですけど、メルシン国の人達がいきなり襲ってきたんです。それでわたしも戦っていたんですけど、全然相手にならなくて・・・。それで気がついたら、ここにいたんです。」

 ラージェが攻められたことは分かった。

 しかし、ラージェにいたティファニーがなぜこんな所に倒れていたんだ?

「ねえ、おじいちゃんは、おじいちゃんはいなかった?」

「ああ、ここにいたのは君一人だったよ。」

 この辺りは見通しがいいため、おじいちゃんなる者が転がっていればすぐに分かる。

 この子はおじいちゃんと一緒に戦っていたのか。

                   テレポート

 と、いうことは多分そのおじいちゃんが瞬間移動の魔法を使ってここまで飛ばしたということか。

 確かにそう考えればつじつまは合う。

 瞬間移動ってかなりの高位魔法だぞ。

 ティファニーのお爺さんはかなりの魔術師ということか。

 会うことが出来れば、俺も少し魔法を教えてもらおう。

 そのためにも一刻も早くラージェへ急がなければならない。

「君のお爺さんはまだラージェで戦っているかもしれない。とにかくいってみよう。」

 ティファニーと出会ってすでに一日が立っているというのに、無事である可能性は極めて低い。

 しかし瞬間移動の魔法が使える程の高位魔術師ならまだ生きているかもしれない。

 俺達は急いでラージェに向かった。



「これは、・・・いったい・・・。」

 俺達がラージェに着いたころには全てが終わっているようだった。

 結果は完全な敗戦。

 この都市そのものが、壊滅していた。

 街には兵士、一般市民問わず皆殺しで生存者がいるとはとても思えない。

 建物も何かに潰されたように崩れている。

 はっきり言って何の言葉も出てこない。

「嘘・・・でしょ?」

 ティファニーがその場に泣き崩れる。

 この幼い少女にこの光景はあまりにも過酷だろう。

 正直、俺でさえこの場にはいたくない気分になっている。

「ちょっと様子を見てくる。ひょっとして生きてる奴がいるかもしれないからな。」

「ちょっと待って。」

 俺はラーズを引き留める。

「バラバラになるのは危険だ。行くならみんなで行こう。」

「でも、その嬢ちゃんは大丈夫なのか?」

 そんなこと俺に分かるわけがない。

 しかし、まだ敵が残っていたら、俺やラーズ、エスメラルダはともかくティファニーはちょっとやばいだろう。

「ねえ、大丈夫、歩ける。」

 エスメラルダがティファニーを優しく支えてやる。

「うん。」

 一言頷いてラーズの後を追っていく。

 その時、急にラーズが走り出す。

 おい、いったいどうしたんだ?

 聞く暇もない為、俺達もラーズの後を追っていく。

 そして着いた先には、四人の人影があった。

 一人はお爺さんだ。

 ぼろ雑巾のように横たわっている。

 かすかに胸の辺りが上下しているから生きているのは分かる。

 どうやら、ほかの三人は敵のようだ。

 一人は体長ニメートルは越える巨漢の男だ。ひょっとするとキールの村に残っているケ

                         グレートソード

インよりでかいかもしれない。そいつがやたらとでかい大剣を肩に担いでいる。

 もう一人はそいつとは対象的に小柄な男だ。黒いローブで身を包んでいる。魔術師に見

              スピア

えるのだが手にしている武器は槍だったりする。俺と同じ魔法戦士だろうか?

 そして最後の一人は女性だ。着ている物はアイリーナが着ていた神官着のように見えるが色は黒い。何より驚かされるのは無茶苦茶美人だということだ。アイリーナも美人だったがこの女性はさらに上をいく。エスメラルダのような幻想的な美しさとは違うが、本当に人間的な暖かみのある美しさだ。

 何故こんな、女性が侵略活動なんかやっているんだ。

 人は見かけでは分からないというお手本みたいな人だ。

「まだ、生きてる奴がいるとはな。」

 大男がこちらに向かって声をかけてくる

「てめえらメルシンの者か?」

「ああ、だったらどうだっていうんだ。」

 大男の口振りは完璧にこちらを挑発している。

「やめなさい、ザカール。あなた達もすぐにここから立ち去ってくださればわたし達は何も危害は加えません。」

 言っていることとやっていることが無茶苦茶だ。

 どう見たって無抵抗な人まで殺している。

「その言葉に何の説得力もないわね。」

 エスメラルダが俺の思ったことを言ってくれる。

 しかし俺はあの倒れているお爺さんの方が気になっている。

「分かった。そこのお爺さんも連れていくよ。」

 俺はお爺さんを連れていこうとすると、小柄な方の男が俺に槍を向けてくる。

「この人は置いていってもらう。大魔導師アトラスを逃がせば後で必ず俺達の前に立ちはだかるだろうからな。」

 大魔導師アトラスだとー、このお爺さんが?

 まさに伝説に近い人がこんな姿で転がっているとは誰が思うだろうか?

「おじいちゃん!」

 ティファニーがアトラスの元に歩み寄っていく。

 ちょっと待て。

 おじいちゃんって、まさかティファニーは大魔導師アトラスの孫?

「お兄ちゃん、もう止めて!」

 はい?

 いったい誰をさしてティファニーは、兄と呼んでいるんだ?

 ティファニーの目線は小柄な男の方に向いている。

 驚きの連続である。

「お前は殺したくない。ここから立ち去れ。」

「嫌だ!」

「ティファニー。いつからそんなに聞き分けがなくなったんだ。」

 なかなか勝手なことを言っている。

 自分の身内が酷い目にあっているのに立ち去れるわけがない。

 さて、どうするか?

 このまま放って置くわけにもいかないし、かといって相手はかなり強そうだ。

「何不安がってるんだよ?」

 俺の顔を見てラーズが声をかけてくる。

「あのじいさんがやられたのは、近接戦闘でだ。魔法の勝負で負けた訳じゃない。

 何を根拠に言っているのか分からないが、ラーズの一言で緊張がほぐれる。

「どうやら、退く気はないみたいですね。」

 この女の人、物腰は静かなんだが、ものすごい殺気を放っている。

「どうやら、やるしかないようだな。俺はあの大男をもらうぜ。」

「じゃあ、あたしはあの女性を相手にするわ。」

 と言うことは俺は小柄な男しか残ってないが、ティファニーの兄貴とかよ。

 無茶苦茶やりにくい。

「俺の名はオリバー。ティファニーとは兄妹弟子というだけで血は繋がっていないから安心しな。」

 そう言われても何を安心しろというのだ?

 血が繋がっていなくてもティファニーの兄には違いはないし、大魔導師の弟子だという事実は何も変わらない。

 考えていても仕方がない。

 ティファニーの方をみるとアトラスの側で泣き崩れている。

「お前の名は?」

「ライン。ただ旅をしていただけなのに、まさか国のゴタゴタに巻き込まれるとは思わなかったぜ。」

 そう言って長剣を構える。

「いくぞ。」

 そのかけ声と同時に俺とオリバーは動き出す。



「エルフなんて初めて見ましたわ。わたしの名はイシュタル。お見知り置きを。」

「あたしはエスメラルダ。あなたに質問があるの。」

「何かしら?」

「あなたを初めて見たとき、殺気はものすごかったけどそんなに悪い人のようには見えなかった。なぜこんなことをしているの?」

 しばらくイシュタルとエスメラルダの間に沈黙が走る。

「エルフは人間のことに関与しない物だと思っていましたけど、そんなことあなたに言う必要はありません。」

                          レイピア

 イシュタルはメイスを構え、それをみてエスメラルダも細剣を抜く。

「わたしはむやみに人を殺したりするのを好みません。素直に立ち去って頂ければ見逃します。」

「あたしだって戦いなんて好きじゃないわよ。でも見過ごすわけにはいかないのよ。」

 エスメラルダは細剣を構えイシュタルにかかっていく。



「俺の相手は盗賊風情か。やる気も無くなってきちまうぜ。」

「そりゃそうだろうな。勝てねえ相手が目の前にいれば戦意も喪失しちまうわな。」

 ザカールの減らず口をラーズも減らず口で返す。

 ザカールは怒りを露わにするが何とか堪えている。

「マジでそう思っているのか?」

「ああ、てめえごとき俺が本気を出せば秒殺だぜ。」

「もう許さねえ。死ねえぇぇぇぇ。」

 ザカールは完全に切れてしまった。

 大剣を振りかぶってラーズに襲いかかる。

「別にてめえに許してもらう必要はないがな。」

 ラーズも小剣を構え、ザカールを迎え撃つ。

 ガキッ、ザク。

 はっきりいってラーズの腕は人間離れしている。

 普通、小剣で大剣を受け流すかあ。

 そして、いつの間にかザカールとの間合いをとっている。

「運良く、まぐれが出たな。」

 その言葉が出た時点でラーズの勝ちはほぼ確定だろう。

 誰がまぐれ狙いで、小剣で大剣を受け流そうとするだろうか。

 ラーズは自分の実力はおろか相手の実力も完全に見抜いているのだ。

「まぐれだと思うならもう一度来てみな。」

「調子に乗るな!」

 ラーズの挑発にあっさり乗る。

 ザカールは大剣を脇に構え突進していく。

 なるほど、横に薙ぎきれば受け流すことは出来ないし、まして小剣では受け止めることなんて絶対不可能だ。

 バカだと思っていたが、一応考える頭は持っているようだ。

 しかし、まだラーズのすごさを分かっていない。

 ラーズは後ろに避けるわけでも、しゃがみ込んで避けるわけでもなかった。

 なんと、前に踏み込んでいったのだ。

「なに、」

 ザカールじゃなくても驚くだろう。

 大剣を振ろうとしたときには、ラーズは相手の腕を左手で押さえ、小剣を握ったまま相手の顎に拳をヒットさせる。

「ぐうぉぉ!」

 ザカールはもんどり打って倒れる。

 おお、強すぎるぞ、ラーズ。

 しかし、たいして効いた様子もなくザカールは立ち上がる。

「このぉぉ、よくも・・。」

 戦意を喪失させることもなくザカールはまたラーズに襲いかかる。

 ラーズには周りを観察する余裕すら伺える

「あんまり、遊んでいるわけにもいかないか。」

 ラーズも珍しく攻撃に転じる。

 襲いかかってくるザカールの大剣を小剣で難なく受け流すと、いつの間に手にしたのか分からないが左手の短剣をザカールの喉元に差し込む。

 鮮血がその周りを染めていく。

「言い忘れたが俺は盗賊じゃなく、義賊だぜ。」

 ザカールの死体にラーズはそう話しかける。

 殺した相手に何を言っているんだか・・・。

 何はともあれこれで一人は片づいた。



 エスメラルダの方はラーズほど楽勝というわけにはいかなかった。

 エスメラルダの腕だってけして悪いわけではない。

 攻撃速度だってラーズと比べると、少し遅いが俺からみれば速いと思う。

 しかし、エスメラルダの攻撃はことごとく防がれている。

「はぁぁぁっ!」

 エスメラルダは突きを連発させる。

 しかし、イシュタルはその攻撃を涼しい顔をして、避け又は受け流す。

 さすがにエスメラルダの顔に焦りの色が浮かぶ。

 イシュタルの方は顔こそ余裕なように見えるがさっきから防戦一方だ。

 そしていったんエスメラルダの方が間合いを外す。

 イシュタルの方もむやみに突っ込んだりしない。

 なかなか慎重な人のようだ。

 しばらく硬直状態が続く。

 お互い様子を伺っているようだ。

「さすがはエルフですね。攻撃にスピードがありますね。こちらに反撃する隙を与えてくださいません。でもわたしは負けるわけにはいきません。」

 エスメラルダはイシュタルの話を聞いているのかいないのか分からないが、何やらぶつぶつ言っている。

 それをイシュタルが気づきこちらも何やらぶつぶつ言っている。

 どうやら二人とも魔法を唱えているようだ。

 先に発動させたのはエスメラルダの方。

 空気の流れが変わっていく。

 その空気が刃と化しイシュタルに襲いかかる。

 しかしイシュタルの目の前でその風の刃は霧散する

「その程度の魔法ではわたしは倒せません。」

 そしてまた二人は魔法を唱え出す。

 近接戦闘だった始めとは違い今度は魔法合戦か?

 先に発動させるのはまたエスメラルダの方だ。

 今度は、イシュタルの周りに、風をまとわりつかせる。

 そしてイシュタルの声が、いや、イシュタルに関する全ての音が全く聞こえなくなる。

 イシュタルの魔法はいっこうに発動しない。

 魔法というのはどんな小さな声でも発しなければ発動しない。

 エスメラルダはどうやら、イシュタルの魔法を封じたようだ。

 そしてチャンスとみてか、エスメラルダはまた魔法を唱え始めるが、

「はぁぁぁっ。」

 いきなりイシュタルの声が辺りに響き渡る。

 そこでエスメラルダは魔法を中断する。

「そんな・・・。」

「あなたの力はそんなものですか?だったら今すぐ幕を下ろさせて頂きます。」

 そしてイシュタルはまた魔法を唱え始め、エスメラルダも焦りながらも急いで魔法を唱え始める。

 そして後から唱えたのも関わらずエスメラルダの方が先に魔法を発動させる。

 イシュタルの足元の地面がイシュタルの足に絡みつく。

 それを確認してエスメラルダは細剣を構え、そのまま間合いを詰めていく。

 イシュタルはまだ、エスメラルダの魔法を気にも留めず、まだ魔法を唱えている。

 かなり高度な魔法なのか?

 そして、エスメラルダの突きが当たろうとする瞬間、魔法は発動する。

 イシュタルの前に黒い空間が現れ、エスメラルダの細剣はその空間の中に入る。

 もちろん、イシュタルには当たっていない。

「何・・これ・・・?」

 エスメラルダに動揺の表情が浮かぶ。

 その黒い空間からは何やらまがまがしい空気が流れてくる。

 俺自身、神聖魔法は無知に等しいが、あんなものが神聖魔法に存在するとは思えない。

 もちろん、古代魔法なら俺にも分かるし、エスメラルダの様子からすれば精霊魔法でもないだろう。

 じゃあいったいあれはなんだ?

 そしてその黒い空間からさらに黒い影としか言い様のないものがすごい勢いで飛び出してくる。

「ガハッ。」

 その黒い影はエスメラルダを襲い、エスメラルダは吹き飛ばされ瓦礫に背中からぶつかりそのままうなだれる。

「ゲホッ、ガッ、ハッハッ。」

 瓦礫にぶつかった衝撃からか、せき込み、吐血する。

 イシュタルはエスメラルダの方に歩み寄っていく。

「もう終わりにしましょ。最初に言ったようにわたしは人を殺すことを好みません。あなたがわたし達の邪魔をしないと約束してくだされば、傷を治し見逃します。」

 エスメラルダは瓦礫に保たれながらもかろうじて立ち上がる。

 かなり苦しそうだ。

「ありがたい言葉だけどそう言うわけにはいかないの。あの人が戦っている以上は。」

「そうですか。ならばここで死んでください。」

 イシュタルのメイスがエスメラルダに襲いかかる。



 もちろん、俺もただ戦いを見ているだけではない。

 このオリバーという男、魔術師のくせに、やたら槍の扱いに馴れている。

 槍と剣の戦いとなると、剣の方はまず懐に入ることを考えなければならない。

 オリバーはなかなかその懐に入れさせてくれない。

 巧みに槍の間合いで、俺の剣を裁き、さらに、

 ファイヤーボール

「火炎球。」

 魔法を飛ばしてくる。

「うわっ!」

 仕方がなく間合いをとる。

「火炎球。」

 するとまた、どういう速度で唱えているのか分からないが火の玉が雨のように飛んでくる。

 こんなものずっと避けていられない。

 俺はまた、接近戦の持ち込む。

 するとまた槍で裁かれ、魔法が飛んでくる。

 仕方なくまた間合いをとる。

 これの繰り返しだ。

 これではいつかやられてしまうだろう。

 ファイヤーストーム

「火炎嵐」

俺が間合いを外したとき、また魔法がくる。

 今度は広範囲の魔法だ。

 ちっ、

 これは避けられない。

 俺は慌てて魔法を唱える。

 マジックウォール

「魔法障壁。」

 かろうじて、魔法を喰らう前に発動させる。

「うぉぉぉぉぉ!」

 何とか防げたようだ。

 もっとも無傷というわけにはいかないが・・・・。

「ほう、お前も魔法が使えるのか。」

 別に驚いた風もなくあっさりいいのける。

 俺の魔法ぐらいどうとでも出来ると言いたげだ。

 しかし、このまま手をこまねいているわけにもいかない。

 俺に出来ることは結局突撃だけだ。

 だが、普通にしたんじゃ面白くない。

 イリュージョン

「幻影。」 

 このレベルの相手にどれだけ通用するか分からないが、俺の幻覚をいくつも出現させる。

「こざかしい真似を。」

 言葉とは裏腹にオリバーには余裕が無くなってきている。

 チャンスだ。

 俺の幻覚達は一斉に襲いかかる。

 ディスペルマジック

「魔法消滅。」

いつの間に魔法を唱えたんだ?

 魔法の発動と共に俺の幻覚は消えていく。

 俺の姿は完全にばれている。

「くらえぇぇ。」

 オリバーの槍は正確に俺の所へ向かってくる。

「くっ!」

 かろうじて長剣で槍を受け流す。

「くらえ、天舞連槍打突。」

 すぐに槍の連打がくる。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 はっきり言ってこれはマジでやばかった。

 何とかしのいだものの、完全にまぐれだ。

 現に俺はどうやってかわしたのか覚えていない。

「あれをかわしたか。」

 相手はまぐれだと思っていない。

 ただの護身用と思っていた槍に槍術を身につけているとなると、かなり厄介だし後手に回るのは不利だ。

 ファイヤーブレード

「火炎斬。」

 俺の長剣に炎がまとわりつく。

 そしてそのまま、オリバーとの間合いを詰める。

 俺の剣はやはり槍によって受け止められる。

 しかし、俺は休む間も与えず連撃を加えていく。

 相変わらず、受け止められているがオリバーは魔法を唱える様子はない。

 おおむね、俺の予想通りの展開になっている。

 剣に炎を纏わせていること以外は、始めの攻撃と何も変わらない。

 しかし、炎自体には大した殺傷能力はないにしても、相手の集中力を殺ぐことは出来る。

 いけるかもしれない。

 そう思ったのもつかの間、

 マジックミサイル

「魔法弾。」

「おわぁぁ。」

 俺は至近距離で放たれた魔法をかろうじて剣で受け止める。

 その勢いで後ろへ吹っ飛んでいく。

 その隙にオリバーが魔法を唱え始める。

 火炎球や火炎嵐くらいなら一瞬で唱え終えていたオリバーだが今度は少し時間がかかっている。

 かなり大きい魔法のようだ。

 俺も急いで体勢を立て直すが遅かった。

 カイザーフェニックス

「鳳凰皇帝。」

 何だと!

 炎系単体魔法の中では最強クラスの魔法で自動追尾機能というおまけまでついているとんでもない魔法だ。

 こんなものくらえば骨も残らないぞ。

 どうすればいいんだ?

 そんな俺に構わず、火の鳥は襲いかかってくる。



 イシュタルのメイスがエスメラルダをとらえようとした時、いきなりイシュタルは攻撃を中断し、後ろへ軽く飛ぶ。

 ザクッ。

 ついさっきイシュタルがいたところに短剣が刺さる。

「ふう、間一髪ってやつだな。」

 どうやらこの短剣は先に戦いを終えたラーズの物のようだ。

 ラーズがゆっくりとエスメラルダの方へ歩み寄っていく。

 イシュタルも隙を見てラーズに攻撃を仕掛けようとしているようだが、ラーズにその隙は全くない。

「なぜあなたがこちらに?ザカールがお相手をしていたはずですけど。」

「ああ、あんなでぐの棒じゃ俺の相手は務まらねえよ。」

 そう言ってザカールの死体を指さす。    

それを見てさっきまで穏やかだったイシュタルの表情が変わっていく。

「どうだ、仲間の死んだ所を見る気分は。いい気分はしねえだろ。」

 イシュタルにはラーズの声は耳に入っていない。

 ただただ呆然と立ちつくしている。

「あなた達、もう許しませんよ。」

 イシュタルの顔は悪魔にとりつかれたような表情になっている。

「美人がそんな顔をするなよ。顔が台無しになるぜ。」

 ラーズは何も気にした様子はない。

「ラーズどいて、あの人はあたしの相手よ。」

 エスメラルダは、よろよろしながらも細剣を構える。

 その構えをラーズがゆっくりといてやる。

「邪魔しないでよ。」

「そんな状態であいつに勝てるわけねえだろ。」

 エスメラルダの文句をラーズは一声で一喝する。

「あたしはあたしの役目を果たしたいの。」

 しかし、エスメラルダも食い下がらない。

「お前の役目は俺が引き継ぐ。それが仲間ってもんだ。それに前に言っただろ。俺は心配するのが嫌いだから心配かけるなと。」

 その言葉を聞いてエスメラルダはゆっくりと座り込む。

「後はお願い・・・。」

「ああ、任せとけ。そういう訳でここからは俺が相手をする。いいかな。」

「ええ、いいですわ。どうせみんな死ぬんですから。」

 彼女の殺気は今までとは比べ物にならないものになっている。

 イシュタルは一気にラーズとの間合いを詰める。

エスメラルダと戦っていたときより格段に速い。

 ラーズも何とかメイスを小剣で受け止める。

「切れると本当の力が開放されちまうようだな。」

 最初は驚いていたようだがさすがはラーズ、徐々に自分のペースにもっていく。

 近接戦闘ではどう見てもラーズの方に分がある。

 それはおそらくイシュタルの方も気づいているだろう。

 懸命に間合いをとろうとするが、ラーズはそうはさせない。

しかし、ラーズの攻撃を防いでいるところを見ると、かなり腕はいいようだ。

 イシュタルの表情が徐々に怒りの形相から焦りの顔色に変わっていく。

 その顔色と共にイシュタルの速度も落ちていく。

 当然、ラーズはそのことに気づいている。

 拍子抜けしたみたいに、イシュタルとの間合いを開け出す。

「どういうつもりです?」

「この戦い、あんたに勝ち目はない。聡明なあんたなら分かるだろう。」

「そんなこと、まだ分かりません。」

 そう言うとイシュタルは魔法を唱え始める。

 ラーズはあえて何もしない。

 まるで何が出てくるのか楽しみに待っているようだ。

 そしてイシュタルの魔法が完成する。

 手の平を前にかざした瞬間、黒い光線の様なものが発射される。

「うおっ?」

 ラーズは紙一重で避ける。

 その黒い光線はラーズの後ろの瓦礫に当たり、その瓦礫は消滅してしまう。

 当然、俺の知らない魔法である。

 さすがのラーズも顔を真っ青にさせる。

「どうです。これでもまだ勝ち目がないと言えますか?」

こんな切り札を持たれては、どれだけ有利に進めていても、一発で逆転されてしまう。

「確かにな。さっきのはちょっとシャレにならねえな。」

 ラーズの表情が少しだが変わる。

 そしてしばらく硬直状態が続く。



 俺の所に火の鳥が襲いかかってくる。

 回避も不可能。

 これを防ぐ方法を一つだけ心当たりがあるが成功するとは限らない。

 でも、今やるしかない。

「いくぞ、火炎裂風刃。」

 長剣を振り下ろした瞬間、炎の刃が火の鳥に向かって飛んでいく。

 よし、

 何とか成功した。

 問題は防げるかだ。

 火の鳥と炎の刃がぶつかった瞬間、爆発が起こる。

 俺は吹き飛ばされないように地面に伏せる。

 そして、爆発が収まりゆっくりと目を開ける。

 その場所には、何も残っていなかった。

 何とか防げたようだ。

 しかし、この戦い、生きた心地が全くしない。

 本当に死闘というものを体験している。

 オリバーの方を見れば、まさか防がれるとは、思っても見なかったんだろう。

 その場で立ちつくしている。

 魔法剣術とでも呼んでおこうか。

 俺の最後の切り札だ。

 魔法と剣の融合技で俺が密かに試していたものだ。

 多分使い手は、俺だけだろう。

 何しろこの技、精神集中がやたらと難しい上に一旦剣に魔法をかけなければならないため効率も悪い。

 こんなことするぐらいなら普通に魔法を使う方が、ずっと実践的だろう。

 まあ、威力の方は火炎斬の魔法で鳳凰皇帝の魔法を防げるほどの威力になる。

 俺自身もこれを使えるようになった理由は単に決まれば無茶苦茶かっこいいと思ったからで実践のことなんか全く考えなかった。

 切り札と言っても本当に使うことになるとは思っていなかった。

 それだけに喜びも大きい。

 飛び跳ねて万歳三唱でもしたい気分だ。

 当然、そんな余裕はない。

 呆然としているオリバーに、一気に攻撃を仕掛ける。

 寸でのところで我に返ったのか、俺の攻撃をギリギリで受け止める。

 しかし、かなりショックだったのか今までほどのキレはない。

 俺はオリバーの突きを紙一重でかわし、オリバーの懐へ飛び込む。

 そして、左手で槍をつかみ長剣の柄で思い切りオリバーの脇を殴る。

 ボキッ。

 鈍い音がする。

 手応えはあった。

 多分、オリバーの肋骨は折れているはずだ。

「うがぁぁ、」

 その場でオリバーはうずくまる。

 うずくまるオリバーにとどめを刺そうとしたが、どうもそんな気分になれない。

 まあ、動けそうにないしほっといても大丈夫だろ。

 俺は周りを見渡す。

 イシュタルとラーズが睨み合っている。

 お互い決め手に欠けているのか、まるで動こうとしない。

 そこへ俺も歩み寄っていく。

「おっ、そっちも終わったようだな。」

 ラーズがこっちに気づく。

 そこがラーズの隙になりそうだが、イシュタルもこちらを向いている。

「まさか、オリバーまで・・・。」

 イシュタルの目線はオリバーの方に向けられる。

 わずかに動いているのが分かると、安堵のため息をつく。

「とどめを刺してないのか。お前は甘いな。まっ、そこがお前の良いところだろうが、刺せるところできっちり刺しとかねえと後で後悔するかもしれないぜ。」

 ラーズの言うことはよく分かるが、そこまで非情になれない。

 甘いかもしれないが、これが俺だ。自分を変える気はない。

「さて、まだ戦うかい?」

 ラーズ一人でも手に余るだろうに、二対一になればイシュタルに勝ち目はほとんどないはずだ。

「イシュタル、退け。」

 いきなり誰だ?

 俺達は周りを捜す。

 ラーズだけは始めから気づいていたのか、声の方を見ている。

 オリバーが倒れているところに、いつの間にか一人の男が立っている。

 黒い鉄鋼の鎧に黒のマントを羽織っており、腰に長剣を身につけ、さらに背中に大剣だろうか、を背負っている。

 顔を見れば結構優男風なのだが、イシュタルを呼んだ所を考えると、間違いなくメルシン国の人間だろう。

「何だ、てめえは?」

「俺は、こいつらの仲間でサリアンという。」

 今頃、ノコノコ何しに来たんだ?

「ちょっと様子を見に来てみれば、まさかやられているとは思わなかったぞ。」

「すいません。」

「すまない、こいつらなかなか手強いぞ。」

 サリアンは俺達をじっくり観察する。

「お前達がここまで追いつめられるんだから、相当なものだろう。」

 サリアンがイシュタルとオリバーに慰めの言葉をかける。

 罵声を浴びせないとは、なかなかできた上司じゃないか。

「しかし、見たところ冒険者風情が何故こんなにいる。」

「冒険者風情だからこんな所にいるんだよ。」

「なるほど、確かにその通りだな。イシュタル、オリバーを治してやれ。それからそこに座り込んでいるエルフとアトラス老人もだ。」

 なに?

「どういうつもりだ?」

 そう思っているのは俺だけじゃないはずだ。

 ラーズとエスメラルダ、それにアトラスさんとティファニーもサリアンを睨んでいる。

「何故、敵の傷まで治して差し上げなければならないのですか?」

 味方のイシュタルでさえ、サリアンに疑問を抱いている。

「俺はこいつらと話がしたい。話を聞いてもらうのに、ただというわけにはいくまい。」

 ほう、なかなか人間ができているじゃないか。

 そう聞いてイシュタルも納得したのか、傷を治しにまわる。

「話というのは、いったいなんだ?あまり暇じゃないんで手短に頼むぜ。」

 ラーズの台詞にサリアンは一つ頷く。

「なら、単刀直入に言おう。俺達の仲間にならないか?」

 はい?

 単刀直入すぎてよく分からない。

 敵である俺達にたいして何故そのような展開になるのか・・・?

「俺達を仲間にしたい理由と、てめえらの目的はなんだ?」

 ラーズが珍しく真剣な顔になっている。

「仲間にしたい理由は簡単だ。お前達が強いからだ。それから俺達の目的は、このアルディオンの統一だ。」

 ある程度予想していたこととはいえ、本当にそんなことを考えていたのか・・・。

「征服じゃないのか?」

 ラーズの言葉に俺は一つの疑問が頭によぎる。

 統一と征服ってどう違うんだ?

「俺達は国を一つにまとめたいだけだ。このアルディオンをどうこうするつもりはない。」

 なるほど、それが征服と統一の違いか。

「お前達はメルシン国の生活事情を知っているか?」

 唐突に質問され、俺とエスメラルダ、それにティファニーが首を横に振る。

 ラーズとアトラスさんは、ただただ黙っている。

 どうやらこの二人は知っているんだろう。

「はっきり言えば、メルシン国は貧乏だ。それに比べるとオルボルク国の人々はすばらしいくらい豊かな生活を送っている。」

 えらくはっきり言い切るなあ。

 確かにオルボルクは多分他のどの国よりも、安定した生活を送っているだろう。

 しかし、それは単に逆恨みのような気がする。

「国自身が苦しいため、国民の生活も保障できず、カグアス国に援助を求めても断られてしまう。ロック国にいくにも砂漠に行く手を阻まれている。そんな国がこれから生きていけると思うか?」

 当然、思うわけがない。

「でも、それって王様の力が足りなかったってことでしょ。メルシン国の人達は気の毒だと思うけど、何も他の国に攻め込むなんて・・・。」

 ティファニーは泣きそうになっている。

 今気がついたが、この子は感情の起伏が結構激しい。

 まだ、幼いからかもしれない。

 エスメラルダは、ただ静かにサリアンの話に耳を傾けている。

 人間の争いなんかに興味はないのだろうか?

 ラーズにしても、とても関心があるようには見えない。

「確かに国が崩壊しつつあるのは王の責任だ。だがそれで済まされるものではない。国民は生きていかなければならないのだからな。この国が衰退していく国をお前達ならどうやって救う?」

 サリアンの問に俺は何も答えることができない。

 まさか、メルシンがそこまで悲惨な状態だとは・・・。

「他の国に移住すればいいんじゃないの?」

 エスメラルダの案にサリアンは首を横に振る。

「移住してそれからどうする?そこで働く場所を見つけねばならないし、すぐに見つけたとしてもすぐに生活できるだけの金が入るわけでもない。」

 確かに腕っぷしに自信がある奴なら傭兵などで暮らしていけるが、普通に暮らしている人達はそうだろうな。

 それに零から何かを始められる人なんてそうはいない。

「それでアルディオンを統一するってか?だいたい俺には単なる破壊活動にしか見えないんだが・・・。」

 俺もラーズの意見に同意する。

 このラーシェを見る限りでは、統一するという様には見えない。

「この有様を見ればそう思うかもしれん。何せ味方が少ないんでな。どうしてもオリバーの強力な魔法に頼らざる得ない。」

 強力な魔法?

 いったいどんなものなんだろうか?

                          メテオストライク

「おぬしも魔法を使うなら聞いたことくらいあるじゃろ、隕石落下を。」

『隕石落下』

 古代魔術の中で最上級の魔法だ。天より巨大隕石を無数に呼び出し、目標地点へ落とす魔法だ。呼び出せる隕石の数や落とせる範囲は術者の精神力にもよるが、国一つ落とせる威力のある魔法。

 オリバーはそれを使えるのか。

「このラーシェは、いきなり隕石落下で壊滅させられ、運良く助かった者をこやつら自ら始末しに来たのじゃ。」

 なるほど、これは戦争などと呼べる代物ではない。

 たぶんカグアスもこの方法で落とされたんだろう。

 しかし、こんな攻撃で攻めてこられたらどの国もマジでシャレにならないぞ。

「それでアルディオンを統一して、その先のことを考えているのか?」

「それは、俺達が考えることじゃない。アルディオンの王になるお方はすでに決まっているのだ。」

 サリアン達の言っている王とは誰なんだ?

 メルシン国王ってことはなさそうだが・・・。

「俺は、お前達が何しようがどうでもいいんだが、さすがにこの殺戮は許せる範疇を越えてるぜ。それに今生きてる人々のことを考えられない奴に、王になどなられてたまるか。おめえを倒せば、こんなバカげたことも終わるだろ。一対一で勝負しようぜ。俺を倒せればお前達の力くらいは認めてやるぜ。」

「いいだろう。その勝負受けてやる。」

 サリアンの殺気が膨れ上がる。

「ライン、お前の長剣を貸してくれ。小剣じゃ奴は倒せねえ。」

 ラーズは今までにない程の殺気を放っている。

 ラーズもどうやら本気のようだ。

 俺は黙って長剣を渡す。

「サンキュウ。」

 ラーズは剣の感触を確かめながらサリアンの方に歩み寄っていく。

「お前らは手を出すなよ。」

 サリアンも長剣を抜きラーズの方に向ける。

「そんじゃ、いくぜ。」

 その声と共にラーズの姿が俺の視界から消える。

 ガキーン、

 いつの間にかラーズはサリアンと剣を合わせ鍔迫り合いをしている。

 本気になったラーズは無茶苦茶速いぞ!

 しかも、サリアンはあの攻撃を受け止めたのか?

 二人とも人間レベルの戦いではない。

 ラーズは剣を払い、素早い攻撃を加えていくが、サリアンもかろうじてではあるが全てしのいでいる。

 そしてラーズの攻撃にたまらずサリアンは間合いをとろうとするが、ラーズも逃がすまいと追いかける、その時、

 マジックミサイル

「魔法弾。」

 サリアンの手の平から魔法が飛び出す。

「うおっ?」

 思わずラーズも横へ飛び何とかかわす。

 もちろんラーズならではである。

「まさか、魔法まで使えるとはな。」

 そう言うラーズは何か楽しそうだ。

「その余裕がいつまで続くかな?」

 サリアンは魔法にも自信を持っているようだ。

 それはその態度からも伺える。          

そしてサリアンが剣を構えたまま魔法を唱え始める。

 そうはさせまいとラーズも間合いを詰める。

 要は魔法を唱えさせなければいいわけだが、そんなことサリアンにだって分かっている

 ファイヤーロンド

「火炎乱舞。」

 サリアンの周りに小さい火の玉が無数に現れる。

 一つ一つには大した威力を持たない魔法だが、数を受ければそれなりのダメージになる相手の体力を削るには最適の魔法だ。

 ラーズもそれを見た瞬間、急停止する。

 そしてサリアンの火の玉は一斉にラーズに襲いかかる。

 しかし、さすがはラーズといったところか、次々に襲いかかてくる火の玉をかわし、そして剣で払っていく。

 そして最後の一発を剣で払ったとき、

「火炎球。」

 サリアンから魔法が飛んでくる。

「うおぉぉぉぉぉぉ、」

 ラーズはその火炎球に向かって剣を一閃させる。

「・・・・・!。」

 サリアンは驚きを隠しきれない。

 いや、サリアンだけではなくこの場にいた全ての人がサリアンと同じ心境だろう。

 火炎球はラーズの遙か後ろで爆発している。

 ラーズは火炎球を斬ったのだ。

 しかも、何の魔法もかかっていないただの長剣で・・・。

 本来、水や炎といった、形が存在しない物を斬るなんてことは魔法を使わない限り不可能だと思っていたがこのラーズはやってのけてしまった。

 そして驚いて動きを止めているサリアンをラーズが見逃すはずもなく、一気に襲いかかっていく。

 サリアンはかろうじて受け止めるが完全に意表を浸かれたためか、剣に力が入っていない。

 ラーズはサリアンの剣をからめ取る。

 サリアンの剣は空中で弧を描きながら地面に突き刺さる。

 しかし、サリアンはすでにラーズとの間合いをとり背中に背負っている大剣を引き抜こうとしている。

 ラーズも一気に勝負をつけるために再び、サリアンに襲いかかる。

 ガキーン、ザク。

いったい何が起こったのか、分からなかった。

 ラーズが剣を振り下ろしてサリアンが大剣でそれを受け止めたところまでは分かった。

 しかし、ラーズの長剣は真ん中ぐらいの所からスッパリと折れている。

「なんだ、あの剣は?」

 サリアンの大剣は刀身が黒光りしている。

 汚れているのではなく、元からそんな色のようだ。

「俺の勝ちのようだな。」

 サリアンは大剣を鞘に戻し、ラーズは折れた剣を地面に叩きつける。

「なんだ、その剣は?」

 ラーズがまた同じ疑問を口にする。

                      カオスブラッドソード

「これか?名前くらいは聞いたことあるだろう。魔王血清剣の名前くらいは。」

 魔王血清剣。

 伝説の剣の一つで魔王が滅びた時、その血によって清められたと伝えられているが、まさかそんなものが本当に存在しているとは・・・・。

「そんなの使うなんて卑怯じゃない。」

 ティファニーが非難の声を上げる。

「戦いに卑怯も汚いもない。勝つことがすべてだ。」

 そう口にしたのは以外にもオリバーだった。

 妹弟子をなだめるように言葉を発する。

 やはり、敵同士に別れても可愛い物なんだろう。

「さて、もう一度問う。仲間になるかならないか。」

 その質問をサリアンにされた瞬間、

「はっうっ。」

 へんな声を上げてエスメラルダが前のめりに倒れる。

 背中に一本の矢が刺さっている。

「エスメラルダ!」

 俺とラーズ、それにティファニーがエスメラルダの元に駆け出す。

「やったぞ。エルフをしとめたぞ。」

 声の方に目をやれば、数人の男が同じ鎧を着て立っている。

 その鎧にはオルボルクの紋章が入っている。

 しかし、そんなこと気に留めている余裕は俺にはない。

「おい、エスメラルダ。しっかりしろ。」

 俺はエスメラルダを抱え起こす。

「ライン、あたし死んじゃうの?ねえ。」

 俺は何も答えることができない。

 ただ涙だけが身体の底からこみ上げてくる。

「死にたくない、死にたくないよ。」

 エスメラルダの身体は俺の腕の中で徐々に冷たくなっていき、それに伴い声も徐々に小さくなっていく。

 そしてエスメラルダは、声を発することもなくなった。すべての身体の力が抜けてグッタリしている。

 これが人が死んでいく瞬間なのか?

 永遠の命を持つと言われるエルフでも、死というのは訪れるというのか?

 こんなことが・・・、こんなことがあってたまるか。

 俺はエスメラルダをゆっくりと降ろし、立ち上がる。

 俺の足下には数本の矢が落ちている。

 どうやらサリアン達が守ってくれていたようだ。

 俺はゆっくりと地面に突き刺さっているサリアンの長剣の方に歩み寄り、剣を引き抜く。

 そしてオルボルクの兵士達に方に目をやる。

「あいつらをやるなら手を貸すぜ。」

 向かっていこうとするラーズを肩をつかんで止める。

「なにしやが・・・。」

 ラーズはその場で立ちつくす。

 今までこれほど怒りに燃えたことはない。

 ブースト ファイヤーブレード

「増幅、火炎斬。」 

 魔法を二つ同時に扱うのは、精神力にかなり無理が生じるのだが、今の俺にはそんなこと関係ない。

「死ねぇぇぇ、火炎殲滅斬。」

 剣を横に薙ぐ。

 この技は、剣を振った角度分だけ炎が飛んでいき敵を倒す。

 今は九十度くらいだが、三百六十度振れば、俺の周りには誰も存在できなくなることから、こんな名前が付けられている。

 慌てて後ろへ逃げる兵士達。

 しかし、俺から離れれば離れるほど、炎は横に広がるため逃げにくくなる。

 その炎は、次々に兵士達を切り裂き、燃やしていく。

 その光景をみんなはただただ眺めているだけだった。

「ラインさん・・・。」

「ライン・・・。」

 ティファニーとラーズの呼びかけも答えることができない。

 兵士達を皆殺しにしてもこの悲しみは消えない。

 俺はただ、涙を流すことしかできなかった。

「この様子だと、返事を聞くのは無理だな。今度会うとき聞かせてもらおう。いい返事を期待しているぞ。」

 一言残して、サリアン達は何処へ去っていく。

「さて、エスメラルダを弔ってやろうぜ。このまま放っておくのも可哀想だ。」

 俺の肩にゆっくりとラーズが手を置いてくる。

「オルボルクへ行こう。アイリーナならちゃんとやってくれるだろう。」

「いいのか?オルボルクに行って?」

 俺の提案にラーズは心配そうな顔をしている。

 エスメラルダを殺したのがオルボルクの兵士だったから行く気にはならないが、きちんと弔ってくれそうなのは、アイリーナしかいない。

「なら、わしがオルボルクまで跳ばしてやろう。それからこのティファニーもそなた達に同行させてもらえんかのう。」

「おじいちゃんはどうするの?」      

 ティファニーが驚きの声を上げる。

 たった一人の身内だから心配なんだろう。

「わしはもう年だ。旅はきつい。それにお前もそろそろ世界を見てくるのもいいだろう。魔術師としての知識を手に入れてこい。」

 アトラスさんはやさしくティファニーを抱きしめる。

「俺達の返事なしで勝手に盛り上がるなよ。」

 ラーズがからかい混じりに横やりを入れる。

 俺は別に連れていっても構わないと思っているが、ラーズは嫌なんだろうか?

「まあいいだろう。男二人で旅ってのも面白みがないからな。」

 その返事を聞いてアトラスさんは深々と頭を下げる。

「じゃあ、オルボルクに行こうか。」

 俺はもう動くことのできないエスメラルダを抱きかかえる。

「そなた達ならきっと、このアルディオンを良い方へ導いてくれるだろう。頼むぞ。」

 どさくさ紛れに、勝手のことを言っている。

 はっきり言ってこの世界などどうでもいい。

 メルシンに乗っ取られようが知ったことではない。

 テレポート

「瞬間移動。」

 魔法が発動した瞬間、俺の視界がゆがむ。

 そして身体の感覚がおかしくなり、視界が遮断された。


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