エルフの少女
「そういえばどうして俺達と旅をする気になったんだ?。」
ロック国にあるセレニスという街のとある酒場で夕食をとっているときだった。
俺はラーズにとりあえずの疑問を口にした。
アイリーナにしても俺と同じ思いだったのか、隣でウンウンとうなずいている。
「どうしても言わなきゃならねえのか?」
何か言いにくいことなのか、ラーズは顔をしかめている。
「当たり前じゃない、勝手についてきてるんだから!」
「まあまあ、落ち着けよ。」
机に乗り出すアイリーナを何とかなだめる。
アイリーナは未だにラーズのことを嫌っている。
まあ、この二人は出会いからして最悪だったような気もするから仕方ないのかもしれない。
「そうだな、どこにあるのか分からないが捜しモノがあるんだ。俺はそれを捜すために旅をしているわけだが、一人よりも誰かといた方が・・・と言うのがお前らに着いてきている理由だ。」
「それじゃあ、よく分からないわよ。だいたいあるモノって何よ。」
ラーズの説明で当然納得するアイリーナではなく言い寄っていく。
ラーズといえば何やら暗い表情で黙り込んでいる。
その時だった。
入り口の扉が開く
そして、全身マントとフードで覆った人が入ってくる。
かなり怪しい格好だがそれだけならたいして気にも留めなかったのだが、そのフードとマントにはかなりの血のりが着いている。
パッと見では本人のか他人のか判断できない。
体つきからして女性のようだが、どこかで戦いでもあったのだろうか?。
その人はゆっくりと階段を上っていく。
当然、この街でも酒場の二階は宿屋になっているわけだが、ここの泊まり客だろうか。
しかしよりによってあんなのと同じ宿とは・・・。
気がつけばいつの間にか賑わっていた酒場が静まり返っている。
あんなのが入ってきたら当然か。
「かなりの傷だぜ、あれは。」
ラーズがポツリと呟く。
こいつあれで傷の状態が分かったのか?。
「致命傷になってるってこと?」
「いや、そこまでひどくねえ。でもきちんと手当した方がいいだろう。下手すりゃ後遺症とか残るかもしれねえ。」
「ちょっとそれって大変じゃない。ちょっとわたし見てくる。」
アイリーナが二階へあがろうとするのを、ラーズが手をつかんで止める。
「ちょっと、離しなさいよ。」
アイリーナは振りほどこうとするがラーズのては離れない。
「そっとしといてやれ。あの様子だと他人と接触するのをひどく嫌っている感じだ。」
確かにフードを被っている時点で人目を避けているのは分かる。
しかし、怪我をしている者を放っておけるアイリーナではない。
「だからって放っておくわけにもいかないでしょう!。」
アイリーナに気押されたか、ラーズも手を離してしまう。
やれやれ、俺も上にいくか。
「仕方ねえな。」
ため息まじりにラーズも上に上がっていく。
「ちょっと、大丈夫?」
二階へ上がってみると扉の前にさっきのフードを被った人がうずくまっている。
顔は見えないがかなり苦しそうだ。
アイリーナが魔法を唱えながら近づいていく。
「さわらないで!」
アイリーナが肩に手をかけようとした時、その手を振り払う。
甲高い声が響きわたる。
やはり女性だ。
「ちょっと、傷を見せてみなさい。」
アイリーナも負けじとフードを剥ぎ取ろうとするがフードの女性もそれを拒否する。
動く度に彼女の苦痛の声が漏れる。
「もう、やめろ!」
さすがにこれ以上は見ていられない。
俺はアイリーナを羽交い締めにする。
「ちょっとライン、離しなさいよ。」
アイリーナを捕まえながら彼女の方へ目をやる。
かなりきつそうだ。呼吸もかなり乱れている。
「大丈夫・・・・。」
声をかけようとした瞬間、彼女は鋭い目つきでこっちを睨む。
そして目の前の扉をゆっくりとくぐっていく。
俺達三人は、ただその場に立ちつくしていた。
「昨日のあれはなんだったのよ、腹が立つ!」
夜が明け、朝食をすませて酒場を出たときだった。
昨夜のフードを被った女性のことでアイリーナは一人で怒りをまき散らしている。
これから首都バンクスに向かおうというのになかなかさい先不安である。
「ああ、うるせえ。少しは静かに歩けねーのか!」
さすがに我慢できなくなったのか、ラーズがアイリーナに文句を言う。
「だって、あの態度許せると思う?」
「だから、関わらない方がいいっていっただろ!」
「それにしても、あれはないでしょ。」
はあ、
どうでもいいけど、街の中でケンカするのはやめてくれ。
心の中で呟いたところであの二人には聞こえる訳もなくケンカ続いている。
もう、どうでもいいや。はっきり言って投げやりだ。
俺は少し二人との距離をとろうとしたとき、やたらと人が集まっているのを見つける。 何だろ、あれ?
ああいうのを見ると、どうしても気になってしまうのは、人間の心情だろう。
それは、俺とて例外ではない。
ちょっといってみよう。
「いいぞ、もっとやれ!。」
「エルフなんぞ殺しちまえ!」
野次馬の罵声が周りから飛んでくる。
中を覗いてみると数人の男が一人を袋叩きにしている。さらに中に入って見やすいところに移動する。
殺られているのは、少女のようだがちょっと普通じゃない。
耳が長く、先が尖っている。
そういえば、さっきエルフとか言っていたな。
これがエルフなのか、初めて見た。
エルフというのはラグナ湖の近くにあるラグナの森に住んでいる妖精なのだがその森に何らかの魔法をかけ、中にはいると出られなくしてしまったため、人間からは邪悪扱いされている。もっとも一説によると、人間の方がエルフに悪さをして、森に逃げ込んで人間との関係を遮断したと言う話なのだが・・・・。
ちなみにラグナの森は幻影の森とも呼ばれる由縁ともなっている。
また、エルフは精霊使いでもあるのだが、この精霊という奴は心が汚れていると見えないらしい。俺も精霊なんて見たことがないから心が汚れているんだろう。
精霊が使える程、心が清らかであるにも関わらず、邪悪だという人間っていったい何なんだろうか?
まったく矛盾した生き物だ。
それはそうと、例えエルフといえど大勢に袋叩きにあっているのを黙って見過ごすわけにはいかないな。
俺が一歩前に踏み出そうとしたとき、一人の男がいきなり乱入して、男を一人殴り飛ばした。
「てめえら、女一人に大勢で恥ずかしくないのか!」
その男はラーズだった。
と、いうことはアイリーナもいるのか?
周りを見れば俺の後ろの方にいる。
ラーズに目をやればいきなり殴り合いを始めているがラーズは、当然のように一発も受けていない。
相手の攻撃を軽々とかわし、殴り飛ばしている。
しかし、人間というのはこれほどまでに個人差がつくものだろうか?チンピラ共はまったくラーズの相手になっていない。
「このやろう。ぶっ殺す。」
バスタードソード
一人の男が何処からともなく長剣を抜く。周りの奴が渡したのだろうか?。
今はそんなことを考えている場合ではない。
俺は長剣を持っている男に手の平をかざし、簡単な魔法を唱える。
マジックミサイル
「魔法弾。」
俺の手の平から魔法の弾丸が飛ぶ。
そしてその弾丸は男の手の甲に当たり男は剣を落とす。
そして殴り合いをしていたラーズとチンピラ共も中断してこちらに注目する。
「素手でやってる奴にそんなモノ抜くって言うのなら、俺も相手になるぜ。」
「うっ・・・。」
俺の魔法に恐れをなしたのか、チンピラ共はすごすごと去っていく。
野次馬達も散らばっていく。
周りにいるのは俺とラーズ、それにアイリーナとエルフの少女だけとなった。
「その子大丈夫なの?」
アイリーナがエルフの少女に近づいて傷の具合を見る前に、ラーズがエルフの少女を抱える。
「ここから離れるぞ。警備兵がくるとやったいだ。」
ラーズはすぐに走り出す。
「ちょっと、待ちなさいよ。」
アイリーナと俺はすぐにラーズの後を追う。
「ここまでくれば大丈夫だろ。」
ラーズはゆっくりと木陰にエルフの少女を降ろす。
セレニスからかなり離れたところだし、まあここなら大丈夫だろうな。
アイリーナが少女に魔法をかける。
すると、身体中にあった傷もゆっくりと消え、顔の腫れもひいていく。
「さすがにエルフだな。無茶苦茶可愛いじゃねえか。」
ラーズが感嘆の声をあげる。
確かにすごくかわいい。
整った顔立ちに少し切れ長の目、それに長い金色の髪がすごく似合っている。
アイリーナとはまた違った魅力を感じる。
「うっ、うーん。」
エルフの少女はゆっくりとめを開ける。
「気がついたかい?」
俺が声をかけた瞬間、ものすごい勢いで俺達三人との距離をとる。
体が震えているのが目に見えて分かる。
俺達が怖いのか?
「ちょっと、どうしたのよ?」
アイリーナもあの態度が気に入らないのか、むきになってエルフの少女に近づいていくが、少女は後ろにさがっていく。
「やめときな、アイリーナ。」
木にもたれながらラーズが声をかける。
「あれだけの目にあわされたんだ。恐がられても仕方ないさ。」
言われてみて、初めてその理由がわかる。
人間に大勢で袋叩きにあったのだから、同じ人間の俺達も恐がられて当然か。
「なあ、君は俺達の言葉が解るのか?」
ラーズがエルフの少女に話かける。
少女は体を震わせながらも一つ頷く。
「へえ、エルフって人間の言葉が解るんだ。」
アイリーナが感心しているが、少女はバカにされたと思ったのか鋭い目でアイリーナを睨む。
アイリーナは睨まれていることすら気づいていないが、俺はその目を見たことがある。
宿屋で見たフードを被った女性と同じ目だ。
まさか、同一人物なのだろうか?
「なぜ、俺達の前から逃げないんだ?エルフは俺達人間よりずっと素早いはずだし姿だって消せるはずだ。」
俺が悩んでいる間にラーズが少女に質問している。
しかし、少女は答えようとしない。
俺の隣でアイリーナがイライラしているのが分かる。
「言いたくないなら仕方ないな。おい、行こうぜ。」
ラーズがゆっくりと歩き出す。
「おい、あの子ほっといていいのか?」
「俺達がここにいたってどうなるわけでもねえよ。恐がられている奴はとっとと消えるのが一番さ。」
その言葉に納得したのかアイリーナもラーズの後を追いかける。
確かにラーズの言うとおりかもしれないな。
気になって仕方ないが、とりあえず前の二人を追いかけた。
「ねえ、まだついてくるよ。」
「そんなこと言われなくても分かっている。」
あの少女別れてしばらく歩いているのだが、どういう訳かずっとついてくる。
ああ、やっぱり気になる。
俺はその場で立ち止まる。
「ちょっと、ほっときなさいよ。」
アイリーナの言葉を無視して俺は後ろをついてくるエルフの少女の方へ近づいていく。
俺が近づいていっても今度は逃げようとしない。
警戒はしているようだが・・・。
「どうして逃げないんだい?。」
俺の言葉を聞いて、ムスッとした顔になるが徐々に笑顔に変わっていく。
なんだ?
俺は何かおかしなことを言っただろうか?
「フフフフッ、あなたは悪い人じゃなさそうね。」
近くで見ると本当にかわいい。
思わず、顔が熱くなってくる。
「なぜ、そう思うの?」
どきどきしながらも平静を装って話しかける。
「だって、あなたは精霊に好かれているもの。精霊もいい人だって教えてくれるし・・。森から出てきてあなたみたいな人初めて見たわ。」
精霊?
好かれる?
当然、俺には精霊を見ることが出来ないし、まして好かれているとは・・・。
ほとんど信じられない話だ。
「何ボーとしてるのよ。」
気がつけばラーズとアイリーナがそばまで来ている。
さらに気がつけばエルフの少女は、俺達から少し離れていっている。
「ちょっと!どうしてわたし達が来ると離れていっちゃうのよ?」
アイリーナの怒りは最もだろう。
誰でもあんな態度をとられれば腹も立つ。
でも、彼女はエルフだからわからないのだろうか?
「何だ、結局ラインだけか。」
「早く行きましょ。先を急いでるんだから。」
ラーズがため息混じりに愚痴をこぼせば、アイリーナもやたらと不機嫌にせかしてくる。
確かにロックの国王にリドル王から渡された手紙を届けなければならないのだが、このまま放っておくのも何となく気が止める。
「一緒にこないか?」
「ちょっ・・ちょっと。」
アイリーナが驚いたように何か言おうとしている。
俺自身まさかこんな言葉が出てくるとは思わなかった。
しかし、一番驚いているのはエルフの少女のようだ。
しばらくの間、沈黙が続く。
「俺達についてきたってことは、行く宛ないんだろ?。だったら一緒に行こうよ。あの2人だって悪い奴じゃないぜ。」
沈黙に耐えられず、俺は少女に声をかける。
「一緒にいっていいの?」
少女はラーズとアイリーナの方を見る。
ラーズの方はともかくアイリーナも方は反対するだろうな。
何とか説得するしかないか。
「俺は別に構わねえよ。」
ラーズの答えは予想通り、後はアイリーナだが・・・。
「どうせ反対しても無駄でしょ。別にいいわよ。」
よし、
素っ気ないがアイリーナがOKした。これで問題なしだ。
「俺はライン、よろしく。」
「あたしはエスメラルダ、長い名前だからって略して呼ばないでね。」
確かに長くて呼びにくそうな名前だけど、彼女がそう言うなら仕方がない、いうことに従おう。
「じゃあ、行こうか。」
エルフの少女を仲間に加えて、俺達はロックの首都バンクスへと向かった。
「えらく古い建物がならんでいるなあ。」
俺がバンクスに来て一番始めに感じた感想がそれだった。
ロックという国は、アルディオンの中で一番最古の国なわけだがまさか昔の建造物がいつまでも残っているとは思わなかった。
「ここら辺は、観光名所として残しているんだ。最も客なんかほとんど来ねえし、俺に言わせれば古いからって何が偉いんだって感じだ。」
ラーズがグチを混ぜて解説してくれる。
「見物したいのは山々だけど、とりあえずはお城に行かなきゃね。」
アイリーナは、スタスタと歩いて行くが、ラーズは足を止める。
「どうしたんだ?。」
「このままエスメラルダを街に入れていいものか・・・と思ってな。」
確かに・・・。
今、エスメラルダはセレニスの時のようにフードを被っていない。
エルフだということは一目で分かる。
「大丈夫じゃないの、フードを被っていけば。それに街に入っていきなり襲いかかってこられることもないだろうし、宿だってお金さえ払えば泊めてくれる所ぐらいあるでしょ。」
うーん
アイリーナの言うこともだぶん間違っていないだろう。
ちらっとエスメラルダを見る。
「あたしはついていくわよ。」
笑顔で答える。
大丈夫だと信じたいのだが不安で仕方がない。
「ラーズとエスメラルダはとりあえず宿をとっておいてよ。俺とアイリーナで城へ行って来るから。」
街をうろうろするよりは宿でジッとしている方が安全だろう。
なかなかいい案だと思ったんだがエスメラルダはいい顔をしない。
「分かったわ、早く帰ってきてね。」
なかなか聞き分けが良くて助かった。
「じゃあ、アイリーナ。行こうか。」
アイリーナを見ると、何故かこちらを睨んでいる。
「どうしたの?」
「別に!」
アイリーナはさっさと歩いていく。
「ちょっと待てよ。」
俺は慌ててアイリーナを追いかける。
はあー。
何故、城というのはむやみに大きいのだろうか?しかも見た目で分かるがイバダンの城より大きい。
とりあえず驚いてばかりもいられないな。
門の所に門番がいるので話しかけてみる。
「すいません。ヴァスラのリドルカイン王から手紙を預かっているので国王の所に通して欲しいのですが・・・。」
そう言って手紙を見せる。
門番があからさまにうさんくさげな顔をする。
「本当にヴァスラ国王からの手紙なのか?」
確かに俺達みたいなのが、国王の手紙を持ってくるのはおかしいと思うのは当然だろうが、本当なのだから仕方がない。
俺は一つ頷く。
「手紙を貸せ、上に報告してくる。」
そう言って手紙を受け取り城の中へ入っていく。
「何、あの態度!」
アイリーナが不満を漏らす。
アイリーナの気持ちも分からなくはないが、これくらいで怒っていて神官が勤まるのかいつも疑問になってくる。
それにいきなり牢屋にぶち込まれたときよりずっとましである。
しばらくすると中に入っていった門番が戻ってくる。
「手紙は本物だった。これはその報酬だ、受け取れ。」
金貨の入った袋を受け取ると、門番はまた門番業に戻っていく。
ちょっと待て、ひょっとしてこれだけかー?!。
てっきりまた城の中に入って食事くらいとか思っていただけに心の中で絶叫する。
「普通のお城の人の態度なんてこんなものよ。行きましょ。」
ボー然と立ちつくす俺にアイリーナが悟すように声をかけてくる。
こいつさっきは、不満を口にしてたくせに・・・。
「何か言いたそうね。」
俺の考えを察したのか、アイリーナが言い寄ってくる。
「いや、たださっきは不満を口にしてたのに今度はやけにあっさりしてるなあと思って。」
「不満だったのは疑われたからよ。神官のわたしがいたにもかかわらずによ。」
なるほど、前に神に仕えるものは嘘を言わないようなこと言ってたな。
「とにかく、仕事は終わったんだからラーズの所に戻りましょ。」
俺はため息を一つ吐いて歩き出した。
「たぶんここね。ラーズがいるところは。」
「ハアー。」
「何よ、そのため息は。」
ため息の一つもつきたくなる。
神の導かれるまま、とか言いながらラーズとエスメラルダのいる宿を探してみればこれで四件目。それと共にアイリーナの台詞も四度目。
俺じゃなくてもこういう態度になるだろう。
「とりあえず入りましょ。」
そう言って扉をくぐる。
「おっ、えらく早かったな。」
ラーズの軽いノリで声をかけてくる。
俺とアイリーナは周りを見渡し呆然としていた。
机やら何やら荒れ放題、おまけに数人の男が倒れている。
「ちょっとからんできたからぶちのめしてやったんだが、見ての通りになっちまって、それで壊したものを弁償したら役所に突き出すのはやめてくれるらしいから、お前達を待ってたんだ。」
俺はしばらく言葉が出なかった。
アイリーナも怒りを堪えているのか、握り拳を作りながら震えている。
「ごめんなさい。あたしがフードを取ったとたんからまれちゃって・・・。」
エスメラルダが申し訳なさそうに謝る。
なるほど、
エルフの彼女がからまれたのなら納得いくが、まさかエルフというだけでからまれるとは思わなかった。
俺の考えが甘かった。
「おじさん、宿代も含めてこれでいい?」
「これだけあれば十分ですよ。こちらの方が申し訳ないくらいです。」
見れば、アイリーナはさっき門番にもらった報酬をすべて差し出している。
「えらく気前がいいなあ。」
「誰のせいだと思ってるのよ。」
ラーズとアイリーナの言い合いを聞いてエスメラルダはひどく落ち込む。
「気にすることはないよ。君が悪い訳じゃない。」
励ましては見るもののエスメラルダは元気になってくれない。
誰がエルフは邪悪だなんていったんだろう。俺にはとてもそんなふうには見えない。
「それはそうと、飯にしねえか?」
そう言うとラーズはまだ壊れていない机を探して席につく。
「そうね、そうしましょ。」
アイリーナもラーズと共に席についたので、俺とエスメラルダも席につく。
席についたのはいいが、しばらく沈黙が続く。
なんかすっごく居心地が悪い。
「それはそうと、明日から何処へ行こうか。」
ラーズがこの気まずい空気を嫌ってか、話し出す。
「そうね、普通はオルボルクに向かう所なんだけど・・・。」
アイリーナが少し考えてからニンマリと笑う。
何か嫌な予感が・・・・。
「アマリロ砂漠を越えてメルシンに行くってのはどう?カグアスが落とされた真相が分かりかもしれないわよ。」
おいおい、本気で言っているのか?
「面白そうだな。俺もその真相ってやつが知りたい。」
笑いながらアイリーナの意見に乗り気なラーズだが、俺は見逃さなかった。
一瞬だが悲しみにふけた顔を・・・。
ひょっとしてラーズはカグアス出身なのだろうか?
だとすると、ラーズの気持ちも何となく分かるし、メルシンに行くというのも悪くはない。
悪くはないが砂漠を越えるなんて命懸けだぞ。
「わざわざ砂漠を越える必要なんてあるのか?素直にオルボルクに向かえばいいんじゃないか。」
「どうして?あなたイバダンで砂漠でも越えられるようなこと言ってたじゃない。」
「そりゃあ、越えられるとは言ったけどわざわざ危険を犯すこともないだろ。」
「でも、メルシンに入れれば収穫は大きいわ。」
確かにそうだろう。
しかし、その収穫をいったいどうするというんだ。別に誰かに雇われてる訳じゃあるまいし・・・。
それにメルシンに入れても帰ってこれる保障もない。
「とにかく、俺はごめんだね。行きたい人だけで行ってくれ。」
ただ旅をしているだけで命を懸けるなんてばかばかしくてやってられるか。
俺はとっとと飯を食べ、二階へ上がっていく。
俺はベットの上に横になる。
ここは、ラーズと二人部屋だからベットは二つあるのだが、もう一つには誰もいない。
ただ、静かに時は流れている。
眠りたいのだがこういう時に限ってなかなか眠れない。
アイリーナは本当にメルシンに行くのだろうか?
ラーズはあの顔からすると行くかもしれないな。
エスメラルダはどうするんだろう?
俺はこれからどうするか?
一人で旅をしていても仕方がないし、村へ帰ろうか。
「・・・ライン、もう寝た?」
部屋の外から呼びかけてくる。
声からするとエスメラルダだろう。
どうしたんだろう?
「起きてるよ。」
「中に入っていい?」
「別に構わないよ。」
ゆっくりと扉は開いていく。
扉を開けたところにエルフの少女はたたずんでいる。
「どうしたの?中に入っておいでよ。」
彼女は何も答えない。
「どうしたの?」
「人間って女の人が男の人の部屋に来るのは、その・・・変て言うか・・・。」
エスメラルダの言いたいことは何となくだが分かった。
女の人が男の部屋に一人で来るべきではない。そう言うことを言いたいのだろう。
「どうしてそう思うの?」
「森を出るとき仲間に人間はこういうことをするのは不潔な行為だっていわれたから。」
部屋が暗いため顔はよく見えないが、何やら警戒しているように見える。
「君は不潔だと思っているの?」
「そんなこと思ってないわ。あたし達エルフは男も女も平等に扱われるから。でもあなたは人間だし・・・。」
彼女は俺を人間の男として認識しているのか。
「確かに俺は人間だから君たちエルフほど聡明じゃないかもしれない。でも俺は君のことを仲間だと思っている。エルフとか人間とか、男とか女とかの前にね。君が俺のことをどう思うかは君の自由だから強制は出来ないけど、俺のこともエルフの仲間と同じように見て欲しいんだ。最ももう別れてしまうかもしれないけど。」
「ありがとう。まだ会って間もないのにそんなこと言われるなんて思わなかった。あなたがそう思ってくれるならあたしはずっとあなたについていくわ。いいでしょ?」
「ありがとう。実は一人になるんじゃないかって心配してたんだ。なんとなく気が楽になった。じゃあそろそろ寝るよ、おやすみ。」
「うん、おやすみなさい。」
エスメラルダがゆっくりと扉を閉め終えたとき、また訪れた静かな時の流れの中俺はゆっくりと瞼を閉じた。
翌朝、朝日が窓から射し込んでくる。
俺はその光で目を覚ます。
昨晩エスメラルダに、ああは言われたがなんとなく不安だ。
ラーズは未だに眠っている。
ラーズはこれからどうするんだろう。本当にメルシンに向かうのだろうか。
そんな不安を抱きながら俺は下へ降りていく
「おはよう、ライン。」
エスメラルダが明るい声で向かえてくれる。
「おはよう。」
食堂にはすでにエスメラルダがいる。フードも被っていないので大丈夫なのか心配もしたのだが、周りには誰もいないのでひとまず安心する。
挨拶をかわしてエスメラルダの座っている机にはすでに朝食が二人分、用意されている。 これはアイリーナのだろうか?
「これは?」
「あなたの分だけど迷惑だった?」
「いや、ありがとう。」
俺は素直にエスメラルダの用意してくれた朝食を口にする。
「ねえ、エスメラルダはどうして森をでてきたの?」
俺はとりあえずの疑問を口にする。
エスメラルダは、何やら深く考え出す。
何か嫌なことでもあったんだろうか。
「ごめん、言いにくいことなら別にいいよ。」
「別に構わないわ。あたしが村を出てきた理由はあなた達人間の観察が目的。本当にみんなが言うように人間がひどい生き物かどうか、その真実を知りたかった。」
「それで、感想は?」
「そうね、まだみんなを見た訳じゃないから何とも言えないけど、基本的にはエルフのみんなが言った通りだった。」
やっぱりそう言う結論になるのか。俺から見てもそんなにいい生き物だとは思わないもんなあ、人間って・・・。
「でも、あなたは違ったわ。どう言ったらいいか分からないけど、何か他の人間とは違うのよ。前にも言ったけどあなたは精霊に好かれているしね。」
前にも思ったことだが精霊に好かれていると言われても、全然ピンと来ない。
「ねえ、これから何処へ行くの?」
エスメラルダに聞かれて初めて気づく。
そう言えば、これからのことを何も考えていなかった。
「何処か行きたいところはあるの?」
別にこれといって行きたいところはない。ないのだがせっかくエスメラルダがついてきてくれるのだ。引き返すのはバカバカしい。
「オルボルクへ行こうか。あそこはこのアルディオンの中で一番大きな街らしいから、君の人間観察にもいいかもしれないよ。」
「そうね、じゃあ早速行きましょう。」
朝食を早々とすませ、これから出かけようとしたとき、
「ちょっと、待ちなさい。」
後ろを振り向けば、アイリーナとラーズが立っている。
「わたし達を置いて二人で出発する気。」
無論、行き先が違うはずなんだから当然だろう。
しかし、今のアイリーナとラーズにそんなことを言ったら何をされるか分からない。
「二人はメルシンへ行くんでしょ?だったらオルボルクへ向かうあたし達があなた達を待つ必要なんてないでしょ。」
はっきり言うなあ。
アイリーナの顔が変わっていく。怒りの顔だ。
反対にラーズの方は苦笑している。
「俺もお前と同じで無理してまでメルシンに行く気なんてねえよ。正直、メルシンに行きたいとは思うがな。」
「わたしもラーズと同じ意見よ。」
「じゃあ、どうして昨日のうちにそうやって言ってあげないのよ。ラインは昨日ずっと悩んでたんだから。」
エスメラルダがラーズとアイリーナに不満をぶちまけている。
俺のことを本当に心配してくれるのはうれしいのだが、これ以上険悪な不陰気になるのは望ましくない。
「もういいよ、エスメラルダ。」
俺が止めに入るとエスメラルダは、まだ何か言いたげだがとりあえずは止めてくれる。
「確かに悪かった。俺はいつもこんなんだからどうしてもこうなっちまうんだ。これからは気をつけるよ。」
「わたしもなんか焦っていたみたい。ごめんなさい。」
ラーズはともかくアイリーナまでこんなことを言うなんて思わなかった。
「もういいよ。でもアイリーナがそんなことを言うなんて思わなかったな。」
「何よ、わたしが素直に謝っちゃいけないって言うの。」
「そうじゃないけど、アイリーナらしくないっていうか・・・。」
もうこうなってしまうと俺ではアイリーナをどうこう出来ないが、こういったやりとりがすごく懐かしく感じる。
「早く出発しましょ。」
エスメラルダの声が何か荒々しい。
何を怒っているんだろうか?
とりあえず、俺達はエスメラルダの後を追って酒場を出ていった。
「もうすぐエデンの街よ。」
俺達はオルボルク国のエデンという街を目指していた。
俺自身はこのまま首都サイドバードを目指したかったのだが、とにかくサイドバードは遠いらしい。それでエデンを目指しているわけだが、宿場街として発展しているとアイリーナが説明してくれる。
なら、キールの村の人たちに何かいい土産物があるかもしれない。
俺は何かわくわくしてくるがエスメラルダはあまりいい顔はしない。
「どうしたの?」
俺の声が聞こえていないのか、エスメラルダはずっと物思いのふけている。
「どうかしたの?」
俺はもう一度声をかけてみる。
「あっ、ううん。何でもないわ。ごめんなさい。」
エスメラルダは笑顔で答えるがとても何もないようには見えない。
「何かあるなら話してくれないか。」
しばらくエスメラルダは黙ってしまう。
「そうね。昨日あなたに仲間だって認めてもらったんだから言っておくべきね。宿場街ってやっぱり人がいっぱいいるんでしょ。だから・・・。」
そうだった。
エスメラルダはエルフだからまた人間達に何かされる危険があるんだ。
俺はエスメラルダがエルフであることをすっかり忘れていた。
俺の方こそ仲間失格だ。
「ごめん、気がつかなくて。」
エスメラルダは、笑みを浮かべてはくれるが、心からの笑みではない。
「また、フードを頭から被ればいいんじゃないの?」
そりゃ確かにそうなんだけど、エスメラルダは、どう思っているんだろう。俺なら絶対嫌だけど・・・。
「わかった、そうする。」
エスメラルダは、そう言うと頭からフードを頭からすっぽり被る。
しかし、その必要はまったくなかった。
「なによ、これ?」
エデンの街は活気どころか、宿場街とは思えないほど静まり返っている。
これもメルシンが戦争を仕掛けたことと何か関係があるんだろうか?
「こんなところで突っ立てても仕方ないだろ。とりあえず宿を探そうぜ。」
「そうね。」
ラーズとアイリーナは宿を探し始める。
俺とエスメラルダも二人の後を追う。
「もうそのフード取ったら?こんな様子だと必要ないだろ。」
「うん、そうする。」
エスメラルダはゆっくりとフードを外す。
「おう、ここにしようぜ。さすがにこんなけ人がいねえと宿も選びたい放題だな。」
ラーズが選んだ宿屋はかなり豪華なものだった。
ラーズって結構アイリーナと趣味が似ているのかもしれない。
中に入ってみるときちんと整理されており、外と同じように豪華さを感じさせる。最も客が全くいないが・・・。
「すいませーん。誰かいませんか?。」
アイリーナの呼び声に一人のおじさんが出てくる。
たぶん、この人がここの主人だろう。
「わたし達泊まりたいんですけど。」
「はい、何名様・・・・。」
そこでおじさんは、固まってしまう。
その視線の先にはエスメラルダがいる。
「あ、あ、あんた達まさか・・・。」
言葉をきっておじさんは奥へ逃げようとするがラーズがかろうじて捕まえる。
「まさか何なんだよ?」
おじさんは完全に怯えてしまっている。
いったい何があったんだ?
「すいません。命だけは・・・。」
ラーズの言うことに耳も貸さずにただ手を合わせている。
「わたしはこれでもオルボルクで修行をしていた神官です。意味もなく命を奪ったりしません!」
さすがにアイリーナもこのおじさんの態度が気に入らないのか、やや声が荒くなっている。
「じゃあなぜエルフがいるんだ?」
いまいちどころかまったくおじさんの話が理解できない。
確かにエルフは人間の間では邪悪な生き物扱いだが、それにしてもこの態度はないだろ、普通。
「別にこの子は何もしません。何故エルフをそんなに恐がるのか良ければ話して頂けませんか?」
「ついこの間、この国の王子、カミュー様が暗殺されて、こっちの方に逃げてきているらしいんだ。その連中がエルフだと聞いている。あんたらじゃないのか?」
「何ですってぇぇぇ。」
アイリーナが絶叫している。
おいおい、ちょっと待て。
そんな噂がこんなに流れていていいのか?
「そりゃ大変だ。だからこの街は人気がないんだな。」
ラーズが人ことのように呟く。
「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「そうか?俺にしてみれば王子が殺されようが、王が殺されようがどうでもいいんだがな。」
「何ですって!」
いきなりアイリーナとラーズがいきなり喧嘩を始める。
はっきり言うと、俺もラーズと同じ意見だ。ただヴァスラのリドルカイン陛下は個人的に好感がもてるので殺されて欲しくないとは思うけど。
「ところで俺達は泊めてもらえるんでしょうか?」
俺がおじさんに話しかけるとアイリーナとラーズの喧嘩もピタリとやむ。
そしてアイリーナはふくれっ面になりラーズは笑い出す。
「ちょっとライン、こんなところで泊まっている場合じゃないでしょ。すぐにサイドバードへ向かうわよ。」
「別に明日でも構わないだろ。俺達が行ったってどうなるわけでもないし。」
「・・・・・・。」
アイリーナはそのまま黙り込んでしまう。
俺は間違ったことは言っていない。多分・・・。
「別に構わないが、あんた達本当に違うんだろうね。」
なかなか疑り深いおじさんだ。
「はい、二人部屋を二つね。それから適当に夕食をお願いします。」
それだけ言ってお金を払い、俺達は上へ上がっていく。
夕飯時になってもこの酒場兼宿屋はまったく客が入らない。
今、夕食をとっているのは俺達だけ。
酒場がこんなに居心地が悪いと思ったのは初めてだ。
「ライン、おまえどう思う?」
「どう思うって?」
「オルボルクの王子が殺されたことだよ。」
泊まる前は、あまり関心がないように見えたがやはりラーズでも気になるらしい。
「多分、メルシン国の仕業だろ。その王子自身なにか人に恨まれるようなことがあるなら別だけど。」
俺はそうラーズに返すと、目の前の食事を片づける。
皿をみればアイリーナの皿はほとんど減っていない。
「どうしたの、食べないのか?」
「あなた達よくこんな時に夕食なんて食べる気になるわね。」
アイリーナはどうやら、オルボルクのことが気になるらしい。
確かに王子が死んだことは悲しいことかもしれないが、俺にしてみれば見ず知らずの人が死んだところで悲しいなんて感情は沸いてこない。いや、俺だけじゃないはずだ。
「俺達が気にしてもどうしようもないことだ。こんなことはとっとと忘れちまうのが一番さ。」
ラーズがアイリーナに言い聞かせるように言う。
「ライン、あなたもラーズと同じ意見?」
アイリーナはジッと俺の方を見つめている。まるでラーズの意見を否定して欲しいかのようだ。
「俺は忘れるのが一番とは思わないけど、気にして落ち込む必要はないと思う。とりあえず、明日オルボルクへ行ってみようよ。」
「ショックを受けているのは、間違いだって言うのね。」
誰もそんなこと言っていないのだが、アイリーナは俺の言葉をそうとったようだ。
「人間っておかしな生き物よね。」
ついさっきまで黙っていたエスメラルダが口を開く。
俺達はついエスメラルダを注目してしまう。
「あたし達エルフなら同じ仲間が殺されれば、すごく悲しいし忘れようとは思わないわ。」
「普通はそうでしょ。」
アイリーナがエスメラルダに共感を覚えたのは、初めてではないだろうか。
しかし、エスメラルダにはそんな気は全然ないというような眼差しをアイリーナに送っている。
「あたしがおかしいと思っているのは、あなたのことよ、アイリーナ。」
「どうして、どうしてわたしがおかしいのよ!」
おかしいと言われればさすがにアイリーナは黙っていない。
机に乗りだしてエスメラルダに掴みかからんとする勢いだ。
「ちょっと待て。話をまず聞け。」
隣に座っていたラーズがかろうじてアイリーナを抑える。
「だってそうでしょ。王子様が殺される前に、カグアス国は落とされているのよ。それでもあなたは、気にした様子なかった。そっちの方がたくさん人が死んでいるにも関わらずによ。それとも悲しみを隠して明るく振る舞ってたっていうの?それなら今回もそうしなさいよ、みんなが心配するんだから。」
エスメラルダの言葉にさすがのアイリーナも言葉を失う。
確かにそう言われるとエスメラルダの言う通りだ。
人にもよるが人間は、まったく名も知れない人が死んでも眉一つ動かさないが、面識がなくても名前を知っている人が死ねば悲しくなってきたりする。
そのことを気づかされてしまうとさすがに反論できない。
しばらく、沈黙が続く。
しかしその沈黙は長くは続かなかった。
扉の方から血塗れになった兵士、たぶんここの駐在兵だろう、が、よろよろと入って来てそしてすぐに倒れてしまう。
「ちょっと、大丈夫ですか?」
アイリーナがすぐに魔法を唱え、その兵士に近寄っていく。
ラーズと俺は外の様子を見に行く。
外には何もいる様子はない。何かいる気配はするが目には見えていないだけだ。
ダガー
ラーズが懐から短剣を取り出し、無造作に投げる。
「ギャァァァァー!」
短剣が刺さった瞬間に、エルフの姿をした者が断末魔の声を上げて倒れる。
よく見ると確かにエルフだが、エスメラルダとは明らかに違う。
肌の色が黒い。
「ダークエルフね。精霊魔法で姿を隠してるから気をつけて。」
精霊魔法には姿を隠せる魔法なんてあるのか!
厄介な相手だ。
「姿が見えなくても気配は消せねえ。おまえなら何とかできるはずだ。」
ラーズにそう言われて俺はダークエルフの気配を探る。
殺気がもろに放たれている。
なるほど、ラーズの言った通りだ。
俺の後ろから殺気を感じる。
「くっ、」
俺は何とかダークエルフの攻撃をかわす。
ダークエルフの姿が一瞬だが確認できる。
どうやら攻撃してくる瞬間は、姿隠しも解けるようだ。
それがどうしたと思うかもしれないが、何も見えないところに剣を振り下ろすのと、相手を確認して剣を振り下ろすのでは命中率にかなりの差が出てくる。
また、すぐに殺気を感じすぐさま横によける。
その瞬間、やはりダークエルフの姿を確認できる。
バスタードソード
そこを俺の長剣がダークエルフを切り裂く。
「グワァァー!」
ダークエルフは血を噴き出させながら倒れる。
やっと一人倒せたか。
ラーズを見るとまるで一人で剣舞でも踊っているように見えるが、剣を合わしている音は聞こえる。
まるで戦いを楽しんでいるように見える。
俺ではとても真似の出来ない戦い方だ。
エスメラルダの方は姿が見えない。相手と同じように姿を隠しているのだろうか?
あといったい何体いるのか気配だけでは分からない。
とりあえず今いる相手を一人ずつ倒していくしかない。
周りにはもう相手の気配は感じられない。
地面には七体のダークエルフの死体が転がっている。
俺が倒したのはそのうちの二体だけ。エスメラルダが一体、ラーズが四体倒している。
ラーズはすごい!
はっきり言って人間離れしている。
戦いのあとだというのに息一つ切らしていない。
とにかくダークエルフを倒したのだから、何でもいいや。
「お疲れさま、手当するからこっちに来て。」
アイリーナのそばに寄っていくと魔法をかけてくれる。
「血塗れの兵士はどうした?」
「わたしならアイリーナ殿に手当してもらってこの通りだ。」
ラーズのドゲのある言い方に腹を立てたのか、言い方に怒気がこもっている。
これで俺達の疑いも晴れただろう。
さて、疲れたのでとっとと部屋で寝るとするか。
俺とラーズは二階へ上がろうとしたとき、アイリーナがわざわざ俺達を引き留める。
「あなた達何処に行くのよ。こんな戦いに巻き込まれたんだから、話ぐらい聞いてもいいんじゃない?」
俺とラーズがあからさまに嫌な顔をする。
アイリーナの言うことも分からなくはないが、俺はこれ以上おかしなことに巻き込まれたくない。
「何か、すごく嫌そうだが、いいのか?」
「いいですよ。気にしないでください。」
アイリーナが勝手な返事を返す。
「あのダークエルフは、カミュー王子を殺した暗殺集団で本来は、王子ではなくエルディール王を暗殺しに来たと思われる。」
何も国を落とすのは戦争だけが手段ではない。
俺がリドルカイン王に忠告したことそのままのことだ。
メルシンもかなりオルボルクは、警戒しているようだ。
しかし、ダークエルフがメルシンについているとなると、かなり厄介だろう。
さっきの戦いを見れば分かる通りダークエルフは姿を隠せる。暗殺にはもってこいの人材投与だろう。
下手な盗賊よりずっと成功率が高い。
エルディール王が殺されなかったのは、さすがオルボルクと言ったところか・・・。
俺達が元血塗れ兵士に話を聞いているとき、酒場の扉が乱暴に開かれる。
「ここに倒れているダークエルフを殺ったのはお前達か?」
いきなり、十人くらい、兵士が怒鳴り込んでくる。
鎧にはオルボルク騎士団の紋章をつけている。
噂に名高い、オルボルク神聖騎士団様御一行の登場である。
「そうだが、何か文句あんのか?」
その騎士の態度が気に入らないのか、ラーズは喧嘩腰になっている。
「名は何という。」
「名前を聞くときには、先に自分から名乗るもんだろう。オルボルクの騎士の方々はそんな礼儀も知らないのか。」
ラーズの台詞に先頭に立っている、おそらくこの中で一番偉い人だろう、の顔色が変わっていく。
それを隣で一生懸命なだめている騎士がいる。
こちらの方はなかなか物わかりが良さそうだ。
「失礼しました。私はオルボルク神聖騎士団第三部隊所属のリック、そしてこちらが第三部団長のレブラントです。」
隣にいたリックとやらが丁寧に名乗ってくれる。
「俺の名はラーズだ。」
「ラインと言います。」
「アイリーナと申します。」
「エスメラルダです。」
四人がそれぞれ名を名乗る。
「お前はエルフだな。」
バスタードソード
騎士団長レブラントは、エスメラルダに長剣を向けている。
エスメラルダとレブラントの間に俺とラーズが割って入る。
「俺達の仲間に剣を向けるんじゃねえよ。」
ラーズの殺気ではない気が膨れ上がるのを隣でヒシヒシ感じる。
しかしレブラントは気にした様子もない。
「なかなかの気迫だ。心配するな。我々もそのエルフを殺す気などない。ダークエルフと普通のエルフの見分けぐらいつく。しかしよくエルフなど飼い慣らしたものだ。」
カッチーン!
久しぶりに頭に来た。
俺はエスメラルダを仲間だと思っているし俺やラーズ、アイリーナとも対等な立場だ。
しかし、一番答えているのはエスメラルダのようだ。
下をうつむき、握り拳で何かを我慢しているようだ。
「エスメラルダは俺達の仲間だ。飼い慣らしてなどいない。エスメラルダを侮辱するなら例えオルボルクの騎士団だろうが許さないぜ。」
俺は長剣をレブラントに向ける。
はっきり言って勝負して勝てるとは思えないが、自然とそういう動作を起こしていた。
「外へ出ろ。相手をしてやる。」
レブラントとその一行はみんな外へ出ていく。
これで裏口から逃げていったら面白いだろうが、そういうつまらんギャグをしても仕方ないし、そんな気分でもない。
俺が外へ出ていこうとするとエスメラルダが俺の腕をつかんでくる。
かなり不安そうな顔をしている。
「あたしのために戦うのなら、お願いだからやめて!」
エスメラルダは涙目になっている。
「君のためじゃないって言えば嘘になるけど、俺自身が腹が立ったからやるんだ。君が気にすることは何にもないよ。」
「でも、戦って勝てる相手だと思ってるの?騎士団長クラスに・・・。」
エスメラルダを慰めているときにアイリーナが横やりを入れてくる。
どうしてそう人のやる気をそぐようなことをいうかなあ?こいつは。
「騎士団長ぐらいどうってことねえよ。お前なら多分勝てるだろうさ。」
そりゃあラーズくらい強ければ勝てるだろうが、今の俺にそこまでの自信は持てない。
まあ、ここまで来た以上後に引くわけにもいかない。
当たって砕けろだ。
俺は覚悟を決めて外へ出ていく。
外にはすでに騎士達が周りを囲み、その中にレブラントが立っている。
「よく逃げずに出てきたな。殺しはしないから安心するんだな。」
お前なんか本気を出すまでもない。
レブラントの口振りからはそう聞こえる。
なめられて当然なのかもしれないが、やはり腹が立つ。
「遠慮なくいかせてもらう。」
俺は剣を構えて、全速力で突っ込んでいく。
間一髪のところで俺の剣は受け止められてしまう。
そのまましばらく硬直状態が続く。
剣の鍔迫り合いをしている訳だが、レブラントはいっこうに動きを見せない。
様子を見ているのか?
相手が動かないのなら俺が動くまでだ。
俺は即座に剣をひき一歩後ろに下がる。
レブラントは待っていたかのように突きを放ってくる。
それを紙一重でかわし、俺の横を通り過ぎるレブラントに体を反転させ斬りつける。
完全に後ろからの攻撃になるのだが、レブラントは攻撃を喰らわないためにそのままの速度で前へ走り抜けていく。
そして間合いが開いたままの状態でまたしばらく硬直状態が続く。
さすがに騎士隊長なんてやっているだけあって強い。
強いのだが、ラーズの言った通り勝てない相手ではない。
俺はまた間合いを詰めて、今度は小技で様子を見る。
そして、徐々に攻撃のスピードを速めていく。
しかしさすがは騎士団長、その肩書きは伊達ではない。
きっちり俺の攻撃を防いでいく。
「ええい、うっとうしい。」
レブラントが力任せに俺の剣をはじき飛ばす。
「うわーっ。」
俺は思わず体勢を崩してしまう。
そこを狙ってレブラントの剣は襲いかかってくる。
俺は崩れた体勢を立て直さず、無理矢理レブラントの方へ体当たりをかける
「なっ!」
この行動を予想していなかったのか、レブラントは後ろへとよろけていく。
「ぐうっ。」
プレートメイル
鉄鋼鎧を着ている相手に体当たりをかけたんだ。
俺の方にもダメージはくる。
しかし、そんなこと気にしている暇はない。
俺はすぐに体勢を立て直し剣を構えた瞬間、
「これで終わりだ。」
レブラントが渾身の力をこめて剣を振り下ろしてくる。
ザクッ
ほとんどまぐれに近いだろう。
俺はその攻撃を、持っていた剣で受け流していた。
「なにー!」
地面を薙ぎ斬ったレブラントは驚きを隠せない。
「俺の勝ちだ。」
俺はレブラントの目の前に剣を突きつける。
レブラントはうなだれている。
「やったあ、ライン」
「俺の言った通りだろう。」
俺のそばにエスメラルダとラーズが歩み寄ってくる。
アイリーナは唖然としている。
まさか俺が勝つなんて思ってもみなかったのだろう。
俺自身がそうだったんだから。
しかし、ラーズは本気で俺の勝利を確信してくれたし、エスメラルダは本気で俺のことを心配してくれた。
それだけで十分だったのに、本当に勝てたことがうれしくて仕方がない。
俺って結構強かったんだ。
「エスメラルダとラインに謝りな。お前は勝負に負けたんだ。それが筋ってもんだぜ。」
しかし、レブラントはうなだれたままで動こうとさえしない。
よっぽど俺に負けたことがショックだったのだろう。
レブラントにしてみれば、何処の馬の骨か分からない奴に負けたのだから・・・。
「我々の無礼、本当に申し訳ないと思っています。団長に代わりお詫びをします。」
レブラントの代わりにリックがお詫びを入れてくれる。
まあ、仮にも部団長という肩書きを持った相手に勝てて気分もいいし、謝ってもらえれば不機嫌になっている理由はない。
「別にいいですよ。俺もちょっと大人げなかったと思ってます。」
これはあくまで建前だ。
「そう言ってもらえると、こちらも助かります。ついてはダークエルフを倒していただいた御礼をこめて城にご招待したいのですがよろしいでしょうか?。」
城に招待されるのはいいのだが、リックが勝手に決めたことに俺達はついていっていいのだろうか?。
俺達はレブラントの方を見る。
「別にかまいませんよね、団長。」
レブラントはただ一つ頷くだけだった。
「ということで、今日は遅いから明日ここに迎えに来ます。では、」
そういうと騎士団の連中は俺達の前から去っていく。
リックとレブラントの案内で俺達は首都サイドバードの城に来ていた。
城というのは何処も一緒でむやみにでかい。
「こちらです。」
リックが開けた扉の向こうには、玉座がありそこには王様が座っており、その両隣に近衛隊長の中年の男と宮廷魔術師の老人が立っている。
いきなり謁見の間にご招待されたようだ。
ううっ、さすがに緊張する。
俺達は王の前に歩み寄り、アイリーナが膝を突くとそれに習って俺とエスメラルダも膝を突く。
ラーズだけはそのまま立ったままだ。
「王の御前だぞ。無礼ではないか。」
当然のように近衛隊長がラーズを注意するが、ラーズはまったく悪びれた様子もない。
「王がどうしたって言うんだ。国民の納税で優々と暮らしている奴に頭なんぞ下げるつもりはない。」
俺自身もその通りだと思うのだがさすがに、ラーズのようには出来ない。
「貴様、何様のつもりだ!」
近衛隊長がキレてしまった。長剣まで抜いている。騎士というのは気の短い奴ばかりなんだろうか?
「お前らこそ何様のつもりだ。こっちはお前らの大事な人の仇をとってやったんだぞ。お前らが頭を下げる方だろう。お城のお偉いさんは礼儀も知らねえのか?」
ここまで言われると、近衛隊長は我慢できないだろう。
ラーズに襲いかかろうとしたとき、
「そこまでだ。」
王の声に近衛隊長は、ピタリと動きを止める。
「なかなか面白い者達だ。確かにおぬしの言う通りだ。王としてではなく一人の親として、我が息子の仇をとってくれたことに感謝する。」
玉座から立ち上がり、俺達の前に頭を下げる。
これが王の貫禄だろうか。
頭を下げていても威圧感みたいなものを感じる。
「エルディール王、もう頭を上げてください。こう素直に頭を下げられては、周りに示しがつかねえし、俺達としてもバツが悪い。」
さすがのラーズも頭をかきながら参った顔をしている。
ラーズに言われて、エルディール王は頭を上げて、また玉座につく。
「そちらの三人も頭を上げなさい。」
そう言われ、俺達三人も頭を上げる。
「これは、御礼だ。受け取ってくれ。」
エルディール王の合図で隣にいた宮廷魔術師のおじいさんが袋を持ってくる。
「受け取るがいい。」
そう聞いたと同時にラーズが袋をひったくるかのように受け取る。
「ありがとよ。もうここには用はねえな。行こうぜ。」
結構ラーズの行動は、俺から見ても無礼だぞ。
俺の隣でアイリーナが体を震わせている。
「ちょっと待ってくれんか。おぬし達にお頼みがある。」
いったい俺達に何を頼むのだろうか?
王の頼みだから聞いてみたい気もするが、とにかくこの緊張から逃げ出したくて仕方がない。
「おぬし達に我が国に仕えて欲しいのだ。わしはお前達のダークエルフを倒した腕が欲しいのだ。」
ほう、
俺達をどれくらい評価しているのかは分からないが、それ相応に評価してくれているのだろうか?
「特にそなたはうちの第三軍団長と勝負して勝ったと報告を受けている。騎士団長というのはただ強いだけではだめだが、近衛隊なら問題ないはずだ。」
近衛隊ということはそこの近衛隊長の下で働かなければならないのか。
「微力ながらお仕えさせて頂きます。」
こら、ちょっと待て。
アイリーナの勝手な返事におれとラーズは唖然とする。
いつものアイリーナの独断判断だが、こいつの為に俺の人生を左右されてたまるか。
「俺は断らせてもらう。やらなければならないこともあるしな。」
ラーズはきっぱりと断る。
そういえば、ラーズは何か捜し物があるって言ってたな。
「貴様、今メルシンが攻めてきていることぐらい知っているだろう。それをくい止めることより大事なことがあるのか?」
やはり近衛隊長が怒鳴り声をあげる。
ラーズは全然答えた様子もなく、
「そんなこと俺には関係ない。国のごたごたになんか巻き込まれたくないからな。」
きっぱり言い切る。
「そなたはどうなんだ?」
エルディール王は俺の方を見ている。
確かにメルシンのことは大変だと思うし、それを止めなければという気持ちもないことはない。
しかし、俺もラーズと同じ意見だしラーズの捜し物にも興味がある。
「近衛隊に入隊というのは魅力的だと思いますが、俺もラーズにつき合いたいと思ってます。申し訳ありませんが断らせていただきます。」
俺の言葉にアイリーナは驚きを隠せない。
ラーズは俺がどう答えるのかある程度予想していたのか、俺の方を見て片目をつぶってみせる。
「そちらのエルフの娘はどうなんだ?」
エスメラルダはしばらく黙っている。
種族が違っても偉い人の前だと緊張するようだ。
「あたしはエルフです。人間同士の争いに関与する気はありません。」
「じゃあなぜこの者達と共に行動しておる。人間と一緒にいれば何らかの争いに巻き込まれるのは必至だろ。」
「それは、彼らはあたしが人間達に襲われているところを助けてくれたからです。人間達はあたし達エルフを邪悪な生き物だと思っているにも関わらずにです。そしてそんなあたしをこのラインは一緒に旅に誘ってくれて仲間だと言ってくれました。」
そこでエスメラルダは一呼吸置く。
「人間同士に争いに関与しないというのは、単なる口実です。あたしはラインが仲間だと言ってくれた時から、この人に着いていくと決めたんです。」
仲間っていいなあ。
今ほどそう思ったことはない。
アイリーナは何か複雑そうな顔をしている。
「分かった。ならアイリーナ殿だけ我が軍に向かえよう。そなた達はこれからどうするのだ?」
ラーズとエスメラルダは俺の方を見ている。
俺にこれからの行動を委ねてくれるようだ。
「俺達はベイルートの方へ向かうつもりです。もともとアルディオン全土を回るのが旅の目的でしたし、そうしていればラーズの捜し物も見つかる気がしますので・・・。」
「そうか、旅の無事を心より祈っておるぞ。我が息子の仇をとってくれた勇者達よ。」
勇者などと言われると何か恥ずかしい気もするが、悪い気はしない。
俺達はエルディール王に一礼をして謁見の間を出ていった。
「まさかあなたとこんな風に別れるとは思わなかったわ。」
城の門の前でアイリーナが見送りに来てくれている。
確かに俺もキールの村を出てきたときは、こんなことになるとは考えもしなかった。
これも自分たちで決めた道なのだから仕方がないのかもしれないが、やはり寂しい。
俺はアイリーナにかける言葉が見つからない。
「何暗くなってるのよ。この戦争が終わればまた一緒に旅も出来るし、それにきっとまた会えるわよ。」
そうかもしれないが会えるとすれば、おそらくどこかの戦場だろう。
物思いに耽っているといきなりアイリーナが抱きついてくる。
「元気でね・・・。」
耳元で呟く。
「うん、そっちも元気で・・・。」
アイリーナはゆっくりと俺から離れていく。
うっすらと涙を浮かべながら・・・。
アイリーナの涙に見送られながら、俺達はオルボルクの城に背を向けた。




