いろいろな人々
暗闇の中を ひたすら星達が照らしたくれる。街の中なら明かりがあるからそこそこ明るいのだろうが今は旅路の真っ最中。周りには、草原と木しかない為、夜になると本当に暗くなる。
その中で俺は、たき火をしながら瞬く星をジッと眺めていた。さすがに夜に移動するのは、危険とみて野宿することになり、俺は見張りをしているわけだが、一人でいるのがこれだけ退屈だとは思わなかった。
アイリーナ、ルディ、俺の三人で交代でしようとアイリーナが言い出したのだがルディが、女性一人では危険だと言い出したので、アイリーナとルディを組ませ、最初に見張りをさせたため今、起きているのは俺だけ。
まあ、アイリーナと一緒だとうるさいだけだからいいのだが・・・・。
うん?
俺は突如周りに気配を感じる。
俺は、立ち上がり剣に手をかける。
闇の中から二体の妖魔らしきものが出てくる。身長はニメートルは越えているだろう。
かなりの巨体で棍棒を担いでいる肌の色は緑色。見たところトロルの特徴だが、俺はトロルを見たことがないので、それがトロルかどうか断言できないが、トロルとしておこう。
さて、問題はこのトロルに勝てるかどうかだ。
書物などを読むと回復力がけた外れだという。かすり傷など一瞬で治るらしい。
アイリーナ達を起こすか?
しかし寝ているところを起こされる不快さを知っているため、起こす気にはなれない。
仕方ない。
「増幅。」
魔法を唱えるとともに剣が青白い光を放つ。
この魔法は物の特性を飛躍的にアップさせる。剣なら切れ味が上がり、鎧なんかにかければやたらと頑丈になったりする。
これで致命傷を与えてしまえば、回復も何もない。
俺はゆっくりとトロルとの間合いを詰める。
すると、トロルは二体同時に棍棒を振り上げ襲いかかってくる。
はっきりいってトロルの動きは遅い。
俺はあっさりとそれをかわす。するとその振り下ろされた棍棒は、地面を殴り地面にポッカリ穴ができる。
あんなのをまともに喰らえば、俺の体など原型も留めず確実に即死だろう。
さすがに俺も背筋が凍る思いだ。何とも云えない緊張感が走る。
俺は一体のトロルに駆け寄り腹の部分に剣を一閃させる。
「グウォォォォォォォ。」
トロルの断末魔が響き渡り、腹から血が吹き出す。
完璧に致命傷を与えた・・・・・つもりだった。
しかしトロルの腹はコポコポと治っていく。
嘘だろ!
なぜあれで死なない?
そんなことを考えている余裕もなく、もう一体のトロルが襲いかかってくる。
それもなんとかかわし斬りつけるが、やはりすぐに回復してしまう。
まさかここまですごいとは・・・・。
これはよほどじゃなければ倒せない。
と、なれば狙いは一つ。
俺はトロルの攻撃をかわしつつ間合いを取る。そして一気にトロルに駆け寄り剣を一閃させる。
狙いはトロルの首、
俺の剣がトロルの首を跳ね飛ばす。
そして首のないトロルは、血を吹き出させながら後ろへと倒れる。
ふう。
これでもし首がニョキニョキ生えてきたらどうしようかと思ったが・・・。
そう思った刹那、俺の後ろから殺気が走る。
一体倒したことで油断した!
トロルの振り下ろされる棍棒を紙一重でかわし、反射的にトロルの腹に剣を突き刺す。 しかし、それぐらいではトロルは死なない。
俺は剣を引き抜こうとするが・・・。
抜けない!
どれだけ力を入れても抜けない。
トロルは、俺の動きを封じるのが狙いだったかのように、棍棒を振り下ろしてくる。
チィ!
俺は仕方なく剣から手を離しそれをかわす。
かわしたのはいいが、おれは丸腰になる。
そこを狙ってかトロルが一気に襲いかかってくる。
「魔法弾。」
俺の手の平から光の弾丸がトロルに当たるが、まったく気にした様子もなく向かってくる。
チッ、この程度では効かないか。
俺はまた魔法を唱え始める。
しかし、威力のある魔法はそれなりに時間がかかる。
それをトロルが見過ごしてはくれない。
俺が魔法を唱え終える前にトロルは襲いかかってくる。間合いをとろうとするが、トロルもやはりそうはさせてくれない。
こんな調子で長期戦にでもなれば、おそらくトロルの方が体力がある分こっちの方が不利になる。
うん?
その時トロルの腹にまだ俺の剣が刺さっていることに気づく。
これなら・・・・。
おれはまた魔法を唱え始める。
そしてまたトロルが、そうはさせまいと襲いかかってくるが、簡単な魔法のため唱え終える方が早い。
トロルの攻撃をかいくぐり、剣に手をかけ魔法を発動させる。
「火炎斬。」
その瞬間剣の刀身から炎が吹き出す。
当然、剣は刺さったままなのでトロルの体の中を炎が燃やしていく。そしてしばらくすると、体の外側まで炎が回ってくる。
そこで俺は剣を引き抜きトロルの首をはね、燃えさかるトロルから離れる。
トロルはそのまま炎に包まれながらとれていった。
ふぅ、やっと片づいたか。
俺は剣をしまい馬車の方を向くとケルビンさんとミレーヌさん、それにシーダが立っていた。
まあ、あれだけ騒いでいたら普通は起きてくるか。
「あんた本当に強かったんだなあ。」
ケルビンさんが驚いた顔で声をかけてくる。
「本当にお強いんですね。」
「お兄ちゃんすごい!」
いやあ、なんか照れるなあ、こんなに誉められると。
「さて、少し早いが朝飯の準備でもするか。」
「そうですね。」
気がつけばいつの間にやら朝日が昇り始めている。
ケルビンさん一家が朝食の準備をしている間に、俺はスコップを借りてトロルの死体を片づける。
さすがにこんなもの見ながら朝食をとるきにはならないだろう。
「お兄ちゃん、朝食の用意ができたよ。」
調度こっちの片づけが終わった頃にシーダが呼びに来てくれる。
さすがにこれだけ動くと腹も減ってくる。
「もう、腹ぺこだ。」
朝食の前に座って周りを見れば人数が足りない。
「そういえば、アイリーナ達は?。」
俺の問いに、三人は顔を見合わせる。
「そういえば・・・。」
「今日はまだ・・・。」
「見てないよ・・・。」
ひょっとしてまだ・・・。
俺はアイリーナ達が寝ている場所へ見にいってみる。
二人ともまだ寝ている。しかも気持ち良さそうに。
あの騒ぎのなかよく寝られるなあ。
「起こしてあげないの?。」
いつの間にかシーダが俺の隣で覗いている。
「いいよ。途中で起こすのも可哀想だし、寝かせといてやろう。」
アイリーナが低血圧なのは、昔から知っていたけどまさかルディまで・・・。
はっきりいって護衛失格だぞ。
「ねえ、でも余っちゃうよ。」
「スープとかはみんなで分ければいいんじゃないか。パンとかは無理して食べる必要もないし・・・。」
何もしていないんだ。朝食ぐらい抜いたって死にはしないだろう。
「さて、そろそろ準備しようか。」
ケルビンさんとミレーヌさんは、朝食をすませるとすぐに旅の準備に取り掛かり、俺とシーダは朝食の後片づけにかかる。
その時、やっとアイリーナとルディが起きてくる。
「おはよう。あら、何してるの?。」
片づけをしている様子を見て、アイリーナの表情が見る見る変わっていく。
よく見るとルディの表情もアイリーナと一緒だったりする。
さすがに怒りの形相になっている二人に詰め寄られると後ずさりしてしまう。
ううっ、むちゃくちゃ恐い。
「ちょっと、わたし達の朝食はどうなったのよ!。」
アイリーナの怒鳴り声を聞いた瞬間シーダが俺の後ろに隠れる。
ルディもいつの間にやら剣を抜いて構えている。
食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったものだが、普通殺気を発しながら剣までぬくか?。
「ちょっと待て、話せば判る。」
何をどう話せば判るのか、自分自身さっぱり判らないが、とりあえず二人を何とかしなければならない。
「何を話してくれるのかしら、ライン。」
アイリーナはにっこり微笑むが、目は笑っていない。
「えっと・・・、その・・・・。」
何か言おうとしても、なかなか言葉が出てこない。
「何をやってるんだ。」
準備を終えたケルビンさんがこっちにやってくる。
ナイスだ。いいタイミングだぞ、ケルビンさん。
ケルビンさんの表情はやや険しい。
見ただけならただごとではないと思うだろう。なんせルディが剣まで抜いているのだから・・・・。」
「あんたらは寝てたから先に済ませたんだけど、ひょっとして朝飯のことで剣まで抜いてケンカしてたのか?。」
まさしくその通りなのだが、冷静に考えればなかなかバカなことをしていると思う。
アイリーナも俺と同じ考えなのか大きく嘆息する。ルディもまだ納得していないようだがアイリーナの方見て剣を納める。
シーダがパンをも持ってアイリーナの方へ歩み寄っていく。
「ごめんなさい。ラインお兄ちゃんがトロルと戦ってて、その騒ぎで早く起きちゃったから、その分朝食も早く済ませちゃったの。」
なかなか気の利く子だ。
俺だったら、あれだけ怒鳴られた後にパンなんて持っていったりはしないだろう。
しかしアイリーナはシーダの持ってきたパンを受け取ろうともせず、ただただ呆然としている。
「あなた、本当にトロルと戦ったの?。」
なるほど、そっちに関心がいったか。
「あんた、トロルに勝ったのか?。」
ルディは、アイリーナより驚いているようだ。
トロルの死体は埋めたからもうないが俺がここに無事にいるのだから、倒すなり追い払うなりしたことくらいは分かるだろう。
「トロル一体くらい、俺でも倒せらあ。ハハハハハ。」
ルディの乾いた笑い声が響く。
「おい、ルディ、俺が倒したのは二体だ。」
俺の言葉にルディの笑いもピタリと止まる。
「あなた本当に二体も倒したの?。」
「そうだ、トロルと戦って無傷というのもおかしい。」
アイリーナとルディは信じられないといった声を上げる。
まあ確かに、かなり手こずったがそれは、トロルの耐久力と回復力のせいでトロル自体がそんなに強くはかんじなかったが・・・。
実際、トロルの攻撃は、俺の体をかすることさえなかった。
「本当に倒したよ。わたしちゃんとみてたもの。」
シーダの言葉にさすがに信じざるえないのか、これ以上の追求してこなくなった。
「そう言えば、あれだけの騒ぎがあったのにあんたらよく寝てたなねえ。」
ケルビンさんもいらんことを言わなきゃいいのに・・・。
ケルビンさんの言葉を聞いてアイリーナとルディが固まっている。
二人はかなりあせっている。
「それは、その、始めの見張りで疲れてたから・・・。」
ルディが言い訳がましく言う。
アイリーナはうつむいて、ひたすら黙っている。
「ケルビンさん、準備できたのならいきましょう。」
「そうだな。」
俺は話を逸らしてやる。このままだとなかなか終わりそうにない。
ケルビンさんも納得してか、馬車に乗り込む。
ルディもムスッとした顔でこちらを睨みながらケルビンさんの後に続く。
「ありがとう、話を逸らしてくれて。でもあなた一人で本当に倒したの?。」
アイリーナはまだ信じられないのか、俺の顔をジーッと見つめてくる。
「済んだことはどうでもいいだろ。早く行こうぜ。」
「ちょっと、待ちなさいよ。」
俺はアイリーナを無視して最後尾に座っているシーダの横に腰を下ろす。
いつもなら文句の一つも並べ立ててくるはずのアイリーナが何も言わずに馬車に乗り込んでいく。
戦いの最中に眠っていたことを気にしているのだろうか?まあ、何にせよ平和な旅路が送れるなら別にいいか。
そして馬車はゆっくりと動き出した。
「あれが首都イバダンか。」
俺はこの街の大きさに感嘆の声をあげていた。
まだ街に入っていないのだが城も見えれば、街並みも前に立ち寄ったシドンよりもずっと大きい。
「イバダンは首都としてはまだ小さい方だよ。オルボルクの首都のサイドバードなんかイバダンの倍はあるんだから。」
シーダは自慢気に説明してくれる。さすがに旅を続けているだけあっていろんなことを知っている。
オルボルク。国力、兵力共にアルディオン随一と言われ、騎士をめざすものは、ほとんどオルボルクにいくほどに神聖騎士団は強いと言われている。
まあ、俺には関係ない所だが、それだけ大きい街ならぜひ行ってみたいものだ。
太陽が真上に来た頃、俺達はイバダンの市場に辿り着いた。
「ここまでの護衛、本当にありがとう。特にラインには本当に申し訳ないと思っている。これはその御礼だ。」
そう言うとケルビンさんは小袋を一つずつ手渡してくれる。手にした感触からしてかなりの額の金貨が入っているとみた。
しかし、俺には何が申し訳ないのか分からなかった。
「いったい何のことですか?」
俺はしれっ聞いてみる。
「君を護衛に雇う前、君の強さを疑ってしまった。君の自尊心を傷つけてしまったのでは、と思ってな。」
なかなか細かいところまで気にする人だ。
まあ、気遣ってもらって嫌な気分はしない。
「別に気にしていませんよ。初対面の人間をいきなり信じろという方が無理だと思うし、俺は護衛に雇ってもらい、こうやって報酬をもらえるだけで感謝してますから。」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。君にはずっと護衛をしてもらいたいくらいだ。シーダも君のことを気に入っているし・・・。」
シーダを見ればケルビンさんの隣で涙を必死で堪えている。
「じゃあ、そろそろ行きます。」
「ああ、気をつけてな。」
そして歩きだそうとしたとき、俺の袖をシーダが引っ張る。
「もう、行っちゃうの?」
「シーダ!離しなさい。」
ミレーヌさんがシーダを引き離そうとするがシーダは俺の袖をしっかりつかんで離そうとしない。
「もう行かなくちゃいけないから、離してよ。」
俺は優しく声をかけるがシーダは首を横に振るだけで離してくれない。
「確かに別れるのは俺だって嫌だよ。でもそういうわけにもいかないんだよ。大丈夫、きっとまた会えるよ。これはある人の受け売りなんだけど、俺が君達を護衛したのは単なる偶然だけど、また会うことがあればこれは運命だ。運命に導かれて会うことができれば、きっと今より親しくなれるよ。こういう出会いって結構いいと思わない?」
我ながら自分でも信じていないことをよくもズケズケと言えるものだ。
しかしその言葉でかどうかは分からないが、シーダが俺の袖を離してくれた。
「きっとまた会えるよね。運命に導かれて会えるよね。」
「ああ、きっと会えるよ。いつか必ずね。」
シーダの言葉に一言返事を返すと、そのままアイリーナの方へ歩き出した。
「子供にはえらくもてるじゃないか。」
ルディが俺に何か言っている。
こいつまだいたのか。
「子供にも嫌われている奴よりずっといいさ。」
ボソリとルディに呟いてやる。
「なんだと!やはりあんたとはきっちり決着をつける。」
いきなり怒りだし、剣を抜き出す。
これほど単細胞だと相手にしているのがばかばかしくなってくる。
「そんなに気が短いと子供どころか、だれからも相手にされなくなるぜ。」
「うっ・・・ぐっ・・・。」
ルディは何も言えずに立ちつくしている。
「あなたの負けよ。じゃあ、機会があればまた会いましょ。」
ルディに一声かけてから、アイリーナが先行している俺を追いかけてくる。
「しかし、あなたも容赦ないわね。そんなにルディが嫌いなの?。」
「少なくとも、好きにはなれないよ。」
容赦がないなど、アイリーナには言われたくない。
そう口から出そうになるがかろうじて言葉を飲み込む。
それに、俺はあいつのことが好きだという奴を見てみたい。このアルディオン中探してもそうはいないと思うぞ。
「まあ、わたしもいい人だとは思わないけど・・・。ところでこれからどうする?宿でも探そうか。?。」
「まだ早いんじゃないか。せっかくだから、街でも見物しないか。」
はっきり言って俺はこれが楽しみでアイリーナと旅をしているのだ。そんな簡単に宿探しなどさせられてたまるか。
「そうね、じゃあどこにいこうか?そうだお城にいかない。お城があるのは首都だけだもの。ねっ、そうしよう。」
アイリーナは俺の手を引っ張っていく。
「おい、ちょっと待てよ。城ってそんな簡単に近づけるのかよ。。」
俺の言うことなどまったく聞いている素振りも見せず、アイリーナは俺を引っ張っていく。気がつけばすぐそこに城が見えていた。
俺の目の前に大きな城がある。イバダンに入る前からでもかなり大きく見えたのだが、近くで見るとさらに大きく感じる。俺達が住んでいた村がすっぽり入ってしまうくらい大きいのだ。
世の中の不条理を感じてしまう。
これだけの所に住んでいるにも関わらずキールの村のような小さな村から税金を取っているのだから許せない。
だんだん腹が立ってきた。
しかし腹を立てたところで俺一人でどうにか出来るものでもないのだから虚しくなってくる。
「そろそろ違うところにいかない?」
「そうだね。」
アイリーナの提案に素直に従い後をついていく。
「あー、疲れた。」
街が広いために全部回れないまま、俺達は宿を探していた。実はいくつか宿を見つけていたのだが、アイリーナの「気に入らない。」の一言で未だに探すはめになっている。
「ここにしましょ。」
アイリーナが選んだ宿は、今までの宿とは違い、いかにもここは高級ですと言わんばかりの宿だった。
無茶苦茶高いんじゃないのか、ここ。まっお金はあるからいいか。
アイリーナがルンルン気分で扉を開けた瞬間、
ヒュー、
パッシャーン
アイリーナの顔を酒のボトルがかすめていった。
中を覗いてみれば二人の男がケンカをしている。一人は剣士、もう一人は盗賊のようだ。俺は二人の顔に見覚えがある。剣士の方はルディ、盗賊の方はシドンで会った盗賊のである。
「ちょっと、さっきボトル投げてきたのは誰?」
よく見るとアイリーナはすでに戦闘モードに入っている。メイスを手に持ち今にも襲いかかろうとしている。
「ゲッ、アイリーナ!。」
ルディはちょっと前まで俺達と一緒にいたのだ。アイリーナの恐さはよく知っているだろう。
アイリーナを見るなり後ろへすっ転んでいく。
「よう、こんなに早く会えるとは思わなかったな。」
盗賊は脳天気に声をかけてくる。
俺ははっきりいってこの場から逃げ出したい気分だ。
きっとアイリーナが暴れ出す。
「ボトルを投げたのは誰だって聞いてるでしょ!」
アイリーナの怒りの頂点に達しているのは怒鳴り声で分かる。
「ボトルを投げたのはそっちだ、俺じゃねえよ。」
盗賊は、アイリーナの様子を気にもせずあっさりと答える。この返事を聞いてアイリーナはルディの方へ歩み寄る。
ああ、さらばルディ。お前のことは・・・・まあ二、三日もすれば忘れるだろうが迷わず成仏してくれ。
「すいません。焼き魚定食と白ワインください。」
俺はとりあえず腹が減っているので食事をとることにする。
アルディオンには、魚が捕れる場所はラグナ湖という湖しかないのだがここで捕れる魚の味は絶品なのだ。
昔、家の近くのおっちゃんに食べさせてもらったことがあったが身も引き締まっていてほどよく油ものっている、うまいとしか言いようのない味だったのを覚えている。
「あちらの方はあなたの連れでしょ。止めてもらえませんか?」
店のおっちゃんは、どうやらアイリーナとルディの方が気になるらしい。当然といえば当然なのだがああなってしまっては、俺ではとても止められるものではない。
「悪いけど、俺じゃ止められないよ。」
そのことを正直に伝える。
おっちゃんは肩を落としてスゴスゴと厨房に入っていく。
何か悪いことをした気分だ。
「しかし、お前さんもよくこの状況で飯なんか喰う気になるな。」
気がつけば盗賊は俺の目の前の席に座っている。
騒ぎの方をみればアイリーナが好き放題にボコッている。放っておけば殺してしまいそうだがまあ、ルディだからいいか。
「おまちどう。」
しばらくしておっちゃんが焼き魚定食と白ワインを持ってくる。
よし!
こういう時は、うまい飯と酒でも飲んで今起きていることを忘れる。いわゆる現実逃避という奴だ。
しかし、世の中とは無情であることを思い知らされる。
焼き魚に手をつけようとしたとき、警備兵らしき者、いや、おそらく警備兵だろう。がやってきたのだ。
理由はもちろん言うまでもない。
「おい、お前ら。何をしている。」
警備兵に声をかけられアイリーナの動きが止まる。
「この人がわたしにボトルをぶつけてきたんです。」
何もしていなければ、アイリーナの言うことも信じてもらえるのだろうが、相手のルディはボロボロである。
これでは、まったく説得力がない。
「ちょっと来てもらうぞ。」
アイリーナは警備兵につれていかれる。一応、抵抗はしているようだが、多人数で抑えられてはどうしようもない。
アイリーナはこっちを見ているようだが、こういう時は他人のふりが一番。
俺はせっせと目の前の定食を食べる。
「ちょっとライン。何知らんぷりしてるのよ。」
その瞬間、俺の所にも警備兵が集まってくる。
「あの女の仲間だな。お前も来い。」
「ちょっと待って・・・。」
「言い訳は後で聞く。」
全く聞く耳を持たない。
周りを見渡せばいつの間にかあの盗賊がいない。
あいつ、いつの間に逃げたんだ?
店の客達ただ見ているだけ。
世の中本当に冷たいものである。
「ちょっと、ここから出してよ。」
アイリーナが叫んでいる。
俺達はそのまま城に引っ張り込まれて、有無を言わさず地下の牢屋に放り込こまれてしまった。
俺は訳も聞いてくれない兵士達に腹を立てていた。
この牢屋の鍵くらいなら魔法で簡単に開けることが出来るので、ここから抜け出す位訳もないのだが、後で指名手配されると後々厄介なのでそんなことはしない。
さて、いつ頃ここから出られることやら・・・。
しかし、そのときは以外に早く訪れた。
一人の男が歩いてくる。年齢は俺より少し上といったところか。髪は肩ぐらいで切り揃えられており顔立ちもいい。着ている服も普通の人とは違うかなりいい物のようだ。
その男が牢屋の鍵を開けてくれる。
「外からの証言がありまして、あなたに罪がないこと。後、そちらのお嬢さんの方ですが罪がないとは言えませんが先に被害を受けたと聞きましたので、二人とも釈放います。
やたらと丁寧な言葉遣いで話す。
「罪のない人を有無を言わさず牢屋に入れといて釈放しますの一言で終わりですか。」
アイリーナが言うわけだが普通はアイリーナが言える台詞ではない。
まあ、俺が思っていたことだから、代弁してもらったと思っておこう。
男の方はあっけにとられたのか呆然とし、しばらくしてから笑い出した。
「分かりました。僕の部屋へ招待します。そこできちんとお詫びをいたします。それでいいですね。」
ここに部屋があると言うことは、この人ひょっとして王族か?。
アイリーナも俺と同じことを思ったらしく顔を見合わせる。
「あなたひょっとして王族なんですか?」
男はにっこりと微笑む。
「一応王族です。僕の名前はリドルカイン=ヴァスラといいます。以後、お見知り置きを。」
やっぱり王族か。
予想していたとは言え、やはり驚きは隠せない。
王族には国を象徴する意味があるのか、国名を姓として持っているため、名前を聞けばすぐに分かる。
しかし、アイリーナの方は俺以上に驚いているように見える。
「リドルカインって・・・ひょっとして・・・国王陛下・・・。」
「ええっ。」
一言返事を返して微笑む陛下。
嘘だろ!
まさかそんな偉い人がなんで牢屋なんぞにくるんだ?。
「国王がこんな所にきてはいけませんか?。」
俺の考えを読んだのか陛下はすました顔で言ってくる。
「ところであなた方の名前を教えていただきたいのですが・・・。」
俺の喋る間も与えず話し出す。
「アイリーナと申します。一応、神官をやっております。」
本当に一応だよな。
「ラインといいます。」
「ラインさん、アイリーナさん。それでは僕の部屋に案内します。」
ここは城のどのあたりだろうか?。
あまりに複雑に歩き回っているためか場所がよく分からない。改めて城の大きさを感じさせられる。
いろいろな装飾品で飾れている廊下。あの装飾品一つ、いったいどれくらいの値段だろうか?。
そんなことしか頭に浮かばない自分がなんとなく嫌になる。
「さあ、ここです。お入りください。」
中に入ってみると驚くことしか出来ない。
とにかく広い。
俺の家がそのまますっぽりと収まってしまうのではないだろうか。
「ここに座って待っていてください。」
陛下が部屋の中央にあるソファーを勧めてくれる。俺はソファーに腰を下ろし、周りを見渡す。するとアイリーナがいない。
何処へいったんだ?。
陛下も部屋を出ていったし・・・。
まあ、そのうちやってくるだろう。
「お待たせしました。食事でもどうぞ。」
陛下自ら食事を運んでくる。
なかなか気が利く王様だ。俺はさっきの店で食べ損なっているのでこの気遣いはかなりありがたい!
しかも、俺の前に並べられた食事は見たことのない料理ばかりだった。さすがに食べがいがありそうだ。
俺はスプーンを手に取りスープを口に運ぶ。
うまい!。
とにかくこの一言につきる。
濃厚なスープの味が口いっぱいに広がり何とも云えない味に仕上がっている。
そしてナイフとフォークを手に取り大きな肉の固まりを細かく切っていく。あまりに肉が柔らかいのかナイフはなんの抵抗も感じず肉を切り刻んでいく。そして口にいれた瞬間、肉汁が口の中に広がっていく。それでいて少しもくどくなく、後味もすっきりしている。とにかくこんなうまい物食べたことがない。
もう、死んでもいい。本当にそう思える料理だ。
「お口にあいましたか?。」
「こんなうまい物初めてたべました。」
陛下の問いに感嘆の返事を返す。
丁度その時、アイリーナが兵士に連れられてやってきた。
「アイリーナさんもどうぞ。食事の用意が出来てますよ。」
「どうも、頂きます。」
陛下に勧められてアイリーナも食事の前に座る。
「リドル陛下、お話があるのですが・・・・。」
アイリーナをつれてきた兵士が何やら言いにくそうにしている。
ひょっとして俺達って邪魔なのかも・・・。
「この方たちに聞かれてこまることですか?。」
「いいえ、いずれ分かることですから・・・。」
「じゃあ、すぐに話してください。」
兵士はややためらいながら口を動かす。
「単刀直入にいいます。カグアスがメルシンに落とされました。」
「んっぐ!。」
その話を聞いてアイリーナが食べていた物を喉に詰まらせる。俺と陛下もしばらくの間言葉を発することが出来なかった。
カグアスとメルシンは、このアルディオンの一番西側で隣接している国同士だ。カグアスは兵力じゃ竜騎士団を形成しているだけあってオルボルクと唯一、まともに張り合える国だと言われている。それに対しメルシンはアルディオンの中で兵力、国力共に最も貧しい国だ。カグアスがメルシンを落とすことがあっても、その逆はあり得ないはずなのだ。
「嘘でしょ?」
アイリーナの質問に兵士はただ黙っている。
「しかし、僕はメルシンがカグアスに戦争を仕掛けたという報告は受けていませんよ。」
「はい。そういう情報はこちらには来ていません。」
陛下の疑問に兵士は、重々しく答える。
戦争の結果の情報だけが入ってきたということはメルシンが勝てる訳がないと思い誰もがこの情報に無関心だったか、戦争が恐るべき早さで終結を向かえたか、あるいはその両方だろう。
とにかくメルシンがカグアスを落としたということは、他の国にも侵略する可能性がでてきたことになる。
しかし、俺は未だに信じられずにいたし、アイリーナにしても俺と同じような心境だろう。
「本当にその情報は確かなものなんですか?。」
「我々の情報は確かなものだ。嘘であってほしいと思うがな。」
「しかし、メルシンがカグアスを落とすなんて・・・。」
アイリーナはそこで言葉をきる。
情報を持ってきた兵士にしても信じたくないのは、報告する態度でよくわかる。
「人には信じられなくても信じなければならない時もあれば、信じたくても信じられないときもあります。今、大切なことは事実を冷静に受け止め、対策を考えることです。」
陛下の言うことは最もだが人間頭で解っていても心の方ではそうはいかない。
「今から緊急に会議を開きます。すぐに会議室に人を集めてください。それからあなた方にも参加をお願いします。」
「陛下、それはいけません。彼らは部外者ではありませんか。」
そばにいた兵士が非難の声を上げる。
確かに俺達、一般人がそんな大事な会議に出るのはどうかと思う。
しかし陛下は、まったくそんなことを気にした様子はない。
「彼らもこの国の国民です。部外者とは失礼でしょう。それに僕は一般の人の意見も聞きたい。もちろん彼らが拒否すれば無理にとは言いませんが・・・。」
陛下はこちらを向く。
この会議に出れば戦争に巻き込まれてしまうのではないだろうか。
ならば丁重に断るべきだろう。
「わたし達でよければ参加させてください。」
俺が断る前にアイリーナが返事をしてしまう。
「おい、ちょっと待て。本当に参加する気か?」
俺はアイリーナに文句を言う。
「あら、いいじゃない。国王陛下直々のお願いよ。断る理由がないでしょ。それに陛下に恩を売る絶好のチャンスじゃない。」
こいつはいったい何を考えているんだ?。
俺の思いも知らずにアイリーナは勝手に話を進めている。
「それでは案内します。」
陛下が部屋を出ると兵士とアイリーナは後について歩いていく。
結局、俺も出なくちゃならないのか。
何か気が重い。
会議室の扉をくぐるとそこにはすでに多くの人が席についている。
ほとんどの人が重臣と呼ばれる人だろう。
こんな所にいるのはかなりつらい。
アイリーナが席につくため仕方なく隣に座る。
「それでは会議を始めます。議題は・・・・・、言うまでもありませんね。それではどうすればいいか意見をお願いします。」
陛下のありふれた挨拶が終わると同時に周りの人がざわめきだす。
「とりあえず、国境の警備を強化する。」
「それしかないか。」
「しかし、ここまで来るにはオルボルクを落とさなければならないのだからオルボルクに協力すべきでは・・・。」
「そもそもこの国まで攻めてくるのか?」
いろいろな意見が飛び交う。
俺はただ呆然と見ていることしか出来ない。
アイリーナをみれば不謹慎にもあくびをしている。
ときどきこいつの神経の太さが羨ましくなってくる。
「ラインさん、何か意見はありませんか?。」
え、俺?
俺なんかが意見してもいいのか?
周りの視線は全て俺のほうに向けられる。
無茶苦茶緊張するがなるだけ平静を装う努力をする。
「メルシンの狙いは、アルディオンの制圧だと考えて対策を練るべきだと思います。こう考えておけばある程度のことは対処出来るはずです。まあ、カグアスだけにとどまればそれに越したことはありませんが・・・。」
俺の意見に対してまたざわめきが起こるが、陛下が手で制するとざわめきもピタリと止まる。
「それで、具体案を聞かせてください。」
俺は一つうなづく。
「俺がメルシンの国王ならベイルートまで攻めてオルボルクに攻撃を仕掛けるのは一番最後にします。それだけオルボルクは強いからです。ベイルートを落としたら国境を強化し、今度はメルシンのもう一つの燐国のロックを目指します。」
「ばかな、メルシンとロックとの間にはアマリロ砂漠があるんだぞ。」
一人に兵士が俺の意見に文句をつけてくる。
まあ、確かに砂漠を越えて攻め込むのは難しいが、難しいだけで不可能じゃない。まあ、これはあくまで俺ならの話だが・・・。
「そうです。ロックの人もあなたと同じように考えているでしょう。だからメルシン側の警備は手薄になっています。そこに攻め込めるチャンスがメルシンにはあるのです。」
「しかし、無理してまでロックに攻め込むものか。」
はあ、
無理も何もアルディオンを制圧しようとすれば多少の無理もするだろう。
この兵士は何も解っていない。
「ラインさん、続けてください。」
これ以上意見を言うのをやめようと思ったとき、陛下から声がかかる。
仕方ないので続ける。
「まずやるべきことは、ロックとオルボルクに協力を求めるべきでしょう。そしてロックの国境の強化。後はメルシンの兵力を少しずつ削っていく。それが妥当な作戦だとおもいます。」
「その案はいいとして、そこまでしなければならないほどメルシンの兵力は多くはないと思うのじゃが・・・。」
陛下の隣に座っているじいさんが呟く。
確かに数の上では、そう大したことはないかもしれない。
しかしあのカグアスを落としたのだ。質の上ではかなりのものと考えていいだろう。
どうも、上のお偉い方は楽観的にしか物事を考えられないのだろうか?。
これでは俺が何を言っても無駄である。
俺は憮然として席につく。
俺の意見とは関係なく話しは進められていく。
もうこんな会議聞く気もない。
「それでは今日はこれまでにします。お疲れ様でした。」
陛下の挨拶によってみんなが会議室から出ていく。
結局、何も結論が出なかったようだ。
会議室にいるのは俺とアイリーナ、それに陛下のみ。陛下は何となく落ち込んでいるように見える。
結論が出なかったことにショックでも受けているのだろうか?。
「ライン、出ましょ。」
アイリーナでもこの重苦しい空気の中にいるのは辛いのだろう。
俺もゆっくりと腰を上げる。
「ちょっと待ってください。ラインさん、あなたの意見をもう少し聞きたい。」
意見を聞きたいと言われても言ってどうなるものでもないだろう。
「あなたの考えを話してあげたら?。」
アイリーナはよほどあの陛下が気に入っているのだろうか?。
まあ、言って減るもんじゃないし、いいか。
「俺が言いたいことは会議中に言ったことともう一つ、制圧すると言うことは、何も戦争を仕掛けることだけじゃないと言うことです。」
「それはどういうことですか?。」
「国を落とすのに必要なのは、王族を殺してしまえばいいわけです兵士は国を守るといったところで一番に守るのは王族です。今の世の中、国王がいなければ国が成り立ちませんから・・・。」
俺は一つ間をおく。
陛下とアイリーナは、まだ俺の言いたいことが解っていないようだ。
「早い話が暗殺ですよ。」
二人の顔色が見る見る変わっていく。
「まさか、そんなことはしないでしょう。」
陛下は絞り出すような声になっている。
「確かに暗殺というのは邪道な部類に入るでしょう。しかしそれなりの利点もあります。まず短期間で国を落とせるということ。もう一つは死ぬのが王族だけなので国力を低下させずにすむという点です。」
俺の説明を聞いて二人は、さらに暗い表情になる。
暗殺を完璧に防ぐ手段などないに等しいことを知っているようだ。
「まあ、これはあくまで俺の推測にすぎませんよ。それにカグアス王が暗殺されたのなら落とされたという報告じゃなく、王が殺されたと言う報告が来るはずですから。」
アイリーナは、あからさまに嘆息する。
陛下も驚きを隠せないのか、そんな目でこちらをみている。
自分ではそんなに大したことを言った覚えはないのだが・・・。
「ありがとう。参考になりました。うちの重臣達は、君の見ての通りの人たちばかりですから・・・。」
確かにこの人も苦労しているんだろう。
「君が僕の側近か軍師にでもなってくれるとうれしいのですが・・・。」
俺がそんな偉い役職につけるほどここの国は人材不足なのか?
まあ、あの会議に集まった人ばかりなら案外そうなのかもしれないな。
「すごいじゃない、大出世よ。」
アイリーナが何やらはしゃいでいる。
普通は喜ぶべきなのかもしれないが、俺にとってそんな役職なんてどうでもいい。
「ありがたいお誘いですがお断りします。俺は束縛されるのが嫌いですから・・・。」
俺はきっぱりとお断りする。
アイリーナはただ呆然とする。
「あなた自分で何言ってるのか分かってるの?とてもじゃないけど一般人がなれる役職じゃないのよ。」
そんなことは言われなくても分かっている。
しかしなりたくないものは仕方ない。
それでも、アイリーナの文句は永遠と続く。
「ハハハハハハハ。」
いきなり陛下が大声で笑い出す。
その笑い声を聞いてアイリーナの文句もぴたりと収まる。
「いや、すいません。別に無理にとは言ってませんから。それに多分断られると思ってましたし。」
人に強制しないなんてなかなかいい国王様じゃないか。上に立つ人はこうでなければ・・・。」
「じゃあ、お部屋に案内しますから今日は泊まっていってください。」
陛下が歩き出す。
断る理由は何もない。
お言葉に甘えて泊めてもらうか。
アイリーナと二人で陛下の後を追った。
「頼みがあるんですが・・・。」
城で一夜を明かし、朝食まで頂いて出発をするときのこと。
陛下は俺達に、一通の手紙と小袋に入った金貨を差し出す。
「この手紙をロックの国王に届けて頂きたい。お金はその報酬です。」
まあ、俺としては別に引き受けてもいいのだがアイリーナの方は今いち納得していない。しかし、一晩泊めてもらっている以上、断れずにいるのか、俺に一つうなずいて見せる。
「別に構いませんよ。俺達でよければ。でも俺達なんかを信用していいんですか?ひょっとすると手紙を捨ててお金だけ盗んでいくかもしれませんよ。」
「君たちがそんなことをするとは思っていないよ。」
陛下は笑って答える。
そこまで信じてもらえるのは光栄なのだが、たかが出会って一日の人をここまで信用するか、普通。
まあ、きちんと届けはするけど・・・。
「じゃあ、俺達はこれで。」
俺達は城を後にした。
「あの陛下もホント、お人好しよね。」
俺達は街を出ていた。
陛下からもらったお金があるため護衛の仕事をしなくていいのは気が楽だ。
「これで仕事がなければ最高なのになあ。」
アイリーナが愚痴をこぼす。
しかし、こんなことを言っていてもいったん引き受けた仕事は、きっちりやり遂げようとするところは、昔から全然変わっていない。
ヒューッ。
俺は咄嗟にアイリーナの手を取り引っ張る。
アイリーナのすぐ足下に短剣が突き刺さる。
短剣が飛んできた方向を見ると、一人の盗賊がいた。
シドンとイバダンの酒場で出会った盗賊だ。
「あなた、いったいどういうつもり?」
アイリーナはすでにメイスを構えている。
「ちょっと、あんたらの実力を見たくてね。」
盗賊は軽く笑う。
しかし、当然それでアイリーナが納得するはずもなく、
「ふざけないで!」
盗賊に突進し、メイスを振り回す。
しかし、盗賊は余裕の笑みを浮かべながら軽々とかわす。
アイリーナとて一流とまでいかなくてもそれなりに強いはずなのだ。
神官になるのには、それなりの戦闘訓練を受けているのだから。
しかし、盗賊はアイリーナの攻撃を完全に見切っている。かなりの強さと言っていいだろう。
俺はアイリーナの助けに入ろうかと思ったが、盗賊は今のところ武器を手にしていないし、する気もなさそうだ。
このまましばらく見ているか。
「俺はあんたらと戦う気はない。そろそろ攻撃をやめてくれねえか?」
そんなことを言って止めるアイリーナではない。
さらに、盗賊の余裕が気に入らないのか攻撃は激しくなっていく。
盗賊は、攻撃してくるアイリーナの右手をつかみ、そして体を中に入れるようにしてアイリーナの腕を捻りながら足を払う。
するとアイリーナの体は宙で一回転して背中から落ちる。
この盗賊は体術を使うのか。
そして俺の方に歩いてくる。
「よっ、この前は自己紹介しそこねたからな。俺の名はラーズ。よろしくな。」
「ああ、俺はライン。あっちに転がっているのがアイリーナ。」
簡単に紹介を済ませる。
その瞬間、ラーズは腰の小剣を抜き俺との間合いを詰めてくる。
そして俺の目の前に小剣が迫ってくる。
しかし俺はその攻撃をよけようとしなかった。
俺に当たる直前で小剣はピタリと止まる。
「なぜよけねえ?それともよけられなかったのか?」
「あんたに殺気が感じられなかったからさ。殺気を出さず笑いながら人を殺せる人には見えないのでね。」
「なるほど、気に入ったぜ。こうやって運命に導かれたことだし一緒に旅をさせてもらうぜ。」
「別に構わないよ。あんた強そうだし、歓迎するよ。」
握手を交わしラーズが笑い出すと俺もつられて笑う。
「ちょっと何和やかに話してるのよ!わたしはそんなのと旅をするなんて認めないからね。」
そうだった。
あそこまでされてアイリーナがラーズの同行を許すはずがなかった。
「別に俺はあんたと同行する気はない。ラインと同行するといっているんだ。」
「何言ってるのよ。ラインはわたしと一緒に旅をしているのよ。」
「俺はラインと同行する。それについてくるのは、あんたの勝手だ。好きにすればいい。」「何、無茶苦茶言ってるのよ。だいたいその台詞はわたしの台詞でしょ。」
確かに。
めずらしくアイリーナの言ってることの方が正しい。
しかし、アイリーナとここまで言い合えるなんてすごいなあ。
「じゃあ、俺がラインについていくのは勝手な訳だから、あんたに文句を言われる筋合いもないわけだ。」
「ぐぅっ・・・。」
アイリーナは言葉を詰まらせる。
うまく言葉をすり替えられてアイリーナはかなりいらだっている。
「さあ、行こうぜ、ライン。」
ラーズという仲間を加えて、俺達は三人でロックに向かうことになった。
俺もつられて後を追う。
「ちょっと待ってよ。ライン。」
アイリーナも結局後を追ってくる。
半ば強引にラーズは話を済ませて歩いていく。




