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アルディオンサーガ  作者: 気ままな市民
2/8

外の世界

「ちょっと、何でこんな服しかないのよ。」

 アイリーナが服屋の店員ともめている。

 俺達はキールの村から約一日かけて、シドンという街に来ていた。

 何故、服屋にいるかというと、先のゴブリンとの戦いで二人の衣服がボロボロになってしまったからだ。

「だから、神官着なんてうちじゃ扱っていないんです。」

 そう、アイリーナが欲しがっているのは、神官着なのだ。

                              レザーアーマー

 神官着というのは、魔法繊維という特殊な繊維で織られていて、革の鎧程度より、ずっと耐久力に優れているらしい。

 そんな代物がこんな普通の服屋で手に入る訳もないと思うのだが・・・。

 俺自身は、紺の厚手の布の服にマントを羽織っている。

 実を言えば、マントも鬱陶しいから嫌いなのだが、野宿したときこれがないと寒くてたまらないのだ。

 後はアイリーナを待つだけなんだが、まだ店員と言い争っている。

 しかし、下手に口を出そうものなら、こっちにとばっちりが来るので、見守ることしかできない。

 しょうがない。

 しばらく散歩でもしているか。

 俺はアイリーナと店員を横目に見ながら店を出ていった。



俺は当たりを見渡しながら、シドンの街並みを見物していた。

 キールの村から出たことのなかった俺には、見る物全てが新鮮で珍しかった。

 ほとんどの家が二階から三階立て。

 道はきちんと舗装されており、その辺にはきちんと植物も植えられておりきちんと管理が行き届いているようだった。

 これなら、しばらく歩いているだけでも退屈しない。

「兄ちゃん、兄ちゃん。」

 突如、何処かから声をかけられる。

「こっちだよ。」

 辺りを見渡すと、髭面のむさいおっさんが、こっちに向かって手招きしている。

いったい何のようだ?

「兄ちゃん、変わった星の元にいるなあ。」

 何を言っているんだ?このおっさんは。

 いきなり訳の分からないことを言われて、思わずとまどってしまう。

「ちょっと、俺に見せてくれよ。」

 何を見せればいいのか分からないが、とにかくこんな奴からは逃げるに限る。

 俺はとりあえず無視をして、そのおっさんから離れる。

「ちょっと待てよ。」

 いきなり、おっさんに肩をつかまれ引き留められる。

「俺はこう見えても占い師なんだ。占ってやるよ。」

 このおっさんが、占い師?

 とてもそんな風には見えない。

 それに占い師だからといって、俺には占ってもらうことなど何もない。

 やはり、無視して歩こうとするが、おっさんは肩から手を離してくれない。

「ちょっと待てって。タダで占ってやるからさ。」

 ピクッ!

「そこまで言うなら、占ってもらおうかな。」

 どうせ暇だし、何よりタダというのがいい。

 自称占い師のおっさんは、俺の顔をじっくり見たと思ったら、急に周りを回り始め、今度は俺の手を取り手の平をじっくり見出す。

 俺はもともと占いというものをほとんど信じていないし、仮に当たるものだとしても未来が分かるというのも、何となく面白くない。

 しかし、このおっさんがどういうことを、口にするのかは興味がわいている。

「兄ちゃん何者だい?。こんな運気の人は初めて見た。」

 そんなこと言われても、何のことやらさっぱり分からない。

「悪運と強運が入り乱れているよ。兄ちゃんは旅人だろ?。」

 俺は一つ頷く。

 俺が旅人だと分かっただけでも大した者だろうか。

「このまま旅を続ければ、何か大きな事件に巻き込まれるだろう。そこで悲しい出来事があるかも知れないが、耐えていればいいこともある。」

 結局当たり障りのないことしか言わない。

 つまらん。

 俺はまたこのおっさんを無視して歩き出そうとすると、このおっさんはまた俺を引き留めてくる。

「この石を持っていきな。」

 ポケットから緑色の宝石の付いた首飾りを出してきた。

「この石は魔石といわれる石で石自体に何か不思議な力があるといわれている。俺はその力を見たことがないんだが、兄ちゃんならその力を出せるかも知れない。」

「何故そう思うんです?。」

 俺はありふれた質問をする。

「始めに言ったが、あんたは変わった星の元にいる。これはあまり言いたくないんだが、あんたは英雄にもなれるし、悪の支配者にもなれる器の持ち主だ。こんな人間にお目にかかれることはこの先きっとない。だからそういう人に俺の何かを持っていてもらいたいのかも知れない。実は自分でも分からないんだがな。」

 おっさんは一人で笑い出す。

 何か怪しい気もするが、そこまで見込まれたなら貰わない訳にはいかない。

「ありがたく頂いておくよ。」

 一言礼を言って首飾りを首に付ける。

「あんたの旅の無事を祈ってるよ。」

 そして俺は、アイリーナがいる服屋に戻っていった。



 俺が服屋を出てどれくらいたっていたかは分からない。

 服屋の前に来てみれば、アイリーナが前で待っている。

 かなり怒った様子である。

「今まで何処ほっつき歩いていたのよ?。」

 うーん。

 やばいな、これは。

 でも、アイリーナも悪いんだ。

 悪いんだが、俺はそれをはっきり言うことが出来ない。

「何か言うことはないの?。」

「ごめん。」

 言うことといえば、この一言しかない。

「もういいわ。行きましょ。」

 アイリーナはスタスタと歩き出す。

 俺もアイリーナの後を追う。

「ねえ、この服どう?。」

 何故そんなこと俺に聞く?。

 俺に服のことなんて聞いてもよく分からないぞ。

 アイリーナの服装は、そんなに派手なものではない。

 始め着ていた神官着に似た白いローブに、白いマントを羽織っている。

 アイリーナは素が良いためか、何を着ても似合いそうだ。

「結構似合ってるよ。」

「本当に?。」

「ああ。」

 とりあえず言ってみた言葉だったが、アイリーナの顔は見る見るうちに笑顔に変わっていく。   

 アイリーナの機嫌さえ良ければ、何事もなく平和でいられるだろう。

「ところで、あなたはどうして鎧とか付けないの?。剣士やっているなら付けた方がいいわよ。命に関わることなんだから。」

 アイリーナの言うことはもっともだろう。

 俺は魔法剣士だが主に戦うのは剣であるため、どうしても接近戦が多くなる。

 でも、俺は鎧というものが嫌いである。

 体の動きを制限されるし重い。騎士団のような鎧なら威圧感みたいなものも身に着くような気にもなるが、そこいらの安物なら不格好な気がする。

「別にいいよ。鎧は重いから嫌いなんだ。ようは相手の攻撃を受けなきゃ良いだけだろ。」

「大した自信じゃない?。この世界にはあなたより強い人がいっぱいいるかも知れないのに。そんな相手にあったらどうするのよ。」

そういわれると何も言い返せないが、それでも鎧なんか着けたくない。

「もういいわ。どうしてそんなに嫌うか分からないけど、それはあなたの自由だしね。そのかわり、絶対無茶はしないでね。」

 アイリーナは俺のことをすごく心配してくれていたんだ。

 何か悪いことをしたな。

 気持ちも落ち込んでしまう。

「ねえ、今気づいたんだけど、あなたその首飾りどうしたの?。」

 アイリーナが俺の着けていた緑色の石が着いた首飾りに気が付く。

「これはさっき、自称占い師の胡散臭いおっさんに貰ったんだ。」

 アイリーナはしばらく驚きの顔のまま固まっていた。

「どうしたの?。」

「あなた何考えてるのよ。胡散臭いおっさんに物を貰うんじゃないわよ。子供じゃあるまいし。」

 口を開いたと思ったら、止まることなくアイリーナの小言が続く。

 聞いているだけで目眩がする。

 アイリーナの言っていることも分かるが、くれるという物を断るのも何か悪いし、それに『これは何かの役に立つ。』そういう予感めいたものが俺の中にはあった。

「もらっちまったものはいいじゃないか。」

 何とかアイリーナの小言を止めなければならない。

「それもそうね。」

 意外にあっさり納得する。

 いいのか?それで。

 まあ、納得したものはいいか。

「そろそろ宿でも探しましょうか。」

 あっ!。

 俺は慌てて財布の中身を確認する。

 数枚の銅貨しか入っていない。

 そういえば、服を買ったとき使ってしまったことをすっかり忘れていた。

「アイリーナ。俺金がないんだが・・・。」

「えっ、お金ないの。じゃあ、今日は野宿なんだ。かわいそう。」

 思いっきり皮肉たっぷりに言ってくる。

 忘れているかも知れないが、アイリーナは一応神官をやっている。

 しかしこれが神官がとる態度だろうか?。

「俺、帰るわ。」

 このまま野宿で過ごさなければならないではたまらない。

 今のうちに引き返すのが得策だろう。

「ちょっと、冗談よ。あなたの宿代くらいはちゃんと出してあげるわよ。」

 帰ろうとする俺の背中にアイリーナが抱きついてくる。

 宿代を出してくれるといわれると帰る理由が無くなってしまう。

 アイリーナにからかわれたままなので納得は出来ないが、何か文句を言うにも後が怖い気がするので止めた方がいいだろう。

 しかし、俺のストレスはいったいどこで発散させたら良いんだろう?。

「早く行きましょう。」

 アイリーナの無邪気な笑顔が、俺の視界に入ってくる。

 旅はまだ始まったばかりだというのに、さい先不安である。



「明日からどうしようか?」

 シドンの街の酒場で食事をとっている時、アイリーナがよく分からない質問をしてくる。

 そんなこと俺に聞かれても困る。

 だいたい何か目的があって旅をしているんじゃないのか?

 出そうになった言葉を必至に飲み込む。

「何処か行きたいとこってないの?」

「アルディオン全てを回りたいんだけど、一つ問題があるのよ。」

「問題、何だよそれ?」

 アイリーナはグラスにつがれているワインを一気に飲み干す。

「お金よ、お金。あなたの分まで出さなきゃいけないから、お金が足りないのよ。」

 まあ、分かっていたことだが、こうまで言われるとさすがに腹も立つ。

 したくもない旅につき合わされ、旅費が足りないのは俺のせいだと来た。

 俺はアイリーナを無視してとりあえず目の前の料理を片づける。

「ちょっと、聞いてるの?」

 俺はグラスのワインを一気に飲み干す。

「ちゃんと聞いてるよ。お金がないだろ。そんなの何とかなるだろう。俺が村に帰れば一人分の旅費は浮いてくるわけだし・・・。」

 アルコールの力を借りなければアイリーナに言いたいことも言えない自分自身が情けなく思うが、今更どうにもならない。

 アイリーナの体が小刻みに震えているのが分かる。

 ひょっとして怒っているのだろうか?

 アイリーナの瞳が潤んでいるように見える。

 しかし、その瞳からは殺気に近い怒気を感じる。

 俺の体からアルコールがすべて吹き飛んでいくのを感じる。

「分かったわ。そんなにわたしと旅をするのが嫌なのね。宿代は払ってあるから今日は泊まっていきなさい。明日になったら帰っていいから。」

 アイリーナは夕食を済ませると一人、二階へ上がっていく。

 俺はいったい何が起こったのか分からなかった。

 アイリーナがあんなことを言うとは夢にも思わなかった。

 それに小さい頃から一緒にいてアイリーナのあんな顔を見たのは初めてのような気がする。

 願いが叶ったはずなのに、胸の中が何やらモヤモヤしている。

 何なんだ、これは?

 とりあえず明日のことは明日考えよう。



「もう朝か。」

 いったいどれくらい眠ったのだろうか?

 気が付けば鳥がさえずり、光が射し込んでいる。

 昨日のアイリーナのことが気になってなかなか寝付けなかったことは覚えているが。

 そういえば、アイリーナはどうしているんだろうか?

 とりあえず俺はアイリーナの部屋に向かう。

「アイリーナ、起きてるか?」

 部屋をノックしても何の返事も返ってこない。

 まだ眠っているのか。それとももう出ていったんだろうか。

 俺は一階の酒場へと降りていく。

 酒場には朝だというのに、ある程度客が入っており賑わっている。

「お客さん、おはようございます。朝食はどうなさいます?」

 にこやかな笑みを浮かべて、酒場のおじさんが話しかけてくる。

 はっきり言って朝食なんぞ食べている場合ではない。

「悪いけどいらない。それより俺の連れを知らない?白いローブを着た女性だけど。」

「ああ、その人なら確か朝早く出ていったよ。」

 やっぱり出ていったか。

 まだこの街にいるかも知れない。

「おじさん、ありがとう。」

 一言礼を言って、俺は店を飛び出した。

 しかしこの広い街をどうやって捜せば良いんだ?

 とりあえず街をふらふらうろついてみるが、そんなんで見つかれば何も苦労はしない。

「何か探しもんか?」

 いきなり盗賊風の男が声をかけてくる。

 顔は結構整っており、身なりはかなり良くないがどことなく気品みたいな物を感じさせる男だ。

「別に盗賊なんかに用はないよ。」

「盗賊はねえだろ。俺は悪どいことをして私腹を肥やしてる奴しか狙わねえ、いわゆる義賊って奴だぜ。」

 この盗賊は胸を張って威張っているが、俺には何故そんなに偉そうなのかさっぱり分からない。

「相手が悪どいことしていようが、物を盗んでもいいという道理はないよ。」

「・・・・・・。」

 俺の台詞に対して何か言おうとしているのか、口を開けたまま固まっている。

 それを見ているのも面白そうではあるが、そんな暇もないので無視してアイリーナを捜し始める。

「おい、待てよ。」

 さっきの盗賊が追いかけてくる。」

「何か捜してるんだろ。俺も手伝ってやるよ。」

「あんたにそんなことしてもらう義理はないよ。」

「お前さんが気に入ったからだよ。今時あんな正論口にする奴は、なかなかいねえからな。」

 そういって俺の背中をバンバン叩き出す。

 まあ、一人で捜すよりは良いか。

「じゃあお願いするよ。白いローブを着た女性を捜しているんだ。」

 何やら盗賊は考え出す。

「何か知っているの?」

「その女性って美人か?」

「まあ、それなりに。」

 俺の言葉に一人で納得したようにうなづく。

「確か、市場の方にいたと思うが・・・。」

「市場って何処?」

 俺のあまりの懸幕に圧されたのか、盗賊は言葉を口にすることが出来ずただ指を指す。

 俺は指を指した方向に走り出した。

「おい、待てよ。」

 盗賊も俺の後を追ってくる。



 そこは朝の酒場より賑わっていた。

 市場というのはテントの中に店を構ており、一つ一つの店は小さいが、人と接することが多いため、大通りの店より活気にあふれている。

「それにしてもすごい人だなあ。」

 俺は素直な感想を口にする。

「市場ってのは旅商人も結構いるからな。ここじゃこの国ではお目にかかれない物も結構売っていたりするんだ。」

「へえ、」

 今更ながら世界には俺の知らないことがいっぱいあることを気づかされる。

 まんざら旅を続けるのも悪くないかもな。

「おい、あれじゃないのか。お前が捜している白いローブを着た美人の女性は。」

 盗賊が指を指す方向を見る。

 確かにアイリーナだ。

 アイリーナは商人と話をして去っていくと、また違う商人に向かって何か話している。

 いったい何をやっているんだろう?

「なるほど。」

 盗賊が一人分かった風に頷く。

「何が、なるほどなんだ。」

「お前ら旅をするのにまともに金を持っていないだろう。」

「うん。」

 ズバリ言い当てられて、ただただ頷く。

「彼女は、旅商人に自分を旅の道中の護衛に雇ってもらおうとしているんだ。」

「あんた、あんなところの会話が聞こえるのか?。」

 俺の質問に盗賊は人差し指を立てて横に振る。

「チッチッチッ、義賊たるもの唇を読むくらいのことは出来ないと務まらないぜ。」

 まだ自分を義賊というか、こいつは・・・。

「しかし、雇ってもらえそうにないな。」

「どうしてそんなこと言えるのさ。」

「じゃあ聞くが、お前があの旅商人だったら、金を払って彼女を護衛として雇う気になるか?」

 そう言われれば、確かに神官を、しかも女性を一人護衛として雇おうとは思わないだろう。

「・・・・ならない。」

 低い声で俺は呟く。

「だろ。」

 盗賊は勝ち誇ったような笑顔を見せる。

 何かむかつくがそんなことで腹を立てても仕方がない。

 とりあえずアイリーナの様子をしばらく見ている。

「さてと、目的の人も見つかったみたいだし、俺はそろそろ行くは。」

「ああ、本当にありがとう。そう言えば名前も言ってなかったな。俺の名は

「ちょっと待った。」

 いきなり俺の言葉を遮る。

「お前らどうせ旅を続けるんだろ。俺も旅の途中だからさ、名乗るのは次にあったときにしようぜ。」

「なんで?」

「今日会ったのはただの偶然だ。だが違う場所でまた出会うことが出来たら、これは運命だと思わないか?」

 なんだか分かるような分からないようなことを言ってくる。

「運命に導かれた出会いなら、俺とお前は良い友人になれると思うんだ。お前みたいな奴とはただの知り合いで終わらせたくないからな。」

 そういうもんかなあ。

 運命なんて大層な言葉を使うと納得してしまいそうだが、偶然なんて二度、三度続くときだってあるし、そもそも運命に導かれるなんて、本当に思っているのだろうか?

 所詮人の出会いなんて、自分の行動と偶然で成り立っているもんだと思うが・・・。

 まあ、次にあったら名乗ると言っているんだし、そうするとするか。

「分かった。あんたの言うとおりにするよ。」

「ああ、また何処かで会おうぜ、じゃあな。」

 一言交わして、盗賊は何処かに走り去ってしまった。

 世の中いろんな人がいるもんだ。

 盗賊を見送ってからすぐにアイリーナに視線を移す。

 アイリーナはまた違う商人と話している。そして商人と別れ、また違う商人の所へと歩いていく。

 いったい何人の商人をあたったんだろう。

 さすがのアイリーナもかなり落ち込んでいるように見える。

 しかし、それでもあきらめないところは、昔となにも変わらないなあ。

 俺は急いでアイリーナの後を追った。



「ごめんな、お嬢さん。あんたみたいな人に護衛が務まるとは思えないから。」

「きっちり努めて見せます。だからお願いします。」

 あんなに必至になっているアイリーナは初めて見た。

 何人かに断られて意地になっているようにも見える。

「とにかく、あんた一人じゃ話にならないよ、ごめんね。」

 きっちり断ってから商人は去っていく。

「はあ。」

 アイリーナは一つため息をついてその場に立ちつくしている。

 これではいつまで立っても雇ってもらえそうにないな。

 とりあえず俺はさっきの商人を追いかけた。

「すいません、ちょっと待ってください。」

 俺の呼び止めに気づいてくれたのか、商人は立ち止まってこちらを向く。

「何だい、あんたは。」

「さっきの彼女と一緒に護衛として雇って欲しいんですけど。」

「あんた、あの彼女の連れなのかい?」

「ええ、そうですけど。」

 商人は疑いの目で俺を見る。

「彼女はあんたのこと一言も言っていなかったけど。」

「まあ、いろいろありまして。」

 なにがいろいろあったんだ?自分で突っ込みたくなることを言っている。

 商人もそんな目でこちらを見ている。

「まあそんなことはどうでもいいか。ところであんた冒険者ギルドに登録しているか?」

「いや、してないけど。」

 この大陸には、冒険者ギルド、魔術師ギルド、盗賊ギルドの三つのギルドが存在しており、冒険者ギルドとは旅に必要なお金を稼ぐための仕事を紹介してくれるところである。そのかわり報酬の何パーセントかは支払わなければならないが・・・。

「してないなら、あんたの強さを誰が保障してくれる?」

「うっ・・・。

 俺の強さを保障してくれるのはアイリーナだけである。

 しかし旅に連れが強いなどといったところで、信用性はかなり低い。

      ファイヤーボール

 この場で『火炎球』でも一発放てば証明もできるのだろうが、雇ってもらう前に警備隊に捕まって終わりだろう。

 どうすれば良いんだ?

「ライン、こんなところで何しているのよ。」

 気が付けばいつの間にやらアイリーナが俺のそばに来ている。

「いや、護衛に雇って貰おうと思って。」

「村に帰るのにどうして雇って貰う必要があるのよ?」

 アイリーナが睨んでくる。

 これは昨日のことかなり根に持っているな。

「何だ、あんたら喧嘩してるのか。本当にそんなんで護衛が務まるのかねえ。」

 俺とアイリーナの様子を見て商人が口を挟んでくる。

「えっ、何のこと?」

 何も分かっていないアイリーナに俺は、今までの商人とのやりとりを簡単に説明する。

「なるほど。それであなたの強さを証明できればいいのね。」

 やけにあっさり言ってのける。

「簡単に言うけど何かいい方法があるのか?」

 俺は疑りの目でアイリーナを見つめる。

「あら、そんなの簡単じゃない。そこら辺の強そうな人に勝負を挑んで勝てば良いんじゃない。」

「ちょっと待て。そんなこと出来るかあ。」

 とんでもないことを言い出すアイリーナに対して、さすがの俺も反論する。

 横を見れば商人も固まっている。

 まあ、当然だろう。

「何よ、自信がないの?」

 誰もそんなことで反論してるんじゃねえよ。

「大丈夫よ。ゴブリンロードも一人で倒したんだから、そこら辺の人に負けたりしないわよ。」

 はあぁぁぁぁぁぁ。

 さすがに言い返す気力も失せてくる。

 本当にこいつ神官なのか?

「それは本当か?」

 固まっていた商人が復活して何やら聞いてくる。

「何がですか?」

「ゴブリンロードを一人で倒したことだ。」

 やけに驚いているところを見ると、ゴブリンロードというのはそんなに強いのか?。

「ええ、まあ。」

 俺は曖昧な返事をする。

 本当はアイリーナも戦っていたのだが、何もしないうちにやられてしまったので、俺一人でやったのも同じか。

 商人はジト目でこちらを見てくる。あきらかに疑いの目である。

「本当ですよ。神官のわたしが保障します。」

 商人が疑っているのを見てアイリーナが声をかける。

 すると疑いの目が俺からアイリーナに移る。

「あんた本当に神官なのか?」

 実にもっともな疑問を商人は口にする。

 しかし、それはアイリーナに対して禁断の一言ではないだろうか。

 いきなり暴れ出すかも知れない。

 俺は恐る恐るアイリーナの方を見る。

アイリーナは怒りを堪えているのか、体を震わせながらうつむいている。

「え、ええ、まだ未熟ではありますが・・・。」

 怒りながらも笑顔で答えるアイリーナ。

 おお!

 アイリーナが自制している。

「しかしそれほどまでに強いのなら、何故騎士団に志願しないんだ?こう言っては何だが、オルボルク最強の神聖騎士団の中でも小隊長以上の者でないとそこまでは強くないぞ。実際は。」

 確かここまで来る途中に、アイリーナからそんな話を聞いたっけ。

 素早さ、力、体力、反射神経、すなわち基本能力で人間はゴブリンロードは疎かゴブリンにさえ劣っていいるのだと。だからこういった輩に勝つには、洞察力と観察力で相手の基本能力を上回らなければならないこと。またそう言う能力が優れている者こそ騎士になれる素質があるのだと。

 まあ、もちろん鍛え方によって基本能力を向上させることは可能な訳だが、こう言われると確かにこの商人が疑うのも無理はないかも知れない。

 仮に俺がこの商人の立場だったとしても、信じることが出来なかったかも知れない。

 しかし、信じて貰わなければどうしようもない。

 どうしたら信じてもらえるのだろうか?

 やはりアイリーナの言うとおりにするしかないのか。

 しかし、そんな非人道的なこと・・・。

「ここは一つ騙されたと思って雇ってもらえませんか?」

「本当に騙されたら、わしらの命はどうなるんだ?」

 アイリーナが神官らしからぬことを言えば、商人はもっともな疑問を返す。

「とりあえず雇ってもらえませんか?役に立たなければお金はいりませんから。」

「ちょっとライン。あなた何言ってるか分かってんの?それって道中何もなかったらただ働きをするってことよ。」

 そんなことアイリーナに言われなくても分かっている。

 しかし、これ以上アイリーナと商人の不毛な会話は聞くに耐えなかった。

「その条件なら雇おうか。しかしやはり不安には違いないから、別に護衛を一人雇うがそれでもいいかね?」

「別に構いませんよ。」

「そうか。ならしばらく待っててくれ。出発の準備を整えてくるから。」

 そう言い残して、商人はどこかに行ってしまう。

 そして俺の隣には、不満そうな顔をしたアイリーナが睨み付けてくる。

「ちょっとライン。何勝手に話し進めてるのよ。」

「ゴメン、でもあのままだといつまで立っても話が進まないと思ったから。」

 俺はいったい何を謝っているんだろう。

「まあいいわ。わたし一人じゃ雇ってもらえなかったわけだし。そう言えばあなたが何故護衛をするのか、まだ理由を聞いていなかったわね。どうしてなの。村に帰るんじゃなかったの?」

「まあ、いろいろとね。」

 俺は素っ気なく答える。

 当然それでアイリーナが納得するはずもなく、

「いろいろじゃ分からないでしょ。」

 なおもしつこく聞いてくる。

「アイリーナ一人じゃどうなるか分からないからだよ。」

「へえ、一応心配してくれてるんだ。」

 アイリーナは俺の顔をのぞき込んでくる。

「ほっといて帰れば、ケインに殺されかねないし・・・。」

「あっそ。」

 素っ気ない返事とは裏腹に、アイリーナは微笑んでいる。

 本当は旅というもの自体に興味を持っただけなんだが、機嫌を損ねるかも知れないからアイリーナには言わない方がいいだろう。



「おーい、ちょっと来てくれ。」

 いつの間にか商人が戻ってきている。

 商人は自分の他に、女性一人に男性一人、それに女の子を一人連れている。

「自己紹介がまだだったな。俺の名はケルビン。こっちが妻のミレーヌ、それに娘のシーダ。そしてこっちがギルドから雇ってあんたらと護衛をして貰うルディだ。よろしく。」

 商人、いやケルビンさんが一人ずつ紹介してくれる。

 妻のミレーヌさんは、まあそこら辺にいるごくごく普通の商人のおばさんだ。その娘のシーダちゃんは年齢は十歳位だろうか、まだ幼さが残っており、ミレーヌさんの後ろに隠れては、そろそろと顔を出している。

 そしてルディという剣士。多分傭兵でもやっているんだろうが、年齢は俺と同じくらい。

   バスタードソード  ブレストプレート

武器は長剣で鋼鉄製の胸甲冑を身につけている。茶色の短髪、身長は俺より少し低く心なしか少し目つきが悪い。見た目からすると、俺と同じスピード型の剣士のようだ。

「俺の名はライン、こっちがアイリーナです。」

 こっちも一応挨拶をしておく。

 それに合わせてアイリーナも会釈する。

「首都、イバダンまで護衛の方、よろしくお願いします。」

 ミレーヌさんが丁寧に挨拶をしてくれる。

 よかった、なかなかいい人そうだ。

「あなた達ですか?一緒に護衛をするのは。」

 ルディが俺達の方へ歩み寄ってくる。

「ええ、よろしくね。」

 返事を返してアイリーナは手を差し出す。

「こちらこそ。」

 ルディがその手に握手する。

「見たところ、あなたは神官のようですね。」

「ええ、そうよ。」

 まあ、見た目はちゃんと神官に見えるか。一応そんな格好をしているし・・・。

「ところでこの人は何ですか?剣を持っているところを見ると剣士のようですが・・。」

「ええ、見ての通り剣士よ。腕もそこそこ立つわ。」

 二人が俺を見て話している。

 ルディは何とも不敵な笑みを浮かべている。

「本当に腕が立つんですか?こんな鎧も着けない危機感のない奴が。」

 何かむかつくようなことを言っているようだが、聞いてない振りをする。

「ええ、彼は鎧を着けるのが嫌いなのよ。わたしが進めても着けてくれないし。」

 アイリーナが当てつけがましく言ってくる。

 俺ってそのうち神経性の病気になるかも・・・。

「あんた、俺と手合わせしてくれない。アイリーナさんが言うあんたの腕を見てみたいからさ。」

 ルディは俺の目の前に剣を突き立てる。

 俺はルディの申し出を無視して、出発の準備をしているケルビンさんとミレーヌさんの方へ歩いていく。

 あんな無神経で血の気の多そうな奴とはあまり関わり合いたくない。

「何か手伝えることはないですか?」

 後ろでルディが何かブツブツ言っているようだが無視して俺はミレーヌさんに尋ねる。

「ごめんなさい。主人は他人に品物を扱われるのを嫌うのよ。そうだ、悪いけどシーダを見ていてくださらない。」

「はい、いいですよ。」

 子供の扱いなどまるで知らないが、とりあえず引き受ける。

「さて、何をしようか?シーダちゃん。」

 シーダちゃんは、俺の顔をのぞき込んでニッコリ笑う。

「シーダでいいよ、お兄ちゃん。」

 なかなか素直で良い子そうだ。

 俺に気を使ってくれてるんだろうか?

 はっきり言ってちゃん付けで呼ぶのはかなり抵抗があったのだ。

「じゃあ、そう呼ばせて貰うよ。」

「うん、ところでお兄ちゃんって強いの?」

「さあ、分からない。アイリーナは強いっていてるけど。」

 ちゃんと答えてやれと思うかも知れないが、俺はケイン以外の人間と剣を交えたことがないため、標準が分からないのだ。

 ちなみにケインには負けたことがない。

「じゃあ、騎士になりたい?」

「別になりたくないよ。」

「どうして?」

「戦争なんかしたくないからさ。」

 はっきり言って俺は騎士になりたいと思う奴の方が信じられない。

 無関係に人を殺すなんてまっぴらだし、命を懸けて国を守るというのも御免被りたい。

「へえ、変わってるね。剣士なのに。わたしが会った人達はみんな騎士になりたがってたよ。栄誉がどうこういって。」

「俺が剣士をやっているのは、自分や知り合いぐらいは守りたいと思ってるからさ。」

 俺とシーダが話しているところにルディとアイリーナがやってくる。

 ルディの目は多少なりに殺気を帯びている気がする。

「俺と勝負しろ!」

 何を怒っているんだ?こいつは。

 しかし、なかなかしつこい。

 こんな面倒くさい奴としばらく一緒にいなければならないのは、ちょっと辛いかも。

「悪いけど俺はあんたと戦う気はないよ。」

「俺が怖いのか?」

 そんな訳無いだろ。

 心の中で呟く。

「相手してやったら?あそこまで言われたら悔しいじゃない。」

 アイリーナがこっそり呟いてくる。

 何故アイリーナが悔しいんだろう?

 それはともかく、ルディをこのままにしておく訳にもいかないな。

 シーダが俺の袖をギュッと握りながら小刻みに震えている。

 シーダはまだ子供なのだから目の前に剣を突きつけられ、平然としていろという方が無理だろう。

「こんな小さい女の子の前に剣を突き出すなんて、男のする事じゃないぜ。」

 冷たく言い放ってやる。

「う、うるせえ。素直に俺と勝負すれば良いんだよ。」

 ルディはうろたえている。

 ちょっとは恥というものを知っているようだ。

 しかし、まだ剣を引こうとしないのは考えモノだ。

 これ以上シーダを怯えさせておく訳にもいかない。

「分かったよ、相手をしてやる。」

 立ち上がろうとしたが、シーダが俺の袖を握って放そうとしない。

「悪いが放してくれないか?」

 俺は優しく言うが、シーダは首を横に振るだけで放そうとはしない。

 顔を見れば涙までこぼしている。

「やっぱりやめとくは。」

 さすがにシーダの手を振りきってまで戦う気にはならない。

「一反受けといていきなり断るなど男のすることじゃないぞ。」

ここぞとばかりに言い返してくるルディ。

 始めに断ったにもかかわらずしつこく言い寄って来といてよく言えたものである。

「女の子泣かしといてよくそんなことが言えるなあ。」

 冷たく言い放ってやる。

「うっ・・ぐぅ・・・。」

 何か言い返すことを考えているようだが、何も思い浮かばないようだ。

「剣を引きなさい。あなたの負けよ。これ以上続けるのならわたしも許さないから。」

 何を許さないのか分からないは、俺だけだろうか?

 しかしアイリーナの一言でルディはしぶしぶ剣を引く。

 ふう、やっと収まったか。

「おーい、そろそろ出発するぞ。」

 まるで計ったようなタイミングでケルビンさんが呼びに来る。

 そして俺達は馬車の中に乗り込む。

 俺は馬車の一番後ろに後ろ向きに座った。

馬車の中にはきちんと座る場所があり、実際アイリーナとルディはそこに座っているわけだが、馬車には屋根があるためか窮屈そうに見えるため、俺はここに座っている。

 空を見上げていたいというのも理由の一つではあるが・・・。

 ふと気が付くと、俺の隣にシーダがちょこんと座っている。

「奥に入らないのかい?」

「だって奥狭いんだもん。それにあのお兄ちゃんと一緒にいたくないから。」

 納得。

 俺でもあんなのと一緒にいるのは嫌だ。

「お兄ちゃんはどうしてこんな所にいるの?あのお姉ちゃん取られちゃうよ。」

「別に構わないよ。アイリーナとは幼なじみと言うだけでつき合っている訳じゃないし、それにアイリーナとつきあえる奴がいたら、それはそれでめでたいことだから。」

 ある晴れた日のことだった。

 アイリーナなんぞとつき合っていたら、今頃精神を破壊されているかも知れない。

「どうしてめでたいの?」

「それは・・・・。」

 ボカ。

「いってー。」

 俺の頭に何か跳んでくる。

「大丈夫?。これが跳んできたみたいだけど・・・。」

                ショルダーガード

 シーダが手にしていたのは、何と肩当て。

後ろを振り返ればアイリーナがこちらをものすごい形相で睨んでおり、ルディが大笑いをしている。

 よく見るとルディの肩当てが一つない。

 普通こんなモノ人に投げつけるか。

「ちょっとライン。なに人の悪口を子供に吹き込んでるのよ。」

 文句のひとつも言いたかったんだが、あまりのアイリーナの剣幕に言葉も消えてしまう。

「今度何か言ってたらこんなモノじゃ済まないからね。」

 その言葉を残してアイリーナは前を向く。

 いったい今度はどんなことをされるんだろうか?

 下手すれば死ぬかもしれないぞ。

これははっきり言って本音である。

「・・・・・何か、分かった気がする。」

 シーダが唖然としながらポツリと呟く。

 俺は頭をこすりながらも、馬車はどんどん進んでいく。


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