始まり・・・そして旅立ち
太古の昔、一つの大きな大陸があった。そこには、神族と魔族が幾度となく争いを繰り返していた。そしてある時二つの大きな力を持った者が、この争いを終結へと向かわせた。神族の王と魔族の王が争いに参加したのだ。そこ争いは、熾烈を極め、大陸のことごとくを破壊していった。結果、神族が勝利を治めた。しかし、魔族との戦いで神族も肉体を失い精神体でしか存在出来なくなってしまった。そこで神族は、自分たちの代わりに色々な生物を作りその大陸に送り込んだ。それは、神族と魔族との争いで出来た地、アルディオンにも例外なく送り込まれた。しかし、違う生物達が平和に生活することはなかった。幾度となく争いが繰り返された。結果、人間という種族が世界を支配した。と、言うのがこの地、アルディオンに伝わる伝説の一部なのだが・・・・。
確かにこの地に住んでいるのは人間が一番多いし、アルディオンの周りには何もない。そしてその先を見渡してもいつも濃い霧に包まれ何も見えない。
霧に先に本当に大陸があるのかも、はっきり言って半信半疑なのだ。
まあ、伝説なんて嘘を交えて伝わるモノだからそんなに気にすることでもないか。
自己紹介をしておこう。
俺の名はライン。
中肉中背で髪はバッサリ短め、目は大きくも小さくもない。只今、魔法戦士としての修行中の十八歳の青年だ。
もっとも修行といっても自己鍛錬なのだが・・・。
このアルディオンの北東に位置するヴァスラという国の一番北にあるキールという何もない小さな村に住んでいる。
「ラインちょっといいか?。」
人が気持ちよく眠っているときだった。
はっきり言って俺は寝ているところを起こされるのは何より嫌いなのだが、起こしに来たのがこの村の村長なのでそう言う文句も言えない。
「何ですか?。」
俺は眠そうに答える。
村長が俺の所に来た理由はだいたい分かっている。
このキールの村の近くにゴブリンの住処があるのだが、ここのゴブリン達が時々村を荒らしに来るのだ。
多分、そこらのことだろう。
「ゴブリンが来たので追い払って欲しい。」
やっぱし・・・・。
ゴブリンを知らない人はいないと思うが、一応説明すると、人間の胸あたりまでしか身長がなく、夜行性で猿とどっこいどっこいの知能を持つ至って凶暴な種族である。
まあ、俺にかかれば別にどうってことはないのだが・・・。
しかしこのゴブリンを追い払うという作業はなかなか難しいのだ。
ゴブリンを殺すと、後で団体さんで復讐に来るかも、ということで『退治』ではなく、『追い払う』に留めなくてはならない。
はっきり言ってめんどくさいので行きたくないのだが、やる人がこの村にはほとんどいないので行かないわけにはいかない。
バスタードソード
俺は無言のまま頷き、長剣を手に取り外へ出ていった。
「ああ、かったるい。」
ブツブツとグチをこぼしていた俺は、現場を見た瞬間硬直してしまった。
ゴブリン二匹が肉の塊と化して転がっている。
俺は顔から血の気が引いていくのが分かった。
「おうライン、遅かったじゃねえか。」
後ろから声をかけられ、一瞬ビクッとしてしまう。
そして後ろを恐る恐る振り返ると、そこには身長ニメートルを超え、筋肉の塊のような身体をした大男が不気味な笑みを浮かべて立っていた。
こいつの名はケインという。
俺の幼少の頃からの知り合いである。
あくまで知り合いであって、友人ではない。
俺はそう信じている。
「どうだ、俺の実力は。」
グレートソード
血のりに付いた大剣を片手にニッカリ笑う
はっきり言ってこの男が剣を片手に笑うと、ものすごく怖い。
多分、こいつを知らない人は、一目見ただけで全速力で逃げていくのではなかろうか。
殺人鬼に見えるのは俺だけではないはずだ。
本人は勇者や英雄に憧れていたりするのだが、そういった意味ではなかなか可哀想な奴ではある。
「おい、これは何だ?。」
俺はため息混じりに、転がっているゴブリンを指差して尋ねる。
「見て分からねえのか。俺が倒したゴブリンの死体じゃねえか。寝ぼけてんじゃねえぞ、ガハハハハハ。」
思いっきりボケた答えが返ってくる。
何か無性にむかつくぞ。
今自分の顔を鏡で見たら、こめかみに血管が浮き出ているかも知れない。
「誰もそんなこと聞いてるんじゃねえ。何で殺したのか聞いてるんだ。」
俺の怒りは絶頂に達していた。
「いきなり襲いかかって来られたら、殺すしかないだろう。」
なぜ殺すしかないんだ?。
ケインの腕は俺より劣るにしても、そんなに悪くはないはずだ。
俺にはさっぱり理解できない。
「しかしだな、村長から殺さず追い払えと言われてるだろ。」
「バカかお前は。俺にそんな器用な真似出来る分けないだろ。」
ケインは胸を張っている。
「バカはお前だぁぁぁぁ。威張るんじゃねえ。」
思いっきり怒鳴りつけてやるが、ケインはまったく気にした様子がない。
あああぁぁぁぁぁぁぁ、こいつはぁぁぁぁぁ。
こんな奴が勇者や英雄に憧れて良いのか?。
今まで活躍してきた、勇者や英雄達がなんだか可哀想になってきた。
「どういうことだ、ケイン。」
ケインがゴブリンを殺したその晩、村の会議が行われた。
議題は・・・、今更言うまでもない。
「何考えているんだ。」
「襲ってきたらどうするんだ。」
村の人達はケインに向かって、怒りの言葉を浴びせている。
ケインというと、これはさすがに答えているようだ。
助けてくれ。
そう言わんばかりに、目線を俺の方に向けている。
俺はその目線をケインから外してやる。
薄情なようだが、これもケインの為である。
決して、俺まで巻き込まれるのは嫌だ、というのではないぞ。
「ああ、分かったよ。俺がゴブリンの住処に行って全部倒してくれば文句はないだろ。」
ケインが開き直った。
しかし、ほとんどやけくそになっているとはいえ、なかなか無茶なことを言う。
「よく言った。」
「頑張れよ。」
「しっかりね。」
などなど村人達も無責任な声援を送る。
「おう、任せとけ。俺が全部倒してこの村を平和にしてやるぜ。」
片手をあげてガッツポーズをとるケインを見ていると、頭を抱えながら人生というモノを考えさせられるのは、俺だけだろうか?。
数十匹はいるはずのゴブリン相手に勝てると思っているところは、バカなケインらしいといえばそれまでだが・・・。
しかし現実に、ケイン一人で勝てるのか?。
はっきり言って勝てるとは思わない。
仕方がない、少し助けてやるか。
「村長、いくらケインといえど一人で行かせるのは危険だと思いますが・・・。」
村長や村人達が何やら考え出す。
これでケインのゴブリン退治を止めさせて、しばらく様子を見るという結論がでれば良いのだが・・・。
しばらくして村長が俺の方に歩いてくる。
どうやら、結論が出たようだ。
「ラインよ、申し訳ないがケインに付いて行ってやってくれ。」
へっ?
「今、何と?」
俺の聞き間違いであってくれ。
そんな願いを託し、俺はもう一度聞き返す。
「お前も一緒に行ってやってくれと言ったのだ。」
しばらく俺の頭は、真っ白になる。
何故そんな結論になるんだ。
納得できん。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。一人が二人になってもあまり変わらないでしょ。」
「いや、お前は剣の腕も立つし魔法も使える。お前がいれば大丈夫だ。必ずゴブリンを倒してきてくれると信じているぞ。」
勝手に信じるんじゃない。
俺は無敵の戦士じゃないんだぞ。
「さあ、ライン。明日は早いぞ。ガハハハハハハ。」
ケインのバカが能天気に声をかけてくる。
何でこのバカの尻拭いを、俺がしなければならないんだ。
“仕方ない”などと思ったことが、俺を後悔の渦へと巻き込んでいった。
「何暗い顔してんだよ、ライン。」
ゴブリン退治に向かう途中である。
ゴブリンのことを考えて落ち込んでいる俺に、脳天気かつ楽観的に声をかけてくるケイン。
くそ、誰のせいでこんな思いしていると思っているんだ。
言いたいことは山ほどあるが、言い出すときりがないのであえて無視を決め込む。
「そんなに気にすることもでもないさ。俺がいればゴブリンなんて楽勝さ。」
などと、大口を叩きながら、大声で笑い出す。
はあぁぁぁぁぁ。
何処から沸いて来るんだ、その根拠のない自信は。
「あのなあ、お前俺に何か言うことないのか?。」
俺はケインを睨み付ける。
ケインは腕組みをしながら、真剣な顔で考え出す。
おいおい、
そこまで考える必要はないだろ。
しばらくして真剣な眼差しでこっちを見つめてくる。
「絶対に死ぬんじゃないぞ。」
「はあぁぁぁぁ。」
俺は大きく嘆息する。
あれだけ考えたあげくになかなか不吉なことを言ってくれる。
「そんなことわざわざお前に言われるまでもねえよ。ほら、とっとと行こうぜ。」
そう言って俺とケインは、ゴブリンの住処へと足を運んだ。
「ここがゴブリンの住処か。」
村を出発してだいたい三時間くらいの所にあるゴブリンの住処についた。
まあ、住処といっても洞窟のようなモノだが・・・。
しかし、ゴブリン達はなぜわざわざこんな所から村まで来るんだ?
知能の低い生物の考えることはよく分からん。
「さあ、行こうぜ。」
ケインは一人歩いていく。
「おい、ちょっと待て。どれだけの数がいるのか確認してからだろ。」
ケインは不満そうな顔を俺に向ける。
「怖いのなら帰って良いぞ。」
カッチーン。
ケインの一言に俺の中から怒りがこみ上げてくる。
剣を抜いてバッサリといきたいところだが、何とか自分を抑える。
何か文句を言おうとしたが、戦術の基本すら分からないバカには何をいっても無駄だろう。
ここは一つ怒りを鎮めてケインの言うことに従うとしよう。
「そうかい。じゃあ俺は帰るから一人で頑張ってくれ。」
いきなり引き返そうとする俺を見て、ケインは慌てている。
「ちょっと待てよ。本当に帰るのか?。冷てえ奴だなあ。」
後ろで何やら勝手なことをほざいているようだが、俺は完全無視を決め込む。
「バカヤロー!」
ケインの叫びを背中に受けて、俺は村へと引き返していった。
村への帰りの途中、俺は心の中で格闘していた。
あんな奴でも一応知らない仲でもない。
しかしだ、俺も戦士である以上、臆病者扱いされれば、さすがに聞き流すことは出来なかった。
うーん、どうするべきか?。
悩んだ末、俺はケインの所に戻ることにした。
このまま見捨てたまま、あいつに死なれたら寝覚めが悪そうだ。
もちろんただで助けたのでは面白くない。
あいつが苦しんでいるときに、どこぞの英雄戦記のように、おいしい所を持っていくと同時に恩を売るという計画を立てる。
しかしケインが死ねばこの計画はすべて流れてしまう。
とりあえず急いで戻るとしよう。
ゴブリンの住処に近づくにつれて、剣の打ち合う音が大きくなってくる。
と、言うことはケインはまだ死んでいない。
チャンスだ。
俺は急いでケインの戦っている戦場に向かって走り出す。
戦場についてもいきなり姿を現すことはしない。
俺は木陰から戦いの様子をしばらく観察することにする。
生きて戦っているゴブリンが七、八匹、地面に転がっているのが六匹くらいか。
肝心のケインの様子はあまり良いとは言えない。
はっきり言って、満身創痍である。
俺だったら死んでいるかも・・・。
しかしゴブリンの数が少なすぎる。
まだ中にいるのだろうか?
とにかくここは一気に片を付けた方が良さそうだ。
俺はすぐに古代魔法を唱え始める。
広範囲の魔法を唱えるのは多少時間がかかるが、まあ大丈夫だろう。
狙いを生きているゴブリンすべてが入るように合わせる。
スリープミスト
「眠りの霧。」
魔法をかけた瞬間、ゴブリン達を深い霧で包み込む。
そしてしばらくして、その霧は晴れていき、その場には誰も立っていなかった。
当然のようにケインも、グースカ豪快ないびきをかきながら眠っている。
いい気なもんだ。
しかし、眠っていなければ、それはそれで腹は立つのだろう。
そして俺は、眠っているゴブリンを、一匹ずつ剣でとどめを刺していく。
いくらゴブリンとはいえ、眠っている相手を剣を突き刺していくのは、あまりいい気分はしない。
そしてケインの頭を軽く殴る。
「うぅぅぅん。」
ケインがうめき声を上げながら目を覚ます。
頭を二、三度横に振っている。
まだ意識がはっきりしていないのだろう。
俺はしばらく様子を見ている。
するといきなり俺の顔を睨みつけてくる。
「てめえ、今頃何し来やがった。」
ケインはいきなり、俺の胸ぐらを掴んでくる。
「それが助けてもらった者に対する態度か?。」
「何いってやがる。俺が全部倒して眠っていたところに来やがっただけだろう。」
はあ?
いったい何を言っているんだ、こいつは。
ひょっとして、ゴブリンを倒す夢でも見ていたのだろうか?
「ちょっと待てよ。お前寝ぼけてるんじゃないのか。ここに転がっている半分くらいは俺が倒したんだぞ。」
「じゃあどうして、お前は無傷なんだ?俺はこんなに傷だらけになっているというのによ。」
「はあぁぁぁぁぁ。」
嫌みの意味を込めて、思いっきり嘆息してみせる。
「これが魔法の力だ。お前まで眠らしちまったのは悪かったと思うがな。」
俺の言葉を聞いた瞬間、ケインの顔は鳩が豆鉄砲をくらったような顔になる。
前にこいつが、剣こそ最強、魔法など剣の前では無力だと豪語していたことがあったがあっさりと否定されたからだろう。
剣も魔法も要は使い方である。
まあ、頭の悪いこいつには分からないかも知れないが・・・・。
「ところでケイン、ゴブリンはこれで全部か?」
声をかけたと同時にケインは我に返る。
「中にいるのは全部外へ出したからな。これぐらいだったと思うぞ。」
俺はケインの言葉を聞いて思わず頭を抑えてしまう。
何故わざわざ、多数のゴブリンを外へ出してくるかなあ?
ゴブリンは夜行性だから、間違った選択とは言わないが、多対一何だから狭い洞窟の方がまだ戦いやすいはずだろうに・・・。
今はそんなこと考えている場合じゃない。
本当にこれだけのゴブリンしかいなかったのか?
ゴブリンの数を知っている訳ではないが、あまりにも少ないような気がする。
しかし、ケインが全部外へ出したという以上、中にはもういないだろう。
ひょっとして・・・。
俺の中で一つの不安が浮かぶ。
「ケイン、急いで村に戻るぞ。嫌な予感がする。」
「まっ、待ってくれよ。少し休ましてくれ。」
見れば確かにケインは疲れ切っていて、とてもたてる状態ではない。
「じゃあ、お前はしばらく休んでろ。俺は先に行く。」
俺はケインの言葉を待たずに村に向かって走り出した。
間に合うことを、そして俺の予感が外れることを祈りながら・・・。
「こ、これは・・・。」
俺が村外れまで来たときには、すでに日は沈もうとしていた。
村の方の空は真っ赤に染まっている。
煙が上がっているところを見ると、村が焼かれているのだろう。
「くそ、嫌な予感だけは当たりやがる。」
村の人達は無事なのか。
無事であって欲しい。
俺の頭の中は、そのことでいっぱいになっていた。
急いで村に戻らなければ。
しかし、身体は思うように動いてくれない。
疲労もあるだろうが、もう間に合わないだろうという思いが、俺の身体を縛っているようにも思えた。
俺は燃えている村をただ眺めていることしか出来なかった。
「ラインじゃないか。」
後ろから声をかけられ、俺は我に返る。
村長とその他の村人達が俺の方を見ていた。
「みんな、無事でしたか。」
「うむ。みんなというわけにはいかないが、大半は村から出られた。しかしゴブリンのせいで村はあのざまじゃ。ライン何とかしてくれんか。」
何とかって、いったいどうすれば良いんだ?
しかし、あのまま放っておく訳にもいかないか。
「分かりました。じゃあ、行って来ます。」
仕方がない。
とりあえず現場を見てから考えよう。
「っ・・・・・。」
あまりの光景に俺は言葉を失っていた。
ほとんどの家に火は放たれ燃やされていく。
その中でゴブリン達は、奇声を発しながら踊り、その足下には逃げ遅れた村人の焼死体が転がっている。
さすがに怒りがこみ上げてくるが、かろうじて自分を抑え込む。
とりあえず生きている人を捜すか。
俺はゴブリンに見つからないように、村を移動し始める。
「でやー。」
「ギャー。」
燃えさかる炎の中で甲高い人の声とゴブリンの断末魔のような叫び声が聞こえた。
まだ生存者がいるのだろうか?
俺はとにかく声のした方へと走っていった。
「ギャー、ギャー。」
ゴブリンの奇声が大きくなる。
どうやら俺の家の付近にいるようだ。
俺は家の物陰からそっと首を出す。
どうやら女性が戦っているようだ。
離れているので顔はよく分からないが、長い髪を後ろで束ねて、白い神官服に身に纏い、メイスを武器としている。
典型的な神官戦士の格好だ。
その女性の周りには、ゴブリンの死体が三体ばかり転がっているが、ひょっとして彼女が倒したものだろうか?
しかし、まだ六匹を相手に苦戦をしいられている。
神官服は所々切り裂かれ、かすり傷ではあるが数カ所、傷を負っている。
このまま放って置くわけにもいかない。
俺は魔法を唱え始めて、すぐに中断する。
ケインの時のように、ゴブリンを眠らせるつもりだったのだが、彼女も効果範囲に入ってしまう。
万が一、失敗して彼女だけが眠ってしまったら、そのまま殺されるのは目に見えている。
ケインの時には考えもしなかったが、今更ながらにホッとする。
こうなれば接近戦しかない。
俺は長剣を抜いてゴブリン達に襲いかかっていく。
ザシュ、バキッ、ドカッ、
いきなり後ろから斬りつける。
不意打ちというのは、あまり好きではないのだが、この際そうも言っていられない。
しかし不意打ちで倒せたのは三匹だけ。
あとの三匹は、俺に襲いかかってくる。
「ウギャーッ。」
俺はわずか三振りでゴブリン三匹を倒す。
ゴブリン三匹くらい、俺の手にかかれば赤子の手を捻るより簡単なことだ。
しかし、ゴブリンに悲鳴を上げられたのは失敗だった。
村に散らばっていたゴブリンが大量に集まってきてしまった。
さすがの俺でも、こうも多勢に無勢では勝てないかも・・・。
後ろを見れば、彼女もメイスを構えてはいるが、足元もおぼつかず肩で息をしている状態だ。
となれば、手は一つ、
「逃げるよ。」
そう言うと彼女の返事も聞かず、彼女の腕を掴んで走り出す。
「ちょっと、待ってよ。」
何か言っているようだがとりあえず無視する。
やがて二人二人が並べるくらいしかない、狭い路地に入っていく。
「ちょっと、行き止まりじゃないの。」
そう、彼女の言うとおり行き止まりである。
だが別に追い詰められた訳ではない。
わざとここに入ったのだ。
ここならば周りを囲まれる心配もないし、せいぜい二匹ずつを相手にしていけば良いからだ。
「さあ、来い。」
俺は気合いを入れると共に、長剣を構える。
「キー。」
ゴブリンも奇声を発するとともに襲いかかってくる。
俺の予想通り、二列縦隊で。
しかし狙い通りと言ったところでまだ勝負は五分以下ではないだろうか。
数で圧してくるゴブリンに対して、こちらは俺一人で戦っている。
こういった狭い場所での戦いは、二人並んで戦うより一人で戦う方が動きを制限されない分有利に戦える。
それに女性を戦わせるのは、俺自身何となく気が引ける。
俺は次から次に来るゴブリンの攻撃を辛うじて防いでいた。
時間がたつに連れ、疲労で身体が動かなくなってくる。
ゴブリンの攻撃によって傷も増え、その傷の痛みによって集中力もなくなってくる。
もう限界か。
そう思ったとき、急に身体の力が戻ってくる。
身体にあった傷もいつの間にか消えている。
気が付けば後ろで彼女が何やらボソボソと口にしている。
どうやら回復魔法を唱えてくれたようだ。
これならまだいける。
「うおぉぉぉぉ。」
俺はまた気合いと共にゴブリンに斬りかかっていった。
いったいどれだけの時がたったのだろうか?
数え切れないほどのゴブリンの死体が狭い路地に山積みになっており、地面や壁には、ゴブリンの血がべっとりと塗られている。
自分でやっておいて何だが、まるで地獄絵図を見ている気分だ。
あまりにも気持ち悪い光景、臭いによって体の中から温かい物がこみ上げてくる。
「早くこんな場所からでましょ。」
彼女を見ると口を押さえながら下を向いている。
どうやら彼女も俺と同じようだ。
まあ、こんな所にまともでいられる奴もそうはいないだろうから当然といえば当然か。
俺は彼女の意見に一つ頷いて、ゴブリンの山を越えて路地から出ていく。
ああ、空気がうまい。
俺は大きく深呼吸する。
路地の中とはえらい違いだ。
戦っていた時に彼女が唱えてくれた回復魔法、それにこの空気を味わわせてくれた神という存在に感謝したい。
そんな気分に浸っているのもつかの間、俺の目の前に一匹のゴブリンが現れた。
しかし前のゴブリンとは、容姿からして少し違う。
どことなく威圧感みたいなモノを感じる。
くそ、まだこんなのがいたのか。
前言撤回。
神なんぞに感謝するか。
恨みすら感じるぞ。
「まさか、ゴブリンロードまでいるなんて・・・。」
ゴブリンロード。
又の名をホブゴブリンという。普通のゴブリンの親玉と言ったところなのだが、書物などで読むと戦闘訓練を受けた騎士に匹敵する強さらしい。
はっきり言って戦闘訓練を受けた騎士がどれだけ強いかなんて俺は全く知らない。
しかし先に戦いで俺も彼女も疲労しきっているので、勝ち目は薄いと考えるべきだろう。
まずいな、これは。
バトルアクス
そんな思いとは裏腹にゴブリンロードは戦斧を構えて間合いを詰めてくる。
多分、逃げても捕まってしまうだろう。
殺るしかないか。
そう心に呟きながら俺は長剣を構える。
彼女は俺と自分に回復魔法をかけてくれる。
全快とはいかないが、ある程度力が戻ってくる。
「これで魔法は打ち止めよ。それからわたしもあなたに、加勢させてもらうわよ。見ているだけじゃ歯がゆいから。いいでしょ、ライン。」
女性を戦わせたくないが、そうも言っていられないな。俺一人じゃ結構きつそうだし。
「ああ。」
一言返事を返す。
あっ?
何故、俺の名前を知っているんだ?
そんなことを考える暇も与えてくれずに、ゴブリンロードは襲いかかってくる。
「くっ。」
俺と彼女は、ゴブリンロードの攻撃をほとんど反射的にかわす。
そしてすぐにゴブリンロードの戦斧が俺に襲いかかってくる。
ガキッ、
かろうじて戦斧を長剣で受け止める。
しかし、ゴブリンロードの力は予想以上に強い。
腕に痺れが走る。
俺は戦斧を受けたままの体勢で後ろへ跳ぶ。
その瞬間、彼女がゴブリンロードの背後からメイスを振り下ろす。
カーン。
俺は自分の目を疑った。
後ろから頭上に振り下ろされたメイスを振り返りもせずに手に着けていた籠手で受け止めたのだ。
はやりこいつは強い。
彼女の方も信じられない、という顔をしている。
動きを止めている暇はない。
俺はゴブリンロードに向かって走り出す。
ゴブリンロードはこっちを見ると、背中から何か取り出してこちらにめがけて投げつけてくる。
俺はかろうじて、それを長剣で受け止める。
再び腕に痺れが走る。
トマホーク
「投げ斧か。」
瞬時には腕の痺れはとれない。
その隙にゴブリンロードは彼女に向かって戦斧を振り下ろす。
彼女は紙一重でかわしたものの、大きく体制を崩してしまう。
その隙をついてゴブリンロードは一気に間合いを詰める。
そして左手で彼女の髪をつかむと、頭めがけて頭突きを繰り出した。
「きゃぁぁぁぁ。」
悲鳴と共に彼女の額から鮮血が吹き出し、そして地面に横たわる。
そして倒れている彼女に再び戦斧が振りを降ろされようとした瞬間、俺は魔法を発動させた。
マジックミサイル
「魔法弾。」
簡単な魔法なら一瞬で唱え終わる。
光に弾丸がゴブリンロードの背中に撃ち当たる。
「グギャー。」
ゴブリンロードは苦痛の声を上げるが、大したダメージにはなっていない。
しかし、注意を逸らすことは出来た。
ゴブリンロードは怒りに雄叫びを上げ、俺の方にジリジリと歩み寄ってくる。
その間に俺は長剣を構え、魔法を唱えておく。
そしてゴブリンロードが一気に間合いを詰めてきたとき、魔法を発動させる。
フラッシュ
「閃光。」
持続時間ゼロ、光力最大の光がゴブリンロードの視力を奪う。
その隙にとどめを刺そうと間合いを詰める。
しかし目の見えないゴブリンロードは狂乱して戦斧を振り回し続け、とても近づける状態ではない。
どうする。
時間をかけていると視力が回復してしまう。
考えを巡らしている時、一つの物が俺の目に入る。
「投げ斧、こいつなら。」
独り言のように呟き、それを手に取る。
ゴブリンロードの方を見れば、まだ視力は回復していないようだ。
俺は手にした投げ斧を、ゴブリンロードめがけて投げつける。
「ギャァァァァァァァァァー。」
ゴブリンロードの右腕に食い込み、苦痛の叫びを上げる。
俺は注意深く、ゴブリンロードの方に歩み寄る。
ゴブリンロードは、俺の足元で右腕を押さえながらうずくまっている。
もう戦う気はなさそうだ。
「お前達の仲間を殺したことは謝るよ。でも、お前達も悪いんだ。」
そう言葉をかけて、俺はゴブリンロードの首を跳ね飛ばした。
ゴブリンロードの体から流れる血が池のように溜まっていく。
俺は自分が結構、残酷な人間だと思い知らされた。
ああっ、
そう言えば彼女は無事なんだろうか?
俺は慌てて彼女のそばに寄っていく。
胸が上下しているのが分かる。
どうやら生きているようだ。
頭突きくらいで死ぬわけはないのだろうが、あれだけ血が噴き出すとさすがに誰だって焦りはするだろう。
まあ、生きていて何よりだ。
俺は安堵のため息をつく。
そして自分の服の袖を裂き、彼女の顔の血を拭ってやる。
「へえ。」
思わず声を上げる。
戦いの最中だったのできっちり顔を見ていなかったが、目が大きく、鼻が小さい、整った顔立ちの美人であり、何となく見たことのある顔でもあった。
そう言えば俺の名前も知っていたし、何処かで会ったことがあるのだろうか?。
しかし、俺はこの村から出たことがないから、会ったとすればこの村の何処かだろう。
またそんなことを考え出す。
「うーん。」
彼女がうめき声を上げながら目を覚ます。
まだ意識がはっきりしていないのか、何処か遠くを見つめている。
そして思い出したかのように、体のあっちこっちを見渡し始めた。
彼女は所々に傷を負ってはいるものの、ほとんどがかすり傷であり、額の傷にしても見かけほど酷いものでもない。
頭の傷は多くの血が流れると聞いたことがあるが、そういうことだろう。
「大丈夫?きちんと手当したかったんだけど、全部焼けちゃって・・・。」
「たいした怪我じゃないから大丈夫よ。それよりあのゴブリンロード、あなた一人で倒したの?」
「そうだけど、どうしたの?そんなに不思議そうな顔をして。」
彼女は俺の顔をジロジロと見つめている。
その目は疑いの目にしか見えないのは、俺の気のせいだろうか?。
しばらくして、彼女はニッコリと微笑んでくる。
「強くなったわね、ライン。ゴブリンロードを倒しちゃう何て、未だに信じられないけど。」
やはり彼女は俺のことを知っている。
しかし、俺の方は未だに思い出せない。
誰だろう?
この村にいた人だろうか?
しばらく考えたが、やはり思い出せない。
「あなたもしかして、わたしのこと忘れたんじゃないでしょうね?。」
何やら彼女は怒っている。
しかし、思い出せないものは仕方がない。
俺は黙って頷く。
彼女の体が震えている。
よっぽど怒っているようだ。
「もう信じられない!幼なじみを忘れるなんて。アイリーナよ、ア・イ・リ・ー・ナ。三年前に神官修行に出ていったアイリーナよ。どう、思い出した?。」
「ア、アイリーナ?」
そういえば、どことなく昔の面影がある。
三年も立てば人は変わるもんだなあ。
全然気づかなかった。
しかし、何故帰ってきたんだ?
もう会うことはないだろうと思ってたのに・・・。
「何か、帰ってきたのにあまり嬉しそうじゃないわね。」
ギクッ!
「い、いや、嬉しいよ。三年ぶりだもん。嬉しいに決まっているじゃないか。」
「声がうわずっているわよ。それに頬を流れる汗は何。」
何でこいつはそんなところまで見ているんだ。
「ま、周りがこれだけ燃えているんだ。汗くらいかくさ。」
「ふぅぅぅぅぅん。ま、そういうことにして上げましょう。」
はっきりいって俺はアイリーナが苦手だ。
容姿は良いのだが、性格に少々、いや、かなりかな?とにかく問題があるのだ。
「おーい、ライン。生きてるか?」
声の方を見れば、傷だらけの大男が大剣背負って走ってくる。
言うまでもなくケインである。
「なんだ、生きてるじゃないか。」
もうちょっと気の利いた言葉は出てこないのか、こいつは。
何か言ってやろうとも思ったが、体の疲労のせいか喋るのも面倒だ。
「おい、そっちの女性を紹介しろよ、と思ったらアイリーナじゃねえか。久しぶりだなあ。帰ってきてたのか。」
ゲッ!
何故、こいつは一目で分かるんだ。
アイリーナは、ジト目でこっちを睨んでくる。
やめてくれぇぇぇ、その目は。
「本当に久しぶりね、ケイン。元気にしてた。それにしても全部片づいてから来るなんて遅すぎるわよ。」
「いやあ、ゴブリンの住処の方でちょっと戦っていたから、アハハハハハハ。」
笑ってごまかすな。俺はいったいどうなるんだ。
「おい、ケイン・・・・。」
「おうそうだ。村長達にアイリーナやゴブリンのこと伝えてくらあ。」
俺の言葉を遮って村長達のいる村外れへと走っていく。
俺も行きたかったが体が思うように動かない。
仕方がないので、その場に座り込む。
アイリーナと二人きり。
何となく息苦しい。
ああ、この場から消え去りたい。
「ねえ、ライン。」
ビクッ、
いきなり声をかけられてびびってしまう俺もなかなか情けない。
「わたしね、旅に出たいの。それで一人じゃ心細いから、あなたに付いてきて欲しいの。」
「なんで?」
「だから、心細いからって言ってるじゃない。」
「お前、オルボルクからここまで一人だったんだろ。何を今更言ってるんだよ。」
「いいでしょ別に。どうせあなた暇でしょ。」
「それは・・・。」
確かに暇である。
しかし旅なんて全くする気はない。
アイリーナはこっちを睨んでいる。
ううっ、怖い。
「そ、そうだ。ケインを連れていけば?あいつなら喜んで着いていくと思うぜ。」
何となくケインを売っているように聞こえるが事実なのだ。
ケインは昔からアイリーナのことが好きだったから、あいつに言えば何処へだって着いていくだろう。
「イヤよ。絶対イヤ。」
きっぱり言い切る彼女。
これはケインの恋は叶いそうにないな。
しかし、それでは困るのだ。
何とかしないと。
「ケインならゴブリンの住処に乗り込めるほど強いから、結構頼りになると思うぜ。」
ケインなんぞ持ち上げたくないんだが、この際なりふり構っていられない。
「だって、あんな食人鬼みたいなのと一緒にいたら、誰も寄りつかないじゃない。」
そこまで言うか、普通。
しかし、そういわれると何も言い返せない。
どうしよう。
「そうだ。俺はこの村を守って行かなきゃならないから、旅には出れないよ。」
「あら、どうしてケインは良くてあなたは駄目なの?」
「えーと、あいつに村を任せるのは、何か不安だろ?」
「じゃああなたは、その不安なケインをわたしに同行させようという訳?」
うっ、するどい。
しかしそんなこと、口に出来るわけもない。
ああ、どうしよう。
もう言うことがない。
「でも、確かに村長さんの許可は必要ね。わたしが頼んで上げる。」
誰もそんなこと頼んだ覚えはない。
こうなったら村長の許可が出ないことを祈るしかない。
どうか村長、俺を助けてください。お願いします。
「と言うわけでラインを連れていきたいんですけど。」
また村人を集めて、会議みたいなものを開いている。
その中で、何が、と言うわけなのか分からないが、アイリーナが村長を説得し始める。
「うーむ、しかしラインには村を守ってもらわなければならんし・・・。」
いいぞ、いいぞ。
そうだ。
そのまま、駄目だと言ってしまえ。
「だがゴブリンを倒してくれたアイリーナの頼みを聞いてやらんというのも、何やら薄情なような気もするし・・・。」
ゴブリンの大半は俺が倒したんだ。そんなこと気にしなくていい。
「村のみんなはどう思う?」
村長は視線を村人に向ける。
すると村人は好きなことを口にし出す。
「ラインがいなくなるのは痛いよな。」
「ケインならいいんだけど。」
うん、うん。
そうだろう、そうだろう。
「でも、ゴブリンは全部倒したんでしょ。なら、ラインを旅に出してもいいんじゃない。」
「そうだな。まだケインがいるし、いざとなれば俺達も武器を持って戦えばいいんだからな。」
おい、ちょっと待て。
そういう台詞はゴブリンと何かある前に言ってくれ。
俺の思いとは裏腹に賛成派の意見が増えていく。
「どうやら決まったようだな。ライン、アイリーナを守ってやれ。」
なかなか、勝手なことを言ってくれる。
アイリーナは満面の笑みを浮かべて、こちらを見ている。
あーあ、もう勝手にしてくれ。
「ライン、準備できた?」
景気のいいアイリーナの声が響いてくる。
俺は落ち込んでいるというのに、全くいい気なもんだ。
しかし、準備といっても家ごと燃えているので、持っていく物と言えば、長剣とわずかな小銭と焼けずに残っていた少量の保存食くらいである。
これで勝手気ままな生活ともおさらばか。
そう思うと何か悲しくなる。
「ライン。」
いきなり背中を叩かれ、思わずせき込む。
後ろには大男、ケインが立っている。
「何だ、いきなり。」
「いいよなあ、お前は。アイリーナと旅に出れてよ。俺も村長に頼んだら駄目だって言われてよ。不公平だよなあ。」
ケインは俺に向かって愚痴をこぼす。
好きで旅に出るわけではないのに、何故こいつの愚痴を俺が聞かなければならないのか
考えただけで腹が立ってくる。
「俺だって・・・。」
「アイリーナに何かあって見ろ。俺はお前を絶対許さねえからな。いいな。」
俺の言葉を遮り、ケインは真顔で俺に言葉をかける。
しかも、目に涙を浮かべながら・・・。
ついさっきまでの怒りもどこかに消えていく。
まったく、世の中うまくいかないものだ。
そして先の見えない旅へと。
「心配するなよ。ちゃんと帰ってくるから、土産でも期待して待ってな。」
「バカヤロー。誰もお前の心配なんぞしてねえよ。」
ケインが怒鳴る。
『・・・・・・・・・。』
しばらく二人の間に沈黙が続く。
『フッ、ハハハハハハハ。』
そして、いきなり笑い出す。
「じゃあな、ケイン。村を頼んだぜ。」
「ああ、アイリーナは任せたぜ。」
一言、言葉を交わして俺は歩き出した。
アイリーナの元へ。
そう思うしかないか。




