科学と人間と愛は繋がっている
久しぶりに短編書きました。初ジャンルなのでおもしろいかは分かりませんが読んでくださると嬉しいです。
なお、この作品は凡スラ先生主催の短編大賞の投稿作品です。
ここは聖ファシタニア大学。国内でも飛びぬけて偏差値が高い超名門大学。
そんな聖ファシタニア大学の理科教授、佐久間博人は、過去にないほどの名教師だった。
物理、化学、生物、地学……などの全てを大学で教える免許を持っている。どんな分野でも持ってこい、なエリート教師だった。
そんな佐久間教授には裏の顔があるのを誰も知らない。
◇ ◆ ◇
夜になり、生徒たちは下校する。ここからが佐久間教授の裏の顔なのだ。
佐久間教授は実験室に行き、実験を始める……かと思いきや、秘密の地下室へと下りていく。学校を勝手に改造する辺りが大物だ。
その地下室には今佐久間教授が作ろうとしているものがあった。
――人間
こんなことしたらノーベル賞獲れるんじゃね? みたいな軽い気持ちで始めた発明だったが、知らぬ間に日課となっていた。作っている人間は普通の大学生くらいの女の子。なぜそれを作るかというと、変態教頭先生が「うちの大学にとびっきり可愛い女の子が欲しいよな~。教頭先生、教えて(ハァト)なんていわれたらキュンキュンしちゃうな!」とかいう発言をしていたからだ。とりあえず練習用に大学生の女の子(美少女)を作っている。
それがもう完成間近となっていた。もうあとちょっとの修正で完成する。
こんな夜中に美少女人間を作ってるなんてばれたらただの変態でしかないが、それでも佐久間教授は作り続ける。ここまで出来たのだから。
とりあえず完成したら聖ファシタニア大学に入学させようなんてことも考えた。どれだけ本当の人間と一緒にいられるか、どれだけ人造人間だとばれずにいられるか見てみたいからだ。
それだけの頭脳を人造人間が持てるのかって? それは愚問である。あの超名門大学の佐久間教授が作った人間なのだ、たやすいことである。
しばらく作り続けていると、本当にもうすぐ完成というところまでやってきた。
「ここをこうして……」
最後に頭をいじって、ついに完成した。
その姿は本当にただの人間だった。しかも美少女の。
そしてその人間は動き出す。動きまで完璧に人間そのものを再現している。そして口を開き、言葉を話し出す。
「こんばんは~」
「はいこんばんは」
喋りまで人間そのものだった。声優さんにいてもおかしくないくらい可愛い声だった。
こうして大発明を成し遂げた佐久間教授は、明日の日を楽しみに待っていた。
◇ ◆ ◇
翌日になり、佐久間教授はいつもどおりに学校にやってきた。
朝は6時。まだ生徒たちは登校してこない。もちろんあの人間も自宅にいる。8時には学校に来るように言っておいた。
そしてあっという間に登校時間になる。
職員室から様子を見ていると、人造人間が登校してきた。
たくさんの男子から注目を浴び、女子もその綺麗な容姿に見入ってしまっていた。
佐久間教授の実験は見事に大成功だ。人間に普通に溶け込んでいる。誰もおかしい、という目では見ていない。
そしてそしてあっという間にSHRの時間となる。
佐久間教授のクラスに人間を転校生として入れさせた。
「転校してきた佐久間赤花です。よろしくお願いします」
この名前は佐久間教授が付けたものだ。由来はというと、側にあったベネジクト溶液を見て、糖があったら赤褐色になるから赤。花は女の子っぽい字をつけただけだ。ヨウ素液花と迷ったらしい。
黒髪の綺麗なロングヘア、黒くてぱっちりとした目、もうただの美少女でしかない。
赤花も席に座り、SHRを開始する。だが、誰も佐久間教授の話は聞かず、赤花ばかりを見ている。進路とか色々大切なこと話しているのに……と思う佐久間教授だった。
そして授業が始まる。
といっても佐久間教授は大学では化学を担当している。そのため授業風景も物理の授業でしか見れない。
1時間目の時は物理の授業がどこにもなく、佐久間教授は職員室でプリントの整理をしていた。すると、教頭がこっちにやってきた。腰をくねくねしながら。気持ち悪い。
「佐久間~。お前んとこの転校生超可愛いな~! キスしてくれないかな~?」
「多分唇が油くさいですよ」
ロボットだもの。
「リップグロスってやつか? んもぅ~おしゃれなんだから~」
かなりの馬鹿なんじゃないのか? よく教頭になれたな。わいせつ罪とかで捕まってそうなのに。と思う佐久間教授。
そしていよいよ化学の授業が始まった。大抵の生徒は偏差値の高い高校や大学の教師を目指すこの学園。なのでどれだけ難しい問題を出してもそれほど違和感はない。
佐久間教授は、今までに自分とある人しか解けたことのない問題を出題してみた。
「7番の問題が解けたら天才だ」
そんなことを言って生徒達を張り切らせてみる。しかし、解けるものは1人もおらず、みんなが悔しそうにプリントを提出していった。
そんな中、1人だけ正解をした人がいた。
「おっ、佐久間が正解しているな。すげーな」
もちろん、佐久間教授が作ったので当たり前なのだが。
こうして、更に赤花に注目が集まり、1日目は終了した。
◇ ◆ ◇
場所は佐久間教授の家。赤花は普通に帰ってきた。ちゃんと家の位置もインプットしてある。なのでほっといても勝手に帰って来る。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
赤花は靴を脱ぎ、佐久間教授の向かい側の座布団に正座した。改めて思うのもあれだが、やはりただの人間にしか見えない。その事実に佐久間教授はただ嬉しかった。
「どうだった? 人造人間とはばれなかったか?」
「全く問題ありませんでした。誰もが人間として対応してきます」
「はははっ、そうか」
この瞬間、佐久間教授は俺に不可能はないと思った。あの人の事を思い出しながら――――
◇ ◆ ◇
それは佐久間教授が教師試験に受かったとき、そして科学者として働いていたときに師匠と呼ぶ人がいた。
名前は沢田博。世紀の大発明を遂げた、おそらく日本で一番有名な科学者だ。日本の機械が発展しているのはこの人のおかげかもしれない。
そんな人の弟子に佐久間教授はなれた。
幼い頃から沢田博士とは縁があり、小さいころはちょくちょく会いに行って実験の風景を見ていた。液体実験、電気実験、イオン実験など、様々なことを行っていた。
ある日、佐久間教授が沢田博士に聞いたことがある。
「ねぇ、沢田博士ってこれだけは作ってみたいって思うものある?」
「作ってみたいものね~。人造人間とか作れたらいいな~」
「人造人間か~」
「……でも、それは無理だな」
「……何で?」
「人間っていうのはよく分からないからな。思わぬときに力を発揮したり、何かを思うことで頭がいっぱいになる。何年たっても完全な人造人間は作れないだろうな」
その日から佐久間教授は人造人間に興味を持った。そして、この人を超えようと思った。
あれから、人造人間を作るのが夢であり、目標だった。
◇ ◆ ◇
それが今、目の前で実現している。目の前で自分が作った人間が動いている。そう、佐久間教授は世紀の大発明を成し遂げたのだ。
「……何をニヤニヤしてるんですか、佐久間教授」
「いや……まぁ……俺の事情だ」
「そうですか……」
そう言って赤花は飲み物を飲んだ。もちろん学校では水を飲んでいる。
そして2人は寝た。ちなみに赤花は充電。
それから何日かそれと同じような日々が続いた。赤花は人間とばれず、佐久間教授はいつもどおり化学を教える。
しかしある日、なんだか急に変わったときがあった。
時間は夜9時。いつもなら7時半には帰って来るのだが、今日は特別に遅かった。何故だかはもちろん佐久間教授には分からなかった。
「ただいま帰りました」
「遅いぞ。何かあったか?」
「…………私の事情です」
「そっか」
佐久間教授はズズッとお茶を飲んだ。
しかしその次の日も、また次の日も帰りは遅かった。元に戻るどころかどんどん遅くなっていった。何を聞いても「私の事情です」としか答えない。
こうなったら、と佐久間教授は日曜日に出かけると言い出したのでさりげなくついていく事にした。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
赤花は家から出て行き、あるところへ向かった。それに佐久間教授はついていく。
するとある一人の男性と会い、また目的地へ向かって歩き出した。
(あいつは伏川科学か。あいつとどこに行くんだ?)
伏川科学。聖ファシタニア学園の理科成績トップの秀才。化学の点数が非常にいいので名前は覚えている。
しかしそんなやつが赤花とどこに行くのだろうか。これは〇ー〇としか思えない。
◇ ◆ ◇
やがて2人は目的地に着いた。場所は聖ファシタニア学園近郊にある科学館。もうこれは、場所は定番ではないがデートだ。そんなことをインプットさせた覚えはない佐久間教授。とりあえず2人についていくことにした。
しかし、2人が行ったのが科学館で助かった。遊園地にこんな中年のおっさんが1人でなんて寂しいにもほどがある。水族館なら生物見学でなんとかなるが。
2人で電子プログラムの最新技術などの話を聞いている。佐久間教授に聞けばもっと詳しく聞けるものを。
それからプラネタリウムや物理、生物との触れあいといった理科満載の時間を楽しんでいた。
しばらくして2人で昼食を摂っていた。佐久間教授はラーメン自動販売機というなんとも珍しいものでラーメンを食べていた。
すると科学が赤花に何か話している。それに対して赤花は驚きの表情を浮かべていた。佐久間教授は耳を澄まし、その会話を聞いた。
「ねぇ、赤花さん」
「どうしました?」
「赤花さんってもしかして……人間じゃない?」
「な……何を言っているんですか。そんなわけないじゃないですか!」
「どぼけても無駄だよ。思考が大学生とは思えない」
「…………」
何と科学は赤花が人造人間だと見破ってしまった。思考が大学生とは思えない。それもそのはず、あの佐久間教授が作り上げた人間なのだから。
「名前からすると……佐久間先生が作った?」
「はい……」
赤花はどうしようもなく、返事してしまった。自分は人造人間だと。
その事実に佐久間教授は混乱した。人造人間である赤花は科学という人間に恋をし、科学は赤花が人造人間だと気づいた。
人造人間だということを知られてしまった以上、赤花の恋は芽生え……
「すごいね!」
「……え?」
「ますます赤花さんのこと好きになっちゃった」
……た。意図も簡単に芽生えてしまった。佐久間教授は人間というものが分からなくなってきていた。どうしてこう訳の分からない行動を起こすのか。
佐久間教授は頭を抱え、見る気も失い、家に帰っていった。
◇ ◆ ◇
そして次の日、地獄が訪れる。
なんと赤花が科学を家に連れてきたのだ。なんとも、科学が佐久間先生にあいさつしたいと言い出したらしい。
「こんばんは、佐久間先生」
「こんばんは~」
こういうあいさつをしにきたわけではない。それは佐久間教授ももちろん分かっている。
「僕、赤花さんと真剣にお付き合いさせていただいてます」
やはりこういうあいさつだ。そこからやってくる言葉は分かっている。
「結婚を許してください、か」
2人も大学生。結婚は十分に出来る。
しかし、また疑問が浮かんでくる。人造人間だと分かっているのにどうして結婚しようとするかだ。佐久間教授はまた頭を抱え、迷う。
「お前は知っているんだな。赤花が人造人間だということは」
「はい」
「だったらなぜ結婚しようとする?」
「……彼女が好きだからです」
ますます分からなくなる。好きにも限度という物があるだろう。好きで人造人間と結婚するとは……ますます分からなくなった。
「まぁ、別にいいんだが、道は険しいぞ? あくまでこいつは人造人間だ。最高の科学力と知識がいる。俺みたいに中年のおっさんになっても勉強し続けなければならない。それでもいいか?」
「はい」
「そうか。だったら、聖ファシタニア学園の物理、化学、生物、地学を教える免許を取れ。そしたら結婚は認める」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って科学は礼をして家を出て行った。
全ての免許を取るなんて無理に決まっている。佐久間教授でさえ3年間はかかった。全てにおける最新の知識が必要となる。特にこの聖ファシタニア学園では。
それを覚悟して取りに行く。……人間はますます分からない。
◇
◆
◇
そして、3年の時が経ったとき、佐久間教授の家に訪ねてきた。客は言う間でもなく科学だ。科学は免許証を佐久間教授に見せた。しっかりと全ての免許をとったことを証明した。
そうして、佐久間教授は2人の結婚を認めた。
それから、やっと佐久間教授は理解できたのだ。沢田博士が言っていたことに。
『人間っていうのはよく分からないからな。思わぬときに力を発揮したり、何かを思うことで頭がいっぱいになる。何年たっても完全な人造人間は作れないだろうな』
佐久間教授は空を見上げ、思わずつぶやいた。
「人間は分からん」
佐久間教授には人間が何よりも大きく感じた瞬間だった。
それから未来も人間は作れないだろうなと思いながら、2人を祝福した。
読んでいただきありがとうございます。
自分でもジャンルが何か分からなかったこの作品、いかがだったでしょうか?
短編大賞で勝てる気がしませんww