幻想
月が銀の湖面を揺らす
森の中の開けた場所にある湖
流れくる川もなければ、流れゆく川もない
大きな水溜まりでしかない筈のその湖は、ただの水溜まりにしては澄み切っていた
湖の周りには、背の低い花が湖を囲むように植わっている
その花は、薄桃色の蕾をランプのように輝かせ、湖を仄かに照らしている
澄み切った空気と水を持つこの湖には、森の動物以外の何かがやってくるようだ
夜露に湿った土に蹄の跡が残っていれば、それは噂に聞く一角獣かも知れない
花に銀の粉が掛かっていれば、月の精霊が竪琴を弾きに来たのだろう
満月では明る過ぎ、かと言って新月では暗過ぎる
半月よりも、美しく欠けた三日月が丁度良い
あの湖は、夜になると、花に光を灯す妖精が現れる
妖精は自身が丸く、まるで光の珠が飛んでいるかのように見える
人の手に冒されていない、神聖な湖
あの湖は、今夜も銀の輝きを湛えているのだろうか