第6話「矛盾」
観測によって確定された存在と、観測を回避し未確定のまま維持されている存在が同時に成立している状態において、その両者が同一の空間・時間に干渉した場合に矛盾がどのように処理されるのかを観測する。
決まっている。
決まっていない。
通り。
人が歩く。
確定した流れ。
安定している。
その中に。
未確定の影。
揺れている。
対象の男が見る。
影を観測する。
存在が固まる。
輪郭が出る。
人の形。
その瞬間。
“消える”。
視線の中で。
崩れる。
存在が抜ける。
「……?」
短く止まる。
見えていた。
確定した。
はずなのに。
“成立しない”。
もう一度、見る。
影がある。
だが。
同時にない。
輪郭が出る。
消える。
重なる。
ずれる。
「……両方か」
呟く。
確定している状態。
未確定の状態。
その両方が。
同時に存在する。
別の人間がその場を通る。
影に触れる。
はずなのに。
すり抜ける。
だが。
わずかに肩が揺れる。
当たっている。
当たっていない。
その両方が成立する。
「……何だこれ」
声が出る。
理解できない。
だが。
世界は崩れない。
そのまま進む。
対象の男が一歩近づく。
影へ。
手を伸ばす。
触れる。
感触がある。
同時に。
すり抜ける。
圧がある。
何もない。
両方が重なる。
「……固定できないな」
短く言う。
どちらかに決められない。
確定しようとすれば。
未確定が崩す。
未確定のままにすれば。
確定が引き寄せる。
均衡する。
“決まらない状態”が成立する。
男の視点。
存在が確定された状態と未確定の状態が互いに干渉しながらもどちらかに収束せず、矛盾したまま同時に成立していることを明確に認識している。
「……これもありか」
短く言う。
世界は一つではない。
決まる必要もない。
“決まらないままでもいい”。
一方。
高い位置。
世界を見る。
確定している領域。
未確定の領域。
その間に。
揺れ続ける場所。
どちらにも属さない。
だが。
消えない。
「……止まらないな」
静かに言う。
確定も。
未確定も。
その両方が。
同時に存在する。
「――崩れない」




