第1話「空白」
世界全体が単一の前提で完全に同期した状態を維持している中で、外部からの干渉や内部での変動が一切発生しないことを確認し、これ以上の変化が起きない“静止状態”に到達していると判断する。
揃っている。
だから。
何も起きない。
道。
人が歩いている。
同じ方向。
同じ速度。
同じ順序。
止まらない。
迷わない。
すべてが同じだ。
広場。
人の流れが続く。
途切れない。
変わらない。
「……問題ない」
誰かが言う。
確認ではない。
繰り返しだ。
必要がない。
すでに確定している。
対象の男が歩く。
どこにいても同じだ。
視線を動かす必要もない。
見えるものは変わらない。
「……いい」
短く言う。
それで終わる。
観測する。
ズレはない。
揺れもない。
新しい変化もない。
「……終わってるな」
静かに言う。
侵食は完了した。
崩壊も終わった。
再構築も終わっている。
残っているのは。
“維持”。
それだけだ。
だが。
何も起きない。
変わらない。
増えない。
減らない。
「……空だな」
初めて出る言葉。
必要がない。
だから。
意味がない。
男の視点。
すべてが完全に揃っているため、判断する必要も選択する必要もなく、結果として思考そのものがほとんど発生しない状態にある。
「……何をする」
問いが生まれる。
だが。
答えがない。
世界は完成している。
それ以上がない。
一方。
高い位置。
世界を見下ろす。
完全に揃っている。
乱れがない。
問題もない。
だが。
「……動かないな」
短く言う。
当然だ。
変化がない。
なら。
次は。
「……作るか」
静かに決める。
外からではない。
内から。
この世界に。
新しい“ズレ”を。
「――入れる」




