第5話「衝突前」
共有構造の外にいる個体と直接対面した状態で、干渉も修正も成立しないまま距離だけが詰まり続けていることから、これまでの“侵食”でも“同調”でもない別の接触形態が発生しつつあると判断する。
合わないまま、近づく。
広場。
静かだ。
人はいる。
だが、動かない。
流れが止まっている。
「……何も来ないな」
男が言う。
正しい。
誰も入れない。
「……邪魔だな」
周囲を見る。
構造が遮っている。
「……なら」
踏み込む。
さらに一歩。
距離が縮まる。
“ズレ”が増える。
空間が揺れる。
「……来るな」
補正が入る。
だが。
合わない。
男の位置が固定されない。
「……止まらないな」
近づく。
さらに。
「……あと少し」
手を伸ばす。
今度は止まらない。
“当たらない”。
だが、離れない。
「……ここだ」
位置が合いかける。
その瞬間。
空間が歪む。
強く。
今までで一番。
「……っ」
周囲の人間が同時に動く。
流れが一気に戻る。
強制的に。
「……来たな」
補正。
だが。
遅い。
間に合わない。
「……触れる」
男の指先が。
“触れかける”。
初めて。
完全に。
その瞬間。
止まる。
全てが。
音が消える。
動きが止まる。
時間がずれる。
「……これが」
男が呟く。
「……お前か」
答えない。
だが。
確実に。
「――届いたな」




