悪い魔法使いと少女
「師匠!私に魔法を教えてください!」
「え、嫌だ」
健気な願いは簡単に打ち壊された。
「どうしてですか?私が魔法を使えるようになれば師匠の研究のお手伝いも捗ると思いますよ」
「君が魔法を使えるようになったら復讐をされるかもしれないからね。いいかい?例え犯罪を起こした人間でも人権があるんだ。復讐なんてやってはいけないよ」
この世界はやったもん勝ちである。
命を、財産を、初めてを奪った者に対して、報復することは許されない。
むしろ報復をする者にこそ過剰な制裁を下す。
被害者の保護や救済も一切しない。
世界は今日も平和である。
「師匠のおかげで毎日美味しいご飯が食べられます。お風呂だって入れるし、綺麗な服だって着ることができます。師匠を恨む気持ちなんてこれっぽっちもありません!」
無知ゆえの幸福。
際限なき欲望が人を幸せにすることもあるが、少女は今の生活に満足していた。
「なら充足しているね。身に余る力は自らを滅ぼすだけだよ。うんうん。魔法なんてみんな使えない方が良いのさ」
その皆に師匠は含まれていない。
自分だけが使える唯一性は安心と安全を保証してくれるわけではないが、少なくとも他者から危害を加えられるリスクを減らす。
自己中心的であり、臆病でもあった。
「魔法でご飯を産み出すことができれば辛い思いをしなくて済むと思うんです。どうせ使えずに死ぬなら、使って滅ぶ方が良いと思います」
「魔法はそんなに便利なんものではないよ。食事を作ればその分だけお腹がへる」
「そんな······どうにかならないんですか?」
「そうだね。例えば成長を促進させるとか、たくさん実をつけるとかならできるかな。相性の問題もあるけど、土を食べられるようになるのも一つの手だろう」
魔法使いは簡単に流させた。
これで637回目だ。
少女が少しずつ、確実に知識を増やしていった。
そして、
「師匠!こんな感じですか!」
掌に土を産み出し、それを食べて見せた。
「は?」
それはまごうことなき魔法だった。
「まずい」
師匠は少女を攻撃した。
対象を一瞬で気体にさせる、自分が持ちうる限りで最高の魔法だった。
しかし、
「それの対処法は前に教えてもらいました」
少女は逆の事象を起こすことで何事もなくその場に佇んだ。
その後も熱や変化や質量やら、自分が使えるありとあらゆる魔法を使ったが、全てが簡単に防がれた。
「確かに夜のあれはヤりすぎだったかもしれない。でも、魔法で元に戻せる。多分。だから、大丈夫だ。殺さないでくれ。復讐なんて悪いことだ」
少女は何度も買い出しに行った。
その時に町の光景を見た。
仕事、結婚、子供。
もしかしたら、という妄想くらいはしたことがある。
自分が何をされているかも分かっていた。
飢えない代償としては安いとも思っていた。
「わかりました。殺しません」
「本当か?」
それは安堵ではなかった。
自分が実験に使われる可能性や芸術品にされる可能性が捨てきれない。
助かりたい一心で頭をフル回転させた。
「その代わり、」
今まで聞いていた可愛らしい声は、悪魔の囁きのようだった。
「私に魔法を教えてください!」
〈終〉




