第6話 結婚式とそれぞれの想い──“あなたと作る幸せ”
ホーピーズは、今度は教会で行われる結婚式での演奏を頼まれることになった。依頼主は新郎本人で、どうしても好きな人を喜ばせたいという。
式当日、小さな教会には花が飾られ、親戚や友人たちが集まっている。新婦は奥の部屋で準備中らしく姿が見えないが、新郎は落ち着かない様子で、何度もそわそわと辺りを見回していた。
「俺……ほんとにあの子と釣り合うのかな……。綺麗で頭も良くて……俺みたいなのがいいのか……」
奏は笑顔を向けながら尋ねる。
「でも、好きなんですよね?」
「ああ……好きだ。絶対に幸せにしたいって思ってる。でも、ちゃんと言葉にできるかどうか……」
一方、その様子をやや離れた場所から見ていたテフナは、「大丈夫だよ、きっと上手くいく」と微笑んでいる。博士とナナも控え室へ向かうところだったが、テフナがふと足を止める。
「わ、すごい……」
彼女の視線の先には、この教会の式を取り仕切る若くて整った容姿の神父が立っていた。高い背丈に穏やかな表情が相まって、まるで絵画から抜け出したような姿だ。
「あんな素敵な人が、司式をしてくれるんだね……」
テフナはきらきらと目を輝かせている。
近くでそれを見ていた奏は、なぜか胸がもやっとするのを感じていた。
(……別に、テフナが誰を見惚れようと自由だけどさ。なんでこんなに落ち着かないんだ……)
自分でも理由がはっきりしないまま、スッと視線を逸らす。それでも内心、「あの神父に見惚れてるテフナ」が気になって仕方がなかった。博士はそんな奏の様子を気づかないふりで見守り、ナナは相変わらず無表情のまま教会の奥へ消えていく。
やがて式が始まり、イケメン神父による厳かな進行のもと、新郎新婦が誓いの言葉を交わす。小さな教会ではあるが、温かい雰囲気が満ちていた。
おずおずと指輪を交換し、親戚たちから祝福の拍手が起こる。だが新郎は緊張しきった顔をしていて、声がやや震えている。
「……ここで一曲、演奏させていただきます! 結婚式にふさわしい歌を……」
テフナが軽く息を吸い込み、奏たちは演奏を始める。歌詞のテーマは**“出会った幸せを噛みしめる”**こと。テフナの伸びやかな声が、教会の静謐な空気を優しく震わせていく。
**「あなたと出会えた奇跡に ありがとうを伝えたい
何気ない一日が 宝物に変わるよ
並んだ足跡が 明日へ続いてく
どんなときも 一緒なら
涙は喜びに変わるから
笑い合う声を 重ねてゆこう
ずっと ずっと あなたと歩いていたい
どんな景色も 愛で染めて
今日が私たちの はじまりなんだ」**
穏やかなメロディの中で、新郎と新婦は視線を交わし合う。やがて新郎は震える声をこらえながら言った。
「ずっと……君を幸せにする……!」
それを受け止めた新婦は笑顔でうなずき、二人は涙混じりに微笑み合う。参列者たちは感動の拍手を惜しみなく送り、教会は華やかな祝福の空気に包まれた。
曲を終え、奏たちが控えのスペースへ戻ると、テフナは嬉しそうに息をついている。
「結婚式っていいね……二人の決意が伝わってきたよ。すごく温かい気持ちになった……!」
彼女は先ほどの神父にちらっと視線を向け、「本当に素敵な人だったな……」と小声でつぶやく。
奏は胸がチクリと痛むのを感じて、「……あ、そ、そうだね」とだけ答える。自分でも理解しがたい嫉妬のような感情が渦巻いており、気持ちの整理がつかない。
(なんだよ、神父だからって別に……。……でも、テフナが見惚れるぐらいにはカッコいいのか?)
頭の中が妙にぐるぐるしてしまう。そんな奏の複雑な様子を察したのか、博士がニヤリと微笑んで肩を叩く。
「ま、まあ若い二人の愛を祝福する存在だ。少しくらい魅了されても仕方ないだろう? ハハハ」
茶化す口調に、奏は「うるさいな、博士……」と拗ねたようにそっぽを向く。
ともあれ、式は大成功。新郎は「自分なんかでいいのか?」と悩んでいたが、バンドの演奏が背中を押してくれたのか、堂々と愛を誓うことができた。
そしてテフナはそんな二人を心から祝福し、純粋な瞳で微笑む。奏はその姿に、胸の奥をふっと暖かい風が吹き抜けるような気持ちになった。
(いつか……俺もあんなふうに誰かを幸せにしたい、なんて思う日が来るのかな……)
そう考えたとき、脳裏に浮かんだのはテフナの笑顔だった。だが、同時に“イケメン神父に見惚れる彼女”を思い出して、また心がざわつく。複雑な感情を抱えながらも、奏は静かに息を吐いた。
「……よし、とりあえず今日はこのまま頑張ろう。なんだか、負けてらんない気がする……」
こうして結婚式は和やかに幕を下ろし、街には“音楽が彩った幸せな一日”の噂が広がっていくのだった。