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第1話 異世界へ──音楽がない世界と奇妙な研究所

「……そんなに甘いもんじゃないぞ、才能で食っていくのは……」

 文化祭の前日、父・大生(たいせい)からそう言われた高橋奏(たかはし かなで)は、心に大きな引っかかりを覚えた。

 父は有名なアーティストで、昔から憧れの存在だった。それでも、自分に同じ道を行けるだけの“才能”があるとは思えず、胸の奥に劣等感ばかりが募る。

 (それでも……明日の文化祭で自作の曲を披露すれば、もしかしたら……)

 期待と不安を抱えつつ、奏は夜遅くまでギターの練習を繰り返した。


 ——しかし、迎えた文化祭のステージは散々な結果に終わってしまった。

 緊張で指が震え、せっかく作り上げた曲をまともに弾けなかったのだ。客席からの微妙な空気に居たたまれなくなり、うまく笑えないまま舞台を降りる。

 (やっぱり……俺には無理だったのかな。父さんのようにアーティストになんて……)


 失意のまま校舎裏で休んでいた奏は、大きく息を吐きながら膝を抱えていた。すると、頭上からまぶしい日差しが急に強くなるような感覚が走り、周囲の景色が歪んでいく。

 「な……なんだ……!? うわっ……!」


 視界が真っ白になって意識が遠のき、次の瞬間、まったく見覚えのない荒れ果てた大地に放り出されていた。

 制服のままぼう然と立ち尽くす奏は、スマートフォンを握りしめて辺りを見回す。

 「……ここ……どこだ……? 圏外……」

 草原が広がるだけで、町らしき建物はひとつしか見えない。扉がきしむ音を立てて開き、中から白衣を着た中年の男が顔を出した。


 「おや、珍しい来客だな。……そこに倒れていたが大丈夫か?」

 妙に飄々とした口ぶりの男は、自分をダンダン博士と名乗った。奏は文化祭の失敗で落ち込んでいるというのに、何が起きたのかすらわからず混乱するばかりだ。

 「ここは研究所だよ。ひとまず中へ入りたまえ」


 研究所の中は廃材や金属パーツ、奇妙な機械が転がる混沌とした空間。ダンダン博士は奏の持っていたスマホに興味津々で触れようとするが、圏外のため通信機能は使いものにならない。

 「これはなんだ? 画面が映るようだが……?」

 誤って再生ボタンをタップしてしまい、スピーカーからデジタル音が鳴る。驚いた博士は一瞬固まってしまった。数秒たち、博士の目が見開かれた。

 「なんだ、今の“音”は……! ただの雑音じゃない……心を揺さぶる力を感じる……!」

 奏も驚きながら、「ああ……スマホに入ってる曲で……」と答える。父への憧れから自作曲を作り続けてきたこと、だけど文化祭のステージで大失敗したこと、さらには父との確執もあって自信を持てないことをざっくりと打ち明けた。


 博士は真剣な表情でうなずく。

 「なるほど……。この国は長い戦争で疲弊していて、人を楽しませる娯楽なんてほとんどないんだよ。だが“音楽”には、それを覆すほどの力があるかもしれない。君が今聴かせてくれた音は、私にもそう思わせる何かがあった」

 「……音楽で、人を救えるなんて……」

 失敗の傷が生々しい奏には、にわかに信じがたい話だ。だが博士の熱意は本物のようで、目を輝かせて声を弾ませる。

 「よし、楽器とやらを作ってみようじゃないか! 君の知識も貸してくれ。人を笑顔にできるかもしれないなら、やる価値はある!」


 まさか見知らぬ世界でこんな提案をされるとは思わなかったが、不思議と悪い気はしない。

 (……父さんみたいになれないかもしれないけど、俺にも何かできることがあるかも……)

 そう思った瞬間、文化祭での挫折がほんの少しだけ和らいだような気がした。


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