Glass Prison
パワハラ
そびえ立つ全面ガラス張りのビル。
「一度転落すれば二度と這い上がっては来れない。絶対に仕事を失う訳にはいかない。」
そう自分に言い聞かせて、今日も女達は、自分で自分を監獄に収監する。
薄暗いロッカールーム。冷たい床。無機質な白い壁。女達は何も言わずに、ただ黙って着替える。
全員が、まるで示し合わせていたかの様に純白の何の飾りもない安物のブラジャーとパンティーを着用している。
何人かは、周りの目も気にせず、全裸になっている。
濃い肌色の乳房に満々と股間に蓄えられた陰毛。
女達は白いブラウスを着ると、緑色の裾が膝辺りにあるタイトなスカートを履いた。
両脚はストッキングで覆われている。
ブラウスの首周りに緑色のリボンを締める。
ブラウスの上から、襟が鎖骨辺りにある、窮屈なタイトなベストを身に纏う。
黄色地に緑色のラインのチェック柄のベストが上半身をキツく拘束した。
足に黒い安物のパンプスを履けば、これで「女囚」の出来上がりだ。
女達は、まるで同じ金型と同じ規格で作られた人形の様に、全員が同じ姿をしていた。
「もしかすると、身体の何処かに、みんな、シリアルナンバーが記載されていたりして。」
私は心の中で、そう呟きながら、自分の安物のパンプスをじっと見つめた。
カタカタカタ。
オフィスにはキーボードを叩く音だけがこだまする。
全員が表情の無い顔で、パソコンの画面を見ながら、一心不乱にキーボードを叩き続ける。
私達「女囚」を監視するかの様に、最もオフィスが見渡せる場所に女上司の机がある。
黒いスーツ、ハイヒール、ネックレス。女帝は、高いブランド物を身に纏い、事務椅子という玉座に座り、鋭い眼光で女囚達を監視した。
女帝の威厳と恐怖が、私達を支配していた。
同僚が一人、女帝の前に呼び出された。
その子は、背筋を伸ばし、両脚をしっかりと付けて、両手を後ろで組むと、怯えた表情で俯いて、自分の安物のパンプスを見つめていた。
玉座に座る女帝の切り刻む様な言葉の嵐が彼女の身体を容赦なく叩いた。
「ちょっと、何これ?!間違えてるじゃないの!」
女帝が言う。
「申し訳ありません。直ぐにやり直します。」
彼女は、か弱い小さな声で返した。声が震えていた。
女帝は私達「女囚」全員に聞こえるように切り出した。
「あんた達の作業は、この書類の文字を、一言一句間違えない様に、正確にコンピューターに入力する事でしょ!」
「どうせ、どうでも良い事を考えながらキーボード叩いてたんでしょ?」
「あんた達は、ただ言われた事だけやってればそれで良いのよ!余計な事は考えるな!」
そうよ、そうだわ。私達は人形、機械仕掛けの人形。同じ金型で製造され、同じ制服を身に纏い、同じ安物のパンプスで足を隠す。
自分では行き先を決められない。哀れな人形。
「私のシリアルナンバーは何番?」
私は自分に聞いてみた。
すると女帝は、動かないその子に続けて言った。
「あんた達みたいな、使えない、役に立たない、下っ端のダメOLの代わりなんて、そこら中に、うじゃうじゃいるんだからね!自分の仕事失いたくなければ、死ぬ気でキーボード叩け!」
私は、ハッとした。
ボールペン、ハサミ、セロハンテープ、そうよ、そうだわ。私達は備品、備品なんだわ。
取り換えができる、簡単に買い換えができる、そうよ、備品なんだわ。
消耗品なんて、良い様に使い捨てればいい。無くなったり、壊れたりしたら、発注すれば、事足りる。
惨めな消耗品達は、女帝の前に立たされた子の姿が見えていないかの様に、ただひたすら黙ってキーボードを叩き続けた。
女帝は最終判決を、立っている子に宣告した。
「あんたには躾がいるね。制服脱いで裸になりなさい。」
その子は、はっとして顔を上げた。恐怖に怯えた顔。
「聞こえないの?さっさと脱げ!」
その子は慌てて制服を脱ぎ始めた。ストッキングもパンプスも。あっと言う間に、白いブラジャーとパンティーだけになった。
それから、また背筋を伸ばして、両脚をしっかり付けて、両手を後ろで組んだ。
両目から大量の涙を流し、ひっくひっくとしゃっくりしながら、泣きはじめた。
女帝は彼女の胸を触り、その手を今度は、パンティーにまわした。
「さぞや立派に生えてるんでしょうね?」
女帝の問に彼女は答えず、ひっくひっくと泣いている。すると女帝は。
「生えてるのか、生えてないのか聞いてるんだ!」
女帝の雄叫びに彼女は大きくびくっとなって、震える声で。
「生えてます!」
と答えた。
女帝は手でゆっくりと彼女のパンティーを掴むと、それを引っ張りパンティーの中を覗いた。
彼女の股間には、満々と陰毛が蓄えられていた。
備品達は怯えながらキーボードを叩き続けた。
私は選択した。備品として、或いは、消耗品として、廃棄処分になる方が良いか、女帝の拷問を受ける方が良いか。
惨めな消耗品達は、何も起きていないかの様にキーボードを叩き続けた。
あの子は、ひっくひっくと泣き続けた。
お疲れ様でした。