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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第五章 魔物襲来
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第88話:六日目の開戦

 黒猫は夢を見る。

 朝、主の布団で目覚める一幕を。


『んー……、ん? ああ、ノアか……おはよー……』


 そんな主の寝ぼけた声に鳴き声でしか反応できない自分だったが、気だるそうにしながらも自分の頭を優しく撫でてくれるユーリが、大切だった。

 カミサマというのは本当に気まぐれで、自分の従者という概念すら簡単に世界に突き堕とす。

 ノアがカミサマの従者だという存在であるということも、ユーリに拾われたその瞬間に記憶が捏造されたのかもしれないし、カミサマという概念を知るノアだからこそ自分と言う存在が曖昧になってしまう。

 本当は自分と言うのは存在しないのではないだろうか。例えば目に見えるものはそう見えるように情報化されたスクリーンで、触れるもの全ては触覚にただそう電気信号を送っているだけのもので、聴覚だって味覚だって嗅覚だって、もしかしたら第六感だって、そう感じるように脳に情報が送られているだけなのではないだろうか。

 現代人がそれを聞いたら、なに馬鹿なことを、なんて言うのかも知れない。

 しかし、ノアはそれを可能にする存在を知っているがために、より自分の存在に懐疑的になってしまう。

 例えばカミサマのオーダーで異世界に行けと言われた時も、本能的な部分でそうしなければならないと言う一種の強迫観念はあったのだが、その理由までは分からないのだ。

 簡単な理由ならある。もちろん魔王を倒すためだ。……しかしなぜ魔王を倒さないといけないのか。この世界が魔物に侵食されたところで元の世界に異変など起きないはずだし、もしこの世界が魔物に支配されるとして、そこでなぜ食い止めなければならないのか。

 ユーリには得意げに話しはしたが、本当の核のところはノアですら理解できていないのだ。

 かといって自分自身が疑問に思っていることをユーリに悟られると、いらない心配と疑問を抱かせてしまう。

 如何ともしがたいなー、と嘆くノアであった。


『んー、起きるかねー』


 夢の中でユーリは布団を押し上げ、ベッドに胡坐をかきながら両手を上げて背伸びをする。それにつられてノアも伸びをぐーっとしてみた。

 それを見たユーリが少し微笑んで、ノアも少し幸せな気分に浸る。


『さて、朝ごはんにするか』


 にゃー。

 応える自分の口は、鳴き声しか発しない。

 それでもいいか、と思った。存在の不安定さより、存在の意味をくれたユーリと共に在れるなら、それでいいと。



 暗転。



『ユーリぃ!』


 目の前が真っ暗になった。

 その中で、なぜか紅いモノを散らせながら倒れるユーリの姿だけが鮮明に映っていた。

 ……自分のせいだ。

 自分がこんなところに連れてきてしまったから。

 ノアの頭の中はユーリが倒れてからそのことばかりが渦巻いていた。

 ―――悪夢じゃな。

 ノアは夢の中で自意識を確認したうえで、そう評価を下した。



◆◇◆◇◆◇◆



「んむ……」


 もう昼も過ぎようかという頃、ノアは一人目覚めた。


「あ、ノアさんおはようございます」

「おはよう……」


 まだ少し寝ぼけているのか、アンネの声に反応はしたものの理解しているかは微妙なところである。

 ノアがこんな時間に起きたのには理由があり、それはやはり夜間警戒のためずっと起きていたからである。夜中ずっと起きていて、リナリアたちが起きてから寝ることにしていたのだ。ちなみに夜番のお供は何人かの教師である。彼らはノアとはまた別の場所で警戒についており、交代制で休憩を回してる。

 しかし、とノアは自分の思考に区切りをつけた。


「懐かしい夢を見たのぅ……」


 ノアはむくりと上体を起し、胡坐をかいた。そしてその横にアンネが座る。

 後半に関しては悪夢といって差し支えなかったが、前半は幸せな夢だ。なにか良い事があるのかもしれない。


「後半は忘れることにしようかの……」

「夢見が悪かったんですか?」

「いや、半々じゃの。それよりも変わったことはなかったか?」


 ノアの声にアンネは首を横に振ることで応えた。


「そうか……じゃが、そろそろじゃろうて」

「そうですね、もう迎撃準備はだいたい終わってます。学園の各所に魔石を置いて、それを魔方陣に見立てて魔力効果を底上げしています。その効果も簡単にではありますが、確認しました。そして結界魔法のほうですが、破壊されたものを学園長が辛うじて修復に成功しましたので、それを使用します。……今までは緊急用のものを使ってましたからね、あれは効率が悪いですし」

「………」


 アンネは参謀にでもなるつもりなのだろうか。王女なのに。まぁ王女だからこそのこの情報の集まりようなんだろうけど。

 あと学園長いたのか。

 そんなことをノアは表情を変えずに考える。


「ですがリナリアさんとレイさんがいないんですけど、どこへ行ったんでしょう……?」

「ああ……それならば心配はない」

「と言いますと?」


 随分と小気味いい返しをするものだと、少し笑みが漏れる。


「あやつらは別行動をしておる。迎撃に間に合うかは微妙じゃが……ま、期待はしないほうがよいじゃろうな」

「そうですか……でもあの二人は戦力的には重要だったんじゃないですか?」

「だからこそ、じゃよ」


 ノアは立ち上がり、ぐっと伸びをした。その細くしなやかな体に一瞬魅入ってしまったアンネは、若干頬を染めつつ同じように立ち上がった。


「アンネ、この戦いは篭城戦じゃろ?」

「うーん、そう言われればそうですね」

「篭城戦とは基本的に、攻める側が守る側より三倍の兵力を持たないといけないとされる。そして今回に関して言えば、敵兵力およそ一万。こちらは生徒もあわせるとおよそ八千人ほどいる。もちろん全てが戦いに参加できるわけではないじゃろうが、それは相手も同じじゃ」

「なるほど……」

「更に言えば、おそらく周辺各国も魔物退治にのりだしておるじゃろう。ラルム王とか特に、の」


 ノアがちらりと隣を見ると、苦笑しつつもちょっと嬉しそうなアンネの顔があった。


「じゃから、わらわたちがここですべき一番のことは、時間稼ぎなのじゃよ」

「はぁ……、では逆にリナリアさんとレイさんはどこへ行ったのですか?」


 アンネが不安そうな顔で訊ねる。それはそうだろう。兵力は三倍必要だー、なんていっても戦力差があることは事実。そこに最大戦力の一人であるあの二人を別行動にさせる、というのはやはり不安が残る。

 そしてそれは、最大戦力である二人を動員しなければならない何かがあるのだと、そういうことを示唆しているのだ。不安にならないわけがない。

 それを聞いて、ノアは少し顔を曇らせた。


「それは……まだ言えぬ。特にお主には、な」


 その言葉はアンネを、地に足が付いていないような、得も知れぬ不安感を抱かせるには十分だった。


「まぁ、何もなければ恩の字。何かあってもあの二人なら……そんなところじゃ」

「そう、ですか……」


 アンネは理解はしたが納得はいっていなかった。しかし、ノアの言葉は無償とまではいかなくても信頼に値するものだったし、それが自分のためを思って言わないと決めたのであろうことは理解できている。でもやっぱり納得はいかないし、別行動の理由も知りたい。

 そんな葛藤を見抜いたかのように、ノアは優しい声色で語りかけた。


「大丈夫じゃよ。いずれにせよ後々話すわい。何事もなければ世間話として、何事かあれば、それは必要に駆られてじゃが」

「……分かりました。その話は世間話で紅茶でも飲みながら聞きたいものですね」

「そうじゃな。わらわもそう願っておる」


 起き抜けに長々と話してしまって軽く疲れたノアは、小さく息をついた。その息に、小さな願いを込めて。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 その日も一日、平和とは言えないまでも、何もなく過ぎていった。六日目ともなると中にいる人間もそれなりに慣れてきて、睡眠もそれなりにそれるようになってきた。それでも今の状況で安心など出来はしないのだが。

 でも、だからこそ気を抜いてしまう。それはいいことでもあるのだが、悪い状況に繋がる可能性も大いにある。それが、今だった。


「今日もなにもなかったなー」


 学園の外で兵士が一緒に監視に来ていた相棒に声をかける。

 時刻は夕方。いわゆる黄昏時、というやつだ。

 黄昏とは元来、誰そ彼たそがれと言う。相手が見えにくくなり、貴方は誰ですか、と訊ねてしまう時間帯だ。そして訊ねた相手は果たして人間か否か。それゆえ逢魔時おうまがときとも呼ばれ、また、大禍時おおまがときとも呼ばれる。

 つまりこの時間帯は魔が活性化する時間帯、なのである。それはこの世界でも同様であった。

 しかしそれを、男二人は、知らない。


「そうだな。だが油断は禁物だ。いつ攻撃が始まるのかも分からんのだからな」

「そりゃまぁそうなんだけどさ。このまま王国兵が来てくれんじゃねぇかと思えてきた」

「……まぁそれが一番安全ではあるがな。そうなってくれればありがたいんだが」

「やっぱそう思う?」


 男は少し笑いながら隣の男に話しかけており、その男も仕方ない奴だなぁと言う顔をして、視線を合わせて会話していた。

 ……そう、このとき彼らは、魔物の方を見ていなかった・・・・・・・のだ。


「しっかし魔物もやるならさっさと―――」


 パンッ


 そんな軽快な音と共に、男の言葉が断ち切られた。


「え、」


 言いかけたもう一人の男には、雨が降り出した。

 紅く、暖かい雨が。


「う、あ………」


 男は無意識に手を伸ばす。先ほどまで隣の男の、顔があった場所・・・・・・・へ。


 しかし、不意に思い出したかのように、隣の男は膝を崩し、体を地に倒れさせた。

 瞬間、男の感情が爆発した。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ……倒れた男には、肩から上がなくなっていた。それも、木っ端微塵にされて、だ。飛び散った血や残骸の中にも骨だとか頭の中にあったであろうモノは見つけることは出来ず、文字通り微塵にされていた。

 しかしそこまで思いつかない男は、叫びながら狂ったように男の頭を探す。


「どうした!? うッ……!」


 叫び声に駆けつけた他の兵士たちが、その惨状に口を抑える。

 そしてその兵士たちの中の一人が正気を取り戻し、腰につけていた野球ボールほどの大きさの白い球を外し、それに魔力を通してから身体強化でもってそれを空高く打ち上げる。

 そして、空高く打ち上げられたそれは、バァン!と大きな音を立てて弾け、周囲に光を撒き散らす。




 それこそが、開戦の合図、であった。


 まずは、すいませんでした。

 年末は忙しく、またスランプになったり病気になったりと、どうしても指がうごきませんでした。お待たせした読者の方々には深くお詫びと、そして待っていただいたことに感謝の言葉を言わせてください。

 すいませんでした。そして、ありがとうございます。


 さて、88話です。ようやっと開戦です。いろいろ裏で動き始めて、私自身どこにその話を嵌め込もうかと、難しいパズルゲームをしている感覚です。ですが、色々あった先には、幼稚な考えだと言われても、みんなが幸せな未来を創っていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 実際みんな幸せなんてありえません。でも、やっぱりそれは願っていかなければならないものだと思います。だから、せめて、幻想の中でくらい、ね。


 あと、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。


 それと、今日誕生日だったりします。また一歩死に近づきましたねッ。


 それでは皆様お体にお気をつけて。

 ではでは。

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