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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第五章 魔物襲来
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第86話:四日目の危局

 ◆クレスミスト城◆


「………」


 クレスミスト城の自室としてあてがわれた一室のベッドの上。そこで重たい目を開けたのは、レイだった。


「………はぁ」


 そして開口一番、深く重いため息をつく。不景気この上ない。

 レイは精神的に重い体をどうにか起こした。……起こそうとした。


「なん、だ?」


 まだ若干眠気の残る頭で考える。なぜか起き上がれないこの現状を。

 つまり、だ。この腰あたりに何か巻き付いているようなこの感覚、これが原因だろう。

 そう考えたレイが掛け布団を剥がしたのは当たり前の行為だった。


「………」

「おはようございます、レイ様」


 しかし、その瞬間レイの思考は凍りつく。


「よく眠れましたか?」

「……そうだね。君がいなければもっとよく眠れたと思うよ」


 レイは完全に無気力な心境でその言葉を口にした。


「―――メラスフェルラ」


 そう言うと、メラスフェルラはその可憐な顔にほんわかとした笑みを浮かべた。



 ◆十分後◆


「レイさん、本当に何もなかったんですよね」

「ああ、もちろんだとも。というか僕はいつ彼女が僕の部屋に入ってきたかも分からないんだ。そっちのほうが気になるよ」


 現在食堂にて尋問を受けているのは、レイである。そして尋問官にアンネ。それと、事の発端であるメラスフェルラがこの場にいた。


「メラスフェルラ皇女殿下、何もしてないですよね?」

「そうねぇ、やったことと言えばベッドに潜り込んで一緒に眠ったことくらいでしょうか。いつの間にか抱きついてしまっていましたけどね。うふふ」


 メラスフェルラはなんとも嬉しそうに笑う。

 とりあえず、アンネは深いため息をつくことにした。


「ところでメラスフェルラ」

「あら? 口調が砕けていますわね」

「駄目かい?」

「あらあら、そんなことはありませんわよ。むしろ距離が縮まったようで嬉しいですわ」

「じゃあこのまま続けさせてもらうよ」


 淡々と話すレイに対し、嬉々とした様子を隠そうともしないメラスフェルラ。なんかもう結構面倒くさくなってきたアンネは、この二人はお似合いだろうと思うことにした。

 いくら忍耐強いアンネでも、こう立て続けにやられると自棄になるのも仕方ないことなのだった。


「それで、どうやって入ってきたのかな?」

「鍵がかかってませんでしたわよ?」

「………」


 第一の疑問、解消。


「って、レイさん?」

「よし分かったこの件については完全に僕の不注意だからごめんなさいってかまずその冷気を抑えてくれるとありがたいですすいません!!」


 ちょっとアンネの足元に霜が降りているのを見て、レイは冷や汗を必死に隠しながらアンネを説得した。おそらく隠しきれてはいなかったであろうが。


「これからは気をつけてくださいね?」

「う、うん。分かったよ」


 徐々に収まりつつある冷気にホッと胸を撫で下ろすレイだった。


「えっと、じゃあなんで僕に気付かれずにベッドに進入できたか、なんだけど」

「ええと、というか、私が入ったときにレイ様はおられませんでしたわよ?」

「……ん?」


 どういうことだ?

 というか、もしかして何か前提を間違えているのか?


「メラスフェルラ、最初から説明してくれない?」

「はい、承りましたわ。私がレイ様のお部屋に足を運んだのは、日の出まであと少しといったところでしょうか。すると部屋の鍵は開いており、そこにレイ様はいませんでした。これは好機と思いベッドに入り込んだところ、レイ様がお帰りになられ、ベッドに入ってすぐ就寝なされた、ということですわ」


 ふむ、まとめよう。


「つまりレイさんがお手洗いに起きて部屋を出た際にメラスフェルラ皇女殿下侵入。のちレイさんが帰ってきてベッドイン。これでいいですね?」

「ベッドインって言葉に棘しか見えないけどそれで合ってるよ」


 なんだそういうことか、とレイは背もたれに体を預け、天井を仰ぎ見た。

 ぶっちゃけると、先ほどのアンネの推察は若干間違いである。レイはお手洗いに起きていたのではなく、……ラルム王と対談していたのだ。

 その内容はたいして大きなものではない。龍人としてこの戦争にどう関わるのか、どこに味方するのか、レイから見た戦況の変化、そしてユーリの状態。今までの報告をそこで行っていたのだった。

 別に隠すことでもないのだが、多少内緒にしたい内容も含まれているため、いっそそれならということで対談自体なかったことにされたのだ。


(どこに味方するのか、か……)


 ラルム王に訊ねられた内容で、一番答えに困った質問だ。

 レイは龍人族。最強種とまで呼ばれた種族だ。その名前は恐怖よりも先に畏怖の念を抱かせるほど。しかも、レイはそのさらに頂点の龍王の息子にして、次期龍王の座が確定している身である。

 ここまで言えば分かるだろう。

 “どこに味方するのか”

 この質問の答えの重さを。それによって、世界情勢は一変してしまう。


 ………しかし、それが分かっていて、それでも“あんな”答えを返した自分に苦笑が漏れる。


(それでも、まぁ………)


 全ては神のみぞ知る、ってことなのかな。

 そこまで考えて、レイは思考を放棄した。


「ところでレイさん」

「ん?」


 丁度いいタイミングで、アンネが思いついたように声をあげた。


「どうしたの?」

「いえ、今日お城を見て回ってからリナリアさんと一緒にドレブナイズに飛ぶんですよね?」

「そうだね。リナリアがそうしたいらしいから。それがどうかしたの?」

「いえ、私も一緒に行っていいですか?」


 ……正直なところ、この提案は予想していたので驚くことはなかった。


「別にいいけどラルム王とフィーネリア王妃には話した?」

「ええ、もちろんです。ちゃんと許可もらっていますよ」

「んじゃあいいよ」


 そして予想通りの答えに、レイは快く頷いた。


「ちなみにいつ頃発つんですか?」

「うーん……城もそうだけど、街の様子もちょっと見たいんだよねぇ。夕方頃になっても構わない?」


 アンネは少し考えてから、首肯した。


「大丈夫です。ドレブナイズで一泊くらいしても問題はないと思いますし」

「了解。んじゃその間の護衛は僕が引き受けるよ」

「よろしくお願いしますね」


 アンネはやはり要人なので、危機回避の意味もそうだが、威嚇的な意味でも護衛は必要なのである。

 なんとも自由の少ない身だな、とレイは思う。レイも一応要人ではあるのだが、すでに一般常識として存在が脅威であるし、長い時を生きる種族なだけあって彼の国には結構放任主義的なところがある。

 そういう意味ではレイのほうが自由に動けるのだろう。現に今も正確には旅の途中である。


「さて、それじゃあちょっとばかりお暇させていただくよ」

「あれ? 朝食はいいんですか?」

「どうせだから街で食べようかと思ってね」

「そうですか。いってらっしゃい」

「いってきまーす」


 そうしてレイは送り出され、その後レイの後を追おうとしたメラスフェルラをアンネが必死に抑える様子が食堂で見られた。






 そして忙しい時間は刹那に瞬き、太陽はもう傾き始めた。

 その間レイは城下と城内を回り、アンネやメラスフェルラたち王族皇族は周辺地域の状況整理等の緊急事態対策を。リナリアは中庭で自主訓練を行っていた。


「さて」


 と、レイは一声あげる。


「それじゃあ行こうか?」

「うん」

「はい」


 レイは中庭に集まったリナリアとアンネに声をかける。


「ねぇ、アンネルベルちゃん。私も行っては駄目?」

「駄目に決まってるでしょう!」


 メラスフェルラの言葉にアンネが声を荒げる。


「そもそもメラスフェルラ皇女がクレスミスト王国のしかも城内にいること事態が異常事態なのに、これで城から出て怪我でもされたら戦争にもなりかねませんよ!?」

「ううん、やっぱりそうですわよねぇ……」

「そうです! だからメラスフェルラ皇女殿下はリンディア帝国から迎えが来るか、この一件が解決するまでここにいてください! 早い話が軟禁です!!」


 いろいろぶっちゃけたアンネだった。


「それなら仕方ないですわね」


(軟禁って言われといて仕方ないで済ますんだ……)


 レイとリナリアの共通の心境であった。

 実際はメラスフェルラも理解はしているのだ。この状況下で動くことの危険性、そしてこの状況で動いてしまった自分の落ち度を。

 だからといって納得は出来ないのが乙女心、とでも言うのだろうか。


「………レイ、さま」

「ん?」


 メラスフェルラは無意識にレイの名を口にしていた。


「ッ! あ、えと、あの……」

「どうかしたの?」


 レイはメラスフェルラを不思議そうな目で見ていた。

 一方メラスフェルラは意図せず口に出してしまった言葉だったので、焦って言葉にすることが出来ない。しかしそれでもレイは急かすこともなく、自然体で次の言葉を待っていた。

 そして彼女はうつむき、普段の微笑を消して、小さく呟くように言葉を口にした。


「……無事に、帰ってきて下さいね」


 その言葉に、レイは少し意外性を感じた。

 メラスフェルラとは昨日会ったばかりだし、もちろんそんなに内面を知る由もない。しかしレイは、メラスフェルラはいつも笑っているようなイメージだったのだ。


「………」


 ふむ、とレイは思考する。

 えらく心配されているようだ。


「ま、大丈夫だよ」


 そしてレイは何も気負うことなく、そして何も気付かずに(・・・・・・・)、頭ひとつ分くらい低いメラスフェルラの頭に片手を乗せた。


「え……?」

「そうだねぇ、一応僕にも奥の手ってやつはあるし、こんなこともあろうかとって手もある。それにたかが魔物程度に遅れをとるようじゃあ龍人族なんて名乗れないよ」

「………」

「それに、ねぇ……」


 レイはその頭に置いた手で、メラスフェルラの頭をグリグリ撫でる。


「女の子がそんなことお願いするのは反則だよ」

「え?」

「だって、そうしたら意地でも守らなきゃならないでしょ、男としては」

「………」


 レイはある意味、とどめを刺した。


「んじゃ、行ってきます」


 そう言うとレイは頭から手を離し、身を翻した。充分離れたところで龍化し、レイはリナリアとアンネに声をかける。


「さて、それじゃあ行くよ」

「………うん」

「………はい」


 なにやら緩慢な動きでレイの背中に乗った二人を確認すると、レイはすぐさま空へ飛び立った。


(リナリアとアンネルベルが嫌に冷たい視線だったけどなんでなんだ……ッ! これは触れないほうがいい気がするッ!)


 レイはドレブナイズに向かいながらも、変な汗をかいていた。レイもレイで天然なのかもしれない。


 ……そして。


「レ、レイ、様ぁ……」

「メラスフェルラ皇女殿下!? 誰か! 衛生兵! 衛生兵ー!!」


 顔を真っ赤にしてぶっ倒れた皇女様がいたが、飛び立った三人がそれを知ることはなかった。


 

 ◆ドレブナイズ◆


 ドレブナイズに着くとリナリアとアンネの二人をユーリの眠る医務室に送り届け、すぐに出て行った。どこへ行くのかと訊けば、以前再会した龍人族のグローとアルと、今後について話し合うとのことだ。

 そして久しぶりにユーリに会ったアンネの一言目がこれである。


「はぁ……、だから言ったじゃないですか。ユーリさんがやる気を出したら大災害が起こるって」


 アンネはユーリの顔にかかった髪を優しくどけながら、呟くように言った。


「そんなことあったの?」

「ええ。それもマルス祭に参加することが決まったその日の、学園でですね」


 アンネはユーリの眠るベッドの隣にある椅子に座りながら、リナリアに応えた。


「ホント、ちょうどユーリさんが学園を出発する日でしたっけ、あれは」


 アンネは懐古するように目を閉じた。

 あの時は優勝を期待していいとか言っていたくせに、いつまで寝てるんですか。アンネは心の中で悪態をつきつつも、その実表情はとても優しい。

 不安じゃないと言えば、それは嘘になる。アンネは無意識に左腕の三つのリングに手を触れていた。

 とは言ってもそれも仕方のないことだ。アンネはこれからのことを考える。

 学園には防御魔法があるし、城とドレブナイスにはつわものが多くいる。問題なのは周囲の町だが、なぜか魔物が学園に集中し始めているので、なんとか道中の安全を確保しつつ避難誘導が可能となってきている。

 同じ理由で他国も問題ない。

 あるとすれば、やはり学園だろうか。先ほどの通り魔物が集まってきているし、王族貴族がわんさかいる学園だ。それなりの戦力はもちろん有しているが、さすがに城と同じくらいとまでは到底いかない。

 それに、学園と言うのは戦士を育てるところではなく、純粋に勉学と魔法の使い方を学ぶ場所なのだ。生徒は基本的に戦力にならない。

 あるとすれば護衛の人たち。そして……仲間たち。


「リナリアさん」

「ん?」

「ノアさんと連絡取れます?」

「あ、うん。ちょっと待ってね」


 リナリアは軽く目を閉じ、集中する。

 アンネが気になったのは学園に残っている貴族たちのこと。そろそろ爆発してもいい頃だと思ったのだ。実際にはすでに爆発しているのだが、アンネはそんなこと知る由もない。ただ、もしそうであればなにか対策を打ちたいな、とそう思ったわけである。

 しかし、意外なことが起きた。


「あれ?」

「どうかしました?」


 リナリアが不意に目を開ける。


「んー?」

「いや、どうしたんですか?」


 何か考え込んでいたリナリアはアンネに困惑顔を向けながら、こう言った。


「師匠と連絡つかないんだけど……」


 念話、というのは、距離に関係なく、互いを繋ぐパーソナルパスのようなもので連絡を取る手段だ。そこに如何なる遮蔽物も意味を成さない。

 もし遮蔽物と成りうるものがあるとすれば、それは……。


「もしかして、瘴気……?」


 リナリアは小さく声を漏らした。

 念話も結局のところ、魔法である。ならばそれと相性の悪い瘴気というものが壁としてあったらどうだ?


「確かに理論的には、可能性はあります。でも、それだと……」

「……それが本当なら、もしかしてかなりやばいのかもしれない」


 そう、瘴気があれば魔法を妨害することが出来る。しかし問題なのは、……それが“壁”と呼べるほどに厚みを持っているかもしれない、という点だ。


 ―――嫌な予感。


 二人は顔を見合わせた。

 そして嫌な予感と言うものは、えてしてよく当たるものである。


『ドレブナイズの戦士たちよ聞こえるか!!』


 突然、ドレブナイズ全体に大音量で響き渡る声があった。

 リナリアとアンネは弾かれた様に同時に顔を上に上向ける。


『わらわはユーリの使い魔、ノアじゃ! そしてよく聞け!!』




『―――学園の防御結界が突破された!!』




 その言葉で驚愕の表情を見せるリナリアの隣で、彼女は静かにこぶしを握りこんだ。

( ゜д゜)


(つд⊂)ゴシゴシ


(;゜д゜)


(つд⊂)ゴシゴシ

  _, ._

(;゜ Д゜) …?!


(つд⊂)ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ


(  д )


(; Д ) !!




 どうも、芍薬牡丹です。


 さあ、いいでしょうか。前回私があとがきで言った事を。現在各評価が900ptくらいだって。

 今1000pt余裕で越えてんですけど。お気に入り登録が200人以上増えて2000人突破したんですけど! 総合評価が6000pt越えたんですけどぉぉぉぉぉおおおおおおお!? てか現状6321ptなのですがね!!


 ついでに言えば現在も日間と週間ランキング100位以内に猫神の名前アリです。さすがに月間は無理ですけど。

 ここまで投稿してからの、いきなりのこの伸び率は一体……?


 というわけで、ここまでの全部通してで申し訳ないんですけども、ありがとうございます!!

 この話でついに文字数30万とも相成りまして、やっとという気持ちもあり、まだまだだなという気持ちもあります。

 これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


 長くなりました。ここまで見てくれてありがとう!


 それでは!

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