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猫神ランドループ  作者: 黒色猫@芍薬牡丹
第五章 魔物襲来
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第81話:そして事態は動き出す

 ◆フォレスティン学園上空◆


「むぅ……、これは予想以上じゃの……」


 ノアは龍化したレイの背の上から学園を見下ろし、唸り声を上げた。


 ドレブナイスで学園強襲の件を知ったノアたちは、一旦二手に分かれることにした。ユーリは下手に動かすと、正直返って邪魔なのでドレブナイスに放置。ノアとレイは学園へ行き、リナリアとアンネはクレスミスト城へ帰ることとなった。

 理由としてはいくつかあるが、特にこの二つ。

 第一に、学園は何も魔物と戦い、迎え撃つ必要はない、ということだ。学園は王国の庇護の下にあるので、反撃はクレスミスト王国や、周りの諸各国が行う。なにせ、各国の貴族が多く通う学園であるからそれは当然のことだ。つまり、戦力はそれほど必要としていない。

 第二、にリナリアが城に向かう理由だが、これは念話の必要性からだ。念話というのは魔法理論的にいうと無属性魔法にあたる。風系統において言葉を伝える伝達魔法はあるが、念話は距離という概念を置き去りにして話すことができるのだ。しかし相手の魔力を判別して直接言葉を伝えるためよく知った相手でないと使えないし、そもそも消費魔力が半端じゃない。

 その点ノアとリナリアはよく知る仲であるし、理力の保有者である。リナリアはあまり理力は持っていないが、魔力換算ではそれなりのものを持っている。

 ちなみにだが、王国総軍軍隊長バイマーや近衛騎士団副団長サンローズも、城へ戻ることになっている。


「ドレブナイズは大丈夫なの?」


 そう訊ねたのはリナリアだった。


「まぁここはもともとレベルの高いやつしかおらんじゃろうからのぅ。なにせ、さっきまでマルス祭をやっておったのじゃから」

「あー、確かに」


 リナリアは少し思案したが、すぐに元の表情に戻った。私より強い人がここにはいるだろうし、私が心配するのは筋違いよね。そう思ったのだ。

 どうでもいいが、リナリアに応援されたら元気百倍になる輩がこの町にはたくさんいるのだが、今は置いておく。


「……ご主人様と離れるのは嫌だけど……うん、仕方ないよね」

「連れて行くにしても体の負担が大きいじゃろうし、ここで休むのが一番じゃろうて」


 なんにしても、王城の防備が甘い。なにせ、国の重要人物がマルス祭とフォレスティン学園に集まっているのだ。早急に何とかせねば。


「さっそくじゃがレイ、わらわと学園まで行ってくれぬか?」

「それは願ってもないことだよ」


 レイは一瞬ののち、巨大な白龍になった。


「すまぬな」


 そういってノアはレイの背に乗り、すぐさま学園に向かった。


「あ、ノアさん……」


 そう小さくつぶやいたアンネの声に、ノアが気付くことはなかった。

 しかしすぐ横にいたリナリアにはそれが聞こえたようで、疑問の声を上げた。


「どうしたの?」

「あ、いえ、なんでもないです」


 そう言ってアンネは曖昧に笑みをこぼした。

 その右手で三つの腕輪を触りながら。


 そんなことがあって学園上空。ノアは困っていた。


「のう、レイ」

「なに?」

「どうやって入ろうぞ」

「……うーん」


 なんでこんなに困っているのかというと、……まぁ魔物だ。

 確かに魔物は多い。学園をぐるりと一周囲んでいるし、離れたところには飛龍も多数待機している。


「というかレイ。お仲間がいるではないか」

「飛龍のこと? ……まぁどこにでも悪い面はあるということかな。あれは魔物に堕ちた龍だね。特徴としては、目が深紅に輝いているってこと」

「ふむ、そして問題はというと、」

「学園に防御魔法がかけられていて、外からは入れないようになってるってことかなぁ」

「さらに言えば一瞬も魔法を解除できない状況じゃな」


 そう、学園は今、かなり強固な防御魔法で固められている。だからこそ魔物の大群の強襲に耐えられているのだが。


「……転移しかないじゃろうな」

「……たぶんだけど、そういう魔力の反応も防御してるように見えるんだけど」


 レイは本気で困った声で呟く。

 当たり前だが、この防御魔法、ガチである。


「ということは、座標指定型の転移か……骨が折れるのぅ」


 転移といえば、普通は行きたい場所に魔力のパスを繋げ、そこに飛び込むイメージである。しかし一方でノアが発動しようとしてるのは、その上位互換、座標指定での転移である。


「……なにそれ」


 しかしながら、魔法についてそこまで詳しく研究することのない彼らにとっては座標指定などという難しいことは理解の外であるし、なにより転移魔法を使わない。なので、いくらレイでも分からないことであった。

 ノアはなんでもないと答えながら、考える。ぶっちゃけユーリはこの転移しかしたことがない。知らない、というのもたまにはひとつの武器となる。


「じゃがぶっちゃけた話、わらわでは一人しか転移できぬ」

「ふむ、それなら仕方ないね。僕はドレブナイズかクレスミスト城にいることにするよ」

「そうじゃの。その前に、お主ともパスを繋げておくかの」

「え? パス?」


 ノアが言っているのは、念話をする際のパスである。

 結構むりくり繋ぐので、あまり推奨はできないが。


「ではゆくぞ」

「え、ちょっと待―――」

「せいやぁ!!」

「げふぁッ!?」


 ……無理矢理なのだ。



 ◆フォレスティン学園内部◆


 マルス祭でリナリアとレイの決着が着いたその時、すでに学園は魔物に襲われていた。


「門を閉めろ! 防備を固めるんだ!!」


 学園の衛士が指示を出し、それに応えて走り出す他の者たち。

 ここは学園であるため、兵士はほとんどいない。その数およそ千。それに引き替え、襲い掛かる魔物の数は、ぱっとみだけでも五千は堅いだろう。

 ……守りに徹しても守りきれるかどうか。


 そんな中、学園の生徒は学園の中央付近にある大講堂に集められていた。


「セラフィムさん、大丈夫ですの?」

「はい、大丈夫です。ティアリスさんこそ大丈夫ですか? 気分が優れないようでしたら早めに言って下さいね」

「あら、病み上がりのセラフィムさんに言われてはおしまいですわね。でも私も問題ありませんわ。ご心配ありがとうございます」


 そう言って、二人は笑い合った。


 ―――学園が襲われたのはおよそ四半刻程前。その時セラフィム・クレスミストとティアリス・リンディアは室内で神霊魔法について学んでいた。なぜかと言うと、セラは熾天使セラフィムの加護を受け、ティアは神獣ペガサスを使い魔にしていたからだ。

 フォレスティン学園では好きな科目を履修し、必要単位を取れば卒業出来るシステムなので、神様関係に縁のできた彼女らが神霊魔法に手を出すのは、むしろ当然のことと言えた。

 そしてその時、学園をぐるりと一周囲む塀の上を巡回していた衛士は、地平線に奇妙なものを見付けた。なんと表現すればいいか……あえて言うならば蚊の大群。それが見えた。

 衛士も最初は何か分からなかったが、それが少しずつ近づくに連れ、その顔は強張っていった。

 そしてそれは何であるかが目視確認した瞬間、衛士は精霊魔法の上位である《伝達》をもって学園全体へこう言い放った。


 ―――学園南南東より魔物の進撃を確認! ただちに防御魔法の施行及び各所へ連絡されたし!


 これにより、学園始まって以来の危機が、始まった。


 そんな中、顔を青くしつつも集まりつつある生徒をチラリと見て、ティアは言った。


「まぁ生徒が集まるのはいいとして、ローレル、貴方は守りに行かなくても良いのかしら?」

「なんでオレが。そもそもオレはお前の護衛だ。こんな事態に離れるわけにはいかんだろ」


 そう言いながらも外に注意を払うのは、ローレル・リンディアその人だった。

 ローレルはユーリ達より先に学園へ帰っていたので、この事態に遭遇することが出来た。だからティアもセラも、安全且つ素早く大講堂に避難できた節がある。

 ……わりとふざけた言動の目立つローレルだが、リンディア帝国第二皇女護衛の名は伊達ではない。学園に入る前から学園で働く人々の身辺調査を行い、学園の通路という通路を網羅し、学園に入ってからはすぐに避難経路を確認し、周囲の安全を確保し尽くしていた。

 だからこそ逆に、安全であると確定している時はティアのそばを離れているわけだが。……実はこれも、あまり引っ付かれ過ぎるとティアが疲れるだろうという配慮の元の行動なのだが、ティアが気付いているかどうかは謎である。


「まぁ学園の結界が抜かれることはないと思うけどな」

「あら、それは何故?」

「ここは王族貴族の通う学園だ。塀の外にも中にも、幾重にも防御魔法が重ね掛けされてる。オレ自身確認したが、ありゃあ見事なもんだったぜ」


 ローレルがべた褒めするほど頑丈なのか。そう考え、ティアは安心したように肩の力を抜く。

 それを視界の端に捉えたローレルは、バレないように苦笑するのだった。


「ということは、私達はここで救助を待つのが得策、というわけですね」

「ああ、そうだぜセラフィム様。うちのと違って理解が早い」

「ちょっと! それはどういう意味でして!?」

「うはは、どうもこうもねーよ」

「我が命に従い顕現せよ、ルーリィ」

「おいばかやめろ」


 周囲がぺかーっと光り、その中心に羽の生えたペガサスが現れた。


『何用だ?』


 ペガサス――ルーリィはティアにしか聞こえない声で話し掛ける。

 ちなみにだが、ルーリィはティアの使い魔なので、我が命に従いーとか言わなくても普通に呼び出せる。なので、ただの牽制だったりする。


「いえ、貴方にもちょっと護衛をして貰おうかと思いまして」

『ふむ……、なるほど。近くに障気が満ちている、か。魔物でも攻めてきたか?』

「ええ、その通りですわ」

『なるほど、了解した』

「お願いしますわね」


 と、ここで今まで外に注意を払っていたローレルが、ティアを見ていることに気付いた。ティアはその事に首を傾げる。


「……なんですの?」

「いや、ティア以外ってルーリィの声聞こえねーじゃん?」

「ええ、まぁそうですわね」

「端から見てると可哀想な子にしか見――」

「ルーリィ」

『了解した』


 次の瞬間、大講堂全体にローレルの叫び声が響いた。


「ところで」


 ローレルへの制裁が一段落したころ、セラが疑問の声を上げる。


「ティアさん、ルチアとスィードさんがどこに行ったか知りませんか?」

「え? ああ、あの二人ならお手洗いに行ってるみたいですわよ。あ、ほら、帰ってきましたわ」


 その言葉に視線を扉へ向けると、幾分元気がない様子のルチアとその後ろに控えるスィードが目に入った。二人一緒だから心配はしなかったけれど、なるほどそういうことかとセラは心の中で思う。


「ただいま」

「お帰りなさい、ルチア」

「セラフィム様、無断で御傍を離れ、申し訳ありませんでした」

「いいえ、大丈夫ですよ。これからもルチアに目をかけてやって下さい」

「了解いたしました。御心のままに」


 そう言ってスィードは一礼した。

 セラは目覚めてから何度も彼に、もっと気軽に接してくださいと言っているのだが、いまだその兆しはない。それがなんだが少し悲しく、彼の高尚さが誇らしくもあった。


「これもジレンマというやつなのでしょうか……」

「? なにかおっしゃいました?」

「いいえ、お気になさらないでください」


 セラは彼にそう言った。まぁ本当に気にすることではなかったからなのだが。


 しかしここで、思わぬ来訪者がやってきた。


「ッ! ティア、下がれ!!」

「セラフィム様、ルチアーナ様、私の後ろに」


 突然のローレルとスィードの言葉に、ティアはローレルの睨む先とは別方向に下がり、セラはぽかんとしているルチアの手をとってスィードの後ろへ回る。

 それは一瞬、いや、刹那の出来事だった。

 周囲がフラッシュのように光ると、そこには膝を立ててスタッと降りてきた、黒髪の少女。


「ノア……さん……?」


 外から転移してきた、ノアの姿があった。


「ふむ、成功じゃな。……おお、そこにおるのはセラにルチア、スィードではないか。んむ? ローレルにティアもおるのか。学園組は全員集合しておるようじゃの」


 警戒していた護衛二人を華麗に無視し、ふむふむと言いながら冷静に状況を把握するノア。しかしそれ以外の面々は今の状況が、当たり前のことだが理解が追いつかない。

 というかそれ以上に、セラフィムには気になることがあった。


「あの、ノアさん……」

「ん? どうしたのじゃ?」

「髪、切ったのですか?」

「……は?」


 ノアはごくごく自然な動きで、確認するように右手で後ろ髪を触る。……しかし、そこに髪はなかった。正確に言えば、肩上までしかなく、以前までの腰あたりまであった黒髪は、今では面影もない。


「な、なんで髪が……、ッ!? ま、待て! これは……」


 疑問を浮かべた顔から一気に険しくなり、何かを考察し始めるノア。

 そんな彼女を、ほかの五人は首を傾げながら見つめていた。


「なるほど、そういうことか……。クソッ、あの時気付いておればそれなりの対処ができたものを……っ!」


 ノアは悔しそうに歯噛みする。

 そんな彼女に疑問が耐え切れなくなったのだろう。ティアが疑問を口にした。


「ノアさん、どうしたんですの……」

「んむ……、そうじゃのぅ……」


 目を閉じしばし逡巡してからノアは目を開き、困った顔をしながら衝撃の事実を口にした。





「これ以上魔術を使うと、わらわが消えるかもしれぬ」

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